クラウドERPとは、クラウドで利用できるERPのことです。
クラウドはインターネットを通じてアクセスできるサービス形態のことで、自社でサーバーを持たなくてもアクセス可能です。クラウドERPを利用すれば、初期費用を抑え、定期的なアップデートも提供会社へ任せられます。
本記事ではクラウドERP導入のメリット・デメリット、オンプレミス型との違いなどについて解説します。
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目次
- クラウドERPとオンプレミスERPの比較
- クラウドERPの種類
- プライベートタイプ
- パブリックタイプ
- ハイブリッドタイプ
- クラウドERPのメリット
- 1.初期費用を削減できる
- 2.短期間で導入できる
- 3.BCP対策ができる
- 4.情報共有がリアルタイムに行える
- 5.運用・保守の負担が軽い
- クラウドERPのデメリット
- ランニングコストが発生する
- カスタマイズ性が下がる
- オフラインで利用できない
- 最適なクラウドERPを選ぶための5つの基準
- 1.自社のニーズに合った機能があるか
- 2.柔軟性とカスタマイズ性
- 3.コストとROI(投資利益率)
- 4.ベンダーのサポート体制
- 5.セキュリティと信頼性
- 中小企業にとってクラウドERPが重要な理由
- まとめ
- よくある質問
クラウドERPとオンプレミスERPの比較
クラウドERPとは、ERPをクラウド環境で利用できるサービスのことです。自社でサーバーを持たずに利用できるため、導入コストが小さく、大手企業だけでなく中小企業への導入も進んでいます。
これに対し、企業の内部サーバーに直接インストールして運用するERPをオンプレミス型ERPといいます。
以下の表で、コスト・メンテナンス・カスタマイズ・セキュリティの各項目における、クラウド型とオンプレミス型の違いを比較します。
比較項目 | クラウドERP | オンプレミスERP |
---|---|---|
コスト |
・初期投資が少ない ・月額または年額の利用料で運用可能 ・ランニングコストは発生するが、全体的なコストは比較的低め |
・初期投資が高い ・ランニングコストは少なくなることが多い ・設備投資やメンテナンスコストが都度発生 |
メンテナンス | ・ベンダー(クラウドERPサービスの提供会社が行うため企業側の負担は少ない |
・自社でシステムのメンテナンスやアップデートを行う ・専門的なITスタッフが必要 |
カスタマイズ |
・柔軟性が高い ・簡単にカスタマイズ可能 ・深いレベルのカスタマイズは限定的な場合もある |
・高度なカスタマイズが可能 ・特定のニーズに合わせたカスタマイズも実施できる ・カスタマイズには時間とコストがかかる |
セキュリティ |
・高水準のセキュリティ対策が施されている ・データが外部のサーバーにあるため自社内で管理するよりはリスクがある |
・企業が自らセキュリティ対策を管理 ・内部データの完全なコントロールが可能 ・セキュリティ対策の責任が大きい |
クラウド型は、ERPを構成する機能がクラウド上に存在し、提供会社のサーバーへアクセスすることで利用可能なタイプのERPです。導入コストが小さく、手厚いサポートを受けられる反面、自社に合ったサービス内容かを慎重に見極める必要があります。
設備投資の予算を確保できない企業や、スモールステップでERPを導入し、実際にどれだけ効率化できるか確かめたい企業などにおすすめです。
オンプレミス型は、自社へ直接導入するタイプのERPです。オーダーメイドで自由なカスタマイズができる反面、導入コストが高額なため、予算が潤沢な企業に向いています。
買い切り型のERPなのでランニングコストは発生しませんが、どれだけの効果を得られるかわからない状態での投資になるため、リスクもあります。
どちらが自社に合った導入方法か、予算や提供サービスなどを考慮し選びましょう。
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クラウドERPの種類
クラウドERPはさらに以下の3つの種類に分けられます。
クラウドERPの種類
- プライベートタイプ
- パブリックタイプ
- ハイブリッドタイプ
プライベートタイプ
IaaSやPaaSを用いた自社の開発環境やインフラを利用して、ERPを構築するクラウドERPです。カスタマイズはしやすいですが、保守管理は自社で行う必要があります。
クラウド型のためインターネット経由でデータにアクセスできますが、それ以外はほとんどオンプレミス型と変わりません。自社でERPを所有してカスタマイズしたい、でもなるべく費用はかけたくない企業に向いています。
パブリックタイプ
