監修 前田 昂平(まえだ こうへい) 公認会計士・税理士
稟議の承認は、企業内で意思決定をスムーズに進めるために不可欠な手続きです。稟議を正しく理解することで承認作業を効率的に進めやすくなり、迅速かつ適切な意思決定にもつながります。しかし、企業によっては稟議の進め方が複雑だったり、通しやすくするためのコツが必要だったりすることもあるでしょう。
本記事では、ビジネスで稟議承認が必要になる場面や、稟議承認の基本的なワークフロー、通し方のコツなどを詳しく解説します。
目次
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稟議承認とは?稟議書とは?
稟議承認(稟議)とは、自身の権限を超える重要事項について上位者の承認を得るための手続きを指します。申請者が「稟議書」と呼ばれる書類を作成し、関係者に回覧して合意を得るというのが全体の流れです。
稟という字には「申し出る」、議という字には「相談する」といった意味があり、個人では判断できない内容を組織に相談することから「稟議=正式に組織の承認を得るためのプロセス」という意味合いになったと考えられます。
稟議は、組織内での合意形成や透明性の確保、とくに意思決定のリスク分散の役割を果たしています。稟議や稟議書については以下の記事でも解説していますので、参考にしてください。
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「稟議」の正しい読み方は?
「稟議」は、「りんぎ」と読むのが一般的です。もともとの正しい読み方は「ひんぎ」ですが、現在では「りんぎ」という読み方が広く使われており、「ひんぎ」と読まれるケースはほとんどありません。
これは、「稟」が「りん」と読めることから「りんぎ」と呼ぶ人が増えたのではないかといわれています。
稟議と決裁の違い
稟議と似た用語に「決裁」がありますが、稟議と決裁には明確な違いがあります。
稟議は複数の関係者から承認を得る手続きで、決裁権を有する上位者へ順次承認を求めるプロセスを指す言葉です。それに対し、一人の決裁者が提案内容に対して可否を決定する行為を決裁といいます。
例えば稟議申請において承認フローが「課長→部長→本部長」となっていた場合、最終承認者である本部長を「決裁者」と呼び、本部長の承認をもって「決裁が下りた」「決裁が通った」などというのが一般的です。
なお、企業によっては稟議をあげずに決裁のみで済ませるケースも存在します。
稟議とワークフローの違い
ワークフローとは、広義では「業務を進める一連の手順や流れ」を指し、狭義では「申請から承認、決裁までの流れ」を意味します。
もともとは「ひとつの目的を達成するため、複数業務を同一手順で行えるように一連の流れを決めること」といった業務プロセスそのものを指す言葉でしたが、近年では「組織内での申請・承認作業」という限定的な意味で用いられるケースも多いようです。
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稟議承認が必要になるシーン
稟議承認が必要になるシーンとしては、大規模予算の追加、組織の変更、新規プロジェクトの立ち上げなどの重要な決定事項が該当します。また、従業員用のパソコンやスマートフォンの買い替えといった大規模なコストが発生する際も、稟議による経営層の判断が不可欠です。
さらに、新規取引先との契約締結や人材採用など、ビジネス上の重要な決定についても関係部署および上層部の承認が必要になります。
稟議を通す必要がある主な場面
- 組織の新設・改廃
- 取引金融機関の決定
- 就業規則の変更
- 契約書関連フォーマットの変更
- トラブルの報告
- 昇進・昇格・異動などの人事
- ソフトウェアの購入
- 社用車の取得・処分
稟議承認で決裁が下りるまでの一般的なワークフロー
稟議承認で決裁が下りるまでには、いくつかのステップを踏む必要があります。どの企業でも、まずは直属の上司に稟議書を提出し、その後、各承認ルートを経て決裁者が承認するという流れが一般的です。
以下、稟議書を提出する際のワークフローについてそれぞれ詳しく解説します。
1.起案・作成
