「BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)」とは「業務改革」のことです。既存の業務フロー(ビジネスプロセス)を根本的に見直し、再構築(リエンジニアリング)することを指します。
近年、働き方改革による労働環境の変化などから、BPRが注目されるようになりました。実際に民間企業や地方公共団体などでも、BPRが導入されています。
BPRは単なる効率化の取り組みではなく、企業が市場の変化に迅速に対応し、競争力を高めるための戦略的アプローチです。
本記事では、BPRの概要を確認したうえで、BPRのメリットや導入方法、さらにはBPRを進める具体的な手法まで詳しく解説します。
目次
- BPR(業務改革)とは
- BPRの目的
- BPRと業務改善の違い
- BPRとDXの違い
- BPRが再注目されている理由
- BPRで意識すべき4つの言葉
- 根本的
- 抜本的
- 劇的
- プロセス
- BPRを行う3つのメリット
- 1. コスト削減・利益最大化につながる
- 2. 業務効率化・生産性向上につながる
- 3. 従業員満足度が上がる
- BPR導入時の注意点・デメリット
- 初期費用・工数がかかる
- 従業員に負担がかかる
- BPRを進める具体的な手法
- (1)ERP
- (2)BPO
- (3)シェアードサービス
- (4)業務仕分け
- (5)シックスシグマ
- BPR導入の5ステップ
- ステップ1:検討
- ステップ2:分析
- ステップ3:設計
- ステップ4:実施
- ステップ5:モニタリング・評価
- まとめ
- よくある質問
BPR(業務改革)とは
BPRとは、「Business Process Re-engineering(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)」の略称で、日本語では「業務改革」と呼ばれます。既存の業務フロー(ビジネスプロセス)を根本的に見直し、再構築(リエンジニアリング)することを指します。
近年、働き方改革による労働環境の変化や、デジタル技術の進歩などにより、BPRが注目されています。実際に民間企業や地方公共団体などでも、BPRが導入されています。
BPRの目的
BPRの主な目的は、企業の業務プロセスを根本から見直し、効率化と最適化を図ることです。
具体的には、以下の効果が期待できます。
- ・コスト削減・利益最大化
- ・業務効率化・生産性向上
- ・従業員満足度向上
BPRは、企業が直面する課題に対応し、競争力を高めるための重要な手段です。そのため、業務の根本的な見直しを通じて、企業の持続可能な成長を目指すことがBPRの究極の目的と言えるでしょう。
BPRと業務改善の違い
同じような言葉に「業務改善」があります。業務改善は「業務フローの一部を改善する」ことを指しますが、BPRは「業務フローそのものを根本的に見直す取り組み」であるという点で大きな違いがあります。
業務改善が業務フローの一部のみを対象とするのに対し、BPRは業務フローそのものを根本的に再構築することが求められます。
また、業務改善は小さな範囲から徐々に見直しを行うため時間がかかるのに対し、BPRは全体的に短期間で改善を図ることが一般的です。
BPR(業務改革) | 業務改善 | |
---|---|---|
目的 | 企業の目標達成 | 業務効率化、生産性の向上 |
対象範囲 | 企業活動全体 | 業務フロー、部門単位 |
手法 | BPO ERPの導入 シェアードサービス アウトソーシング など | マニュアル化 手順の見直し アウトソーシング など |
BPRとDXの違い
DXとはDigital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略称です。BPRはプロセスの視点から業務フローや情報システムを再構築するのに対し、DXは最新のデジタル技術を活用してビジネスモデルや組織そのものを変革することを目指します。
このように、BPRとDXは改革する対象が異なります。ただし、DXを進める一環として、BPRが行われるとも考えられます。
BPR(業務改革) | DX | |
---|---|---|
目的 | 企業の目標達成 | 組織・業務プロセス・企業文化などの変革 |
対象範囲 | 企業活動全体 | 企業全体 |
