BCPとは、企業が緊急事態に遭遇した場合に、重要な業務を継続・早期復旧させるための事業計画のことです。
万が一緊急事態が発生しても、BCP策定ができていれば焦ることなく、業務継続や業務の復旧に向けて動けます。そのためにも、自社に合ったBCPを適切に策定することが大切です。
本記事では、BCPについての基本情報を説明したうえで、BCP対策のメリットや実際にBCPを策定する際の流れついて解説します。
目次
- BCPとは
- BCPの目的
- 中小企業におけるBCPの重要性
- 介護事業者は2024年4月からBCP策定が義務化
- 事業継続ガイドラインの改訂項目
- BCPと防災計画・BCMとの違い
- BCPを策定する4つのメリット
- 1.事業の継続と早期復旧が可能になる
- 2.顧客離れのリスクを回避できる
- 3.企業の信用と評価の向上
- 4.組織力の再強化
- BCP策定の流れ
- 1.BCP策定の目的・方針の決定
- 2.企業の重要な業務とリスクの洗い出し
- 3.BCPの策定
- 4.定期的なレビューと訓練
- 企業にとって有効なBCP対策を行うコツ
- 具体的なリスクの特定と評価
- 従業員への教育と訓練
- 継続的にBCPを見直し改善する
- 実際にBCPを運用する際のポイント
- 緊急事態発生時の迅速な対応
- コミュニケーションの確保
- 重要業務の優先
- 状況の見直しと適応
- 実際に災害に遭った場合の運用の流れ
- 1.緊急事態の評価と情報収集
- 2.緊急対応の活動開始
- 3.内部および外部とのコミュニケーション確立
- 4.重要業務の継続または再開
- 5.復旧プロセスの実行
- 6.定期的な状況評価と調整
- 7.事態の収束とレビュー
- まとめ
- よくある質問
BCPとは
BCP(事業継続計画)とは、企業が緊急事態に直面した場合でも重要な業務を継続させる、または早期復旧させるための計画を指します。「Business Continuity Plan」の頭文字を取った言葉です。
ここでいう「緊急事態」は、以下のようなものが対象となります。
- 自然災害(地震や台風など)
- 大火災
- テロ攻撃
- 新型感染症の蔓延
- 原子力事故
- 火災
- 停電 など
日本では、2011年の東日本大震災をきっかけにBCPの重要性がより注目されるようになりました。
BCPの目的
BCP(事業継続計画)の目的は、重要業務の中断を最小限に抑え、迅速かつ効果的な事業の復旧を実現することにあります。仮に予期せぬ事態に陥った場合でも、BCPを策定しておけば、経済的な損失を最小限に抑えつつ顧客の信頼も獲得できます。
さまざまなリスク発生のおそれがある現代において、BCPの策定はもはや必要不可欠といえるでしょう。
中小企業におけるBCPの重要性
特に中小企業においては、BCPの策定は非常に重要です。中小企業は大規模な災害や事故によって特に大きな影響を受ける可能性があり、有効なBCPがない場合、事業の継続が困難になり廃業に追い込まれるリスクもあります。。
ただし、2022年6月に帝国データバンクが発表した資料によると、BCP策定率は大企業33.7%に対し中小企業は14.7%となっています。特に、大きな資本力やブランドバリューのない中小企業だからこそ、BCPによって社外からの信頼性を高めたり、緊急時の機会損失を小さくしたりすることが重要です。
介護事業者は2024年4月からBCP策定が義務化
2024年4月から、介護事業者にはBCP策定が義務化されます。これは、災害時における高齢者や要介護者の安全を確保し、介護サービスの提供継続を保証するための措置です。
災害や緊急事態が発生した場合、介護サービスの提供が中断されると、受け入れ先を必要とする高齢者やその家族に深刻な影響を及ぼす可能性があります。この義務化により、介護事業者はBCPを策定し、万が一の事態に備えることが求められるようになりました。
BCPは災害時の企業存続だけでなく、人命を守るためのマニュアルでもあります。
事業継続ガイドラインの改訂項目
事業継続に関するガイドラインは、経済・社会の変化、災害教訓、関連制度の整備などを踏まえ、定期的に改訂されています。令和5年3月に改訂された最新版では、特に以下の2点が注目されます。
