上場廃止とは、金融商品取引所に上場している企業の状況などに鑑みて、金融商品取引所での取引の対象から外れることをいいます。
取引所ごとに上場廃止基準が定められており、その基準に抵触した場合に、取引所が上場廃止を決定します。ネガティブな印象のある上場廃止ですが、実は企業へのメリットもあり、上場企業自らが申請を行い上場廃止になるケースもあります。
本記事では、上場廃止の基準やメリット・デメリットについて説明します。
目次
- 上場廃止の基準
- 上場維持基準を満たしていない場合
- 有価証券報告書などの提出が遅延した場合
- 各報告書に虚偽の記載や不適正意見があった場合
- 特設注意市場銘柄に該当し内部管理体制が改善しない場合
- 上場契約に違反があった場合
- 上場廃止までの流れ
- 証券取引所によって上場廃止されるまでの流れ
- 企業が自主的に上場廃止するまでの流れ
- 上場廃止になったら株式はどうなる?
- 上場廃止のデメリット
- 資金調達の手段が限られる
- 既存株主が不利益を被るリスクがある
- 会社のブランドや信用度を下げるリスクがある
- 上場廃止のメリット
- 経営の自由度が高まる
- 上場継続にかかるコストを削減できる
- 上場廃止した企業が再上場するには
- まとめ
- freeeで内部統制の整備をスムーズに
上場廃止の基準
上場廃止には、次のようなさまざまな基準が定められています。
上場廃止の基準
- 上場維持基準を満たしていない場合
- 有価証券報告書などの提出が遅延した場合
- 各報告書に虚偽の記載や不適正意見があった場合
- 特設注意市場銘柄に該当し内部管理体制が改善しない場合
- 上場契約に違反があった場合
上場廃止の基準ごとに詳しく解説していきます。
上場維持基準を満たしていない場合
上場を維持するには、市場が定めた項目において基準を満たしていなければなりません。維持基準を満たしていない状態から、原則1年以内(*)に再び上場維持基準を満たせなかった場合は上場廃止となります。
なお、上場維持基準を満たさない状態になった場合、上場を維持するために原則1年(*)以内に再び上場維持基準を満たすための取り組みや、実施時期を記載した計画を提出しなければなりません。
その計画は、上場維持基準を満たさなくなった時点から3ヶ月以内に提出・開示するルールとなっています。
*上場維持基準のうち、満たしていない基準が「売買高」である場合は6ヶ月となります。
有価証券報告書などの提出が遅延した場合
上場企業は、監査報告書もしくは四半期レビュー報告書を添付した有価証券報告書または四半期報告書を、期日以内に提出しなければなりません。
もしも期限の経過した後1ヶ月以内に提出しなかった場合は上場廃止となります。
また、有価証券報告書などの提出期限を延長することの承認を得た場合でも、延長期間の8日目(休業日は除く)までに提出しなければ上場廃止となります。
各報告書に虚偽の記載や不適正意見があった場合
有価証券報告書などに虚偽の記載がある場合や、監査法人による意見がない場合、財務諸表に重大な誤りがあるとして不適正であると表明された場合も上場廃止となります。
また、監査報告書または四半期レビュー報告書に、不適切な事項が発見された旨の記載があった場合も同様です。そのような企業は、すぐに上場廃止をしなければ市場の秩序を維持できないと判断されることになります。
特設注意市場銘柄に該当し内部管理体制が改善しない場合
特設注意市場銘柄とは、上場廃止にするほどではないものの、企業の内部管理体制を改善する必要性が高いと判断した場合に指定する銘柄です。
特設注意市場銘柄に指定されると、通常の取引銘柄とは区別されて取引が行われます。
このような特設注意市場銘柄に該当するにもかかわらず、「内部管理体制について改善の見込みがない」「改善の見込みがなくなった」「改善がなされなかった」と取引所が認めた場合も上場廃止となります。
上場契約に違反があった場合
上場契約に重大な違反があった場合や、新規上場申請などの宣誓事項に重大な違反があった場合、上場契約の当事者でなくなった場合も上場廃止になります。
また「新規上場の申請に係る宣誓書」の事項に違反があり、新規上場の基準を満たしていないと取引所が認め、1年以内に新規上場基準を満たしているかの審査に落ちた場合も同様です。
