監修 前田 昂平(まえだ こうへい) 公認会計士・税理士
カラ出張は、出張で本来は発生していない費用を請求する行為で、不正受給に該当します。税務調査により発覚した場合、会社には延滞税や過少申告加算税などのペナルティが課せられます。
当記事では、カラ出張による経費の不正受給のケースや疑われる場合の対応についてわかりやすく解説します。防止策もまとめているので、従業員側と会社側の双方にとっての正しい運用や業務効率の改善に役立ててください。
目次
カラ出張とは
カラ出張とは、実際には出張で発生していない費用にもかかわらず、発生したと偽って会社に経費を請求する不正行為です。出張という業務上の行為を装い、会社から交通費や宿泊費、日当などの経費を不正に受給することを指します。
カラ出張は横領罪や背任罪などの犯罪行為となる可能性があり、会社に重大な損害を与える行為です。発覚した場合、従業員を懲戒処分の対象にするなど厳しく対処する必要があります。
とくに出張費の申請に領収書を提出するなど申請方法を厳格化していない場合、従業員が虚偽の申請を行ったとしても、会社側は気づきにくくなります。意図的なカラ出張の申請が起こりやすく、注意が必要です。
税務調査で指摘された場合の懲罰
カラ出張の発覚によって処罰を受けるのは、当該従業員だけではありません。税務調査で発覚した場合、会社側へ課せられるペナルティもあります。
出張にかかる交通費や宿泊費は原則として給与にはならず、非課税扱いです。出張旅費規程に定められている適切な額であれば、実費精算でなくてもよいとしている会社も多くあります。
そのため、本来は電車利用などで領収書を取得しにくい場合の効率化を目的としていますが、従業員側が簡単に水増し請求できてしまう状況から、税務調査のチェックを受けやすい項目となっているのも事実です。
税務調査でカラ出張が行われていたことが発覚した場合、会社に課せられるペナルティは以下のとおりです。
- 延滞税
- 過少申告加算税
- 不納付加算税
- 重加算税
多くのケースでは過少申告加算税が課せられます。ただし、出張報告書や領収書の内容を偽造するなど仮装・隠ぺい行為と見なされる場合は、重加算税が加えられるリスクもあります。
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カラ出張による不正受給のケース
ここでは、カラ出張による不正受給のよくあるケースを3つ解説します。
- 交通費の水増し請求
- 新幹線の払い戻し
- 個人的な接待交際費の申請
不正が行われていないかどうか常に調査を行うのは難しいかもしれませんが、あらかじめルールを作るなどして対策を立てておくとよいでしょう。
交通費の水増し請求
カラ出張による不正受給としてよくあるケースの一つに、交通費の水増し請求が挙げられます。具体的には、領収書の提出が不要であることを悪用し、実際に利用したルートよりも金額が高くなるルートで申請して、差額を不正に受給する手口です。
出張の移動手段として、公共交通機関を利用する場合が多くあります。新幹線やタクシーを利用するのであれば領収書を取得できますが、在来線やバスなどでは取得が困難なため、申請時の提出を不要としている会社もあります。
また、申請ルートと実際に利用したルートが同じであったかどうか、会社側での調査が難しいことも、水増し請求が起こる要因でしょう。
新幹線代の払い戻し
出張先が他県や地方など遠方である場合、会社側から新幹線や飛行機のチケットを支給されることがあります。その支給されたチケットを払い戻して、従業員自身で安いチケットを購入するなどして差額を得ると、経費の不正受給に該当します。
チケットの払い戻しで経費を不正受給するケース
- 指定席券を自由席に変更する
- 往復券を片道だけ利用して払い戻しをする
- 新幹線や飛行機をキャンセルして高速バスに変更する
そのほか、従業員が自らチケットを購入する場合でも、領収書を会社に提出した後にチケットを払い戻し、費用を着服するケースも考えられます。
個人的な接待交際費の申請
出張先で取引先と会食を行う場合、接待交際費は経費として申請できます。しかし、出張先でのプライベートな飲食を会食と偽って申請することは、不正受給に該当します。たとえ出張中であっても、仕事と関係のない飲食は経費精算できません。
また、取引先などがいない社内のメンバーだけで食事をする場合、無断で接待交際費として申請することも不正行為にあたります。
カラ出張が疑われる場合の対応
従業員の出張に関する不正は、会社にとって損失をもたらすだけでなく、社内外の信頼を大きく損なう恐れもあります。そのため、カラ出張が疑われる場合には、適切な調査や厳格な対応が必要です。
具体的には、カラ出張を疑われる事例が発生したらすぐに従業員を事情聴取するのではなく、事実を調査し、不正が行われていたと客観的に判断できる証拠を収集します。
対応 | 内容 |
---|---|
調査 | 起きてしまった事実が、過失か故意かを判断するため調査を行う |
証拠の収集 | 領収書の金額や具体的な内容など不正の客観的な証拠を集める |
事実確認 |
・調査内容や客観的証拠をもとに本人に事実確認を行う ・本人が認めた場合、返還などの合意を取る |