「安心安全で健康」に配慮した対策の明示
今回の改訂では、テレワークの導入やオンラインを活用した意思決定の仕組みの整備が、強調されています。これは、従業員の健康と安全を確保しつつ、事業活動を継続するための柔軟な対応策として位置付けられています。
情報セキュリティの強化
情報及び情報システムの維持が、事業継続計画の重要な要素として取り上げられています。特に、データのバックアップやITシステムに特化したBCP対策(IT-BCP)への注目が高まっています。
通常のBCP対策だけでなく、今後はよりITに特化したIT-BCP対策に関しても検討していく必要があるでしょう。
BCPと防災計画・BCMとの違い
BCPと似た言葉として、「防災計画」と「BCM」があります。
防災計画は、緊急事態による被害を回避・軽減することで、従業員の人命や会社の財産などの経営資産を守るための計画です。
BCPとの明確な違いとしては、緊急事態が発生してから事業を継続させたり、早期復旧させたりすることを重視しているか否かという点です。
簡潔にいうと、緊急事態発生後の対策が「BCP」、緊急事態発生前の対策が「防災計画」となります。
またBCM(Business Continuity Management)は「事業継続マネジメント」を意味し、具体的には以下のような活動が求められます。
- BCP策定や維持・更新
- 事業継続を実現するための予算・資源の確保
- 事前対策の実施
- 取組を浸透させるための教育・訓練の実施、点検、継続的な改善 など
BCPを策定する4つのメリット
BCPは大企業、中小企業問わず企業が存続していくために必要な施策です。BCPを策定することで得られるメリットは、大きく4つあります。
BCPを策定する4つのメリット
- 事業の継続と早期復旧が可能になる
- 顧客離れのリスクを回避できる
- 企業の信用と評価の向上
- 組織力の再強化
1.事業の継続と早期復旧が可能になる
BCPを策定し運用することで、緊急事態における事業の継続性が保たれ、早期復旧が可能になります。
BCPを策定しておらず事業復旧が遅れてしまった場合、大きな経済損失を被ることによりブランドバリューの低下のみならず、倒産のリスクも出てくるでしょう。BCPの策定は、万が一の事業縮小や廃業のリスクも減少させ、企業の操業率を早期に回復させることが期待できます。
2.顧客離れのリスクを回避できる
緊急事態が起き事業継続が困難となった場合、事業復旧が遅れれば遅れるほど、顧客の信用が失われるリスクも高まります。
しかしBCPを策定することで、いざ緊急事態に直面した際、迅速に事業を立て直せるため顧客の信用を維持できます。
3.企業の信用と評価の向上
効果的なBCPの存在は、顧客や市場関係者からの信用と評価を高める要因となります。
緊急事態に迅速かつ適切に対応できる企業は、顧客からの信頼を獲得しやすく、結果として市場での地位を強化できます。BCPを上手く運用することで、緊急事態によるピンチをチャンスに変えることもできるのです。
4.組織力の再強化
BCPの策定と運用は、組織内のコミュニケーションを強化し、従業員の危機意識を高める効果もあります。
BCPを策定する過程で、従業員間のコミュニケーションが促進され、チームワークが強化されます。また、従業員への研修を進めていく上で当事者意識を芽生え、より一体感のある組織へと生まれ変われるでしょう。
BCP策定の流れ
BCP策定の流れは、大まかに以下のとおりです。
BCP策定の流れ
- BCP策定の目的・方針の決定
- 企業の重要な業務とリスクの洗い出し
- BCPの策定
- 定期的なレビューと訓
1. BCP策定の目的・方針の決定
まずは、企業のビジョンやミッション、経営理念などを振り返り照らし合わせながら、自社がBCPを策定する目的や方針を決めましょう。
BCP策定の目的の具体例としては、次のようなものが挙げられます。
BCP策定の目的の具体例
- 従業員や従業員の家族の健康と雇用を守るため
- 顧客や取引先からの信用を守るため
- 地域経済の活力を守るため など
2.企業の重要な業務とリスクの洗い出し