手法 | BPO ERPの導入 シェアードサービス アウトソーシング など | ペーパーレス化
アプリ開発 AIの導入 など |
BPRが再注目されている理由
業務フローを改善するBPRが再注目されているのには、働き方改革や労働人口の減少による人手不足などが大きな理由として挙げられます。
BPRの概念は、1990年代初頭に生まれました。1993年に刊行された、元マサチューセッツ工科大学教授のマイケル・ハマー氏と経営コンサルタントのジェイムズ・チャンピー氏の共著『リエンジニアリング革命』によって広く世の中に認知され、米国では多くの企業が導入しました。
当初は日本でも注目を集めたものの、一過性の話題に終わりあまり浸透しませんでした。しかし近年の情勢に伴い、民間企業をはじめ地方自治体などでもBPRが推進され、再び注目されるようになりました。
BPRで意識すべき4つの言葉
BPRを理解するうえで重要なのが、「根本的」「抜本的」「劇的」「プロセス」という4つの言葉です。
根本的
いったいなぜ現在それを行っているのか、そしてなぜそれを今の方法で行っているのか、といった根本的な質問をすること。
抜本的
表面的な変革を行ったり、既存のものに手を加えたりすることではなく、古いものを捨ててしまうこと。
劇的
業績において小さな改善や漸進的な改善を行うことではなく、大飛躍を達成すること。
プロセス
ビジネス・プロセスを、1つ以上のことをインプットして、顧客に対して価値のあるアウトプットを生み出す行動の集合と定義する。
BPRの導入は、部分的かつ表面的な変革ではなく、業務フローを根本から大きく変革し、飛躍的な向上を目指していることが分かります。
BPRを行う3つのメリット
BPRを導入する主なメリットは3つです。
BPRを行う3つのメリット
- コスト削減・利益最大化につながる
- 業務効率化・生産性向上につながる
- 従業員満足度が上がる
1.コスト削減・利益最大化につながる
BPRは全体を根本から見直して業務効率化を行うため、コスト削減効果が期待できます。
たとえば、業務がスムーズに進んだことにより残業が減り、人的コストを削減できたり、既存のシステムをクラウド化して、システムの保守や管理コストの削減をしたりすることも可能です。
BPR導入には初期費用がある程度必要ですが、長期的には業務全体のさまざまな無駄を削減するため、結果として企業の利益最大化につながります。
2.業務効率化・生産性向上につながる
BPRを導入することで、業務の効率化や生産性向上の効果が得られます。
現状の業務フローを全体的に可視化することで、隠れていた課題を見つけ出せます。「重複している作業はないか」「スムーズな進行の妨げになっている要因はないか」「そもそも必要な業務か」どうかなど、ゼロベースで見直しを図ることが可能です。
これらは、業務の効率化や生産性向上はもちろん、製品やサービスの品質を高め、顧客満足度の向上にもつながります。
3.従業員満足度が上がる
非効率な仕事のやり方や、形骸化されたルールなどをなくすことで、仕事へのやりがいや満足感、組織へのエンゲージメントが高められます。
また、BPRによって業務の全体感を把握できるようになれば、従業員一人ひとりがより広い視野を持って業務に取り組めるようになるでしょう。
BPR導入時の注意点・デメリット
BPR導入時の注意点・デメリットは次の通りです。
BPRを行うBPR導入時の注意点・デメリット
- 初期費用・工数がかかる
- 従業員に負担がかかる
初期費用・工数がかかる
BPRの導入は企業にとって大きな変化を伴うため、初期段階での費用と工数が大きな課題となります。具体的には、以下の点が挙げられます。
- 分析と計画のためのコスト
- システムやツールの導入
- 教育とトレーニング
BPRは長期的なリターンを目指すものなので、短期的な結果に焦点を当てると、導入の効果が見えにくいことがあります。長期的に企業を良くしていくという視点で運用を行っていきましょう。
従業員に負担がかかる
BPRの導入は、従業員にも大きな影響を及ぼします。新しい業務プロセスやシステムへの適応・役割の変更・スキルの更新など、全社的に取り組まなければいけません。
従業員に抵抗や不安が生じることもありますが、効果的なBPR実施のために、継続的な従業員へのサポートとコミュニケーションを心がけましょう。
BPRを進める具体的な手法
