工事台帳とは、工事現場ごとの取引内容を記載し、原価を集計する台帳のことです。工事台帳を作成することでお金の流れを明確にでき、工事の進捗状況を把握できます。
本記事では、工事台帳を作成する目的や記載すべき項目、エクセルで工事台帳を作成する問題点、そして工事管理システムを導入するメリットについて解説します。
目次
工事台帳とは
工事台帳とは、工事現場ごとの取引内容を詳細に記載し、原価を集計する台帳のことです。
「工事管理台帳」や「工事原価台帳」「工事原価管理帳」と現場によって名称が異なる場合もありますが、内容や意味は基本的に同じです。
建設業では、一般的な企業と比較して原価の計算や管理が難しいとされています。以下のような理由から、売上・原価を計上するタイミングが特殊であるためです。
- 現場ごとに工期が異なること
- さまざまな要因で工期が予定よりも伸びてしまうこと
- 工事費の構成が複雑であること
工事台帳を利用することで、工事ごとの各種費用の詳細や進捗状況を明確にでき、複雑な情報が整理されます。また工事台帳は、労災保険の申告や税務調査時に提出する資料としても活用できます。
正しく記帳された工事台帳を運用することで、各種お金の管理をはじめ、経営的なリスクを回避することにも繋がるため、建設業においてとても重要な台帳です。
工事台帳を作成する目的
建設業の工事管理において、工事台帳を作成する主な目的は以下のとおりです。
工事台帳を作成する目的
- 各工事の収支や利益率の把握
- 完成工事原価の算出
- 未成工事支出金の算出
- 経営事項審査で提出が必要
各工事の収支や利益率の把握
工事台帳に、発生した経費や支払い情報などを正確に記載することによって、収支のバランスを見ながら工事に必要な費用を適切に管理できるようになります。工事案件の受注時に適切な原価予測が可能になり、正確な見積作成につながります。
工事台帳で収支や利益率の把握、管理をしていないと、予定以上に人員を補充してしまったり、原価割れをしている案件を受注してしまったりするなど利益管理に差が出てしまうでしょう。
完成工事原価の算出
完成工事原価とは、完成済の工事の売上高と収益である「完成工事高」に計上した工事原価のことです。
完成工事原価は、材料費・外注費・労務費・経費の4項目で構成されています。それぞれの費用を工事ごとにまとめることによって原価が予測でき、純利益を正しく把握できるのです。
未成工事支出金の算出
未成工事支出金とは、まだ完成していない工事現場で発生する支出や費用のことです。
未成工事支出金は、完成工事原価と同様に材料費・外注費・労務費・経費の4項目から構成されています。
建設業は、決算時に未成工事支出金のうち、完成した部分は工事原価に振り替えて損益計算書に計上します。しかし、工事が未完成の場合は売上として計上できないため、未完成で次期へ繰り越す部分については貸借対照表の資産の部に計上することになるのです。
このように、決算時に必要な未成工事支出金の算出は、工事台帳に記載された費用を参照するため、工事台帳の作成や管理は必要不可欠といえます。
経営事項審査で提出が必要
公共工事を発注者から直接請け負うとする建設業は、経営事項審査を受ける必要があります。
公共工事の各発注機関は、競争入札に参加しようとする建設業者についての資格審査を行うこととされており、当該発注機関は客観的事項と主観的事項の審査結果を点数化し、順位を付けます。
この客観的事項の審査が経営事項審査です。経営事項審査では工事台帳を提出することになっており、「経営状況」と「経営規模」「技術力」「その他の審査項目(社会性等)」について数値化され評価が行われます。
工事台帳に記載する項目
工事台帳に記載する主な項目は以下のとおりです。
工事台帳に記載する項目
- 材料費
- 労務費
- 外注費
- 経費
材料費
材料費の項目には、工事を行う際に必要な材料の仕入れ費用の合計を記載します。この材料費には、材料にかかった原価だけではなく、配送費や運賃など、取引で発生したほかの費用も含まれます。
労務費
労務費の項目には、工事に参加している従業員に支払う給料や賃金を記載します。また、従業員に支払う給料や賃金だけではなく、手当や交通費もこの中に含まれます。
アルバイトやパート、正社員といった雇用形態は関係ありませんが、建設作業に従事する「自社の職員の費用のみ」が対象となっています。建設現場の事務所などで事務作業をしている事務員や雇用関係がない作業員の費用は含まれないので注意しましょう。
外注費
外注費の項目には、自社が直接雇用していない下請業者や外注業者、協力業者の作業員に支払う費用を記載します。
経費
経費の項目には、発生した費用の中でも、材料費・労務費・外注費に該当していない原価を記載します。
たとえば、工事に必要な重機の使用料や工事現場の光熱費、事務員の給与や事務用品の購入費などが該当します。
工事台帳をエクセル(Excel)で作成・管理するときの注意点
