創業まもない会社が資金調達をするときの選択肢として、各金融機関が融資を行う「創業融資」という制度があります。融資である以上もちろん審査が必要になりますが、この審査を通過する上で重要なのが「創業計画書」。
この記事では、審査担当者の視点から見た創業計画書の書き方やコツが詳細に解説されています。
※編集部註
この記事は、日本政策金融公庫で融資審査や債務管理などを長年担当されていた杉町徹先生による寄稿記事です。
目次
創業計画書とは
これから起業して新たにビジネスを始めるときに、その事業の概略や指針、資金計画や事業の見通しをまとめたものを「創業計画書」といいます。創業計画書の作成は、自分の経歴・スキルの棚卸(洗い出し)や事業の強み・弱み、見通しを客観的に見つめることができるいい機会です。
通常は日本政策金融公庫(以後「公庫」とします)が行う創業融資や、制度融資(地方自治体のあっせんを受けた民間金融機関が信用保証協会の保証により行う融資)を受けるにあたり、創業の概要を説明するために作成することが多いでしょう。
創業計画書のテンプレートはどこで入手できる?
公庫であれば、各支店に備え付けてあるほか、公庫のサイトからもダウンロードできます。制度融資の場合は都道府県や市町村の商工課(自治体により名称は違います)、各信用保証協会にて入手します。
創業計画書の項目別の書き方
ここでは公庫が創業融資の申し込みにあたり必要としている創業計画書を例にとり、項目ごとに問われている内容と書き方のコツを紹介していきます。
創業の動機
創業しようとする思いがどれくらい感じられるか、どれくらい真剣かが問われています。創業に対する熱い思いや真剣さは、事業を成功させようとする意志の強さに影響すると担当者は考えているからです。
書き方のコツ
創業の想いを「自分なりの言葉」で書くのがいいでしょう。記入欄が狭いので別紙にまとめる方法もあります。どこにでもある表現・言葉では他者からの受け売りと感じ、安易な創業との印象を持ちます。
ただ創業の想いを熱く伝えたいからといって、あまりにも飛躍したもの(人類の進化や発展に役立ちたい、日本の消費者に安らぎを与えたい 等)にとどまることは避けたほうがいいでしょう。事業との関連性が具体的でないとの印象を持つからです。最終的には創業する事業と関連づけることが大事です。
記入例
これまでの日本料理店での勤務経験を生かし、かねてより自分の店を持ちたいと思っていました。勤務先の承諾を得たところ、ちょうどいい物件を見つけることができたので開業を決意しました。
経営者の略歴等
この項目では、今回創業する事業と関係する経験を持っているか、過去に事業を運営していた経験があるか、事業に関連する資格や特許を有しているかが問われています。
事業に関係のある経験や資格があれば、業界知識や動向にも詳しいだろうと予測ができますし、関連する特許などがあればセールスポイントにもつながると考えられます。新創業融資制度の適用条件として、創業する事業と同じ業種の勤務歴を必要とする場合があり、その確認を行う目的もあります。
書き方のコツ
事業に関係する経験、資格、特許を積極的に、かつ具体的に記載するのがいいでしょう。事業に直接関係する経験がなければ、少しでも関連する経験を見つけ出して記載してください。
たとえば、今回開始する事業領域が未経験の業界であっても、法人相手の販売で創業する場合であれば、勤務時代の法人営業経験などについて記述できるでしょう。
過去の事業経験については正直に記載することをおすすめします。記入があってもなくても、担当者は個人信用情報や社内情報の調査を行います。その情報と異なる内容が記載されていれば、担当者は経歴に疑念を持つことになり、ひいては創業計画全体に疑念を持つことに繋がります。
記入例
- ・○○年3月 ○○大学経営学部卒
- ・○○年4月~ (株)○○広告(広告代理店)5年勤務
- ・○○年7月~ ○○エージェンシー(広告代理店)3年勤務(広告受注から実施まで担当、部下7人のマネジメント経験あり)
- ・○○年9月 同社退社、士業に特化した広告代理店創業予定
取扱商品・サービス