次に、企業の重要な業務を洗い出しましょう。重要な業務は、次の基準で選びます。
- 緊急時においても最優先で継続すべき中核事業
- さまざまなリソースが平常時よりも少ない状況でも優先的に継続したい事業
業務の洗い出しができたら、企業にとって実際に起こってしまうと困ること(緊急事態)を言語化します。
あわせて、それらの緊急事態が起きた際に想定される、事業への損害(リスク)についても洗い出しましょう。
重要な業務とリスクを洗い出せたら、限られたリソースで効果的に事業が行えるよう、緊急事態の発生頻度や深刻度に応じてリスクの優先順位を付けます。
3.BCPの策定
優先度の高いリスクに絞って、実際にBCPを策定します。指示役などの役割を明確にして、緊急時に誰がどのように行動するかというレベルまで落とし込みましょう。
実際に緊急事態が発生すると咄嗟の判断が難しいため、個々の災害に対して、可能な限り具体的な対応を決めておく必要があります。
たとえば、自然災害時には「避難・安否確認・被害状況の確認・業務の復旧」など、業務以外の行動も重要です。
BCPの策定方法としては、災害発生から平常時に戻るまでの期間を大きく3つに分けます。分け方に決まりはありませんが、一般的に「災害の発生・緊急時の対応・業務の復旧」の3つで考えるのがおすすめです。
次に、以下5つの視点に分けて、それぞれの視点における事業継続計画を決めます。
- 人的リソース
- 施設・設備
- 資金調達
- 体制・指示系統
- 情報
4.定期的なレビューと訓練
BCPは、一度策定したら終わりではありません。市場や経営状況は常に変化するため、BCPも継続的に見直しと改善が必要です。
定期的にレビューを行い、必要に応じて更新しましょう。また訓練も更新の都度行うことで、実際の現場でも慌てずに行動できます。
企業にとって有効なBCP対策を行うコツ
企業にとって有効なBCP対策を行うためのコツは3つです。
企業にとって有効なBCP対策を行うコツ
- 具体的なリスクの特定と評価
- 従業員への教育と訓練
- 継続的にBCPを見直し改善する
具体的なリスクの特定と評価
事業に影響を及ぼす可能性のある具体的なリスクを特定し、その影響を詳細に評価します。リスクの特定は、BCPの効果的な策定に不可欠です。自社の実態に沿っていないBCPを策定してしまうと、緊急事態に遭遇しても咄嗟に動けず、適切に運用できない可能性があります。
また緊急事態にはさまざまなケースがあるため、最初からすべてを網羅しようとするのではなく、実態や実情とすり合わせながら自社に最適なBCPを策定していきましょう。
従業員への教育と訓練
実効性の高いBCP運用を実現するには、BCPを浸透させるための社内共有と教育が欠かせません。具体的には、次のような内容です。
- 社員向けのBCP教育を行う
- 緊急事態が起こったことを想定して実際にBCP訓練をする など
BCPの教育には、以下のようなものがあります。
- ディスカッションや勉強会
- 救護・防災関連講習の受講v
- 訓練(移動訓練、データバックアップ訓練など)
継続的にBCPを見直し改善する
BCPを策定したら、定期的にBCPに関するミーティングや社内教育を行い、継続的にBCPの内容をアップデートしましょう。
社会状況や自然環境は常に変動しているため、随時情報をアップデートするのが不可欠です。アップデートの頻度や条件は企業によって異なりますが、BCPをアップデートするタイミングの一例としては次のとおりです。
- 組織に大きな変革があったとき
- 顧客や取引先などが大きく変化したとき
- 中核事業を変更したとき
- システムやネットワークを大きく変更したとき
- 国や業界のガイドラインが改訂されたとき
- BCP運用担当者を変更したとき など
また、BCPに社内の安否確認を含む場合は、定期的に社員の連絡先に変更がないかを確認する必要があります。
実際にBCPを運用する際のポイント
実際にBCPを運用する際のポイントは、次の4つです。
BCPを運用する際のポイント
- 緊急事態発生時の迅速な対応
- コミュニケーションの確保
- 重要業務の優先
- 状況の見直しと適応
