中小企業投資促進税制は、中小企業者等が機械装置等を導入する際に、取得価額の30%に相当する特別償却または7%の税額控除を選択適用できる税制です。
1998年6月1日から2025年3月31日までの期間(指定期間)内に、要件を満たす中小企業者などが設備投資を行った際に適用されます。
なお、税額控除は、青色申告書を提出している中小企業者(個人事業主または資本金3,000万円以下の法人)、農業協同組合・商店街振興組合等のみが対象です。
本記事では、中小企業投資促進税制の概要から優遇措置の内容、手続きなど詳しく解説します。
生産性向上を図るため、設備投資を検討している企業の人は、ぜひ参考にしてください。
目次
中小企業投資促進税制とは
中小企業投資促進税制とは、中小企業者などの生産性を向上させるために、積極的な設備投資を勧めるための制度です。
まずは、中小企業投資促進税制の対象者・対象設備・対象ソフトウェアについて解説します。
中小企業投資促進税制の対象者
中小企業投資促進税制の対象となるのは、青色申告書を提出する中小企業者のうち、次の要件を満たす場合です。
●中小企業者等の要件
- 青色申告書を提出している中小企業者
- 個人事業主(常時使用する従業員数が1,000人以下)
- 資本金3,000万円以下の法人
- 農業協同組合等
●対象業種
製造業、建設業、農業、林業、漁業、水産養殖業、鉱業、卸売業、小売業など特定の業種。
一方、対象外となる事業者は、次の通りです。
- 所得金額が大きい法人:前3事業年度の所得金額の平均額が15億円を超える法人。
- 従業員数が多い法人:常時使用する従業員数が1,000人を超える法人(資本金や出資金がない場合)。
- 資本金または出資金が1億円を超える法人。
- 大企業の子会社等:発行済み株式の総数または出資の総額の2分の1以上を1社が所有している、または3分の2以上を2社以上が所有している法人。
- 性風俗関連特殊営業を行う事業者。
出典:中小企業庁「中小企業税制」
また、2021年4月1日前に取得などをした特定機械装置等について適用を受ける場合は、不動産業・物品賃貸業・料亭、バー、キャバレー、ナイトクラブその他これらに類する事業(生活衛生同業組合の組合員が行うものに限る)も除外となります。
中小企業投資促進税制の対象になる設備一覧
中小企業投資促進税制の対象設備は、次のとおりです。
機械および装置 | 1台あたりの取得価額160万円以上 |
---|---|
測定工具および検査工具 | 以下のいずれかに当てはまる場合 ・1台あたりの取得価額120万円以上 ・1台30万円以上かつ複数合計120万円以上 |
一定のソフトウェア | 1つあたり70万円以上かつ複数合計70万円以上 |
貨物自動車 | 一定の普通自動車で貨物の運送の用に供されるもののうち車両総重量3.5トン以上(*) |
内航船舶 | 取得価額の75%が対象 |
(*)普通自動車 = 小型自動車・軽自動車・大型特殊自動車・小型特殊自動車以外の自動車
また、中小企業の設備投資に関する固定資産税の特例措置も新設されており、その対象設備は以下の通りです。
設備の種類 | 最低価額要件 | 投資利益率要件 |
---|---|---|
機械及び装置 | 160万円以上 | 年率5%以上の投資計画に記載された設備 |
測定工具及び検査工具 | 30万円以上 | |
器具備品 | 30万円以上 | |
建物附属設備 | 60万円以上 |
なお、上記に当てはまる設備でも「資本的支出」や「中古」の場合には、中小企業投資促進税制の対象となりません。資本的支出とは、建物の耐震改修や防火加工など、固定資産の価値を増加させるための支出のことです。
リースしている設備投資の場合には、一定の条件を満たせば中小企業投資促進税制を利用できます。
中小企業投資促進税制の対象になるソフトウェア一覧
DXが推進されるなか、中小企業においてもソフトウェアの利用が進んでいます。中小企業投資促進税制の対象となるソフトウェアは、業務用に使用される以下が例に挙げられます。
- ワープロソフト
- 表計算ソフト
- 経理ソフト
- 給与ソフト
- イラストソフト
- 画像ソフト
- CADソフト
- ERP
ERPとは、企業のもつ資源「ヒト・モノ・カネ」などを一元管理し、より効率的に活用するためのシステムです。近年クラウドERPが話題ですが、それも中小企業投資促進税制の対象になります。
ERPについての詳しい情報は、下記でより詳しく解説しています。
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中小企業投資促進税制の優遇措置
中小企業投資促進税制の優遇措置には、次のものがあります。
- ・特別償却
- ・税額控除
中小企業にとって負担が大きい傾向にある設備投資ですが、中小企業投資促進税制の優遇措置を適用することで、設備投資を実施しやすくなる点がメリットです。
なお、資本金3,000万円超の中小企業は「特別償却のみ」利用でき、資本金3,000万円以下の中小企業と個人事業主は「特別償却と税額控除のどちらか」を選択適用できます。
特別償却
特別償却は、設備取得(または製作)した年度に、通常の減価償却に加えて30%の償却を追加で適用できる制度です。減価償却費とは別に経費の計上を行えます。
特別償却のメリットは、取得年度に多額の償却を利用できるため、取得年度の課税所得がその分だけ圧縮される点です。法人税が軽減されるため、節税効果があります。
ただし減価償却においては、最終的に取得価額の相当額までしか費用化できません。特別償却を使うと償却のペースが早くなるものの、将来に償却できたものを前倒しで償却しているだけなので、償却期間全体では法人税の総額は変わらないことに注意が必要です。
