「Fit to Standard(フィット・トゥ・スタンダード)」とは、導入したい各種システムやソフトウェアの標準機能に合わせて自社の業務プロセスを調整・変更するアプローチのことです。IT環境の移り変わりが早い今日では、このFit to Standardの考え方が注目されています。
本記事では、Fit to Standardの概要やメリット、検討する際の注意点などについて詳しく解説します。
目次
- 「Fit to Standard」とは
- ERPシステムとは
- 「Fit to Standard」と「Fit&Gap」の違い
- 今、「Fit to Standard」が注目されている理由
- 「Fit&Gap」が合わなくなってきた
- ERPシステムが進化している
- 「Fit to Standard」で得られるメリット
- 短期間・低コストでシステムを導入できる
- 標準機能を最大限に活用できる
- 常に最新バージョンを利用できる
- グローバル経営の促進が期待できる
- 業務の属人化解消につながる
- 「Fit to Standard」を検討する際の注意点
- 業務プロセスの見直しが必要になる
- 標準機能でカバーできない業務もある
- 従業員が使いこなせない可能性がある
- クラウドの運用負荷が高くなる
- まとめ
- よくある質問
「Fit to Standard」とは
「Fit to Standard(フィット・トゥ・スタンダード)」は、システムやソフトが備える標準的な機能に応じて自社の業務プロセスを調整・変更するというアプローチです。略して「F2S」と表記されることもあります。
企業運営全体を効率化するERPシステムの導入時などに検討される考え方で、システムのカスタマイズを最小限に抑え、導入するソフトウェアの標準機能を最大限に活用することがFit to Standardの目的であり基本理念といえます。
ERPシステムとは
ERPシステムとは、販売管理や在庫管理、生産管理、会計管理、人事管理など、これまでそれぞれ異なる部門・システムで管理していたあらゆるデータをひとまとめにしてマネジメントできるシステムです。
企業規模が大きくなるほど、扱う情報が増えてデータ管理は煩雑になります。そうした課題を踏まえて、企業の資源である「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」の管理や運用を効率化するために誕生したのがERPシステムです。
クラウドサービスの普及や多様なデジタルツールの登場によって、近年では各企業のICTインフラを整備する動きが加速しています。そうした流れの中で、従来の「Fit&Gap」に代わる考え方として「Fit to Standard」が注目されるようになりました。
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「Fit to Standard」と「Fit&Gap」の違い
Fit to Standardと関係の深い言葉に「Fit&Gap」があります。Fit&Gapとは、システムに業務内容を合わせつつも、生じるギャップはシステムの変更や機能追加によって調整していくというアプローチのこと。システムを変更するという点で、Fit to Standardとは異なる考え方といえるでしょう。
Fit&Gapでは、まず「導入候補のシステム」と「実現したい業務」の合致している部分と乖離している部分を分析します。そしてその結果をもとに理想的なシステムを選んだり、必要に応じてプログラムや機能を追加するためのアドオン開発を行ったりします。
従来、ERPをはじめとする各種システムの導入時は、このFit&Gapの考え方に基づいてシステムの選定やアドオン開発を行う流れが主流でした。しかし、アドオン開発を前提としたFit&Gapではシステムの複雑化やコスト増を招きやすいことから、今日においては合理的なFit to Standardの考え方が主流になりつつあります。
Fit to Standard | Fit & Gap | |
---|---|---|
考え方 | 業務を導入システムに合わせる | 業務をシステムに合わせる |
カスタマイズ | しない | することが前提 |
導入までの期間 | 比較的短期間 | 長期間 |
今、「Fit to Standard」が注目されている理由
経済産業省が推進しているDXも追い風となっていますが、Fit to Standardが注目されるようになった具体的な理由を確認しておきましょう。
「Fit&Gap」が合わなくなってきた
Fit&Gapはシステムの自社業務への適合率を高めやすい半面、「アドオン開発にコストや時間がかかる」「追加したアドオン機能やバージョンアップのたびに、正常に動作するかの検証が必要」といった課題があります。また、システムの標準機能で使わないものが発生したり、ITエンジニアの人材確保の必要性も高くなるなど、時代に合わなくなってきています。
DXを推進している経済産業省の「DXレポート」でも、レガシーシステムを利用し続けることで、2025年以降は毎年12兆円もの経済損失が生じ得ると警鐘を鳴らしています。
また、DX推進の重要性が広がる反面、デジタル投資の内訳には大きな変化がなく、IT 関連費用のうち 約8割が既存システムの運用・保守に充てられている状態が続いています。DXが求められる現代において、これまでの「製品を業務に合わせる」というFit & Gapの考え方が合わなくなってきたことが、Fit to Standardの注目につながっているといえるでしょう。
出典:経済産業省「DXレポート」
出典:経済産業省「DXレポート2追補版」
ERPシステムが進化している
IT技術の進化により、ERPシステムそのものが便利で使いやすくなっています。ERPシステムは、エンジニアの努力と多くのノウハウにより、多様な業務ニーズに対応できるよう改良が重ねられてきました。
その結果、近年では多くのERPシステムに汎用性の高い機能が標準装備されています。いい換えれば、現在のERPシステムの標準機能は、独自に追加する機能と遜色がないほど、充分に活用できるものになっているということです。
こういった流れにより、Fit to Standardの考え方が注目されるようになったという側面もあるでしょう。
「Fit to Standard」で得られるメリット
Fit to Standardで得られるメリットと具体的な効果について見ていきましょう。これらを理解したうえで適切なアプローチを行えば、最大のメリット化が期待できます。