BPRを進める手法は、以下のようなものがあります。
- 1.ERP
- 2.BPO
- 3.シェアードサービス
- 4.業務仕分け
- 5.シックスシグマ
(1)ERP
ERPとはEnterprise Resources Planningの略で、日本語では「統合基幹業務システム」を指します。企業活動で必要な経営資源や情報を一元管理して、有効活用するシステムのことです。
以前は大企業が導入することが多かったですが、現在は中小企業でも導入することが増えてきました。EPRの導入メリットは、それぞれが必要な情報を同じソースから持ってきて使用できたり、社内業務を可視化できたりする点です。
認識の齟齬を防ぎやすく、業務の効率化が図れます。
ERPについて詳しく知りたい方は、別記事「ERP(企業資源計画)とは?導入メリットやERPの種類をわかりやすく解説」をあわせてご覧ください。
(2)BPO
BPOとはBusiness Process Outsourcing(ビジネス プロセス アウトソーシング)の略で、企業のある部門や業務プロセスの一部を一括して外部委託することです。
経理や財務、総務や人事、情報システム、購買、法務、監査などの間接部門がBPOの対象となることが多いですが、現在は人材育成やマーケティングなどの業務が対象となるケースもあります。
専門性のある外部企業に委託することでコア業務へ集中することが可能になり、コストの削減や業務の効率化が期待できます。
(3)シェアードサービス
シェアードサービスとは、グループ全社の管理業務を一ヶ所に集約することです。これにより、業務の効率化やコスト削減につながります。
BPOとの違いは、BPOが外部の企業に業務を委託するのに対し、シェアードサービスはグループ全社の間接業務を請け負う部門や子会社が業務を代行するという点です。
【関連記事】
シェアードサービスとは?BPOとの違いや成功事例を紹介
(4)業務仕分け
BPOにおける業務仕分けは、以下のプロセスで行います。
- 業務の特定と分類
- 不要な業務の削減
- 効率化のための再構築
業務仕分けを行うことで、企業は必要な業務にリソースを集中し、全体の生産性を高めることができます。業務の重要性に基づいて優先順位をつけ、低優先度の業務はアウトソーシングするなどの対策も検討しましょう。
(5)シックスシグマ
シックスシグマは、品質管理とプロセス改善のための手法です。
この手法は、プロセスの各段階で発生するばらつきを統計学的に分析し、業務遂行におけるミスを100万分の3まで減らすことを目指します。製造部門だけでなく、営業やサービス部門でも効果があり、間接業務にも有効です。
たとえば人事部門の採用プロセスや、経理部による購買・在庫管理の効率化などが挙げられます。
BPR導入の5ステップ
BPRの導入は以下の5つのステップで進めます。
- 1.検討
- 2.分析
- 3.設計
- 4.実施
- 5.モニタリング・評価
業務プロセスを全体的に短期間で変革する必要があるため、5つのステップを着実に、計画性を持って進めていくことが重要です。
ステップ1:検討
企業が目指す目的・目標を設定し、対象となる業務改革のポイントを明らかにします。
目的・目標の設定には従業員や経営層へのヒアリングが重要です。職責の異なる従業員からそれぞれ改善点をヒアリングし、経営層からは企業戦略に応じた改善点をヒアリングしましょう。
その後それぞれの内容をまとめ、企業戦略に沿った目的・目標を設定します。
これにより、把握できていなかった課題や問題を互いに認識でき、改革の方向性について共通認識が生まれます。
目的・目標を設定したら、対象となる業務範囲と、業務改革のポイントとなるキープロセスを明らかにしましょう。
また、業務システムを導入する場合は、BSU(ビジネス・システム・ユニット)と呼ばれる「事業システムの再構築単位」まで落とし込み、業務上のオペレーションも明らかにしておきましょう。
ステップ2:分析
現状のプロセスで発生している課題を確認し、改善方法を検討します。課題の多い箇所は時間をかけ、課題の少ない箇所は時間をかけないように調整することで、効率的に進められます。
プロセスによって発生する課題を見つけるには、以下のような分析ツールを使用してみるとよいでしょう。
ABC(活動基準原価計算)
ABCとはActivity Based Costingの略で、日本語では「活動基準原価計算」です。