ERPの機能について、インターネットを通じて提供するSaaS型のクラウドERPです。システムの所有者はサービス提供会社で、利用料を支払う形になります。
カスタマイズはほとんどできませんが、保守管理はサービス提供会社が行います。保守管理に関する専門知識がなく、手軽にクラウドERPを導入したい企業に向いています。
ハイブリッドタイプ
パブリックタイプとプライベートタイプを組み合わせたものが、ハイブリッドタイプです。もしくはオンプレミス型とクラウド型を組み合わせたものもハイブリッドタイプともいいます。
それぞれの長所を生かした運用が可能なため、カスタマイズしたい部分はプライベートタイプ、それ以外はパブリックタイプというかたちで組み合わせられます。
ほかにも、本社はオンプレミス型で導入し、支社はクラウド型で導入するという運用も可能です。このようにハイブリッド型はメリットが大きいものの、管理や運用が複雑化する可能性もあります。
また複数の環境を組み合わせるため、環境構築にコストや時間がかかるといったデメリットもあります。
クラウドERPのメリット
クラウドERPのメリットは、次の5点です。
クラウドERPのメリット
- 初期費用を削減できる
- 短期間で導入できる
- BCP対策ができる
- 情報共有がリアルタイムに行える
- 運用・保守の負担が軽い
詳しく見ていきましょう。
1.初期費用を削減できる
クラウドERPの最大の利点のひとつは、初期費用の削減です。
従来のオンプレミスERPは、導入のために高額な初期投資が必要でしたが、SaaS型のクラウドERPではこれが大幅に抑えられます。
また自社でサーバを所有・管理する必要があったオンプレミスERPとは異なり、すべてのデータをクラウド上で一元管理できる点も、クラウドERPのメリットです。
2.短期間で導入できる
クラウドERPは、比較的短期間で導入が可能です。
SaaS型のクラウドERPではベンダーが提供するクラウドサービスを使用するため、自社での設定やインフラ整備の手間が省けます。この迅速性は、ビジネス環境の変化に素早く対応する必要がある現代企業にとって大きな利点でしょう。
3.BCP対策ができる
クラウドERPは、事業継続計画(BCP)の観点からも非常に有効です。
クラウドERPなら、データがクラウド上に保存されているため、災害時や緊急時にもデータの安全性やアクセスの維持が守られます。
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4.情報共有がリアルタイムに行える
クラウドERPには、販売管理・財務会計・給与勤怠など多様な情報がクラウドに集約されるため、社内の異なる部署間で情報をリアルタイムに共有できます。
クラウドERPでできること
- 販売管理:在庫状況や顧客管理
- 財務会計:財務諸表の作成や資金繰りの管理
- 給与・勤怠:従業員の勤怠状況や扶養情報の管理
これにより、各部門での連携が取りやすくなり、意思決定の迅速化や業務効率の向上に寄与します。
5.運用・保守の負担が軽い
SaaS型のクラウドERPは、運用や保守の負担が軽いのもメリットです。システムの運用・保守はベンダーが行うため、自社で専門的なスタッフを配置する必要がなく、運用コストを削減できます。
またERPに保有されている情報はクラウドを通して誰でも確認できるため、特定の人材に頼った属人化を避けられると共に、業務効率を大きく向上させることが可能です。
さらにSaaS型のクラウドERPでは、アップデートやセキュリティ対策もベンダーにより行われるため、企業は常に最新かつ安全なシステムを利用できます。
クラウドERPのデメリット
クラウドERPのデメリットとしては次の3点が挙げられます。
クラウドERPのデメリット
- ランニングコストが発生する
- カスタマイズ性が下がる
- オフラインで利用できない
ランニングコストが発生する
クラウドERPの場合、サービスを利用し続ける限り、半永久的にランニングコストがかかります。システムのアップデートやセキュリティ対策強化を自社で対応しなくて済む代わりに、月額費用がかかる点はデメリットといえるでしょう。
ただしオンプレミス型も、アップデートなどの作業を外部業者に委託する場合はランニングコストが発生します。予算が限られている場合は、年間コストを実際に試算してから導入を検討しましょう。
カスタマイズ性が下がる
クラウドERPの場合、カスタマイズはサービス提供会社が対応できる範囲のみに限定されます。
オンプレミス型のように完全オーダーメイドで構築できないため、場合によってはシステム合わせて、業務内容や業務フローを見直す必要があるでしょう。
そのため、導入時には自社の業務実態を踏まえたうえで、使いやすいシステムを選定するのが重要です。
オフラインで利用できない
クラウドERPは、オフラインではシステムにアクセスできないので、通信障害が起こるとシステムが使えません。
