請求書の基礎知識

インボイス制度における振込手数料は誰が負担すべき?仕訳処理の方法についても解説

監修 好川寛 プロゴ税理士事務所

インボイス制度における振込手数料は誰が負担すべき?仕訳処理の方法についても解説

2023年10月よりインボイス制度が施行されたことで、他の金融機関に振り込むときの「振込手数料」についても仕入税額控除を摘要にするための会計処理方法が影響があります。

この記事では、インボイス制度開始以降に発生する振込手数料の支払いは売り手と買い手のどちらが負担すべきなのか、またその対応方法や仕訳処理の仕方について詳しく解説します。

目次

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振込手数料は原則買い手側が負担する

振込手数料とは、金融機関への払い込みを実施する際に発生する手数料です。口座振込や現金振込などの振り込み手段に関わらず、少額の支払いを除き必ず負担しなければなりません。具体的な手数料の金額や、手数料が無料になるかの条件は金融機関ごとに異なります。

この振込手数料は買い手側(債務者)もしくは売り手側(債権者)のどちらかが支払いますが、以下の民法485条に則り、原則として買い手側が負担することが取り決められています。

弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。


出典:e-GOV法令検索「民法|第四百八十五条」

買い手側・売り手側双方での取り決めがない場合には、振り込み手数料は原則買い手側の負担となり、売り手側の同意なしに振込手数料の負担を買い手側から求められることはありません。ただし、双方の合意があった場合には、振込手数料を売り手側が負担することもできます。

そのため、両者の認識違いにより振込手数料をどちらが負担するかでトラブルに発展することがあります。

自分が売り手側となって取引をする際には、「振込手数料は買い手負担である」という一般認識に頼るのではなく、できるだけ取引の前に相談をしたり、契約書や請求書への明記を心がけたりしましょう。


出典:e-Gov法令検索「民法|第四百八十五条」

適格請求書での振込手数料の取り扱い

2023年10月からのインボイス制度施行に伴い、適格請求書(インボイス)における振込手数料の扱いはどうなるのでしょうか。

まず、インボイス制度の施行後も、振込手数料を負担するのは原則として買い手側です。買い手側の課税事業者は、振込手数料に含まれる消費税分の税額控除を受けられますが、そのためには、金融機関が発行する適格請求書が必要です。

振込手数料は売り手側ではなく金融機関に支払われているため、買い手側と金融機関の二者間での取引となります。したがって買い手側が振込手数料にかかった消費税の仕入税額控除を受けるためには、金融機関に適格請求書を発行してもらう必要があります。

買い手側が振込手数料を負担するときには、振込手数料に関する適格請求書を発行してもらうよう金融機関へ依頼しましょう。

金融機関から受け取った振込手数料に関する適格請求書は社内で保存しておく必要がありますが、振込手数料の場合は少額特例に分類される可能性があります。

少額特例とは、課税仕入れの金額が税込1万円未満であれば、適格請求書がなくても、所定の内容を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除を受けられる仕組みです。対象となる事業者には基準期間における課税売上高が1億円以下であるなど条件があるため、詳細は国税庁の「少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置の概要)の概要」もご確認ください。

ただし2023年10月1日から2029年9月30日までの間に国内において行う課税仕入れについての経過措置となるため、適格請求書を正しく保管する仕組みづくりは必要です。


出典:国税庁「少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置の概要)の概要」

振込手数料を買い手側が負担する場合の対応方法

振込手数料の支払いを買い手側が負担する際、前述のとおり、取引に関して売り手側から受け取った適格請求書のほか、振込手数料に関する適格請求書を金融機関に発行してもらう必要があります。

適格請求書に関する注意点は、振込手数料の支払い方法によって異なります。支払い方法ごとの注意点と、仕訳例を確認しておきましょう。

振込方法による適格請求書の対応の違い

振込手数料の支払い方法は、大きく分けてATMと窓口、そしてインターネットバンキングの3種類があります。それぞれの支払い方法ごとに、適格請求書発行の要否と特徴をまとめた表が以下のとおりです。

適格請求書発行の要否その他特徴
ATM発行不要
(自販機特例の対象となるため)
帳簿の保存は必要
窓口必要適格請求書は窓口にて直接交付
インターネットバンキング必要適格請求書のデータをダウンロードして保存する

ATMで支払う

ATMにて振込手数料を支払う場合、自販機特例に分類されるため適格請求書の発行は不要です。

自販機特例とは、3万円未満の自動販売機、自動サービス機により行われる商品の販売に該当する少額特例のひとつです。ATM利用の他、コインランドリーや飲み物の自動販売機などでの取引が含まれます。

ただし、この場合であっても、取引が行われたことを示す帳簿の保存は必要です。


出典:国税庁「自動販売機及び自動サービス機の範囲」

銀行窓口で支払う

銀行窓口を介して振込手数料を支払う場合、振込手数料に関する適格請求書は窓口で交付されます。忘れずに受け取り、保存しておきましょう。

ただし、金融機関における入出金や振込みが多頻度にわたるなどの事情により、全ての入出金手数料及び振込手数料に係る適格簡易請求書の保存が困難なときは、金融機関ごとに発行を受けた通帳や入出金明細等と、その金融機関における任意の一取引に係る適格簡易請求書を併せて保存することで、仕入税額控除の適用を受けることができます。

