監修 前田 昂平(まえだ こうへい) 公認会計士・税理士
四半期報告書の作成および提出は2024年4月以降、金融商品取引法の改正によって廃止となりました。
本記事では、四半期報告書が廃止された背景をはじめ、金融商品取引法の改正内容や廃止による企業への影響などについて詳しく解説します。
四半期報告書と同様に、企業の財務情報の透明性と信頼性を確保するために必要となる内部統制報告書については以下の記事をご覧ください。
目次
四半期報告書はいつから廃止されたか
四半期報告書とは、金融商品取引法(以下「金商法」)の対象となる上場企業が、四半期ごとに作成・提出することを義務付けられた報告書です。
なお、四半期報告制度の対象企業は上場企業になります。
そもそも四半期報告制度は、情報開示の種類が有価証券報告書と半期報告書のみで、開示回数は年2回が原則でした。しかし、欧米諸国と比べて投資家が企業情報に触れる機会が少ないという懸念点があり、2006年の証券取引法改正によって創設された制度です。
以降、四半期報告制度は現在までに何度も改正されています。企業の事務的負担や迅速な開示を考慮して、有価証券報告書よりも作成しやすいように、四半期報告書の内容の一部を省略するなどの簡略化が認められていました。
このように四半期報告書は何度も改正を行いながら、上場企業に対して四半期ごとに作成・提出を求めてきたのです。しかし、2023年11月の「金融商品取引法等の一部を改正する法律」によって廃止されることが決まりました。この改正は2024年4月から施行されており、現在は四半期報告書を作成・提出する必要はありません。
四半期報告書とそのほかの開示書類の違い
四半期報告書以外にも、上場企業では有価証券報告書、半期報告書、決算短信などの提出が義務付けられています。それぞれの特徴について解説します。
有価証券報告書
有価証券報告書は投資家が投資判断をするのに有用な情報を、投資家向けに開示することを目的とした書類です。開示情報には、以下の情報が含まれます。
- 企業の概況
- 事業の状況
- 財務諸表(貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書、株主資本等変動計算書)
有価証券報告書は、同じ内容の書類でも四半期報告書に比べて、項目の種類や情報量が多いのが特徴です。有価証券報告書を作成・提出する企業にとっては、業務量が膨大になりやすい報告書といえます。
半期報告書
半期報告書とは、事業年度の開始から半年後の第2四半期状況のまとめたもので、有価証券報告書の要約版のような報告書です。必要な財務諸表のうち、企業の財務状況や経営成績が理解できるように、「中間貸借対照表」と「中間損益計算書」の提出が求められます。
四半期報告書の提出義務がある企業の「第2四半期報告書」が、半期報告書に該当します。そのため、四半期報告制度が廃止される前までは、四半期報告書を提出しない企業にのみ提出が義務付けられていました。
決算短信
決算短信とは、証券取引所の有価証券上場規程によって定められた適時開示書類です。経営成績や財政状態などの決算サマリーをはじめ、株主への配当状況や今後の業績予想など、企業の決算に関する情報をまとめています。
決算短信の目的は、企業の決算結果などをなるべく早く投資家へ知らせることです。そのため決算から3ヶ月以上あとに発表される有価証券報告書に比べると、情報量が少ないものの速報性があることが特徴です。
決算短信によって、上場企業の決算に関する詳細な情報がいち早く公開されることになります。なお、決算短信にも有価証券報告書と同じように四半期決算短信があります。
四半期報告書が廃止された背景
四半期報告書が廃止された背景としては、主に次の2点が挙げられます。
- 企業の書類作成負担が大きかった
- 中長期よりも短期的利益が優先される傾向にあった
企業の書類作成負担が大きかった
前述のとおり、四半期報告書をはじめ有価証券報告書や決算短信など、上場企業に提出が義務付けられている報告書は数多く存在します。なかでも、四半期報告書と四半期決算短信は内容が類似しており、時期も重なっていることから担当者は実質2倍の作業が発生していました。
そのため、四半期報告書に代わって四半期決算短信の情報を活用しても問題ないという見解が示されるようになります。その結果、企業の負担軽減を目的として2024年4月以降に開示する四半期報告書は廃止されたという経緯があるのです。
短期的利益が優先される傾向にあった
四半期報告制度によって、企業は短期的利益を優先する傾向にありました。しかし、企業経営や投資家の投資判断においてはサステナビリティを重視する声が多く、中長期的な視点で企業価値を高めるために、制度の見直しを図るようになったのです。
そのため四半期報告制度を廃止して、今後は上場企業に関しても半期報告書の作成・提出が義務付けられるようになりました。現在、四半期ごとの報告は四半期決算短信に一本化されています。
四半期報告書廃止に関する金融商品取引法の改正内容
四半期報告書廃止に関する金商法の主な改正内容は、半期報告書の提出義務化や、半期報告書・臨時報告書の公衆縦覧期間延長の2つです。また、改正適用時期についても定められています。
改正適用時期
四半期報告書の廃止に関して金商法の規定では、2024年4月1日以後に開始する四半期会計期間、すなわち第1・第3四半期決算短信から適用されています。3月決算と12月決算に分けると、2024年に作成する書類は以下のとおりです。
3月決算
第1四半期(4月~6月):四半期短信
第2四半期(7月~9月):半期報告書、第2四半期(中間期)決算短信
第3四半期(10月~12月):四半期短信
12月決算
第1四半期(1月~3月):四半期短信、四半期報告書