緊急事態発生時の迅速な対応
緊急事態が発生した際には、事前に策定されたBCPに従い、迅速に行動を開始します。事態の深刻度を評価し、適切な対応チームを即座に動員することが重要です。
このためには、事前に緊急事態における役割分担や手順を従業員に明確に伝え、定期的な訓練やシミュレーションを実施しておく必要があります。また、緊急時には迅速な情報収集とその共有が不可欠であり、適切な意思決定を行うために必要な情報を素早く把握する体制を整えておくべきです。
コミュニケーションの確保
緊急事態発生時の混乱を避けるためにも、明確で効果的なコミュニケーションが不可欠です。従業員・顧客・取引先など関係者全員に対し、事態の進行状況や必要な対応について迅速かつ正確に情報を伝達しましょう。
特に、迅速かつ正確に情報を提供することで、従業員の不安軽減や顧客からの信頼維持を図ることができます。
重要業務の優先
緊急事態においては、全ての業務を通常通りに継続することが難しいため、事業の継続に不可欠な業務や、顧客への影響が大きい業務を優先的に継続することが重要となります。
BCPにあらかじめどの業務を最優先で維持するべきかを明記しておき、必要なリソースの確保や代替手段の検討を行いましょう。
状況の見直しと適応
実際に緊急事態が起きた場合、BCPの策定時や事前訓練では予期できていなかった展開が発生することもあります。そのため、状況の変化に応じてBCPを見直し、適応させる柔軟性が求められます。
継続的な状況分析と評価を行い、必要に応じて対応策を調整することで、より実践的なデータを集めたBCPの作成が可能です。
実際に災害に遭った場合の運用の流れ
実際に災害に遭遇した場合、以下のステップでBCPを運用していきましょう。
実際の運用の流れ
- 緊急事態の評価と情報収集
- 緊急対応の活動開始
- 内部及び外部とのコミュニケーション確立
- 重要業務の継続または再開
- 復旧プロセスの実行
- 定期的な状況評価と調整
- 事態の収束とレビュー
1.緊急事態の評価と情報収集
災害発生時、まずは状況を迅速に評価し、必要な情報を収集します。災害の種類・規模・影響範囲・従業員の安全状況などを把握することに努めましょう。
2. 緊急対応の活動開始
BCPに定められた役割ごとに、緊急対応を開始します。
3.内部および外部とのコミュニケーション確立
災害発生に伴う重要な情報を従業員・顧客・取引先・関係機関に迅速に伝達します。情報は正確に伝達し、パニックや誤解を避けるためにも定期的に発信していく必要があります。
4.重要業務の継続または再開
従業員の安全が確保できたあとは、事前に決めておいた核となる事業の継続・再開を行います。
5.復旧プロセスの実行
重要業務が上手く稼働していれば、徐々にリソースを割き、災害の影響を受けた施設やシステムの復旧作業を開始しましょう。
6.定期的な状況評価と調整
災害対応は動的なプロセスであるため、定期的に状況を評価し、必要に応じて計画を調整します。これにより、現実の状況に合わせて最適な対応を続けることができます。
7.事態の収束とレビュー
事態が収束した後は、実施した対応をレビューし、今後の計画の改善点を特定します。経験から学び、次回の災害に備えるための対策を強化することがBCPでは重要です。
まとめ
BCPは、会社全体を守るための重要な計画です。自社に合ったBCPを策定するためにも、まずは会社がなぜBCPを策定するのか、自社にとって必要なBCPは何かという部分を明確にしたうえで進める必要があります。
災害が多い日本だからこそ、万が一緊急事態に直面しても従業員が安心して事業を継続できるため、平常時からBCPの必要性を認識することが重要だといえるでしょう。
よくある質問
BCPとは?
企業が緊急事態に遭遇した際に、重要な業務を継続・早期復旧させるための事業計画のことです。
詳しくは記事内「BCPとは」をご覧ください。
BCPを策定するメリットは?
メリットは以下4つです。
- 倒産リスクを回避できる
- 顧客離れのリスクを回避できる
- 企業の信用度を高めることができる
- 改めて業務内容を確認できる
詳しくは記事内「BCPを策定するメリット」をご覧ください。