IPOの基礎知識

株主総会のオンライン開催とは?メリットや開催時の注意点を解説

監修 税理士・CFP® 宮川真一 税理士法人みらいサクセスパートナーズ

株主総会のオンライン開催とは?メリットや開催時の注意点を解説

株主総会は、株主が会社経営に関する重要事項の意思決定を行う場であり、基本的には会場に株主を集めて行われます。しかし近年は、一定の条件をクリアすればオンラインで株主総会を開催できるようになりました。

現時点では、実際にオンライン株主総会を開催する企業は多いとはいえませんが、従来の開催形式にはないさまざまなメリットがあるため、積極的に検討する企業は増えつつあります。

本記事では、オンライン株主総会の開催形式やメリット、開催するうえでのポイントなどについて解説します。株主総会の開催に携わっている担当者の方は、ぜひ参考にしてください。

目次

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オンライン株主総会の開催形式

オンライン株主総会は、開催形式によって「ハイブリッド型バーチャル株主総会」と「バーチャルオンリー型株主総会」の2つに大別できます。

それぞれの特徴や強みを理解したうえで、自社に合った形式を選びましょう。

ハイブリッド型バーチャル株主総会

ハイブリッド型バーチャル株主総会とは、「ハイブリッド(異なる方式の組み合わせ)」とあることからもわかるように、株主が物理的な会場に行って株主総会に出席することと、インターネットを介して参加・出席することの両方ができる開催形式のことです。

ハイブリッド型バーチャル株主総会は、さらに「参加型」「出席型」の2つに分けることができます。この2つの違いは、オンライン側の株主に議決権などの行使が認められているか否かという点です。

参加型では、オンライン側の株主に審議の場面で発言したり、決議に加わったりすることは認められません。一方の出席型では、Web会議システムに接続できた株主に対して、システム上での発言や決議が認められています。

バーチャルオンリー型株主総会

バーチャルオンリー型株主総会とは、物理的な会場が存在せず、株主の株主総会への参加方法がオンラインのみの開催形式のことです。株主は、Web会議システムを活用して株主総会に参加し、発言や決議に加わることができます。

バーチャルオンリー型株主総会は、これまでは会社法において開催が認められていませんでした。しかし、2021年6月施行の改正産業競争力強化法により、一定の要件を満たした会社には認められることになりました。

オンライン株主総会が開催可能になった経緯

先述のとおり、かつてバーチャルオンリー型株主総会の開催は会社法上、難しいとされてきました。しかし、2021年6月に産業競争⼒強化法改正が施行されたことにより、現在は「場所の定めのない株主総会」の開催が特例的に認められています。

ただし、「場所の定めのない株主総会」の開催が認められるには、以下の4つの要件を満たす必要があります。

場所の定めのない株主総会が認められるための4つの要件

  • 上場会社である
  • 経済産業⼤⾂および法務⼤⾂の「確認」を受けている
  • 定款に「場所の定めのない株主総会」を開催できる旨を定めている
  • 招集決定時に「省令要件」に該当していること

なお、「省令要件」は以下のとおり定められています。

(経済産業大臣及び法務大臣の確認に係る要件)

第一条 産業競争力強化法(平成二十五年法律第九十八号。以下「法」という。)第六十六条第一項の経済産業省令・法務省令で定める要件は、上場会社(同項に規定する上場会社をいう。以下同じ。)について次のいずれにも該当するものであることとする。

一 場所の定めのない株主総会(種類株主総会にあっては、場所の定めのない種類株主総会。以下この条において同じ。)の議事における情報の送受信に用いる通信の方法に関する事務(次号及び第三号の方針に基づく対応に係る事務を含む。)の責任者を置いていること。

二 場所の定めのない株主総会の議事における情報の送受信に用いる通信の方法に係る障害に関する対策についての方針を定めていること。

三 場所の定めのない株主総会の議事における情報の送受信に用いる通信の方法としてインターネットを使用することに支障のある株主の利益の確保に配慮することについての方針を定めていること。

四 株主名簿に記載され、又は記録されている株主の数が百人以上であること。

出典:e-Gov法令検索「産業競争力強化法に基づく場所の定めのない株主総会に関する省令」

バーチャルオンリー型株主総会の開催状況

2024年4月に経済産業省が公開した資料によると、バーチャルオンリー型株主総会を開催した会社数は2024年3⽉31⽇時点で64社、開催数は延べ108回でした。

また、同時点までに439社が、バーチャルオンリー型株主総会の開催を可能とする旨を定款に盛り込む議案を総会で決議しています。

実際に、YahooやLINEなどを子会社としているZホールディングスや、スマホゲームを手掛けるグリーなどの有名企業で、バーチャルオンリー型株主総会の開催実績があります。


出典:経済産業省「産業競争⼒強化法に基づく場所の定めのない株主総会 制度説明資料」

オンライン株主総会の開催メリット

オンライン株主総会には、物理的な会場のみで開催される従来の株主総会と比べて、いくつかのメリットがあります。

ここでは、主なメリットを3つピックアップして解説します。

遠隔地の株主も総会に出席できる

オンライン株主総会であれば、これまでは遠隔地に住んでいて株主総会の会場へ足を運ぶことが難しかった株主も出席し、決議に加わることができるようになります。株主総会への参加者が増えると多様な発言が飛び交うことになるため、決議の活性化につながります。