第2四半期(4月~6月):半期報告書、第2四半期(中間期)決算短信
第3四半期:四半期短信
半期報告書の提出義務化
前述のとおり、一定の上場企業は期中の業績などの開示について四半期ごとの四半期報告書の提出が必要でしたが、今回の改正により廃止となりました。今後は、四半期報告書の代わりに半期ごとの半期報告書の提出が必要です。
半期報告書や臨時報告書の公衆縦覧期間延長
四半期報告書の廃止に伴い、半期報告書や臨時報告書の重要性が高まるため、公衆縦覧期間が延長されました。公衆縦覧期間とは、一般の投資家や関心のある公衆、つまり誰でも自由に開示資料を閲覧できる期間です。
半期報告書は現行の3年から5年に、臨時報告書は1年から5年にそれぞれ延長され、有価証券報告書の公衆縦覧期間と同じ5年になりました。
四半期報告書廃止による影響
四半期報告書の廃止によって企業に与える影響は、まずは書類作成業務の負担軽減です。また、四半期決算短信の開示内容にも一部追加しなければなりません。
書類作成業務における負担軽減
まずは、四半期報告書の廃止に伴い、四半期ごとの報告書作成業務がなくなるため、企業の財務部門業務負担が大幅に軽減されます。
四半期決算の書類作成にかかっていた時間や労力が減ることで、年次決算や長期的な計画に集中しやすくなるでしょう。
四半期決算短信の開示内容に一部追加
四半期報告書が廃止された影響で、投資判断に必要な情報が充分に提供されなくなる恐れがあるため、四半期決算短信の開示内容が一部追加されました。
たとえば、東京証券取引所の「四半期開示の見直しに関する実務の方針」では、四半期決算短信の開示内容にセグメント情報、キャッシュ・フローの情報などが含まれています。これらは投資家から特に開示要望が強い情報です。
なお、キャッシュ・フローに関する記載は、東京証券取引所では四半期報告書と同様の内容を求めています。よって、四半期報告書の作成と同じように進めていけば問題ありません。
セグメント情報についても半期報告書と同水準を求められていますが、そもそも四半期報告書も会計基準に沿ってセグメント情報を開示する必要がありました。よって、これまでの作成内容と大差はないため、四半期報告書で作成していた書類の一部が追加されたと理解しておくと良いでしょう。
まとめ
四半期報告書は、2023年11月の「金融商品取引法等の一部を改正する法律」によって、2024年4月1日以後に開始する四半期会計期間(3月決算の場合第1・第3四半期決算短信)から廃止されることが決まりました。
廃止によって、四半期ごとに作成する報告書の業務負担が大幅に軽減されることが期待できます。
freeeで内部統制の整備をスムーズに
IPOは、スモールビジネスが『世界の主役』になっていくためのスタート地点だと考えています。
IPOに向けた準備を進めていくにあたり、必要になってくる内部統制。自社において以下のうち1つでも該当する場合は改善が必要です。
- バックオフィス系の全てのシステムにアクセス権限設定を実施していない
- 承認なく営業が単独で受注・請求処理を行うことができる
- 仕入計上の根拠となる書類が明確になっていない
freee会計のエンタープライズプランは内部統制に対応した機能が揃っており、効率的に内部統制の整備が進められます。
内部統制対応機能
- 不正防止(アクセスコントロール)のための、特定IPアドレスのみのアクセス制限
- 整合性担保(インプットコントロール)のための、稟議、見積・請求書発行、支払依頼などのワークフローを用意
- 発見的措置(モニタリング)のための、仕訳変更・承認履歴、ユーザー情報更新・権限変更履歴などアクセス記録
- 国際保証業務基準3402(ISAE3402)に準拠した「SOC1 Type2 報告書」を受領
詳しい情報は、内部統制機能のページをご確認ください。
導入実績と専門性の高い支援
2020年上半期、freeeを利用したマザーズ上場企業は32.1%。freeeは多くの上場企業・IPO準備企業・成長企業に導入されています。
また、freeeではIPOを支援すべく、内部統制に関する各種ツールやIPO支援機関との連携を進めています。
内部統制を支援するツール・連携機能
IPOに向けた準備をお考えの際は、freeeの活用をご検討ください。
よくある質問
四半期報告書の廃止はいつから?
四半期報告書の廃止は、2023年11月の「金融商品取引法等の一部を改正する法律」によって決まり、2024年4月から施行されています。
詳しくは記事内「四半期報告書はいつから廃止されたか」をご覧ください。
四半期報告書はなぜ廃止された?
四半期報告書が廃止された理由として、企業の書類作成負担が大きかったことと、企業経営や投資家の投資判断においてサステナビリティを重視するようになったことが挙げられます。
詳しくは記事内「四半期報告書が廃止された背景」をご覧ください。
四半期報告書廃止によってどのような影響がある?
四半期報告書の廃止によって、企業における作成業務の負担が軽減されます。また、短期的に業績をチェックする機会が減り、内部統制やリスク管理の見直しが必要になるでしょう。四半期決算短信の開示内容も、一部追加しなければなりません。
詳しくは記事内「四半期報告書廃止による影響」をご覧ください。
監修 前田 昂平(まえだ こうへい)
2013年公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人に入所し、法定監査やIPO支援業務に従事。2018年より会計事務所で法人・個人への税務顧問業務に従事。2020年9月より非営利法人専門の監査法人で公益法人・一般法人の会計監査、コンサルティング業務に従事。2022年9月に独立開業し現在に至る。