原価計算の手法のひとつで、サービスに間接的にかかる費用をそれぞれ具体的に算出するために用います。
たとえば、複数の製品で使う部品や塗料などの「間接費用」のうち「Aの製品で500円分、Bの製品で300円分」のように具体的に算出できます。
各業務にかかるコストを把握できるので、現状発生している不要なコストの削減や、それによる利益の最大化が可能です。
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ABC(活動基準原価計算)とは?計算方法や事例をわかりやすく解説
BSC(バランス・スコアカード)
BSCとは、Balanced Scorecardの略です。企業の戦略やビジョンを以下4つの視点に分類し、分析・評価するためのフレームワークです。
BSCフレームワーク
- 財務
- 顧客
- 業務プロセス
- 学習と成長
さまざまな角度から評価することにより、利益などの一部の視点に偏らず、多面的に課題を発見できるのがメリットです。
BSCは以下のステップで進めます。
- スコアカードの作成
- 具体的な目標設定と戦略の立案
- 現状の分析と目標達成までの戦略マップを作成
- BPRのポイントを検討
- 施策を実行し、効果を評価
ステップ3:設計
課題を把握したら、改善に向けて戦略や方針の策定を行います。
使用しているシステムや業務プロセスが部署で異なる場合は標準化し、業務によってはアウトソーシングすることも検討します。
限られた時間で多くの課題を改善するのは難しいので、優先順位をつけ、効果の高いものからプロセスを設計していきましょう。
スムーズに進めるためには、体制の整備も重要です。取引先も含めたメンバーの構成や、投資額に対するコストの設計などを行います。
BPRは社内全体に大きな影響を与えるので、共通認識を持って推進していくことが非常に大切です。各部門でBPRの目標や目的、スケジュール感などを共有したうえで、連携して戦略を設計していきましょう。
ステップ4:実施
ここまでのステップで今後の戦略と方針が決定したら、具体的なアクションに移します。スムーズに進めるために重要なのは、経営のトップがBPRを導入する必要性・目的・ゴールについて社内全体に説明することです。
従業員一人ひとりが得られるメリットについても説明し、自分ごと化させたうえでモチベーションを高められると理想的でしょう。
BPRは大規模な変革が求められるため、広範囲に影響があります。最終的な目標から外れてしまわないよう、一つひとつのステップと進捗率を意識して進めると良いでしょう。
ステップ5:モニタリング・評価
施策を実施した次に重要なのは、効果測定や達成度の評価です。業務のプロセスに問題がないかなど効果をモニタリングしていく必要があります。
各部門における進捗率を確認し、達成度を評価しながら取り組みます。BPRは実施したら終わりではなく、導入後の効果や実態を振り返り、問題が発生している場合はその都度対応することが大切です。
まとめ
労働環境の変化などにより、既存の業務フローを根本的に見直し、業務プロセスの視点でシステムや業務フローを再構築するBPRの重要性に注目が集まっています。
BPRを導入することにより、非効率な作業フローや閉塞感のある慣習的な業務状況を打破し、作業の効率化、生産性の向上などが期待できます。
BPRは全社に大きな影響をもたらすため、実際に導入する際には、事前の準備がとても大切です。また従業員と共通認識を持ち、各部門と連携して取り組むようにしましょう。
よくある質問
BPRとは?
BPRとは、企業の業務プロセスを根本的に見直し、効率化と最適化を図る「業務改革」の手法です。近年、働き方改革やデジタル技術の進歩により注目されています。
BPRのより詳しい内容、業務改善やDXとの違いなどは本記事「BPRとは」で解説しています。
BPR導入のメリットは?
BPR導入による主なメリットは、以下の3つです。
- ・コスト削減・利益最大化:無駄な作業を減らし、効率化することでコストを削減し、利益を最大化できます。
- ・業務効率化・生産性向上:業務プロセスを最適化することで、作業時間を短縮し、生産性を向上できます。
- ・従業員満足度向上:働きやすい環境を作ることで、従業員の満足度を向上できます。
より詳しいBPR導入のメリットについては、「BPRを行う3つのメリット」で詳しく解説しています。