注意点はあるものの、特別償却は先々の支出を減らし資金繰りの改善につながるため、利用する価値は高いといえます。
税額控除
税額控除は、設備取得(または製作)した年度の課税所得に対する法人税を計算した後に、取得価額の7%相当額を法人税額から直接控除できる制度です。
税額控除の利用によって実質7%引きで設備を取得したことになるため、特別償却に比べて確実な節税効果があります。
「特別償却」と「税額控除」の選び方
中小企業が投資促進税制を活用する際には、「特別償却」と「税額控除」のいずれかを選択する必要があります。
まず、自社の現在の財務状況を見極めることが重要です。特別償却は短期的な税金負担を軽減できますが、長期的な効果は限定的です。一方、税額控除は実質的なコスト削減を実現し、長期的な節税効果が期待できます。
また将来の事業計画や設備投資計画も、重要な考慮事項です。
継続的な設備投資が予定されている場合や、一定のキャッシュフローを確保する必要がある場合は、特別償却が適しているでしょう。一方で、一度の大きな投資に対して即時のコスト削減を望む場合は、税額控除が有効です。
もし選びきれない場合は、税理士などの専門家と相談し、最適な選択を探していくことをおすすめします。自社にとって最も有利な税制優遇措置を選択し、賢く設備投資を進めていきましょう。
中小企業投資促進税制の手続きについて
中小企業投資促進税制の手続きは、法人と個人事業主で方法が異なります。
中小企業投資促進税制の申請方法
中小企業投資促進税制を利用する場合、特別な手続きは必要ありません。
確定申告書に必要書類を添付したり、必要事項を記載したりして申請します。ただ法人と個人事業主で必要書類が異なることに注意が必要です。
中小企業投資促進税制の必要書類
中小企業投資促進税制申請にあたっての必要書類は、法人と個人事業主によって異なります。
法人の場合
法人が特別償却を申請する場合には、確定申告書に以下の書類を添付します。
書類の種類 | 内容 |
---|---|
特別償却の付表 | 取得設備の内容や償却額 |
適用額明細書 | 税額又は所得の金額を減少させる規定を適用する場合、必要事項を記載 |
個人事業主の場合
個人事業主が特別償却を申請する場合には、青色申告決算書「減価償却の計算」の「割増(特別)償却費」の欄に、特別償却額を記入します。
個人事業主が税額控除を申請する場合には、法人と同じように確定申告書に「中小事業者が機械等を取得した場合の所得税額の特別控除に関する明細書」を添付します。
中小企業投資促進税制の注意点
中小企業投資促進税制を利用するにあたって、以下2つの点に注意が必要です。
中小企業投資促進税制の注意点
- 内容が追加・変更される可能性がある
- 計画的に設備投資を行う
内容が追加・変更される可能性がある
中小企業投資促進税制は、これまで期限が近づくたびに期限延長を繰り返し、内容も追加・変更しながら存続している税制です。
主な変更事例としては、2021年度税制改正によって、中小企業投資促進税制の対象業種に、不動産業・物品賃貸業・商店街振興組合等などが追加されたことが挙げられます。
また税制の対象となる資産の項目が変わることもあり、2017年度税制改正では電子計算機・デジタル複合機・試験・測定機器が対象外となりました。
2023年度の改正では、中小企業投資促進税制の適用期限を令和6年度末まで2年間延長しました。この延長は、物価高や新型コロナ禍等の影響を受ける中小企業の設備投資を支援するための措置です。
また、生産性向上や賃上げに資する中小企業の設備投資に関する固定資産税の特例措置を新設し、赤字企業も含めた中小企業の前向きな投資や賃上げを後押しすることを目指しています。
中小企業に不利な内容が追加・変更される可能性もあるので、適宜内容については確認しましょう。
計画的に設備投資を行う
設備投資をしても、新たに購入した設備を実際の業務に活かしきれない状況は、非常に勿体ないです。実際の業務に必要な設備投資を、必要な時期に行いましょう。
また、さまざまな要因によって会社の利益を出せず法人税が少なくなると、特別償却や税額控除を適用しても法人税を減らせなくなります。そうなると中小企業投資促進税制のメリットを得られないので、計画的な設備投資を心がけることが重要です。
まとめ
中小企業投資促進税制は、設備投資を促進する中小企業のための優遇制度です。
対象者や対象設備については要件などが細かく定められていますが、中小企業投資促進税制を利用することで、中小企業などの生産性向上を期待できます。
期限が近づくと内容改正が行われることもあるので、制度を利用する際はきちんと内容を確認しておきましょう。
よくある質問
中小企業投資促進税制とは
中小企業などの生産性を向上させるために、積極的な設備投資を勧めるための制度です。具体的には「取得価額の30%に相当する特別償却」または「取得価額の7%税額控除」を利用できる税制です。
詳しくは記事内「中小企業投資促進税制とは」をご覧ください。
中小企業投資促進税制の対象者は?
青色申告書を提出している中小企業者・個人事業主・農業協同組合などです。ただ中には制度が受けられない業種もあるため、事前に確認しておく必要があります。
最新の対象者情報については記事内「中小企業投資促進税制の対象者」をご覧ください。
中小企業投資促進税制の注意点は?
内容が追加・変更される可能性が高い点です。中小企業投資促進税制は、期限が決まっている制度ですが、期限が近づくたびに期限延長や内容の変更を行っております。ほかにもその設備投資が計画的なものか、注意して行う必要があります。
詳しくは記事内「中小企業投資促進税制の注意点」をご覧ください。