監修 米澤 潤平 税理士・社会保険労務士・中小企業診断士
電子領収書とは、PDFなどデジタルデータ化された領収書を指し、近年、ペーパーレス化の一環として紙の領収書の発行を廃止し、電子領収書に切り替えるECサイトなどが増えています。電子領収書を導入することで、コスト削減や業務効率化といったさまざまなメリットが期待できます。
一方で、電子領収書の保存にあたっては、改ざん防止策を講じる必要性や、税務署から求められた際に必要なデータを速やかに発見・提示できるようにしておく必要があるなど、注意点も多く存在します。
本記事では、電子領収書の概要や発行方法、データ保存のメリットや注意点について解説します。
目次
電子領収書とは
電子領収書とは、紙の領収書をデジタル化したものや、PDFなどデジタルデータで交付された領収書のことを指します。近年では、ペーパーレス化の一環として紙の領収書の発行を廃止し、Webページなどから領収書をダウンロードできるように変更するECサイトなどが増えています。
メールやチャットツール、オンライン上のWebサイトやクラウドサービス、スマートフォンアプリなど、インターネット上で受け渡しが行われる領収書は、すべて電子領収書に該当します。
また、紙で発行された領収書についても、スマートフォンのカメラで撮影したり、スキャンしたりしてデータ化した場合は電子領収書として扱われます。
改正電子帳簿保存法で領収書の取り扱いはどう変わる?
2022年に行われた電子帳簿保存法の改正により、電子領収書を含め、電子取引に関する電子データを紙に出力して保存することが原則としてできなくなりました。
これによって、領収書を紙で受け渡しした場合とデータで受け渡しした場合、それぞれで保存方法が異なります。領収書の「発行者」と「受領者」それぞれの立場から、どのように対応すべきかを以下で解説します。
紙で受け渡しした領収書の場合
紙で受け渡しした領収書については、従来どおり紙での保存が認められています。
ただし、領収書を紙で作成・受け渡しした場合と、PCで作成した領収書を印刷して受け渡しした場合とでは対応が変わるため、発行者・受領者の立場でそれぞれの対応について確認しましょう。
紙で受け渡しした場合の「発行者」の対応
紙で領収書を作成し紙のまま受け渡しした場合、そのまま紙で保存しておくことも、受領者に渡した領収書の写しをスキャン・データ化して保存しておくこと(スキャナ保存)もできます。
なお、スキャナ保存は複合機などのスキャニング機能を持つ機器を使ったものだけでなく、スマートフォンやデジタルカメラなどで撮影した画像も対象となります。
電子帳簿保存法の改正により、スキャナ保存の要件は大幅に緩和されました。定期検査や相互牽制(複数人で書類の保存チェックを行う)、再発防止策の整備などのいわゆる適正事務処理要件が不要となり、スキャナ保存を以前より活用しやすくなりました。
現在、適用されているスキャナ保存の要件は以下のとおりです。
スキャナ保存の要件
- 入力期限の制限
- 一定水準以上の解像度及びカラー画像による読み取り
- タイムスタンプの付与
- 読取情報の保存
- ヴァージョン管理
- 入力者等情報の確認
- 帳簿と相互関連性の確保
- 見読可能装置の備付け等
- 電子計算システムの概要書等の備付け
- 検索機能の確保
出典:国税庁「はじめませんか、紙のスキャナ保存」
それぞれの要件の詳細は、国税庁のパンフレットを参照してください。
なお、PCで領収書を作成、紙に印刷して受け渡しした場合には、データをそのまま保存することが可能です。
ただし、データとして領収書を保存するには、以下の要件を満たす必要があります。
データで領収書を保存する要件
- システムの説明書やディスプレイなどを備え付けていること
- 税務署の求めに応じてデータのダウンロードに応じられること、または検索機能を確保しておくこと
出典:国税庁「はじめませんか、帳簿・書類のデータ保存(電子帳簿等保存)」
紙で受け渡しした場合の「受領者」の対応
受領者についても、紙で受領した領収書は紙のまま保存が可能です。また、データとして保存したい場合には、前述の要件を満たせばスキャナ保存が認められています。
出典:国税庁「はじめませんか、紙のスキャナ保存」
データで受け渡しした領収書の場合
電子帳簿保存法の改正では、帳簿・書類の電子保存とスキャナ保存に関して税務署の事前承認制度の廃止や適用要件の緩和が行われ、電子保存・スキャナ保存を取り入れやすくなっています。
一方で、電子取引で発行された領収書は紙に出力しての保存が原則として不可となるなど、規制が強化された側面もあります。
発行者と受領者それぞれの対応について確認していきましょう。
電子帳簿保存法について詳しく知りたい方は、別記事「電子帳簿保存法とは?対象書類や保存要件・改正内容についてわかりやすく解説」をご覧ください。
データで受け渡しした場合の「発行者」の対応