エクセルは、一般的なパソコンに標準装備されているツールです。関数を使用すれば自社に合ったカスタマイズもすることが可能なため、工事台帳の作成で利用されている事業者も多いでしょう。
しかし、エクセルは導入コストが低い反面、入力ミスや情報共有のタイムラグなど、注意点も多いので注意が必要です。
入力ミスが発生しやすい
エクセルで工事台帳を作成する場合、管理するファイルが多岐に及ぶと担当者のデータ転記ミスを招きやすくなります。
また、経理担当者が手作業で入力することが多く、入力ミスなどのヒューマンエラーが発生しやすいというデメリットがあります。
情報共有のタイムラグ
エクセルで工事台帳を作成する場合、担当者が手作業で入力するため対応に時間がかかったり、提出のタイミングがずれてしまったりする可能性があります。
工事現場と運営している事業者の間で、情報共有に時間がかかることもあるため、そのタイムラグの間に情報が更新されてしまうことも考えられます。また、更新履歴を追うことができず、ファイルもリアルタイムで確認できないため、作業効率が高いとは言えません。
属人化しやすい
エクセルに精通している社員が工事台帳を作成していると属人化を招きやすく、ほかの社員が工事台帳のファイルを編集できないリスクが考えられます。
特に、複雑な関数を利用している場合は、1つの関数を変更するだけで全体の計算が合わなくなってしまったり、上手く表示がされなくなってしまうおそれがあります。
工事管理システムを導入するメリット
エクセルで工事台帳を作成した場合のデメリットを払拭するためには、工事管理システムを導入することをおすすめします。
工事管理システムを導入するメリットは以下のとおりです。
工事管理システムを導入するメリット
- 人為的なミスの軽減
- 工事データの一元管理
- 人件費の軽減
ここでは、工事管理システムを導入するそれぞれのメリットについて詳しく解説します。
人為的なミスの軽減
工事管理システムでは、工事で発生する各費用を簡単に入力することでき、それぞれ発生した費用を自動で計算してくれます。手作業時に発生していた入力ミスなどが軽減されます。
建設業の工事費用の算出は項目が多く複雑なため、工事管理システムで工事台帳を作成することで、大幅なコスト削減と業務の効率化ができるでしょう。
工事データの一元管理
工事管理システムでは、社内の工事データを一元管理できます。
また、クラウドにデータを保管することで、複数の端末からリアルタイムで工事台帳にアクセスできるようになります。
各工事で発生している工事費や経費の情報がシステムによって可視化されるため、経費削減や赤字回避につながることもメリットです。
人件費の軽減
工事管理システムはスマホやタブレット端末など、複数のデバイスを使用して、各現場の担当者が画像などをシステムに直接登録することができます。
インターネット環境が整っていれば、移動中の時間でも工事台帳に関する作業ができるようになるため、作業効率の向上やコスト削減などさまざまな面で効果が期待できるでしょう。
工事管理システムを導入することで、業務工数を削減し作業効率化につながります。
まとめ
工事台帳は工事ごとの収支や利益率を把握でき、経営判断に役立てることができます。工事台帳はエクセルでも作成・管理が可能ですが、転記ミスやデータ共有のタイムラグが発生することがあります。
工事管理システムを導入することで転記ミスが減り、リアルタイムでの情報共有が可能となることがメリットです。また、業務効率が向上するため、人件費の削減も期待できるでしょう。工事台帳を作成・管理する場合には、工事管理システムの利用を検討することをおすすめします。
よくある質問
工事台帳とは?
工事台帳とは、工事現場ごとに取引内容を詳しく記載し、原価を集計する台帳です。労災保険の申告や税務調査時に提出する資料としても活用でき、建設業においてとても重要な台帳です。詳しくは記事内「工事台帳とは」をご覧ください。
工事台帳を作成する目的とは?
工事台帳を作成する主な目的は次のとおりです。
- ・工事台帳を作成する目的
- ・各工事の収支や利益率の把握
- ・完成工事原価の算出
- ・未成工事支出金の算出
- ・経営事項審査で提出が必要
詳しくは記事内「工事台帳を作成する目的」をご覧ください。
工事台帳をエクセルで作成・管理するときの注意点は?
工事台帳はエクセルで作成することも可能ですが、手作業で行うため入力ミスが発生しやすいことや、最新情報をリアルタイムで確認しづらいため情報共有にタイムラグが発生することがあります。詳しくは記事内「工事台帳をエクセル(Excel)で作成・管理するときの注意点」をご覧ください。
工事管理システムを導入するメリットは?
工事台帳の作成を効率化させるにあたって、工事管理システムを導入することが挙げられます。工事管理システムを導入するメリットとしては以下のとおりです。
- ・人為的なミスの軽減
- ・工事データの一元管理
- ・人件費の軽減
詳しくは記事内「工事管理システムを導入するメリット」をご覧ください。