短期間・低コストでシステムを導入できる
Fit to Standardの最大のメリットは、システムやソフトをゼロから設計・開発するスクラッチ開発や、アドオン開発が入るFit&Gapに比べて、圧倒的に時間・コストがかからないことです。
Fit&Gapでの導入は、自社業務の分析に多額の費用が発生する可能性があります。Fit to Standardならシステムの標準機能ありきで導入を進めるため、アドオンの作業にかかるコストが発生しません。時間をかけずスムーズに導入を進めたい場合も有効です。
標準機能を最大限に活用できる
システムやソフトが備える機能は、ベンダー企業が「業界のベストプラクティス」を標準化したものといえます。そのため、搭載された機能が独自に追加する機能と比べて性能面で大幅に劣るとはいえないでしょう。
標準機能を最大限に活かす方法を検討すれば、従来のシステムでは成し得なかった業務効率化が実現する可能性もあるでしょう。
常に最新バージョンを利用できる
常に最新バージョンを利用できるのもメリットです。Fit to Standardで導入を検討するICTインフラは一般的にクラウドサービスで、バージョンアップやシステムアップデートはベンダー主導で実施されます。そのためプログラムの適用に大きなタイムラグは発生せず、最新の機能をスピーディーに利用できるのがメリットです。
Fit&Gapの場合は機能の追加やその後の調整に時間がかかるため、ベンダーが提供する最新バージョンのシステムをそのまま使い始めることは困難といえます。
グローバル経営の促進が期待できる
Fit to Standardは現在、世界で主流となりつつある手法です。海外進出するとき、あるいは海外企業と協業する際にシステムの連携がしやすいという利点があります。
独自の慣習を前提としたプロセスは、事業をグローバル展開しようとしたときに障害となってしまうケースが少なくありません。海外進出やグローパルパートナーシップの提携などを視野に入れている場合は、Fit to Standardを選択するのがおすすめです。
業務の属人化解消につながる
業務内容や作業工程に関する情報を特定の担当者以外誰も把握しておらず、周囲にも共有されていない状態を「属人化」といいます。Fit to Standardなら、これらの問題を「業務標準化」により解消できます。業務標準化とは、従業員全員が同じ成果を出せるように手順を整理し、決められたルールに従って業務を遂行するように仕組み化することです。
業務標準化によって、成果物の品質安定も可能になります。また、DXによる業務自動化も業務フローに組み込みやすくなることから、生産性向上も図れます。
「Fit to Standard」を検討する際の注意点
ERPシステムのスピーディーな導入に有効なFit to Standardですが、注意すべき点や取り組まねばならない課題もあります。メリット同様、これらも深く理解しておくことが重要です。
業務プロセスの見直しが必要になる
Fit to Standardは業務プロセスをシステムやソフトの標準機能に合わせる手法なので、当然、現行の業務プロセスをそのまま続けることは難しくなります。
業務プロセスに大幅な変更が生じる場合は、関係者間の話し合いなどで多くの時間が必要になります。しかも、現行の業務と並行しながらの変更・調整になるため、担当者の負担が増加する可能性が高いでしょう。
標準機能でカバーできない業務もある
業界・業態や企業の慣習などによって、標準機能ではどうしても運用が難しくなるケースがでてきます。標準機能でカバーするのが難しい場合は、一部機能のアドオン開発が不可欠です。
従業員が使いこなせない可能性がある
近年のICTインフラは高機能です。そのため、機能を使いこなすには従業員のリテラシーも必要になるでしょう。従業員に一定の知識がないと機能を十分に活用できず、かえって生産性やモチベーションの低下を招く恐れもあります。また、業務改革に反発する従業員が出てくるかもしれません。
より多くの従業員にシステムを使いこなしてもらうためには、事前に説明会や操作の勉強会を開き、導入後も質問対応や技術支援などのサポート体制を整えておくことが重要です。
クラウドの運用負荷が高くなる
クラウドシステム導入後の注意点として、クラウド利用の浸透に伴って発生する運用管理業務(クラウドの運用負荷)の増加が挙げられます。各部門がサーバーを独自に動作させることが可能になれば、情報システム担当者は乱立されたサーバーを適切に管理・運用しなければなりません。その結果、業務負担が膨れ上がる恐れもあるでしょう。
対策として情報システム部門のリソースを増やしたりする企業も多く、インターコネクトサービスなどを利用する選択肢もありますが、運用負荷対策はこれからの大きな課題といえます。
まとめ
ERPシステムなどの導入に際しては、新たなプログラムや機能の追加を前提としたFit&Gapの考え方が見直され、低コストかつスピーディーに導入が可能なFit to Standardの考え方が主流になりつつあります。
メリットの多いFit to Standardにも課題はありますが、汎用性の高い標準システムを使いこなしたり、これらのシステムに適した体制・業務フローを構築したりすることで、より合理的で効率的な企業経営や事業運営が可能になるといえるでしょう。
よくある質問
「Fit to standard」とは?
「Fit to Standard」とは、近年主流になっている「システムの標準機能に合わせて業務プロセスを変更する」という考え方です。
詳しくは記事内の「「Fit to Standard」とは」をご覧ください。
「Fit to standard」と「Fit&Gap」の違いは?
導入するシステムに業務内容を合わせつつも、生じるギャップはシステムの変更や機能追加によって調整していくというアプローチのFit&Gapに対し、システムの標準的な機能に自社の業務プロセスを合わせるという考え方がFit to Standardです。
詳しくは記事内の「「Fit to Standard」と「Fit&Gap」の違い」をご覧ください。
「Fit to standard」で得られるメリットは?
「Fit to Standard」の最大のメリットは、従来の方法に比べて圧倒的にシステム導入にかかる時間・コストを削減できることです。
詳しくは記事内の「「Fit to Standard」で得られるメリット」をご覧ください。