データで受け渡しした領収書については、電子取引に該当するためデータで保存を行う必要があります。改正電子帳簿保存法では、電子取引におけるデータ保存について、いくつかの要件緩和がなされました。
1つ目はタイムスタンプ付与までの期間が最長で70日程度まで延長された点です。
2つ目は検索条件の設定に関する要件です。税務署によるデータダウンロードの求めに応じる場合には、「日付・金額・取引先」を検索条件として設定できればよいこととされました。
出典:国税庁「電子帳簿保存法が改正されました」
データで受け渡しした場合の「受領者」の対応
電子帳簿保存法の改正により、データで受け渡された領収書を紙で保存することはできません。
2023年12月31日まではプリントアウトした紙の保存が認められる猶予期間が設けられていましたが、2024年1月1日以降はデータ保存が義務づけられています。
受領者側も発行者側と同様に、タイムスタンプの付与など、改正電子帳簿保存法に則った方法でデータ保存をする必要があります。
出典:国税庁「電子帳簿保存法が改正されました」
電子領収書の発行方法
電子領収書を発行する一般的な方法としては、PCを使ってPDF形式のデータを作成する方法が考えられます。しかし、PCにデータを手入力する方法で電子領収書を作成すると、金額や項目などの記載ミスや漏れが発生する可能性があります。
そうした課題を解決するのが、電子領収書発行システムの活用です。電子領収書発行システムを使うことで、電子帳簿保存法で求められる要件を満たすかたちで領収書が保存できるため、ヒューマンエラーをなくすとともに効率的に電子領収書を発行できます。このような利点があるため、多くの企業や個人事業主、フリーランスの間で電子領収書発行システムの利用が広まっています。
電子領収書を発行するメリット
電子領収書の発行には、以下のとおり、コスト削減や業務改善のメリットがあります。
印紙税などのコストの削減
電子領収書を発行することで、印紙税を削減できます。
紙の領収書を発行する場合、一定の金額以上の取引においては収入印紙を貼付しなければならないと印紙税法で定められているため、印紙税がかかります。しかし、電子領収書の場合は収入印紙が不要であるため、印紙税は課税されません。
参考として、紙で領収書を発行した場合にかかる印紙税負担は以下のとおりです。
【参考:売上代金の受取書の場合】
記載金額 | 税額 |
---|---|
5万円未満のもの | 非課税 |
5万円以上100万円以下のもの | 200円 |
100万円を超え200万円以下のもの | 400円 |
200万円を超え300万円以下のもの | 600円 |
300万円を超え500万円以下のもの | 1,000円 |
500万円を超え1,000万円以下のもの | 2,000円 |
印紙税額そのものは大きくありませんが、日々の取引において領収書の発行が多く発生する場合は、軽視できない金額といえるでしょう。電子領収書を導入することで、これらの印紙税の負担が削減できます。
また、電子領収書を採用することで、紙で送付する場合にかかる封筒代や郵送代のコストカットにもつながります。
領収書発行業務の省力化
領収書の発行にかかる従業員の労力を削減できる点も、電子領収書の大きなメリットとして挙げられます。
前述のとおり、電子領収書発行システムを利用することでこれまで手作業で行っていた発行作業の自動化が可能になります。領収書を発行したり、送付したりする際の人的リソースや時間を大幅に削減できます。
電子領収書の導入で、発行だけでなく、受け取った紙の領収書をデータ化する作業も不要になります。
領収書をデータ保存するメリット
領収書をデータとして保存することのメリットは以下のとおりです。
保存・管理にかかるコストの削減
紙の領収書はスペースを取るため、保管場所や保管用具のコストがかかります。一方で、電子領収書はデータとして保存するためそのようなコストが不要です。
また、領収書がデータベースやクラウドストレージに保存されることにより、領収書の検索や共有を簡単に行えるようにもなります。
ただし、領収書をデータで保存する際にクラウドストレージなど有料のオンライン保管システムを使用する場合は、必ずしも紙の領収書に比べて保管コストが削減されるとは言い切れません。双方のメリットをよく比較し、費用対効果を考えて選びましょう。
業務のDX化(デジタル化)を推進
電子領収書の導入、領収書の保存をデータに切り替えることは、業務のDX化(デジタル化)を推進する一環にもなります。
先に述べたとおり、領収書をデータ化しオンライン上で保存・管理することには、検索性の向上や共有がしやすくなるという利点があります。
こうしたデジタル化の推進によって、業務プロセスを効率化したり、領収書発行の負荷を低減したりすることが可能です。さらに、テレワークや別拠点の従業員との連携がスムーズになるといった効果も得られるでしょう。