取り扱う商品やサービスがどのようなものか、具体的になっているかが問われています。また後半の記載項目、セールスポイントは特に重要な項目で、同業他社との違いは何かが問われています。他社との差別化は、創業後の事業の将来性を占う大きな判断材料であり、担当者が創業計画書のなかでも特に重視する部分です。
セールスポイントが具体的でない創業計画は、競争力に欠け軌道に乗りにくいと担当者は判断します。
書き方のコツ
この項目も「創業の動機」と同様、記入欄が狭いので、わかりやすく別紙に記載する方法もいいでしょう。取扱商品やサービスについては、可能な限り具体的に(商品設計ができているか、販売経路が想定できているか 等)、わかりやすく記載してください。
セールスポイントは、すでに他社が参入している業界においては、自社の独自性をしっかりおさえて具体的に記載してください。
新規事業であれば、その新規性をわかりやすく記載しましょう。飲食店を例に挙げると、ただ抽象的に「素材の良さを楽しめる料理を提供する」と記載するよりも「店主の故郷から独自のルートで迅速に仕入れた食材をメインに扱う。特別配送方法による食材の新鮮さと、独自ルートの仕入れだからこそ実現可能な品目の希少さを前面に打ち出した料理を提供できる」と記述したほうがセールスポイントは明確で具体的です。
もう一例挙げると「気軽に来てもらえる雰囲気を提供する」という表現より「あまり高級な調度品は置かず、昔ながらの一般的な居酒屋の内装で気軽さを演出し、大衆的な価格設定とあわせて何度でも来てもらえることをアピールする」と書くほうが具体的です。
セールスポイントが具体的でなければ、創業計画の具体性そのものに疑問を抱かれることになります。
ただし、専門的な用語を数多く使って特殊性を強調しても独りよがりな表現になってしまい、担当者はあまりいい印象を持ちません。担当者は融資の専門家ではありますが、創業する事業の専門家ではないからです。相手に合わせてわかりやすく説明する技術も、事業者に必要なスキルといえるでしょう。
記入例
- <取扱商品・サービスの内容>
- ・一品料理、コース料理(単品500円前後、コース料理昼2000円前後、夜5000円前後)
- <セールスポイント>
- ・店主が海外旅行でスペインの飲食店で長期アルバイトした際に習得した、スペインの家庭料理を提供する
- ・スペインの家庭料理を提供する同業他社は今回創業する○○地域には存在せず、希少性が見込める
- <販売ターゲット・販売戦略>
- 近隣に勤める会社員(特に食にこだわる女性客)をターゲットに定め、インスタ映えする盛り付けを行い口コミやSNSでの拡散を目指す
- 来店客には次回飲み物1杯サービス券を渡し、リピーター確保につなげる
- <競合・市場など企業を取り巻く状況>
- ・出店予定地には飲食店が乱立し、競合は多い
- ・競合が多いがそれだけニーズは見込める地域である
- ・他社との差別化を図り独自のメニューやイベントを行うことで、成業は十分見込める
取引先・取引関係等
予定している取引先や取引条件がすでに決まっているかを確認する項目です。仕入先や販売先がすでに決まっていれば、創業にあたって念入りな計画や準備をしてきたと考えられます。
書き方のコツ
まずは創業融資申込前に、できるだけ具体的に記載できるよう十分準備してください。具体的に決まっているほうが融資判断上プラスになることは間違いありません。
一般顧客などを想定しているケースでも、年齢層や属性など、ターゲットをできるだけ明確に記載してください。まだ詳細をイメージできていないのであれば、この機会に明確にすることをおすすめします。
創業融資を審査してきた経験のなかで、一般的にこの項目が曖昧な創業計画が、とても多く見受けられました。明確なターゲットとセールスポイントが関連していれば、事業計画の説得力も増します。
記入例
- <販売先>
- ・○○工作所㈱(金型製造業:元勤務先)、シェア60%、掛割合100%、末日〆翌月末回収
- ・㈱○○機械(成形機械製造業:元勤務先の仕入先)、~(略)~
- <仕入先>
