監修 前田 昂平(まえだ こうへい) 公認会計士・税理士
交通費精算は、経理担当者にとって毎月多くの時間と労力がかかりがちな業務の一つです。商談などで外出する従業員が多ければ多いほど、交通費精算にかかる手間も増えます。
本記事では交通費精算の概要をはじめ、交通費精算の流れや注意点について解説します。
目次
- 交通費精算とは
- 交通費と旅費交通費の違い
- 交通費精算書の記載項目
- 1. 日付
- 2. 訪問先
- 3. 目的
- 4. 交通機関種別
- 5. 経路
- 6. 運賃
- 交通機関別の交通費精算書の書き方
- 電車・バス
- タクシー
- 飛行機
- 社用車
- 交通費精算の流れ
- 1. 交通費精算書の記載
- 2. 直属の上司による承認
- 3. 経理担当者による確認
- 4. 承認された交通費を清算
- 交通費精算で企業側がチェックしたいこと
- 交通費精算を適切に処理するためのポイント
- ミス対策のためダブルチェックを導入する
- 旅費交通費を通勤手当などと混同しないように処理する
- 経費精算システムを活用する
- まとめ
- 面倒な経費精算を秒速で終わらせる方法
- よくある質問
交通費精算とは
交通費精算とは、従業員から申請があった交通費について、経理担当者がその申請内容を精査し、承認された場合に精算を行うことを指します。従業員が立て替えた交通費を、会社が従業員に支払うことで精算が完了します。交通費精算は1ヶ月ごとに行われるのが一般的です。
会社によっては、業務に要する交通費と通勤手当を区別せず、どちらも「交通費」と呼ぶケースがあります。
対象となる交通費は、主に「近距離の移動で使った交通費」「電車やバス、タクシーを使って発生した交通費」などです。
交通費精算の申請手順は、一般的に交通費精算書に必要事項を記載して経理部門へ提出する流れになります。交通費精算書の書き方は後述の「交通機関別の交通費精算書の書き方」で解説しますが、社内規定によって、提出時に領収書の添付が不要であるケースも少なくありません。
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ただし交通費の金額が3万円を超える場合、領収書の保管が必要になる点は覚えておきましょう。以下の記事で詳しく解説しているので、そちらもご覧ください。
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交通費と旅費交通費の違い
交通費精算の対象となるのは、主に近場の移動の際に発生する電車代やバス代などを指します。
会社によっては通勤交通費も含めて交通費と呼ぶこともありますが、基本的には通勤交通費を毎月精算することはありません。
しかし、通勤手当として受け取る金額が限度額(非課税金額)を超えると、所得税の課税対象の収入と見なされることに注意が必要です。通勤手当の非課税金額は、2014年10月、また2016年4月の税制改正時にも金額の引き上げがなされています。 2024年12月現在、この通勤手当の非課税限度額は以下のように定められています。
区分 | 非課税金額 | |
---|---|---|
(1)交通機関・有料道路を利用している人に支給する手当 | 150,000円 (1ヶ月あたりの合理的な運賃等の額) | |
(2)自動車や自転車等の交通用具を使用している人に支給する通勤手当(片道通勤距離別) | 片道55km以上の場合 | 31,600円 |
片道45km以上、55km未満の場合 | 28,000円 | |
片道35km以上、45km未満の場合 | 24,400円 | |
片道25km以上、35km未満の場合 | 18,700円 | |
片道15km以上、25km未満の場合 | 12,900円 | |
片道10km以上、15km未満の場合 | 7,100円 | |
片道2km以上、10km未満の場合 | 4,200円 | |
片道2km未満の場合 | 全額課税 | |
(3)交通機関を利用している人に支給する 通勤用定期乗車券 | 150,000円 (1ヶ月あたりの合理的な運賃等の額) | |
(4)交通機関または有料道路を利用するほか、交通用具も使用している人に支給する通勤手当や通勤用定期乗車券 | 150,000円 (1ヶ月あたりの合理的な運賃等の額と(2)の金額との合計額) |
出典:国税庁「通勤手当の非課税限度額の引上げについて」
交通費の主な例は、以下のとおりです。
交通費の主な例