稟議のワークフローは、提案者が稟議書を作成するところから始まります。稟議書には、主に以下の内容を明確に記載する必要があります。
- 提案内容
- 目的
- 予算
- 期待される効果やメリット
- 懸念事項
稟議書には、具体的かつ客観的なデータを含めることが大切です。説得力のある稟議書を作ることで、承認のプロセスがスムーズに進みやすくなります。
2.提出
稟議書が作成できたら、内容にミスや不備がないかを確認し提出・申請を行います。最初に直属の上司に提出し、正式にチェックしてもらうのが一般的です。
上司が必要と判断すれば内容の修正(差し戻し)が求められることもあります。スムーズに承認を得るためにも、迅速な対応が必要です。
3.承認
提出した稟議書は、企業内の定められた承認経路に沿って順次確認されます。一般的には、次の順序で承認が行われます。
- 直属の上司
- 部門長
- 関連部署
- 役員
各承認者は内容を精査し、承認、却下、または差し戻しを行います。関連部署には、内容に応じて総務部門、人事部門、情報システム部門などの担当者・責任者が入ります。
4.決裁
中間承認をすべて得た後、最終決裁者が最終的な判断を下します。最終的な承認(決裁)が下りたら、稟議の手続きは完了です。
場合によっては却下の判断が出ることもありますが、その際には具体的な理由が伝えられることが多いでしょう。
5.通知
稟議が承認されると、提案者に結果が通知され、その通知をもって提案内容の実行が可能になります。却下された場合は、必要に応じて見直しや修正を検討します。
6.記録と保管
承認された稟議書は将来的に参照したり、監査が入ったりしたときのために記録・保管されます。稟議書の適切な記録と保管は、法的要件を満たす上で重要なステップです。とくに契約書に関わるものについては「事業に関する重要な資料」にあたることから、会社法により10年間の保管が義務付けられています。
出典:e-Gov法令検索「会社法 第四百三十二条二項」
企業内でワークフローシステムを導入すれば、すべての稟議の記録が電子的に保存されます。それによりトレーサビリティが向上するため、管理の効率化にもつながります。
稟議における承認ルートが重要な理由
稟議の承認ルートを適切に設定することは、組織内での内部統制やリスク管理の強化につながります。以下、稟議における承認ルートが重要とされる理由について確認しておきましょう。
ガバナンスの強化につながる
適切な承認ルートの設定は、ガバナンス強化の基本です。ガバナンスとは、「健全な企業経営に必要な企業内部の管理統制」のこと。企業が社会的信用を得るには、全従業員が統一されたルールに則って適切に業務を遂行することが求められます。
稟議の承認ルートが適切に設定されれば、全員が同じ基準で業務を進める環境が整うため、不適切な判断や不正の防止、ルール外の意思決定などを避けられます。また、稟議承認において「いつ」「誰が」「何を」承認したのかという証跡が管理しやすくなるため、監査対応が効率化できる点もメリットです。
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リスクをマネジメントしやすい
承認ルートが明確に設定されていないと、判断基準の統一化が図れず、同じような申請でも処理内容が異なる恐れがあります。そうなるとエラーが発生しやすいだけでなく、文書の紛失や情報漏洩といった重大リスクにつながる可能性も高まるでしょう。
承認ルートを正しく設定することで責任者が適切に状況を把握したり判断したりできるようになるため、このようなリスクは減らせます。
稟議の通し方のコツ
稟議承認をスムーズに進めるには、稟議書を承認者にとってわかりやすく、納得しやすい内容にすることが重要です。具体的なデータや説得材料を揃えるのはもちろん、事前の根回しやより伝わりやすい表現の工夫なども欠かせません。
稟議を通しやすくするコツについて、それぞれ詳しく解説します。
承認に必要な説得材料を収集する
稟議を承認してもらうには、十分な根拠やデータが欠かせません。「コストが3%削減できる」「業務にかかる日数を2日に短縮できる」「修正対応が40%減り効率化につながる」など、数値で示せる具体的な情報があると承認を得られる可能性が高まります。