上記のほかにも、破産や銀行取引停止、再生・更生手続や事業活動の停止など、定められた条件に該当した場合も上場廃止となります。
出典:日本取引所グループ「上場廃止基準の概要」
上場廃止までの流れ
上場廃止は、上述した上場廃止の基準に該当した場合と企業が自主的に行う場合があります。それぞれの上場廃止までの流れをみていきましょう。
証券取引所によって上場廃止されるまでの流れ
上述した上場廃止基準に該当すると、証券取引所によって上場廃止されます。具体的な流れは以下のとおりです。
- 株式が監理銘柄に指定される
- 株式が整理銘柄に指定される
- 上場廃止
まずは証券取引所より、「上場廃止基準に抵触する可能性がある」と投資家に周知するため、一般銘柄から監理銘柄に切り離されます。
その後の審査により、上場廃止基準に抵触していたと認定された場合は、整理銘柄に指定され1ヶ月後に上場廃止となります。
企業が自主的に上場廃止するまでの流れ
企業によっては、経営戦略で上場廃止を行うことがあります。
たとえば、敵対的買収を防ぐために経営陣が株主から自社株を買い上げて、自社の経営権を強化する(MBO)目的で上場廃止を選択する場合などです。
企業が自主的に上場廃止する場合の流れは、以下のとおりです。
- 臨時株主総会を開催する
- 株式が整理銘柄に指定される
- 上場廃止
上場廃止を企業自らの経営判断で行う場合、まずは臨時株主総会で上場廃止を決定します。そして、証券取引所の審査後に整理銘柄に指定され、1ヶ月後に上場廃止となります。
上場廃止になったら株式はどうなる?
上場廃止になったからといって、すぐに取引所での取引が終了するわけではありません。上場廃止してから1ヶ月間は「整理銘柄」に指定されます。
整理銘柄とは、取引所が定めている上場廃止基準に該当し、上場廃止が決定された銘柄のことです。整理銘柄になっても取引所での取引は継続されますが、整理銘柄に指定されて1ヶ月が過ぎてしまうと取引は終了し、株式などの売買ができなくなってしまいます。
ただし、議決権や配当請求権といった株主の権利はそのまま残るため、猶予期間を過ぎた後でも自ら売却相手を見つけて売ることは可能です。
しかし、企業が債務超過になっている場合は、株の価値はほとんどなくなっているので売却相手を探すのは困難といえるでしょう。
上場廃止のデメリット
上場廃止になることで、企業がどのようなデメリットを被るのか説明します。
資金調達の手段が限られる
上場企業は取引所を介して、一般投資家から資金を調達できますが、上場廃止になった企業はそれができなくなります。
資金調達の手段が限定されることで、事業継続のための資金調達の目処をつけるのが難しくなる可能性があります。
既存株主が不利益を被るリスクがある
上場廃止になれば、既存の株主は高い確率で不利益を被ります。
もしも上場廃止になる場合は、その理由や手法などを株主に十分に説明し理解してもらったうえで、上場廃止後も既存株主が不利益を被らないように配慮しなければなりません。
既存株主の理解を得られずに企業のイメージを大きく下げてしまった場合、思わぬデメリットが発生する場合もあります。上場廃止によるメリットを期待していても、想定通りにいかない可能性もあるでしょう。
会社のブランドや信用度を下げるリスクがある
上場廃止になると、既存株主はもちろん、一般消費者や取引先にもネガティブな印象を与えてしまう可能性はゼロではありません。それが直接売上に影響するケースは十分に考えられるでしょう。
また、企業の信用度が下がるということは、金融機関からの借り入れも困難になるということです。
投資家からの資金調達が難しくなった状況で、金融機関からの信用を失うことは致命傷になりかねません。そのようなリスクを下げるためにも、上場廃止となる場合には、取引先や金融機関に対して上場廃止の理由や背景を十分に説明しましょう。
上場廃止のメリット
上場廃止にはデメリットがある一方で、少なからずメリットも存在します。どのようなメリットがあるのか、それぞれ見ていきましょう。
経営の自由度が高まる
上場廃止の最大のメリットは、経営の自由度を高められることです。
上場企業は経営改革を行う際に株主の意見によって計画を阻まれたり、経営状況が悪化することで株主から過度な非難を受けたりすることもあります。