- 定期券などの通勤手当の申請
- 自家用車の通勤にかかったガソリン代の申請
- 出張にかかった新幹線・飛行機代などの精算
- 出張に含まれる交通費・日当などの精算
旅費交通費とは、出張や海外渡航などの遠方への移動に関する旅費や移動費を指します。旅費交通費には主に以下の費用が計上できます。
旅費交通費の例
- 電車やバスなどの公共交通機関の費用
- 飛行機代
- 有料道路通行料金
- ガソリン代
- 駐車場代
- 宿泊費や食費
旅費交通費は通常の交通費と違い高額になるため、宿泊費や食費をどれほどの額まで認めるか規程を設けている企業が多くなっています。
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旅費精算のやり方と処理するときに気を付けたいポイント
交通費精算書の記載項目
交通費精算を行う場合、特に決まったフォーマットはありません。ただし、一般的に記載したい項目があるため、詳しく解説します。
1. 日付
交通機関を利用して、交通費を使った日付を記載します。交通費精算書の提出日や記載日ではなく、交通費が発生した日付となるため注意しましょう。
2. 訪問先
訪問先の項目には、交通機関を利用してどこに移動したのかわかるように訪問先の名称を記載します。具体的には、訪問した顧客の会社名や店舗名などです。
3. 目的
訪問先の名称を記載したあと、なぜその場所に行ったのかを把握するために目的を記載します。交通費の利用目的としては、商談や展示会、セミナーなどが挙げられます。
4. 交通機関種別
利用した交通手段の種類を記載します。記載する際には、交通手段の一般的な名称(電車・バス・タクシー・飛行機など)で問題ありません。
5. 経路
移動した経路(利用区間)を記載します。移動手段が電車の場合は、乗車駅と降車駅を記載してください。
企業によっては、乗り換えなどでJR・私鉄をあわせて乗る場合などには使用した路線ごとに記載するケースもあるため、自社のルールを確認しておきましょう。
6. 運賃
経路ごとの金額と合計金額をそれぞれ記載します。運賃の調べ方は、乗換案内サイトやアプリを使う方法があります。
合計金額の欄には、申請した期間を基準に全ての費用を合計した金額を記載してください。また、交通機関の利用料金は基本的に税込み価格なので、別途消費税を加えて記載する必要はありません。
記入する際には、ICカードと切符で運賃が異なる場合があるため、どちらの金額を記載するか社内規程を確認しておきましょう。
交通費精算書のテンプレートは以下より無料でダウンロードできるので、ご利用ください。
交通費精算書の無料Excelテンプレート
交通機関別の交通費精算書の書き方
交通機関別の交通費精算書の書き方について、詳しく解説します。
移動手段によって領収書が必要かどうかは異なるため、スムーズに交通費精算するために覚えておきましょう。
電車・バス
電車やバスを利用した際には、交通機関名や利用した路線、乗り換えルートなどを詳細に記載します。これらの公共交通機関では領収書が発行されないことが一般的であるため、交通費精算書を正確に作成することが重要です。
特急や指定席を利用した場合、高速バスや新幹線などを利用した場合は領収書が必要となるため、必ず取得して添付してください。
また、定期券区間については交通費が発生しないため、交通費精算書には記載しなくても構いません。
タクシー
タクシーを利用した場合も、基本的には電車やバスと同じ項目を記載します。タクシーでは必ず領収書が発行されるため、交通費精算書に添付しましょう。
また、提出前に領収書と交通費精算書の記載金額が一致していることを確認してください。不一致があると後で修正が必要になり、再申請の手間がかかってしまいます。
飛行機
飛行機を利用する場合は、高額になるため基本的に領収書が必須となります。交通費精算書には、航空券の費用に加えて、勤務先から空港までの交通費も記載することを忘れないようにしましょう。
特に出張や長距離移動で利用するケースが多いため、事前に移動経路を整理しておくとスムーズに精算できます。
社用車
社用車を使用した際には、ガソリン代を全額経費として計上できます。社用車を使ってかかった費用を精算する際には、領収書を必ず添付してください。
一方で、自家用車を使用した場合はプライベートでの利用と区別が必要です。そのため、ガソリン代の全額を経費として計上するのは難しくなります。