文字情報だけで伝えるのが難しい場合は見積書や調査結果、プレゼン資料などを稟議書に添付しましょう。
日々の情報発信や根回しにより信頼関係をつくる
関係者との信頼関係によって、稟議承認が得やすくなるケースもあります。「この人の提案なら信頼できる」と日頃から思ってもらえるような関係性の構築に努めましょう。
また、正式に稟議書を提出する前に、関連する部門や承認者へ事前相談や根回しをしておくことも有効です。その段階で指摘やアドバイスがもらえれば、稟議書の完成度をより高めることができ、正式な稟議プロセスにおける承認もスムーズに進みます。
簡潔に伝わりやすく記載する
稟議書は、簡潔で要点が明確に伝わるように作成することが大切です。情報を詰め込みすぎて長文になると内容がわかりにくくなってしまい、承認が得られない恐れもあります。
文章が長くなると、主語や述語、修飾語と被修飾語の関係が複雑化します。複雑な文章は読み手にとって理解が難しくなるため、意識的に簡素な表現を心がけましょう。
また、専門用語についても注意が必要です。承認者にとって馴染みがない用語の可能性もあるため、必要に応じてわかりやすい言葉に置き換えることも検討しなければなりません。
紙の稟議承認に関する課題を解決するには
書類を回覧する方式で進める稟議は承認プロセスに時間がかかり、その分意識決定も遅くなります。また、誤字脱字や情報の抜け漏れがあるたびに差し戻しの対応や承認者の押印待ちが発生し、承認者が不在の場合は席に戻るまで待たなければならないケースもあるでしょう。進捗の把握がしづらかったり、回覧中に稟議書を紛失したりするリスクもあります。
このような問題を解決するには、ワークフローシステムの導入がおすすめです。稟議などの各種申請を電子化するワークフローシステムを活用することで、承認プロセスの迅速化や組織全体の業務効率化が図れ、情報セキュリティやガバナンスの強化も実現できます。
また、リモートワークなどの柔軟な働き方への対応や、紙の削減によるコストカットも期待できるため、複数の課題を同時解決する手段として有効です。
まとめ
稟議承認をスムーズに進めるには、適切な承認ルートの設定や、承認者に対する説得材料の準備、事前の相談・根回しなどが重要です。
また、ワークフローシステムの導入によって紙の稟議が抱える非効率な承認プロセスを変えることは、意思決定の迅速化や企業全体の業務効率化につながります。企業全体で効率的な稟議の仕組みを整え、組織の生産性向上に役立てましょう。
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よくある質問
稟議承認とは?
稟議承認とは、企業内で重要な意思決定を行う際に、関係者から順番に合意を得ていく承認手続きのことです。稟議書を回覧し、関係者の承認と最終承認者の決裁を得ることで、申請者は提案した内容の実行が可能になります。
詳細は「稟議承認とは?稟議書とは?」で解説しています。
稟議における承認ルートが重要な理由は?
承認ルートを明確にしておくことで、組織全体が統一されたルール・判断基準に基づき業務を進められることから、不正やミスを防ぐ仕組みとして機能します。また、承認者の証跡管理がしやすいため、監査が行われる際にも役立ちます。
詳細は、記事内の「稟議における承認ルートが重要な理由」をご覧ください。
稟議承認が必要になる場面は?
稟議承認は、個人の判断では決定できない部署の変更や就業規則の変更、大規模な予算の追加など、組織全体に影響を与える場面で必要になります。また、人材採用や取引契約の締結といったビジネス上の重要な決定にも欠かせません。
詳細は「稟議承認が必要になるシーン」で解説しています。
監修 前田 昂平(まえだ こうへい)
2013年公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人に入所し、法定監査やIPO支援業務に従事。2018年より会計事務所で法人・個人への税務顧問業務に従事。2020年9月より非営利法人専門の監査法人で公益法人・一般法人の会計監査、コンサルティング業務に従事。2022年9月に独立開業し現在に至る。