上場廃止をすることで、そのような制約やデメリットがなくなり、会社を運営するうえでの意思決定のスピードを高められます。
また、株主総会の開催時期を短縮できたり、取締役の任期を10年まで延長したりすることも可能になります。
上場継続にかかるコストを削減できる
上場を維持するためには年間上場料をはじめ、TDnet(東京証券取引所が運営する適時開示情報伝達システム)の使用料などのさまざまなコストが発生します。
また、財務状況の公開など法律で義務付けられている事項が多いため、事務作業の手間がかかることもコストといえるでしょう。
上場廃止によって、このようなコスト削減や業務効率化を図れる可能性がある点も大きなメリットです。
上場廃止した企業が再上場するには
一度上場廃止を行った企業も、審査基準を満たせば再び上場できます。過去に大王製紙やソフトバンクなどが再上場を承認された事例があり、直近ではスカイマークが東証グロース市場に再上場を果たしました。
また、MBO(Management Buyout)というM&Aの一手段によって、経営者が自社の株式を買い取り、株式を非公開化した後、再上場をするケースなども考えられます。
ただし再上場の際には、新規上場よりも審査基準が厳しくなる点は留意しなければなりません。
下記の表では、上場廃止した企業が再上場するための基準を一覧で紹介しています。
上場審査基準 | プライム | スタンダード | グロース |
株主数 | 800人以上 | 400人以上 | 150人以上 |
流通株式数 | 20,000単位以上 | 2,000単位以上 | 1,000以上 |
流通株式時価総額 | 100億円以上 | 10億円以上 | 5億円以上 |
流通株式比率 | 35%以上 | 25%以上 | 25%以上 |
財政状態 | 連結純資産50億円以上 かつ単体純資産の額が負でないこと | 連結純資産が正 | - |
利益の額 (連結) | 最近2年間の利益の額の総額が25億円以上であること または最近1年間における売上高が100億円以上である場合で、かつ、時価総額が1,000億円以上となる見込みのあること | 最近1年間における利益の額が1億円以上であること | - |
まとめ
近年の事例を見ると、明らかな経営危機から上場廃止に至るケースはそう多くありません。
なかには経営悪化を表明せずに別の理由としている企業があることも考えられますが、あくまで経営戦略の一環として上場廃止を選択するケースが多く見られます。
上場を維持する場合と上場廃止をする場合、それぞれのメリット・デメリットを比較して、どちらが会社経営に有利なのか、よく検討することが重要です。
freeeで内部統制の整備をスムーズに
IPOは、スモールビジネスが『世界の主役』になっていくためのスタート地点だと考えています。
IPOに向けた準備を進めていくにあたり、必要になってくる内部統制。自社において以下のうち1つでも該当する場合は改善が必要です。
- バックオフィス系の全てのシステムにアクセス権限設定を実施していない
- 承認なく営業が単独で受注・請求処理を行うことができる
- 仕入計上の根拠となる書類が明確になっていない
freee会計のエンタープライズプランは内部統制に対応した機能が揃っており、効率的に内部統制の整備が進められます。
内部統制対応機能
- 不正防止(アクセスコントロール)のための、特定IPアドレスのみのアクセス制限
- 整合性担保(インプットコントロール)のための、稟議、見積・請求書発行、支払依頼などのワークフローを用意
- 発見的措置(モニタリング)のための、仕訳変更・承認履歴、ユーザー情報更新・権限変更履歴などアクセス記録
- 国際保証業務基準3402(ISAE3402)に準拠した「SOC1 Type2 報告書」を受領
詳しい情報は、内部統制機能のページをご確認ください。
導入実績と専門性の高い支援
2020年上半期、freeeを利用したマザーズ上場企業は32.1%。freeeは多くの上場企業・IPO準備企業・成長企業に導入されています。
また、freeeではIPOを支援すべく、内部統制に関する各種ツールやIPO支援機関との連携を進めています。
内部統制を支援するツール・連携機能
IPOに向けた準備をお考えの際は、freeeの活用をご検討ください。