自家用車の場合、会社で定められた1リットルあたりのガソリン代や走行距離をもとに計算した金額を記載します。この方法で、より正確な交通費精算が可能になります。
交通費精算の流れ
一例として、営業担当者が近場での交通費を精算する際の大まかな流れをご紹介します。
- 交通費精算書の記載
- 直属の上司による承認
- 経理担当者による確認
- 承認された交通費を清算
会社によっては申請の都度出金するのではなく、1ヶ月単位でまとめて出金している場合があります。
1. 交通費精算書の記載
交通費精算書には日付や訪問先、目的、交通機関種別、経路、運賃を詳細に記載します。これらの項目を正確に記入すると、あとの確認作業もしやすくなります。交通費が発生したタイミングで交通機関の料金を控えておくと、後日精算書を作成する際にスムーズです。
交通費精算書の具体的な書き方については、「交通機関別の交通費精算書の書き方」を参考にしてください。
2. 直属の上司による承認
交通費精算書の記載が完了したら、社内で定められた承認ルートに従い、まずは直属の上司に承認を得ます。承認を得るためには記載した交通費精算書を準備し、必要に応じて領収書を添付しましょう。交通費精算の申請には、オンラインシステムによる申請フォームや紙媒体を活用して行われます。
提出後、申請内容が会社の交通費規程に適合しているかを確認することが求められます。上司や上長は、申請内容の正確性や合理性をチェックして、不備があれば修正や追加資料の提出を求める場合もあるため、慎重に準備しましょう。
3. 経理担当者による確認
上司から承認を受けた交通費精算書には、次に経理担当者による確認が入ります。経理担当者は、申請書に記載された金額や経路が正しいか、必要な場合は領収書が添付されているかを細かくチェックしていきます。
従業員に交通費精算のルールをしっかり確認してから提出してもらうことで、誤表記や不正な申請を防ぐことが可能です。一方で経理担当者にとって、ここでの確認は不適切な支出を防止し、企業の予算管理を正確に行うための重要な役割があります。
承認が得られたら交通費が支払われ、不備があれば申請書が差し戻されます。
4. 承認された交通費を清算
承認を受けた交通費の情報に基づいて、経理担当者は清算手続きを進めます。交通費の清算方法には、給与と一緒に振り込む方法と別途振り込む方法の2種類があります。
給与と一緒に振り込む場合は、他の給与項目と一括で処理できるため、手間を軽減可能です。しかし、交通費の支給が遅れるリスクがある点に注意しましょう。
一方、別途振り込みする方法では特定の期日に交通費のみを迅速に支給できるため、従業員にとって利便性が高くなります。
また、クレジットカードを活用する場合、経理担当者は支払い業務の手間を削減し、効率的に精算業務を進めることが可能です。状況に応じて検討してください。
交通費精算で企業側がチェックしたいこと
企業側目線で、交通費精算のチェック項目をまとめました。ミスや見落としがあってはならない交通費精算なので、以下の点に注意してください。
交通費精算のチェックポイント
- 項目に記入漏れがないか
- 記載金額に相違がないか
- 最安経路が記載されているか(公共交通機関の場合)
- 申請された交通費に仮払金がないか
記載された金額に相違がないかチェックする際は、添付されている領収書の金額と精算書の記載金額を照らしあわせて正しいか試算が必要です。また、交通費を仮払いしている場合は、差額について別途精算する必要があります。
【関連記事】
仮払金に使う勘定科目は? 経費計上の可否や仕訳方法・注意点も解説
交通費精算を適切に処理するためのポイント
交通費精算をスムーズに進めるためには、ミスがないようにチェック体制を設けたり、ツールを利用したりする必要があります。
交通費精算を適切に処理するには主に3つのポイントが存在します。
- ミス防止のためダブルチェックを導入する
- 旅費交通費を通勤手当などと混同しないように処理する
- 交通費精算システムを活用する
それぞれのポイントについて詳しく解説します。
ミス対策のためダブルチェックを導入する
交通費精算の処理では、日付や経路、金額など多くの情報が記載されるため、手作業でのチェックではミスが起こりやすくなります。
ミスを防ぐには、ダブルチェックを導入するのがおすすめです。複数人で確認を行えば漏れや誤りを見つけやすくなり、精度の高い精算処理が可能になります。特に金額や領収書のチェックには細心の注意を払いましょう。
