監修 松浦絢子 弁護士
下請けGメンは親事業者と下請事業者の取引適正化へ向けて配置された調査員です。下請けGメンの概要や創設された背景、訪問調査の内容を解説します。
近年、原材料費や光熱費の高騰により、親事業者との価格交渉などで難しい交渉を迫られるケースも見受けられます。
下請けGメンの概要や下請法で禁じられている行為などを知り、日々の取引の適正化に取り組みましょう。
下請法についてより知りたい方は、「下請法とは?守るために発注者側がやらないといけないこととは」で解説しています。
目次
下請けGメン(取引調査員)とは?
下請けGメンとは、業務を受注する下請などの中小企業者にヒアリングを行い、適正な取引が実施されているかを調べる調査員です。正式には「取引調査員」と呼ばれています。
下請けGメンの制度は2017年から開始されました。不適切な取引事例が発見された場合、監督する中小企業庁は発注者や業界団体などに働きかけを実施します。
出典:中小企業庁「取引調査員(下請Gメン)による訪問調査について」
なお、親事業者の下請事業者に対する不適切な行為は、下請法(下請代金支払遅延等防止法)で厳しく取り締まられています。
下請法の違反行為に関しては「知らなかったでは困る!下請法の違反行為とそれに対する罰則とは」をご確認ください。
下請けGメンの人数は順次増員されている
下請けGメンは、2017年の発足当初は全国に80名規模で配置されました。以降、下請けGメンの人員は増員され、2021年には120名(年間ヒアリング件数約4,000件)、2022年には248名(年間ヒアリング件数約1万件)に増加しています。
2021年から2022年にかけて下請けGメンが倍増した理由は、ウクライナ情勢の影響で原材料費が高騰した点が一因です。2023年1月からは300名体制がとられ、取引の実態把握が進められています。
下請けGメンが創設された背景
下請けGメンが創設された背景には、以下が挙げられます。
下請けGメンが創設された背景
● 親事業者と下請事業者間の「取引の適正化」● 双方の「付加価値の向上」
● サプライチェーン全体の取引環境の改善を行いたい国の要請
その後、下請法の運用基準や下請振興法の振興基準を改正するなど、取引適正化に向けた環境整備を行っています。
ただし、環境整備が行われても、実効性が伴わなければ目的は達成できません。そこで国は下請けGメンを始めとするきめ細やかな調査を実施し、取引の適正化などの浸透・徹底を図っています。
下請けGメンによる訪問調査
下請けGメンは、秘密保持を前提として、下請の中小企業者に訪問調査を実施しています。
訪問調査では、取引に関する問題をヒアリングしています。内容は「発注単価の一方的な引き下げが行われていないか」「光熱費や原材料費が高騰しているにもかかわらず、値上げに応じない対応がなされていないか」などです。
問題事案を把握した場合には、必要に応じて発注者や業界団体、所轄省庁に働きかける仕組みです。
なお、2017年の下請けGメンの創設以降、訪問調査でさまざまな問題事例が把握されてきました。下記では、項目別に訪問調査で把握された具体的な事例を紹介します。
訪問調査で把握された項目別の具体的な事例
● 価格決定● 支払条件
● 型取引
● 働き方改革
● 知的財産
訪問調査で把握された具体的な事例①価格決定
取引価格の決定に関しては、「発注予定額の〇〇%」など一律に合理性のない引き下げを要請された事例が報告されています。
そのほか、毎年原価低減要請の一覧が送られ、赤字になる部品でも値上げに応じてくれない事例もヒアリングで判明した一例です。
なお、不当な値下げ要求に関しては「値下げ要求は下請法や独占禁止法に違反する?インボイス制度開始後の注意点も解説」でまとめています。あわせてご確認ください。
訪問調査で把握された具体的な事例②支払条件
下請けGメンの訪問調査では、「下請代金の支払いが手形であり、お金の受け取りまで数ヶ月かかってしまう」事例や「下請法で禁止されている歩引きの慣習が現在も続いている」事例などが報告されています。
下請法は、支払期日などの条件で優越的な地位を濫用した不当な要求を禁じています。下請法の支払期日の詳細は「下請法の支払期日とは?問題となるのはどのような場合?具体例とともに解説」をご覧ください。
訪問調査で把握された具体的な事例③型取引
商品の製造で用いられる金型や木型などの型取引では、「金型の返却や保管料の負担に対応してもらえない」事例や「100型ほどの未稼働の金型を負担金なしで保管している」事例などが把握されています。
型の製造や保管は無償で行えるものではありません。下請事業者へのコスト負担の押しつけは、下請けGメンの調査対象のひとつです。
訪問調査で把握された具体的な事例④働き方改革
働き方改革で時間外労働の上限規制がなされたにも関わらず、親事業者から下請事業者への一方的な要望で、下請事業者に負担がかかっている事例も散見されます。
たとえば、納品後の証明書類などの提出を無償で求められ、従業員の残業が増えているケースはその一例です。また、短納期発注が増えたにもかかわらず、割増料金が支払われない事例も報告されています。
訪問調査で把握された具体的な事例⑤知的財産
知的財産に関しては、「注文書にない設計データや金型図面の無償提供を求められている」事例や「親事業者にノウハウを無断で使用された」事例が調査で判明しています。
なお、知的財産分野では新たに「知財Gメン」が創設され、取引の実態把握に活用されています。
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まとめ
下請けGメンは親事業者と下請事業者の取引の適正化に向け、下請事業者の訪問調査を行っています。把握された問題事例は、国の法律や基準、業界のガイドラインなどへ反映されます。
下請けGメンは、法改正や業界団体の自主行動計画が現実の取引に反映されているかを確認する大切な制度です。
下請けGメンの訪問調査を受けたときは、自社で行われている取引を見直し、問題部分を相談しましょう。
よくある質問
下請けGメンとは??
下請けGメンとは下請事業者を調査し、適正な取引が行われているか確認する調査員です。
下請けGメンを詳しく知りたい方は「下請けGメン(取引調査員)とは?」をご覧ください。
下請けGメンによる訪問調査とは?
下請けGメンは秘密保持を前提に下請事業者へヒアリングを行い、問題のある取引がなされていないか調査しています。
訪問調査の内容を詳しく知りたい方は「下請けGメンによる訪問調査」をご覧ください。
監修 松浦絢子(まつうら あやこ) 弁護士
松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、金融取引など幅広い相談に対応している。さまざまなメディアにおいて多数の執筆実績がある。