物理的な紙を管理する煩わしさから解放されれば、従業員の働き方や業務の進め方の選択肢が増えるというメリットにもつながるといえます。
電子領収書をデータ保存する際の注意点
電子領収書の導入は利便性を高めることにつながりますが、電子領収書をデータで送受信し、そのデータを保存する際には注意点もあります。
発行者・受領者ともに電子領収書を保存する際には、「真実性の確保」と「可視性の確保」という電子帳簿保存法に基づく2つの保存要件を満たさなければなりません。
2つの保存要件を満たすために気をつけるべき注意点や具体的な対応について、確認していきましょう。
改ざん防止の措置を講じる
真実性の確保という点で、電子領収書の改ざんを防ぐため、データのまま保存する際には特定の要件を満たす必要があります。
具体的には、以下のいずれかの要件を満たすことが求められます。
電子領収書のデータ保存時の要件
- タイムスタンプが付与されたデータを受領する
- データ受領後、遅滞なくタイムスタンプを付与する
- データの訂正削除を行った際に、その記録が残るもしくは訂正削除ができないシステムを利用する
- 訂正削除の防止に関する事務処理規程を策定し、その規程に沿った運用を行う
出典:国税庁「Ⅱ 適用要件【基本的事項】」
要件を満たすためには、電子データを扱うのに適したシステムを導入し、意図的に領収書データを改ざんできないようにすることが最も効率的といえます。
どうしてもシステムの導入が難しい場合には、事務処理規程を社内ルールとして定めて順守する方法でも問題はありません。いずれにせよ、どのように改ざんを防止するかという方針・方法を決める必要があります。
日付・金額・取引先で検索できるようにする
可視性の確保という点で、電子領収書をデータで保存する際には、日付や金額、取引先などの情報を適切に紐づけておかなければなりません。
税務署から特定の領収書データの提示を求められた場合、速やかにデータを検索し提示する必要があります。このときにデータが見つからないと、電子帳簿保存法の保存要件のひとつである可視性と検索性が確保されていないとみなされてしまいます。
ディスプレイやプリンターを整備する
可視性の確保という点から、特定の電子領収書を速やかに調べ見つけられるだけでなく、税務署から求められた場合に速やかに閲覧・出力できるような環境も整えなければなりません。
たとえば、税務署から特定の領収書データの提示を求められた場合すぐに対応できるよう、PCのディスプレイやプリンターなどの機器を整備する必要があります。
情報の提示を求められてから慌てて準備するのではなく、日頃から、データの検索性を高めるだけでなく閲覧・出力できる環境を整えておくようにしましょう。
出典:国税庁「電子取引データの保存方法をご確認ください」
まとめ
電子領収書は、社会のデジタル化の進展や改正電子帳簿保存法の施行をきっかけに、ますます利用しやすくなりました。そして、電子領収書の発行には、印紙税の削減や領収書発行業務の省力化といった多くのメリットがあります。電子帳簿保存法に適したシステムを導入することで、煩雑な電子領収書の保存要件などにスムーズに対応できます。
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よくある質問
電子領収書とは?
電子領収書とは、紙媒体ではなく、PDFなどの電子データで発行・保存される領収書を指します。
オンライン上で受け渡しが行われる領収書のほか、紙の領収書をスキャンしたり、スマートフォンなどで撮影したりしたものも電子領収書といえます。
詳しくは記事内「電子領収書とは」をご覧ください。
電子領収書に印紙は必要ですか?
電子領収書に収入印紙の貼付は不要です。
紙の領収書の場合、一定金額以上は印紙税がかかりますが、電子領収書の場合は印紙税はかかりません。
詳しくは記事内「印紙税などのコストの削減」をご覧ください。
電子領収書を発行・データ保存する際の注意点は?
電子領収書を発行・データ保存する際には、電子帳簿保存法に基づき、「真実性の確保」「可視性の確保」という2つの保存要件を満たさなければならないことに注意しなければなりません。
具体的な対応としては、以下が挙げられます。
- ・領収書データの改ざんを防止するための対応
- ・特定の領収書を速やかに探し出すための日付・金額・取引先などの情報の紐づけ
- ・電子領収書を速やかに閲覧・出力するためのディスプレイやプリンターの整備
詳しくは記事内「電子領収書をデータ保存する際の注意点」をご覧ください。
監修 米澤 潤平
26歳のときに中小企業診断士、29歳のときに社会保険労務士、39歳のときに税理士資格を取得。コンサルティング会社に勤務する傍らで、税理士事務所を開業し、主に法人・個人からの税務相談や経営相談、決算・申告などのセミナー講師、会計や税務に関する執筆活動を中心に活動している。