インターネットバンキングで支払う

インターネットバンキングでの支払いの場合も、窓口での支払いと同様に適格請求書の保存が求められます。

インターネットバンキングでは、振込実行後に振込手数料に関する電子データでの適格請求書が発行されます。電子データをダウンロードし、保存しておきましょう。インターネットバンキングによる振込では紙の適格請求書は発行されません。

ただし、同種の手数料等の支払いが繰り返し行われているような場合において、当該手数料等の適格簡易請求書に係る電磁的記録が、インターネットバンキング上で随時確認可能な状態であるなど一定の要件を満たすのであれば、必ずしも当該適格簡易請求書に係る電磁的記録をダウンロードせずとも、仕入税額控除の適用を受けることが可能です。

振込手数料を買い手側が負担する場合の仕訳例

振込方法にかかわらず、振込手数料を含む支払いを行った際には仕訳を行い帳簿を保存します。

たとえば、買掛金5万円を普通預金から振り込み、その際に振込手数料550円が発生した場合、以下のように仕訳します。


借方貸方
買掛金50,000円普通預金50,000円
支払手数料550円普通預金550円

振込手数料を売り手側が負担する場合の対応方法

振込手数料を売り手側が負担する場合、振込手数料を「売上値引き」または「支払手数料」のいずれかとして処理します。買い手側が負担するときとは違い、売り手側が金融機関から適格請求書の発行を受けることはありません。

「売上値引き」または「支払手数料」として扱う場合の処理方法をそれぞれ解説します。

売上値引きとして処理する

売上値引きとする場合は、振込手数料分を差し引いた金額で買い手側に請求します。

たとえば、請求額が5万円で振込手数料が550円だとすると、実際には振込手数料を差し引いた4万9,450円で請求することになります。

このように売上から値引きした場合、インボイス制度ではもともと適格返還請求書の発行が義務付けられていました。しかし2023年度の税制改正により、値引きの金額が税込1万円未満のときは発行不要となりました。

つまり振込手数料が税込1万円未満であれば、買い手側へ適格返還請求書の交付をせずに、課税売上のマイナスと同様の扱いとして処理できます。


出典:国税庁「少額な返還インボイスの交付義務免除の概要」

売上値引きとしたときの仕訳例

売上値引きとして振込手数料を処理する場合の仕訳方法は以下のとおりです。

先述の例と同じく、買掛金5万円を普通預金から振り込み、その際に振込手数料550円が発生した場合を例としています。


借方貸方
買掛金49,450円売掛金50,000円
売上値引550円

支払手数料として処理する

支払手数料とする場合は、「買い手側が手数料を立て替えて払っている」と考えます。

先ほどと同じ例で説明すると、請求額が5万円で振込手数料が550円のとき、売り手側に振り込まれる金額は4万9,450円ですが、値引きはおこなっていません。

売り手側は負担する振込手数料を、会計上では支払手数料として処理し、消費税法上は売上値引きと同じように扱うことが可能です。

この場合、買い手側は、金融機関から発行してもらった適格請求書と、作成した立替金精算書を売り手側に送る必要があります。売り手側はこの2点の書類によって、振込手数料に含まれる消費税分の税額控除を受けられるようになります。

買い手側がATMから振り込んだ場合の振込手数料は、先述した自動販売機特例に該当するため、適格請求書と立替金精算書の保存は不要です。売り手側は所定の帳簿のみの保存で控除を受けられます。


出典:国税庁「売手が負担する振込手数料相当額」

支払手数料としたときの仕訳例

たとえば、買掛金5万円を普通預金から振り込み、その際に振込手数料550円が発生した時の仕訳は以下のとおりです。


借方貸方
買掛金49,450円売掛金50,000円
支払手数料550円

また、仕訳では支払手数料としていても、消費税法上は売上高のマイナスとして取り扱うことも可能です。  

まとめ

振込手数料を誰が支払うかについては、インボイス制度施行後も基本的に買い手側が支払うという既存のルールに則る必要があります。ただし、買い手側と売り手側の双方の合意があれば、例外的に売り手側が負担することも可能です。

振込手数料は金融機関に支払う代金であるため、インボイスの発行は金融機関側に求めなければなりません。振込手数料に関するインボイスは金融機関から買い手側に発行されるため、売り手側が振込手数料を負担する場合には、振込手数料に含まれる消費税分の仕入税額控除が受けられるよう正しく対応しましょう。

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よくある質問

振込手数料は誰が負担する?

振込手数料は原則、取引における買い手側が負担します。ただし例外的に、買い手側と売り手側の合意があった場合に売り手が支払うケースもあります。

詳しくは「振込手数料は原則買い手側が負担する」をご覧ください。

振込手数料の適格請求書は誰が発行する?

振込手数料は金融機関へ支払う手数料であるため、適格請求書の発行は金融機関が行います。

詳しくは「適格請求書での振込手数料の取り扱い」をご確認ください。

監修 好川寛(よしかわひろし)

元国税調査官。国税局では税務相談室・不服審判所等で審理事務を中心に担当。その後、大手YouTuber事務所のトップクリエイターの税務支援、IT企業で税務ソフトウェアの開発に携わる異色の税理士です。

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