収益認識基準とは、売上をどのように認識し、どのタイミングで財務諸表上に反映するかという会計基準のことを指します。
かつては収益認識に関する包括的な会計基準は存在せず、会社ごとに異なる基準を定めていました。しかし従来の会計基準が見直され、上場企業や大会社には2021年4月から始まる会計年度より新収益認識基準が強制適用されています。
本記事では、従来の会計基準の考え方をおさらいし、新収益認識基準を取り入れるための5ステップやポイントについて解説します。
目次
新収益認識基準が導入されるまで
新しく適用された収益認識基準とは、売上をどのように認識し、どのタイミングで財務諸表上に反映するかという会計基準のことを指します。
日本ではこれまで、収益認識に関する包括的な会計基準が定められていませんでした。なぜ新収益認識基準の導入に至ったのか、その背景をこれまで使われてきた「現金主義」「発生主義」「実現主義」という3つの考え方を通して説明します。
従来の企業会計ルールの考え方
上述したように、従来の企業会計ルールには「現金主義」「発生主義」「実現主義」の3つの考え方がありますこれらの大きな違いは、取引の中で収益の認識をするタイミングにあります。
現金主義
現金主義とは、現金の受け取りがなされた時点で収益を認識し、収益・費用を計上する考え方です。
記帳が簡単で手間がかからない一方で、掛取引の場合には現金の動きと売上・費用の計上時期が一致しないため、法人には適用されません
これは、税務上で事業所得や不動産所得が300万円以下の個人事業主が、税務署に届け出を行った場合のみ認められています。
発生主義
発生主義とは、現金の受け取りではなく、取引が発生した時点で収益・費用を認識し、収益・費用を計上する考え方です。
費用の認識には用いられますが、受注・契約・生産・納品・検収・請求・代金の回収といった多くの段階がある収益の認識には適していません。
収益の認識に発生主義を用いてしまうと、商品を販売する前に売上を計上できるため、実際よりも高い利益を上げているように業績を偽ることもできてしまいます。
そのため、収益は次に紹介する実現主義の考え方に基づき収益を認識する方法が一般的です。
実現主義
実現主義とは、取引の発生だけでなく、取引が実現した時点で収益を認識し、計上する考え方です。
取引の実現とは、商品やサービスの提供が行われ、対価を受け取っているということです。つまり「会計上の確実性が高まった状態」で計上することになります。
費用の認識に発生主義が用いられる一方で、収益の認識には、より厳密な実現主義が用いられるのが一般的です。
具体的には「出荷基準」「引渡基準」「検収基準」のいずれかを継続的に適用し、収益を認識します。
一般的な販売契約における収益認識基準
- 出荷基準…商品を出荷した時点で売上に計上する基準
- 引渡基準…商品を先方に引き渡した時点で売上に計上する基準
- 検収基準…商品の検収(検品)が完了した時点で売上に計上する基準
出典:日本税理士連合会「中小企業の会計に関する指針」
新収益認識基準の導入背景
前述のとおり、従来の企業会計ルールでは実現主義の考え方が用いられていました。
しかし事業内容が多様かつ複雑になるなかで、実現主義の考え方のみでは、収益をいつ認識すべきか判断が難しいことが問題となり、新収益認識基準の導入につながりました。
また、国際会計基準審議会(IASB)と米国財務基準審議会(FASB)が共同で収益認識に関する包括的な会計基準を開発したことも、日本での新収益認識基準の導入を後押ししました。
新収益認識基準を取り入れることで、国際的な会計基準との調和がとれるようになったといえます。
出典:企業会計基準委員会「「収益認識に関する会計基準」等の公表」
新収益認識基準が強制適用される企業や会社
新収益認識基準は公認会計士の会計監査を受ける会社を対象にして適用されます。具体的には以下のとおりです。
- 大会社(資本金5億円以上または負債200億円以上)
- 上場企業
また、公認会計士の会計監査を任意で受けている上場準備会社も対象となります。
新収益認識基準の適用外となる取引
新会計基準は、取引で生じる収益の会計処理および開示に適用されます。よって、以下の取引については適用されません。
新収益認識基準の適用外となる取引
- 「金融商品会計基準」の範囲に含まれる金融商品に係る取引
- 「リース会計基準」の範囲に含まれるリース取引
- 保険法による定義を満たす保険契約
- 同業他社との交換取引
- 金融商品の組成又は取得で受け取る手数料
- 「不動産流動化実務指針」の対象となる不動産の譲渡
出典:国税庁「収益認識に関する会計基準」への対応について
新収益認識の5ステップ
新収益認識基準では、次の5つのステップによって収益を認識します。
次のケースを例題として、実際にどのように認識すべきかステップに沿って解説します。
- A社がB社に対して商品とそれに伴う2年間の保守管理サービスを提供する
- 商品は当期中に引き渡されるが、保守管理サービスは当期から翌期末まで提供する
- 契約書上の取引価格は総額15,000円である
ステップ1:契約の識別
まずは顧客への商品・サービス提供内容に関する契約を把握しましょう。ここでいう契約とは、正式な契約書で取り交わされた内容はもちろん、いわゆる口約束や商慣行も該当します。
