稟議(りんぎ)とは、組織の中で個人の権限では決められない事柄について、案をまとめた文書を複数の関係者に確認し、承認や決裁を得るフローを指します。
稟議の「稟」は申し出る、「議」は相談するをあらわし、関係各所に相談を申し出るという意味を持ちます。もともとは「ひんぎ」と読まれていましたが、「稟」が「りん」と読むことから慣用読みとして「りんぎ」が定着しています。
本記事では、稟議の概要から、主な種類、稟議にまつわる課題、効率化の方法まで、わかりやすく解説します。
目次
稟議(社内稟議)とは
稟議とは、会社が事業活動を行ううえで、担当者が自らの責任範囲で判断できない事柄がある場合に、上長や経営層など複数の関係者へ上申して承認を得るためのフローのことです。
実際のビジネスシーンでは、承認を求めることを「稟議を上げる」「稟議にかける」、承認を得ることを「稟議が下りる」「稟議が通る」といった言葉の使い方をします。稟議制度は、部下から上司へ提案や意見を上げるボトムアップ方式で運用されているため、このように表現されています。
会社が意思決定をする際には、会議を開いて関係者全員の合意を形成し、組織として決定する流れが基本です。しかし、日常的な業務で発生する細かい事案についても、わざわざ関係者全員を招集するのは時間と労力がかかります。すべての判断や決定のたびに毎回会議を行うのも現実的ではないため、本来の流れを簡略化する目的で稟議が代用されています。
なお、稟議の記録は文書で残すことが望ましいとされています。理由としては、決定事項の内容や、決定までの過程が可視化されるためです。また、第三者による監査や調査においても記録が役立ちます。
稟議と決裁の違い
「稟議」と「決裁」は、どちらも会社の意思決定に関する言葉であることから混同されがちです。実際に厳密な使い分けはされておらず、会社や組織によって使い方が異なります。
一般的には、稟議が最終決定までのプロセス全体を指すのに対し、決裁は稟議の流れにおいて決裁者が最終決定を下すことを指します。
また、稟議と決裁は、それぞれ主体となる人物にも違いがあります。稟議は起案者が関係者の承認を得るための手続きですが、決裁は決定権を持つ責任者が承認可否を判断します。つまり稟議を行うのは部下で、決裁を行うのは上司です。
下図のとおり、決裁は稟議の最終段階で行われます。
稟議(社内稟議)の主な種類
稟議は目的に応じて、いくつか種類があります。代表的な稟議は以下のとおりです。
稟議の主な種類
- 契約稟議
- 捺印稟議
- 購買稟議
- 採用稟議
- 接待交際稟議
それぞれ、どのような場面で稟議が行われるのかを解説します。
契約稟議
契約稟議とは、会社が新たな取引先と契約を結んだり、既存の契約内容を変更したりする際に、その内容を責任者に承認してもらうための手続きです。
契約稟議は、関係者全員で契約内容の妥当性や法的リスクを確認し、企業の経営方針や戦略に合致しているか否かを検討するために行われます。他社との協業や業務提携の際には企業間で大きな金額が動くことがあるため、稟議に時間がかかるケースもあります。
この場合、稟議書には、契約相手先、契約期間、契約内容、契約金額、リスク、責任の範囲などの情報を記載します。
捺印稟議
捺印稟議とは、すでに承認された契約書に、会社代表者の印鑑を押すための許可を得る手続きです。
企業間で取引を行う際には、双方で契約書へ捺印を行うため、捺印稟議が必要になります。契約締結の最終段階に行われ、契約の効力を発生させる重要な行為のため慎重に進められます。
稟議書には、押印する契約書の種類、相手先、押印する代表者の氏名、押印する箇所などを記載します。捺印稟議は契約内容に誤りがないか、法的な問題はないかを最終確認する機会でもあり、会社の代表権限を明確にすることで、後々のトラブルを防ぐ役割も果たします。
購買稟議
購買稟議とは、会社が物品やサービスなどを購入する際に、その金額や条件を社内で承認してもらう手続きです。消耗品から高額なパソコンやIT システム等の機械設備まで、あらゆるものの購入に適用されます。
稟議書には、購入する品物の種類、数量、単価、納期、必要性、仕入先、支払い条件などの情報が記載されます。決裁者が判断しやすいように、コストについては見積書を添付するのが一般的です。
購買稟議を行うことで、購入の必要性や費用対効果など、選定基準が適切かどうかを判断できます。これによって無駄な支出を防ぎ、会社全体のコストの削減・最適化につながるのはもちろん、購入に関する責任の所在を明確にすることが可能です。
採用稟議
採用稟議とは、新しい従業員を採用する際、その決定を経営者や関係部署に承認してもらう手続きです。
採用活動における採用人数やコストは経営に関わる事柄であり、担当者の一存だけで決められるものではありません。そのため、採用稟議が必要とされています。