何らかの障害が起きても業務を継続できるように、日頃からバックアップシステムを準備しておくなどの対策は行っておく必要があるでしょう。
最適なクラウドERPを選ぶための5つの基準
クラウドERPを選ぶ際は、次の5つを考慮しましょう。
それぞれ詳しく解説していきます。
1.自社のニーズに合った機能があるか
まずは、自社のニーズに合った機能がクラウドERPのパッケージに含まれているかどうかを、確認しましょう。
企業ごとに必要となる機能は異なります。例えば、製造業であれば在庫管理や生産管理が重要になり、販売業であれば顧客管理や受注管理が必須です。自社の業務プロセスや目標に合わせて、必要な機能を提供しているクラウドERPを選ぶのが失敗しないポイントです。
2.柔軟性とカスタマイズ性
クラウドERPは、企業の成長や変化に合わせて拡張やカスタマイズが可能なものを選びましょう。
ビジネスが拡大するにつれて、追加機能が必要になる場合があります。その際、オンプレミスであれば自社でカスタマイズ可能ですが、クラウドの場合は通常ベンダーがもとから用意している機能のみ利用できます。
そのため、今後ビジネスを拡大していく過程で柔軟に対応できるよう、カスタマイズ性や柔軟性を確認しておきましょう。
3.コストとROI(投資利益率)
クラウドERPの導入コスト・運用コストを詳細に分析し、長期的な投資利益率(ROI)を計算することも重要です。
クラウドERPの場合、オンプレミス型と比べて初期費用は少ないですが、その分定期的なメンテナンスやアップデートなどの運用コストがかかります。導入後の業務効率向上やコスト削減など、期待されるROIを事前に検討した上で、自社の目的に沿ったクラウドERPを選びましょう。
4.ベンダーのサポート体制
導入後のサポートは、クラウドERPを選ぶうえで重要な選定要素です。
問題が発生した際の対応速度・専門知識の有無・トレーニングや教育資料の提供など、充実したサポート体制があるかどうかで、システム運用の円滑さが左右されます。
導入して終わりではない点がオンプレミス型との優位性にもなるので、サポート面はよく吟味した上で選定しましょう。
5.セキュリティと信頼性
自社のデータを預けることになるため、クラウドERPのセキュリティ・システムの信頼性も、非常に重要です。
データ漏えいやシステム障害は企業運営に大きなリスクをもたらすため、選ぶ際はセキュリティ対策とデータ保護機能が充実しているかを確認しましょう。また、ベンダーの信頼性や市場での評判も重要な判断材料です。
中小企業にとってクラウドERPが重要な理由
社会状況の変化が著しい昨今は、企業規模にかかわらず、状況に即した経営判断を迅速に行えるかがますます重要になっています。
それに伴い、経営判断の裏付けとなるデータの重要性が高まっており、リアルタイムに最新のデータへアクセス可能な環境の整備は必須といえるでしょう。また、企業の不祥事などが相次ぐなかで、内部統制も強く求められています。
経営に直結する重要な情報を一元管理できるクラウドERPは、最新データの把握はもちろん、セキュリティ面においても不正や情報漏えいなどのリスク回避に役立ちます。オンプレミス型と比べて導入コストが高くないため、中小企業でも取り入れやすいです。
現在レガシーシステムを使っていて、生産性向上が課題の中小企業は、一度検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ
クラウドERPは一から構築が必要なオンプレミス型とは異なり、機能性の高い情報管理システムを手軽に導入できます。
近年はオンプレミス型からクラウド型へ移行する事例も多く、生産性向上やコスト削減、セキュリティ強化といったメリットに魅力を感じる企業が増えています。
クラウドERPのメリット・デメリットや、オンプレミス型との違いを理解し、自社にとって最適なシステムを導入しましょう。
よくある質問
クラウドERPとは
クラウドERPとは、ERPをクラウド環境で利用できるサービスのことです。クラウドとはネットワーク上にあるデータベースへアクセスできるサービス形態のことで、サービス提供会社が管理しています。
詳しくは記事内「クラウドERPとオンプレミスERPの比較」をご覧ください。
クラウドERPの種類は?
クラウドERPのには大きく「プライベート・パブリック・ハイブリッド」と3つの種類があります。それぞれ自社で管理する範囲に違いがあり、予算や社内で対応できる範囲で決めます。
詳しくは記事内「クラウドERPの種類」で解説しています。
クラウドERPを導入するメリットは?
クラウドERPの主なメリットは、導入ハードルが低く、予算が限られた中でもERPを導入できる点です。
詳しくは記事内「クラウドERPのメリット」で解説しています。