- ・○○部品㈱(部品販売業:元勤務先の仕入れ先)、~(略)~
従業員
雇用の創出があるかが問われています。ただし、融資判断に関わるポイントではありません。新創業融資制度適用条件の一つ、雇用創出等の要件を満たすかどうかの問題に過ぎません。
書き方のコツ
正社員、パート・アルバイト問わず、雇用創出の予定があれば記載するようにしてください。開業後1人以上人員を雇用する場合、特別利率が適用できるケースがあります。
記入例
- ・常勤役員 1名、従業員数 1名(うち家族従業員 1名)
お借入れの状況
創業者個人の借り入れ状況が問われています(事業資金部分を除く)。
個人の固定支出を算出することも、事業が軌道に乗りやすいかどうかを判断する材料になるからです。個人の固定支出が少なければ、事業からの収入を当てにしなければいけない額が小さくて済むことになります。
書き方のコツ
公庫へ申し込む際に個人信用情報の利用に同意を求められます。同意すれば公庫は全銀協、CIC、JICCなどの個人信用情報登録機関に信用情報を照会することになります。
住宅ローンや自動車ローンなどの借入、クレジットの契約の有無や額、返済状況が確認できますので、正直に記載したほうがいいでしょう。記載内容と情報照会内容が一致しなければ、担当者の信用を失いかねません。
記入例
- ・○○銀行○○支店、住宅ローン、残高2560万円、年間返済額120万円
- ・○○信販、自動車ローン、残高157万円、年間返済額48万円
必要な資金と調達方法
創業計画における資金計画(必要な資金と使い道の内訳、資金調達方法と内訳)が問われています。創業計画書の最重要ポイントともいうべき項目です。特に自己資金の有無と金額、創業計画全体での割合は融資判断に大きく影響を及ぼします。
書き方のコツ
設備等を購入する場合は見積りをとり、店舗や事業所を賃借する場合は物件の概要がわかるものを入手するなどして、具体的な金額を記載しましょう。
事業開始後、売上が発生して資金が回収できるまで必要となる運転資金についても、仕入れ予想額や諸経費などの根拠を明らかにして記入してください。
資金の調達方法における自己資金は、できるだけ多いほうが望ましいです。借入により調達すれば返済の必要が生じ、事業開始後の資金繰りに影響を与えるからです。自己資金として認定されるには、その資金が客観的に証明できなければなりません。客観的に証明できないタンス預金などは自己資金とは認められませんので、注意しましょう。
とはいえ、自己資金の水増しは絶対にしてはいけません。自己資金の出どころ、蓄積過程を公庫は非常に注意深く確認します。この点において、公庫には相当なノウハウの蓄積があります。
自己資金の水増し、いわゆる「見せ金」を公庫は特に嫌います。融資は相互の信頼関係の上に成り立つものですから、当然のことといえます。見せ金が融資判断に極めて大きな悪影響を及ぼすのは間違いありません。
記入例
- <設備資金>
- ・店舗・工場・機械・車両など 320万円
(内訳)事務所保証金 200万円、パソコン等周辺機器一式(見積○○社) 120万円 - ・㈱○○機械(成形機械製造業:元勤務先の仕入先)、~(略)~
- <調達の方法>
- ・商品仕入、経費支払資金など 150万円
(内訳)材料仕入20万×3か月=60万円、家賃支払20万×3か月=60万円、諸経費(光熱費・駐車場)10万×3か月=30万 - <運転資金>
- ・自己資金 100万円
- ・日本政策金融公庫からの借入 370万円(元金5万円×74回)
事業の見通し
創業当初と軌道に乗った後で、事業の収支がどのように推移して利益が確保されるか、およびその根拠が問われています。また、事業者がどの程度数値を把握しているか、その管理能力についても問われています。
書き方のコツ
できるだけ客観的な根拠に基づき記載するようにしましょう。売上高でいえば飲食店の場合で「席数×単価×回転数×月間営業日」の算式や、その根拠(業態が同じ同業他社の平均値など根拠が明らかなほうが望ましい)をわかるように記載します。
個人的な経験や推測を根拠にした記載は創業計画そのものが楽観的なケースが多く、融資判断上あまり良い印象を与えません。