物理的な会場が不要のため運営コストを抑えられる

オンライン株主総会のうち、物理的な会場を設けないバーチャルオンリー型株主総会であれば、会場のレンタル代や設営・案内などにかかる人件費といった運営コストがほぼかかりません。

ハイブリッド型バーチャル株主総会であっても、物理的な会場とオンライン上で参加者が分散されることで、従来よりも会場の規模を小さくしてコストを抑えられる可能性があります。

感染症などのクラスター発生を防止できる

新型コロナをはじめとする感染力の強いウイルスが流行した場合、物理的な会場で株主総会を開催して多くの人が密集することで、集団感染を引き起こす可能性があります。しかし、オンライン株主総会であれば、株主同士が接触せずに決議を行えるため、感染症のまん延を防げます。

また、コロナ禍で行われた外出自粛のような事態に陥ったとしても、オンライン上でスケジュールどおりに株主総会を開催することが可能です。

オンライン株主総会を開催する際のポイント

さまざまなメリットがあるオンライン株主総会ですが、実際に開催するにあたっては、いくつかのポイントを押さえておかなければなりません。

ここでは、特に重要な3つのポイントについて解説します。

オンライン環境の整備

株主総会をオンライン配信するにあたって、企業側は機器やシステムといったオンライン環境を整えなければなりません。スムーズにやり取りできるように整備しておかなければ、オンラインで参加した株主が発言をしたり、議決権を行使したりできなくなるからです。

配信中に機材やネットワークのトラブルが起こることも想定し、トラブルに対応できるスキルや知識を持つスタッフを配置しておく必要もあります。

また、オンラインではなりすましや不正アクセスが発生するリスクがあるため、セキュリティ対策を厳重に施しておくことも重要です。たとえば、本人確認の認証システムの導入や、株主がWeb会議システムにアクセスするためのIDとパスワードの管理は、確実に行うようにしましょう。

招集通知

株主総会の開催日時が決まったら、企業は株主に対して招集通知を発送します。その際、オンライン株主総会ならではの項目や注意点なども、招集通知に記載しておく必要があります。具体的には、以下のような内容が考えられます。

召集通知に記載しておくべき内容

  • オンライン配信用のURLやアクセスする際に必要なID・パスワード
  • 議決権の行使をどのようにして行うかの説明
  • 審議のなかで発言や質問を行う際のルール
  • 配信中に機材やネットワークなどのトラブルが起きた場合の対応

とくに、参加型のハイブリッド型バーチャル株主総会を開催する場合、オンライン参加の株主には議決権の行使が認められません。そのため、あらかじめ書面などで議決権の行使を行うのか、代理人へ議決権の委任を行うかなどの対応については、招集通知のなかで説明しておく必要があります。

議事録

会社法では、株主総会での決議事項などをまとめた議事録の作成と保管が義務付けられています。さらに、株主総会がオンラインで開催された場合には、通常の記載内容に加えて、会場に出席していない株主や役員の出席方法も明記しなければなりません。

(議事録)
第七十二条 法第三百十八条第一項の規定による株主総会の議事録の作成については、この条の定めるところによる。

2 株主総会の議事録は、書面又は電磁的記録をもって作成しなければならない。

3 株主総会の議事録は、次に掲げる事項を内容とするものでなければならない。 一 株主総会が開催された日時及び場所(当該場所に存しない取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役。第四号において同じ。)、執行役、会計参与、監査役、会計監査人又は株主が株主総会に出席をした場合における当該出席の方法を含む。)

出典:e-Gov法令検索「会社法施行規則」

細かな部分ではありますが、議事録にはどのような状況で株主総会を開催したかについても、きちんと記録しておく必要があることを忘れないようにしましょう。

まとめ

2021年6月施行の改正産業競争力強化法により、従来は認められていなかったオンライン株主総会の開催ができるようになりました。

オンライン株主総会の開催形式には「ハイブリッド型バーチャル株主総会」「バーチャルオンリー型株主総会」の2種類があり、自社の事情や環境に合った形式を選ぶ必要があります。

オンライン株主総会には、遠隔地の株主でも参加しやすい、運営コストを抑えられる、感染症対策になるといったメリットがあるため、積極的に取り入れていくのがおすすめです。開催の際には、オンライン環境の整備や招集通知の発送、議事録への明記などのポイントを押さえておくことを忘れないように注意してください。

よくある質問

株主総会をオンラインで開催することは可能?

以前は認められていませんでしたが、2021年6月施行の改正産業競争力強化法により、一定の要件を満たした会社にのみ、オンライン株主総会の開催が認められるようになりました。

詳しくは記事内「オンライン株主総会が開催可能になった経緯」で解説しています。

株主総会をオンラインで開催するメリットは?

オンライン株主総会の開催には、遠隔地の株主でも参加しやすい、運営コストを抑えられる、感染症対策になるといったメリットがあります。

詳しくは記事内「オンライン株主総会の開催メリット」をご覧ください。

監修 宮川 真一

岐阜県大垣市出身。1996年一橋大学商学部卒業、1997年から税理士業務に従事し、税理士としてのキャリアは25年以上に及ぶ。現在は、税理士法人みらいサクセスパートナーズの代表としてコンサルティング、税務対応を担当。また、事業会社の財務経理を担当し、複数企業の取締役・監査役にも従事。

税理士・CFP® 宮川真一

成長企業の会計管理を柔軟に効率よく

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