建設業における工事原価管理とは、工事にかかる外注費や材料費といった原価がどれだけ発生するかを適切に計算したうえで管理し、コスト改善を図ることです。また、建設業許可を取得するには「完成工事原価報告書」という工事原価の提出が必須となります。
本記事では、建設業の工事原価管理を行うメリットや難しいと言われる理由について解説します。あわせて工事原価管理システムの選び方についてもまとめました。管理業務を効率化したい方はぜひ参考にしてください。
目次
建設業の工事原価管理とは
工事原価管理とは、工事を行う際に発生する外注費や材料費など、原価にかかる費用を計算し管理することです。
適切に工事原価管理を行うことによって、利益減少を防いだり、赤字を回避できたり事業運営におけるコストの改善が期待できます。
また、建設業法によって、一定期間の会社の利益や損失を記載する損益計算書に、建設工事の「完成工事高」と「完成工事原価」を計上して記載する義務があるため、原価管理は必要不可欠です。
出典:
しかし、建設業における原価管理は、工期や資材価格の変動が多いうえに項目も細かく複雑なため、正確な原価を把握することは難しいとされています。
原価管理を行う上で、Excelなどを利用して管理を行う会社もありますが、入力や計算ミスといったヒューマンエラーが出てしまったり、効率化を図るために導入した関数によって管理が属人化したり、Excelを用いた原価管理には多くのデメリットがあります。
正確に原価管理をするためには、原価管理システムを導入することをおすすめします。
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工事原価管理を行うメリット
工事原価管理を行うメリットとして、以下の3つが挙げられます。
工事原価管理を行うメリット
- 事前に必要な人員の確保、余分な材料を用意するといったコストを減らし、利益を上げることができる
- 工事前にどのくらいの利益になるのか計算することもできるので、赤字を防ぎ黒字つなげることができる
- 工事における利益を明確にするため、利益の少ない工事から撤退する判断基準にすることができる
建設業では、工事における原価を正しく管理することによって、資材の仕入れにかかった材料費や協力業者へ支払う外注費、そのほかの経費など、発生する各費用の詳細を把握できるようになります。
原価に関する情報を「見える化」することで、経費の削減や利益の増加など、健全な経営に繋がります。
工事原価管理が難しいと言われる理由
工事原価管理が難しいとされる理由として、以下の5つが挙げられます。
1. 特殊な勘定科目を用いる必要がある
建設業の財務諸表は、国土交通省が定める「建設業法施行規則別記様式第15号及び第16号の国土交通大臣の定める勘定科目の分類」に従って作成する必要があります。また、建設業の経理では一般的な商業会計や工業会計は使わず、「建設業会計」という特別な勘定科目を用いています。
他業種に比べて細かく勘定科目を分類していく必要があるため、工事原価管理は難しいとされています。建設業における勘定科目の分類は以下の7つが挙げられます。
建設業会計における勘定科目
- 完成工事高
:一般会計における売上高のことで、工事が完了した時に得られる収益 - 完成工事原価
:一般会計における原価のことで、材料費、労務費、外注費、経費の4つに分かれている - 完成工事総利益
:完成工事高から完成工事原価を引いたも - 未成工事支出金
:完成前の工事で発生した費用 - 完成工事未収入金
:一般会計における売掛金のことで、工事は完成しており翌期に入金予定のもの - 未成工事受入金
:一般会計における前受け金のことで、工事完成引渡し前に、発注者より受領した場合に発生するもの - 工事未払金
:一般会計における買掛金のことで、工事費の中の未払い金額を示すもの
2. 外注費を原価要素に加える必要がある
一般的に原価計算で使用する原価は「材料費」「労務費」「経費」の3要素で構成されていますが、建設業会計ではさらに「外注費」が加わり、4要素で構成されています。
建設業の場合、原価のほとんどは注文した法人への支払い、個人事業者や一人親方への業務委託で発生する費用などで構成されています。これらは、「外注費」に分類されますが、雇用期間が定められている従業員への賃金と根本的にに変わらない労務外注費は、「外注費」ではなく「労務費」として扱われます。
建設業の原価は現場ごとに管理されており、原価の計算をする際も「個別原価計算」に基づいて「現場別原価計算」を使用します。
3. 売上・原価を計上するタイミングが特殊である