また、予想より悲観的に記載しても利益が出ればさらにいいでしょう。希望的観測に基づいて創業したはいいものの、売り上げが確保できずに廃業する事業者が後を絶たないからです。
記入例
創業当初 |
1年後
又は軌道に乗った後 (○○年○○月頃) |
売上高、売上原価
(仕入高)、経費を 計算した根拠 | |
売上高① | 133.4万円 | 276万円 | 下記参照 |
売上原価(仕入高)② | 40万円 | 82.8万円 | 下記参照 |
経費(人件費) | 10万円 | 50万円 | 下記参照 |
経費(家賃) | 10万円 | 10万円 | 下記参照 |
経費(支払利息) | 0.75万円 | 0.75万円 | 下記参照 |
経費(その他) | 30万円 | 50万円 | 下記参照 |
経費合計③ | 50.75万円 | 110.75万円 | |
利益
①-②-③ | 42.65万円 | 82.45万円 |
<売上高、売上原価(仕入高)、経費を計算した根拠>
- (1)創業当初
- ・売上高(土日曜定休)昼2000円×20席×0.2回転×23日=18.4万円、夜5000円×20席×0.5回転×23日=115万円 合計133.4万円
- ・仕入高 原価率30%(同業他社平均値、出典:○○レポート)133.4万円×30%=40万円
- ・人件費 専従者1人(妻)月10万円
- ・家賃 10万円
- ・支払利息 500万円×年1.8%÷12カ月=0.75万円
- (2)軌道に乗った後
- ・売上高(土日曜定休)昼2000円×20席×0.5回転×23日=46万円、夜5000円×20席×1回転×23日=230万円 合計276万円
- ・仕入高 原価率30%(同業他社平均値、出典:○○レポート)276万円×30%=82.8万円
- ・人件費 専従者1人(妻)月10万円、従業員2名増(20万円×2名=40万円)合計50万円
- ・家賃 10万円
創業計画書とは
以上、個別の項目ごとに解説してきましたが、全体を通じて意識していただきたいことがあります。
それは、「どんなに優れた創業計画書が作成できたとしても、申し込む人が『本当に理解した創業計画書』になっていなければ意味がない」ということです。たしかに、これから創業・開業しようとする方々にとって、創業計画書の作成はハードルが高いものに思えるかも知れません。経験豊富な第三者の助けを得るケースも多々あります。
しかし、実際に創業融資を受け創業を行い、事業を軌道に乗せ借入金の返済をおこなっていくのは、あくまで申し込んだ本人です。当然、その失敗のリスクを負うのも本人です。
創業計画書はどんなにつたなくてもいいので、まず自分なりに一生懸命計画を立てて、自分なりに練り上げてください。その上で不足している点や修正したほうがいい点を自分で洗い出し、より良いものにするといいでしょう。
専門家の手を借りてブラッシュアップするのは効果的ですが、その場合でも決して丸投げせず、最後まで自分ごととして取り組んでください。
創業融資は融資である以上、返済の見込みや創業計画の実現性など、さまざまな要素をもとに検討し、その可否を判断します。融資審査において担当者と面談がありますが、その際に自身の創業計画について説明しなければなりません。その時にしっかり自信をもって応対できるよう「腹落ち」するまで理解するようにしてください。
自分のこととして創業計画書を作成すれば、融資担当者への説得力も増すことでしょう。
【執筆者】杉町 徹
杉町行政書士総合経営事務所 所長
経歴:神戸大学法学部卒業後、国民金融公庫(現在の日本政策金融公庫)入庫。
公庫勤務中は融資審査、返済案内、債権管理など幅広く担当。
22年勤務の後に退職、税理士事務所勤務を経て2017年より公的融資支援を主業務とする現職に従事。
(freee認定アドバイザー、freee認定会計スペシャリスト、freee認定経理コンサルタント)
HP:杉町行政書士総合経営事務所
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