稟議書には、採用する職種、人数、応募者のスキルや経験、採用理由、給与条件、選考方法、採用予算などが記載されます。採用がもたらすメリットや費用対効果などを検討し、最終的な承認を得る目的があります。
採用稟議は、会社にとって必要な人材を適切に採用し、人材の質を保ちながら組織運営を継続していくうえで不可欠です。
接待交際稟議
接待交際稟議とは、企業が取引先との関係構築や情報交換などを目的として、会食や贈答品などの交際費を使用する際に、その内容を社内で承認してもらうための手続きです。
稟議書には、交際相手、交際の目的、日時、場所、費用などが記載され、接待の妥当性や費用対効果、交際相手との関係性の重要度などが記載されます。
事業活動において取引先との関係構築や情報交換は重要な取り組みですが、接待による支出が適切かどうかは会社としての判断が必要です。接待交際稟議を行うことで、会社の経費の使途を明確にし、不正防止につながります。
稟議(社内稟議)にまつわる課題
稟議は事業活動に欠かせない重要なフローですが、記入内容や手続きが煩雑になることから、いくつか課題が挙げられます。
特に日本のビジネス文化や組織には過去の慣習や形式、協調性などを重視している傾向があり、それらが課題の要因となっている場合があります。
意思決定に時間がかかる
稟議のフローが効率化されておらず、決裁に至るまでに多くの時間を要する場合、意思決定のスピードが落ちてしまいます。
承認者が多く介在する場合、それぞれの承認者が内容を確認したうえで判断を下すための時間が必要です。これにより、全体のプロセスが遅延することがあります。
特に承認者は役員や管理職の立場であることが多いため、多忙であるケースがほとんどです。仮に承認者のうちの一人が出張や休暇などで不在が続いていると、代理承認を立てない限り、稟議がスムーズに進まないでしょう。
企業が競争力を高めるには、スピード感のある意思決定は欠かせません。変化の激しい現代社会では、ビジネスチャンスを逃すといった致命的な課題になりうる可能性があります。
テレワークの導入・運用の妨げになる
紙の書面で稟議が行われる場合、書面自体が手元にないと内容が確認できないうえに、押印のために出社する必要がでてきます。これによってテレワーク制度の導入が進まないほか、導入できたとしても結局は出社が前提になり、制度が定着しない可能性もあるでしょう。
有事の際でも事業活動を止めることなく継続させるには、出社しなくても通常どおり意思決定を行える環境の整備が重要です。
生産性の低下を招く
紙の書面で稟議が行われる場合、稟議書の記載ミスによる差し戻しや再申請が必要なケースもあり得ます。
関係者への物理的な回覧は非効率であるとともに、紛失や情報漏洩、改ざんなどの不正操作のリスクも想定されます。これによって、従業員の生産性やモチベーションの低下を招いてしまう可能性があります。
稟議(社内稟議)を効率化する方法
前述の課題を解決するには、稟議のペーパーレス化が望ましいといえます。具体的には、ワークフローシステムを導入することによって、社内の稟議はもちろん、契約書や注文書などの社内での回覧・承認が効率的に行えるようにします。
ワークフローシステムは、パソコンやスマートフォンなどの端末を用いてアクセスし、システム上で稟議の起案から決裁までが完了するため、場所や時間に縛られずに対応が可能です。
また、リアルタイムで稟議の進捗状況が確認できるほか、紙の書面の管理が不要になることで用紙や印刷にかかるコストも削減されます。
さらに、稟議書の紛失や不正操作のリスクを低減することもできます。稟議のぺーパーレス化は、現代の組織に欠かせない迅速な意思決定につながります。
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まとめ
稟議とは、事業活動を行ううえで個人の権限では決定できない事柄を、上長や経営層などの複数の関係者へ上申して承認を得るためのプロセスです。
紙の書面を用いた稟議では、意思決定に多くの時間を要したり、テレワークの導入・運用の妨げになったりとさまざまな課題が生じます。
稟議をペーパーレス化すれば、コストの削減や業務効率化、テレワークの定着、生産性やモチベーションの向上によって、より組織力を強化できるでしょう。
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よくある質問
稟議(社内稟議)とは?
稟議とは、会社などの組織の中で個人の権限では決められない事柄について、複数の関係者の承認や決裁を得るためのフローを指します。
詳しくは記事内「稟議(社内稟議)とは」をご覧ください。
稟議(社内稟議)が必要になる場面は?
稟議が必要になる主な場面は「新たな取引先との契約を結ぶ」「すでに承認された契約書に会社代表者の印鑑を押す許可を得る」「物品やサービスを購入する」「人を採用する」「交際費の使用の承認を得る」があります。
詳しくは記事内「稟議(社内稟議)の主な種類」で解説しています。