2021年の4月から導入された「収益認識に関する会計基準(新収益認識基準)」には、事業の売上に対しての認識と財務諸表上への反映方法について新たな基準が定められています。この新収益認識基準の導入によって、企業が契約内容を履行した時点で、顧客が支払う対価の額で売上を計上することになりました。
<収益認識基準の適用対象となる企業>
上場企業 | 未上場企業 | |
大企業 | 適用対象 | 適用対象 |
中小企業 (監査対象法人以外) | 適用対象 | 任意適用 |
適用対象は大企業と上場している中小企業です。また、中小企業は任意適用となり、今まで通り工事進行基準に基づいた処理が可能となっています。新収益認識基準は、上場企業の子会社・関連会社も対象に含まれます。
出典:
新収益認識基準における収益認識の5つの段階
収益の認識には以下の5段階の過程を経た金額とタイミングによって計上されます。
1. 顧客との契約の識別をする
顧客との契約における取引内容や取引価格、提供すべきサービスや要件など、契約の内容を明確に把握します。
2. 履行義務の識別をする
契約の内容に含まれている、顧客への履行義務を明確にします。たとえば「工事を実施し、12月31日までに完了する」という契約であれば、「工事を実施すること」と「12月31日までに完了すること」の2つの履行義務が発生することになります。
3. 取引価格の算定をする
契約における取引価格がいくらになるのかを算定し把握します。算定にあたっては、変動対価や重要な金融要素、現金以外の対価、顧客に支払われる対価への影響を考慮する必要があります。
4. 履行義務への取引価格の配分を行う
複数の履行義務がある場合は、算定した取引価格をそれぞれの履行義務に配分します。
5. 履行義務の充足による収益の認識
各履行義務が充足した際の売上を計上するタイミングを決定します。売上の計上には一時点で収益を認識するケースと、一定の期間で収益を認識するケースがあります。
工事進行基準とは?
工事進行基準とは、作業の進捗の度合いに応じて売上と原価を計上し、収益や費用を明確にする計上基準です。
通常の会計基準では、顧客に商品やサービスを納めたときに売上や売上原価を認識しますが、工事進行基準においては、顧客に商品やサービスを作ったタイミングや、顧客に商品やサービスを提供したタイミングなど、進捗状況にあわせて計上します。
建設業では、着工から完成・引き渡しを行うまでが1年以上かかるケースもあるため、工事の進行度合いに応じて工事収益を分割計上することができる工事進行基準を用いることが認められています。
たとえば、入金が来期になる工事で材料の仕入費や外注費を当期に支払う場合、当期で経費の計上を済ませると工事利益のバランスが崩れることになります。この問題を回避するために、工事進行基準では先行して発生する経費を「未成工事支出金」として計上します。
また、未成工事支出金は流動資産として財務諸表に記載する必要があります。施工中の工事では、経費が発生しなければ会計処理を行う必要がありませんが、最低でも人件費は発生しているため、財務諸表に忘れずに記載するようにしましょう。
さらに、未成工事支出金として計上してきた経費は、工事が完了したタイミングで完成工事原価に切り替える必要があります。
4. 費用の構成が複雑
公共建築工事における工事費は、「直接工事費」「消費税等相当額」「共通費」の3つで構成されることが公共建築工事積算基準で定められています。
共通費とは、建物を建てることには直接関与しない建設する際に必要となる間接的な工事費のことを指します。共通費は、国土交通省の公共建築工事共通費積算基準によって「一般管理費等」「現場管理費」「共通仮設費」の3つに区分され算定することが定められています。
共通費は工事費の構成上、原価に含むものと含まれないものに分類されます。人件費を例にして見てみましょう。
人件費の場合
共通費に含まれるもの
:「現場管理費」工事現場の管理業務や工事部門の事務、工事関連に直接かかわる所で作業する従業員の人件費。
共通費に含まれないもの
:「一般管理費等」営業担当者や営業事務など、工事関連と直接関わらない本社の事務の人件費。
出典:国土交通省「公共建築工事共通費積算基準」
5. 経理業務の負担が大きい
原価の情報は各現場の担当者から経理部門へ共有され、経理部門でまとめて管理されることが一般的です。
経理部門は配賦(はいふ)基準をもとに工事間接費として、複数の部署や製品にまたがる費用を一定基準で振り分ける配賦作業を行い、会計帳簿や利用している会計システムに建設業会計の準じた仕訳を行う必要があります。