旅費交通費を通勤手当などと混同しないように処理する
旅費交通費と通勤手当は税務処理の取り扱いが異なるため、明確に区別する必要があります。旅費交通費は業務に関連した費用として経費計上されますが、通勤手当は一定額まで非課税として処理されます。
この区分を誤ると、会社の経費管理や税務申告に影響が出る可能性があるため注意しましょう。
経費精算システムを活用する
経費精算システムは、精算業務の効率化に役立つ便利なツールです。このようなシステムを使用すると、以下の機能を活用できます。
経費精算システムの機能
- 目的地までの運賃や経路の検索
- 交通系ICカードの履歴から運賃・経路の読み取り
- 会計ソフトやExcelで利用するためのデータ化
目的地までの運賃や経路を検索できる機能があれば、出発地点と目的地を入力すると簡単に最短経路や最安運賃が申請に反映されるので、従業員が改めて運賃や経路を調べる手間を省けます。
また、交通系ICカードの履歴から運賃や経路を読み取って一括して申請に反映されれば、出張や外回りの頻度が高い従業員にとっても、申請はスムーズに進められます。
さらに、会計ソフトやExcelで利用するためにこれらのソフトやツールと連携できる経費精算システムであれば、仕訳されたデータを会計ソフトへ取り込むことも可能です。
経費精算システムにはこのような機能のほかにも、重複アラートでの入力ミスや二重計上を減らす機能もあるものもあります。
以上のように、システムを活用することで交通費精算にかかる時間を短縮できるのは大きなメリットです。また、手作業を減らせるため、人的コストの削減にもつながります。
特に交通費の多い企業では、システムの活用で大きな効果が得られるでしょう。
まとめ
交通費精算は業務で発生する経費を適切に処理し、企業の経費管理を効率化するために欠かせない業務です。交通費精算書を記入する際には、どの交通手段を使ったかによって記入方法が異なるため注意しましょう。使った交通手段によっては領収書の必要性も異なるため、全従業員が正しく理解しておく必要があります。
また、交通費精算におけるミスを防止したり、処理をスムーズに進めたりするには、ダブルチェックの導入や経費精算システムの活用が効果的です。
交通費精算の仕組みやフローを理解して、日々かかる交通費精算の処理を効率化していきましょう。
面倒な経費精算を秒速で終わらせる方法
経費精算は、「面倒だ・手間だ」という声をよく聞きます。
紙のレシートの保管が面倒、申請するのが手間、業務が忙しくて後回しになってしまう、申請内容の確認が手間、承認のやり取りに手間がかかる、入力ミスでの差し戻しでのコミュニケーションに時間がかかる、電子帳簿保存法やインボイス制度への対応に時間がかかる・・・など、申請者・承認者、経理担当とそれぞれに課題があり、負荷がかかりがちな業務です。
経費精算の業務は、経費精算システムを導入することで、申請から承認、処理・保存までラクな仕組みに変えられます。
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よくある質問
交通費精算の流れは?
交通費精算の一般的な流れは「交通費精算書の記載」「上司の承認」「経理担当者の確認」「最終的な清算」の順で進んでいきます。
詳しくは、記事内の「交通費精算の流れ」で解説しているので参考にしてください。
交通費精算は領収書がなくてもできる?
電車やバスなど、一部の交通費については、社内規程によって領収書が不要になる場合があります。ただし、金額が3万円を超える場合や、飛行機などの高額な交通手段を利用した場合には、領収書が必要です。
詳しくは、記事内の「交通機関別の交通費精算書の書き方」で解説しています。
交通費精算書に記載する項目は?
交通費精算書には、日付や訪問先、目的、どの交通機関を使ったのか、経路、かかった費用などを記入する必要があります。その際には、ミスなく正確に記入すると、精算する際にスムーズな処理が可能です。
記事内の「交通費精算書の記載項目」で、詳しく解説しています。
監修 前田 昂平(まえだ こうへい)
2013年公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人に入所し、法定監査やIPO支援業務に従事。2018年より会計事務所で法人・個人への税務顧問業務に従事。2020年9月より非営利法人専門の監査法人で公益法人・一般法人の会計監査、コンサルティング業務に従事。2022年9月に独立開業し現在に至る。