処分の検討 | ・減給や懲戒解雇など、妥当な処分を検討する |
単なる疑いだけで従業員に確認してしまうと、証拠を隠ぺいされてしまう可能性があります。本人へ事実確認する際は、カラ出張を認めさせられる証拠を確実につかんでおくべきでしょう。
たとえば事前の調査では、以下のような情報を収集することをおすすめします。
- 領収書
- 新幹線や飛行機のチケット購入履歴・キャンセル履歴
- ホテルの宿泊履歴
- 取引先や関係者へのヒアリング
事実確認の結果、本人が不正受給を認めた場合は返還請求が可能です。その際、認めた内容や取り決めた事柄を書面に起こし、署名させましょう。
また返還のほかにも、減給や懲戒解雇など適切な処分を下します。被害額や悪質さ次第では、民事訴訟や刑事事件に発展する場合もあります。妥当な処分を決定するには、内部監査部門や弁護士など専門的な知識を持つ人へ相談してください。
カラ出張の防止策
カラ出張を防止するには、従業員一人ひとりがコンプライアンス意識を徹底していることが大切ですが、会社側が防止策を立てることも有効です。
- 出張旅費規程の整備
- ICカードやクレジットカードとの連携
- 経費精算システムの導入
万が一税務調査でカラ出張が発覚した場合、罰則を受けるのは会社です。従業員の倫理観だけに頼らず、組織として正しい運営を行える仕組みを構築しましょう。
出張旅費規程の整備
会社の規定として「出張旅費規程」を定めることが重要です。内容は会社によりさまざまではあるものの、出張時に関する経費の取り扱いについて明確化することでカラ出張に該当する恐れのある行為を防止できます。
交通費や宿泊費の上限を設ける、日当(出張手当)を支給するなど適切な範囲で経費を認めることで、会社と従業員の双方にとって節税になるなどのメリットも期待できます。
また、すでに規程がある場合でもカラ出張が疑われるのであれば、内容が最適化されているか見直しましょう。領収書などの必要書類を添付した申請や、報告書の提出を必須とするなど、不正が起こりにくい仕組みを構築することで、内部統制の強化にもつなげられます。
ICカードやクレジットカードとの連携
電車やバスなど領収書の取得が難しい公共交通機関を利用する場合は、従業員にICカードや社用のクレジットカードを持たせることも有効です。会社側で使用履歴を把握しやすいため、領収書の提出がなくても事実確認が容易になるメリットがあります。
また、カラ出張が起きやすい要因の一つである、立替精算を減らすのも有効な手段だといえます。立替精算では、領収書のない経費の申請や私的に利用した費用の領収書を提出するなど不正が起きがちです。ICカードやクレジットカードの利用により立替精算を減らすことで、不正を起こしにくい環境を整えられます。
経費精算システムの導入
経費精算システムを導入すれば、申請の不備や不正を防げる可能性が高まります。申請書を手書きで作成するなどの手作業と比べて、システム入力ならミスを防ぎやすく、チェックを行う会社側の作業負担も減らせます。
また、出張が多い会社では出張管理システムを併用するのもおすすめです。宿泊や交通の手配から出張後の申請・精算まで一元管理できるため、従業員側と会社側どちらの負担も低減でき、業務効率化が期待できます。
まとめ
カラ出張とは、交通費や宿泊費を水増し請求したり、支給されたチケットを払い戻して着服したりする不正行為です。
従業員によるカラ出張が税務調査で発覚した場合、会社は延滞税や過少申告加算税、不納付加算税を課せられます。申告書や領収書を偽造するといった仮装・隠ぺいが認められる場合には、重加算税がプラスされるなど、重いペナルティとなるリスクもあるため注意しましょう。
カラ出張を防止するには、出張旅費規程を定めて従業員にはICカードやクレジットカードで決済させるなど、最適化された仕組みを構築することが求められます。また、経費精算システムを導入して申請ミスを防ぐなど、従業員と会社双方の業務効率を上げる工夫も大切です。
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よくある質問
カラ出張とは?
カラ出張とは、実際には出張で発生していない費用にもかかわらず、発生したと偽って会社に経費などを請求する不正行為です。横領罪や背任罪などの犯罪行為となり、会社に重大な損害を与える可能性があります。
詳しくは記事内「カラ出張とは」をご覧ください。
カラ出張の防止策は?
カラ出張を防止するには、会社側で立てられる対策があります。「出張旅費規程の整備」「ICカードやクレジットカードとの連携」「経費精算システムの導入」など、不正を起きにくい仕組みを構築することが大切です。
詳しくは記事内「カラ出張の防止策」で解説しています。
監修 前田 昂平(まえだ こうへい)
2013年公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人に入所し、法定監査やIPO支援業務に従事。2018年より会計事務所で法人・個人への税務顧問業務に従事。2020年9月より非営利法人専門の監査法人で公益法人・一般法人の会計監査、コンサルティング業務に従事。2022年9月に独立開業し現在に至る。