ステップ2:履行義務の識別
契約内容を把握したら、次は契約の中に含まれる約束事(履行義務)を把握します。
この履行義務は、従来の会計ルールには存在しなかった新しい概念です。履行義務を識別する際には、1つの契約に複数の履行義務が存在する場合、独立した履行義務として計上します。
例題の場合、履行義務は「商品の提供」と「保守管理サービス」の2つです。これらは1つの契約になっていますが、それぞれ独立した履行義務とみなされます。
ステップ3:取引価格の算定
次に顧客との契約における取引価格を算定します。取引の際に「購入時に特別ポイントが付与される」などの条件を付加する場合は、これを差し引いた金額を計上しましょう。
例題の場合、取引価格は総額15,000円です。
ステップ4:取引価格の配分
契約における取引価格を算定したら、今後は「ステップ2.履行義務の識別」で把握した履行義務ごとに、それぞれの取引価格を配分していきます。
たとえば、「商品自体は〇〇〇〇円」「保守管理サービスは□□□□円」といったように、一つひとつの履行義務に対して価格設定を行ってください。
例題の場合、取引価格の総額15,000円のうち、商品に10,000円、保守管理サービスに5,000円を配分します。
ステップ5:収益の認識
新収益認識基準では、以上のステップを踏んだうえで、はじめて収益の認識ができます。
つまり「履行義務が充足されること」が収益認識の基準となるのです。「出荷基準」などの、企業が任意で設定したタイミングで収益が計上される従来の日本の会計ルールとは、この点が大きく異なります。
なお、履行義務が充足するタイミングは一定時点と一定期間の2つに分類されます。
たとえば「商品自体」は販売した“時点”で履行義務が充足しますが、「保守管理サービス」が充足するのは、その契約が持続する“期間”を満了したのちです。
例題の場合、商品は当期中に引き渡されるため当期に10,000円を計上しますが、保守管理サービスは提供期間が当期から翌期末にわたるため、当期に2,500円、翌期に2,500円を計上します。
また、新収益認識基準では、ポイントやクーポンなども商品自体とは別の履行義務とみなされるため注意しなければなりません。
従来はポイントやクーポンの配布の有無にかかわらず、商品を販売した時点で対価を計上できました。しかし新収益認識基準では、ポイントやクーポンの適用額を差し引いた金額を、収益として計上する必要があるのです。
新収益認識基準のポイント
- 新収益認識基準には「履行義務」という新たな概念が存在する
- 「履行義務」とは顧客との契約における約束事を指す
- 1つの契約であっても複数の「履行義務」が含まれる場合は、それぞれ独立したものとみなす
- 取引価格は「履行義務」ごとに配分しなくてはならない
- 新収益認識基準では「履行義務」の充足によって収益として認識できる
- 1つの商品やサービスであっても「履行義務」が複数あり、充足までの期間が異なる場合は、収益として認識できるタイミングもそれぞれ異なる
新収益認識基準への対応
これから新収益認識基準を適用する場合は、次のように対応する必要があります。
現状を把握する
まずは、自社商品やサービスの具体的な契約内容を正確に把握したうえで、それぞれどのような履行義務が存在するかを整理しましょう。
そのうえで、履行義務の充足により収益が認識されるということを前提に、起こり得る業務フロー上の問題点やリスクを洗い出します。
また、すでに利用している会計システムがある場合は、システムの仕様を確認し、新収益認識基準に適用できるのかをチェックしてください。現状のままでは適用ができない場合は、機能追加などを検討する必要があります。
新基準を適用する取引を絞り込む
新収益認識基準は、すべての契約に適用する必要はありません。把握した現状をもとに各部門の負担などを考慮し、重要度の高い契約に絞り込んで対応の方針を決定します。
決定した方針を実行する
業務フローを変更する場合は、対応可能な人員確保とスケジュールの策定が必要です。
システムの新たな導入や機能追加などが必要になれば、外部のベンダー企業と協力しなければならないため、早めにリサーチや見積もり依頼などを進めましょう。
運用を定着させる
新しい業務フローに切り替わったあとは、運用の定着へ向けて問題なく稼働できているかをチェックしましょう。
月次処理や四半期決算、年次決算を進めるにあたり、正確なタイミングで売上が計上されているかどうか、また計上された金額が正しいかどうかをチェックします。
まとめ
収益認識基準は、会社の業績を正確に記録するために欠かせない概念です。
正しい金額を正しいタイミングで記録することで、より高い精度で経営状況を把握し、有効な戦略を立てられるのはもちろん、株主や顧客・取引先からの信用を得ることにもつながるでしょう。
中小企業の多くは新収益認識基準の対象ではなく、現在の会計基準のままでも問題ありません。しかし、将来的に上場を目指す企業の場合は、早い段階から新収益認識基準を採用しておいて損はないといえます。
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