現場で管理システムを導入していない場合、現場ごとに異なるフォーマットで情報が届く可能性があり、配賦作業や仕訳をすべて手入力で行わなければなりません。正しい原価計算をするために間接費や労務費の配賦を行うと膨大な伝票を入力することになります。
工事原価管理システムの選び方
建設業会計は一般的な会計とは異なり、原価計算も複雑で決算書にも影響があるため、適切かつ正確に処理を行う必要があります。担当者の作業負担をすこしでも軽減させるためにも、システム上で原価管理が行える「工事原価管理システム」を導入することをおすすめします。
工事原価管理システムは作業効率が向上するだけでなく、把握した原価からコスト削減の手がかりを見つけるなど、原価を管理するにあたって必要な作業を一通りサポートしてくれます。
工事原価管理システムを選ぶときは以下の3つに着目しましょう。
導入の目的を明確にする
自社が何を目的として導入を検討しているかによって、選ぶシステムは変わっていきます。工事業務全体の効率化を図るのであれば、契約から売上の回収まで一元管理システムがあるものを選ぶと業務がよりスムーズになります。
建設業会計に対応したERPパッケージを選ぶと、企業のあらゆる情報を総合的に管理でき、コストも抑えられます。
クラウド型かオンプレミス型か
工事原価管理システムには、オンプレミス型とクラウド型があります。
オンプレミス型は、社内サーバーを利用するのでセキュリティ面に強く、自社が必要としている機能の追加やカスタマイズが可能です。しかし、自社にサーバーを設置するため、メンテナンスや保守を自社で行う必要があることや、設置費用やシステム構築など導入におけるコストは高くなるデメリットがあります。
クラウド型はインターネット上のサーバーを使用するため、オンプレミス型と比べてセキュリティ面に注意が必要となり、長期利用で割高になることもあります。しかし、オンプレミス型と違い、サーバーを設置する必要がないため、初期に発生する費用は抑えることができます。ネット環境がある場所であれば、どこにいても対応が可能になります。
一元管理機能があるか
建設業では、事務所と作業現場は基本的に離れていることが多いため、抱える案件や現場が増えると一元管理が難しくなってしまいます。また、 毎回更新されるデータの集計が間に合わないと、工事原価を正しく算出できなくなってしまう場合があります。
すべての現場データを一元管理できる機能が備わっていれば共有もスムーズになり、大幅な作業効率化できます。原価を正しく把握・分析することは、今後の経営にもつながります。
まとめ
建設業における工事原価管理は、利益率の把握や適切な経営判断を行うためには欠かせないものであり、建設業許可の取得の際も原価の提出が義務づけられています。
しかし、建設業特有の勘定科目が多く、計算も複雑でミスが発生しやすいため、担当者の負担が大きくなりがちです。効率良く正確なデータを作成・管理したい方には工事原価管理システムの導入がおすすめです。
自社に合った工事原価管理システムを導入し、複雑で手間のかかる業務を自動化しましょう。
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ここからは、freee原価管理セットの特徴について紹介します。
案件・プロジェクト別に原価管理ができる
管理すべき原価の例として、役務提供に関わるスタッフの給与などの直接労務費や、外部に業務委託した場合の外注費 、事務用品などの経費があります。
人件費や経費は、見込みから大きく変動することがあるため、可視化しながらの進捗管理が重要です。ほかにも、案件・プロジェクトごとに個別で経費を管理することは、粗利の正確な把握につながります。
freee原価管理セットを活用すれば、案件・プロジェクトごとの粗利進捗の管理や個別の原価計算を自動で行うことができます。
正確な原価管理によって、赤字プロジェクトの発見やコストの削減が可能となり、利益向上につながるでしょう。
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原価管理は企業の利益を正しく把握し、決算書の作成や事業計画の策定を行うための重要な要素となります。また、決算書を作成するには、日々の記帳から決算整理仕訳、総勘定元帳への転記まで手間と一定の知識が必要です。
freee原価管理セットとfreee会計を連携することで、日々の仕訳・記帳も自動で行うことができます。同時に入金ステータスの確認など、入金管理もfreeeで一括管理が可能です。
なお、freee会計を利用されていない場合でも、仕訳データをお使いの会計システムに戻すことができます。
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