受発注の基礎知識

知らなかったでは困る!下請法の違反行為と事例集を紹介

監修 谷 直樹 弁護士

知らなかったでは困る!下請法の違反行為と事例集を紹介

下請法(下請代金支払遅延等防止法)とは、取引上の立場が優位になりやすい発注者側の事業者が、下請事業者と不当な取引を実施することを防ぐために制定された法律です。

発注者が下請事業者を不当に低い報酬で働かせたり、下請代金の支払いを不当に遅らせたりした場合は、下請法違反として勧告措置や罰金刑となる可能性があります。

本記事では、下請法にて定められた禁止事項、下請法違反による具体的な罰則、発注前に確認したい下請法違反とならないためのチェックポイントなどを解説します。

目次

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下請法とは?

下請法とは、資本力や影響力が強い親事業者(発注者側)による、下請事業者(受注者側)への優越的地位の濫用を取り締まる目的で制定された法律です。

優越的地位の濫用とは、取引上の地位が相手よりも有利にある事業者が、その地位を利用して下請事業者へ不当に不利益を与える行為を意味します。立場が弱い取引先に対して「業務内容に対して、著しく低い報酬で働かせる」「不当な理由で納品物を受け取らず、報酬も支払わない」などが該当します。

優越的地位の濫用は、独占禁止法(私的独占の禁止および公正取引の確保に関する法律)によって禁止されている取引方法です。しかし独占禁止法では違反と認定するハードルが高いという問題があったことから、独占禁止法の補完法として下請法が誕生しました。

【関連記事】
下請法とは?守るために発注者側がやらないといけないこととは

下請取引に該当するかの判断基準とは

下請法が適用される事業者および取引の範囲は「資本金額」と「取引内容」の2つから定められています。

資本金額とは、資本金額または出資の総額のことです。親事業者と下請事業者のどちらかのみではなく、両方の事業者が基準を満たしたうえで特定の取引を行うと、下請法の対象となります。

資本金額の区分

発注者側と受注者側の資本金の組み合わせが下記のとおりになると、両事業者が下請法上の親事業者と下請事業者に定義され、下請法が適用されます。


「一部の情報成果物作成委託・役務提供委託」および「物品の製造委託・修理委託」の場合

  • 資本金「3億1円以上」の事業者が、資本金「3億円以下」の事業者に委託するとき
  • 資本金「1,000万1円以上3億円以下」の事業者が、資本金「1,000万円以下」の事業者に委託するとき

上記のものを除いた情報成果物作成委託・役務提供委託の場合

  • 資本金「5,000万1円以上」の事業者が、資本金「5,000万円以下」の事業者に委託するとき
  • 資本金「1,000万1円以上5,000万円以下」の事業者が、資本金「1,000万円以下」の事業者に委託するとき

たとえば、修理委託の取引で「資本金2億円の事業者」が「資本金2,000万円の事業者」へ発注する場合は、資本金に10倍の差があっても受注者側が下請事業者の要件を満たせていないので、下請法の対象外になります。

なお、「一部の情報成果物作成委託・役務提供委託」とは、プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管および情報処理にかかるものが該当します。

取引内容の区分

下請法の規制対象となる取引内容は、製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託の4種類に分けられます。

製造委託

製造委託とは、物品の販売や製造を請け負っている事業者が、ほかの事業者に規格・デザインなどを指定したうえで物品の製造や加工などを委託する行為です。また、物品の修理を請け負う事業者がその物品の修理に必要な部品・原材料の製造を、ほかの事業者に委託する取引も含まれます。

「自動車メーカーが自動車の部品の製造を部品メーカーに委託する」などの取引内容が、製造委託になります。

ただし、物品の区分には不動産が含まれません。また建設工事の再委託は建築業法にて規定があるため、下請法の対象外となります。

修理委託

修理委託とは、外部から物品の修理を請け負っている事業者や、自社で使用する物品を自社で修理している事業者が、ほかの事業者に修理業務を委託する行為です。

自動車ディーラーが請け負った自動車の修理作業を、外部の修理会社に委託するなどの取引は下請法の対象です。

機能の回復が必要なく正常に動いている物品の点検やメンテナンスは、修理委託の対象ではありません。役務提供委託に該当します。

情報成果物作成委託

情報成果物作成委託とは、ソフトウェア開発やデザインなどの情報成果物の提供や作成を行う事業者が、ほかの事業者へ作成作業を委託する行為です。

具体的には、ソフトウェア・メーカーがゲームやアプリケーションの開発を、ほかのソフトウェア・メーカーに委託する場合に該当します。

たとえばアニメーション製作業者が、アニメ製作委員会から作成を請け負い、アニメーション原画を個人のアニメーターへ委託する場合などは情報成果物作成委託に当てはまります。

役務提供委託

役務提供委託とは、物品の運送やビルのメンテナンスなどの各種サービスの提供を行う事業者が、その提供の全部または一部をほかの事業者へ委託する行為です。

たとえば、自動車メーカーが自動車のメンテナンス作業を、外部の整備会社に委託する場合などが役務提供委託にあたります。

【関連記事】
下請法の対象取引は?親事業者・下請事業者の定義や禁止事項を解説

下請法違反に相当する禁止行為

下請法には、下請法違反に相当する禁止行為が親事業者に対して設けられています。

親事業者がフリーランスなどの下請事業者へ業務を委託する場合は、下請法で禁止されている以下11項目に該当しないように注意しましょう。

11項目の下請法違反に相当する禁止行為

  • 買いたたき
  • 代金の減額
  • 代金の支払遅延
  • 受領拒否
  • 不当返品
  • 物の購入強制・役務の利用強制
  • 有償支給原材料等の対価の早期決算
  • 割引困難な手形の交付
  • 不当な経済上の利益の提供要請
  • 不当な給付内容の変更・やり直し
  • 報復措置

1.買いたたき

「買いたたき」とは、通常得られるはずの一般的な下請代金よりも、著しく低い金額を不当に定める行為です。通常得られるはずの一般的な下請代金とは、同種または類似品などの市価を意味します。

短納期での発注で通常よりもコストが発生したにもかかわらず、増加したコスト分の代金を支払わない行為も買いたたきに含まれます。また、優位な立場を利用して納品後に下請代金を決定することも該当します。下請代金は、親事業者・下請事業者での事前協議のうえで定めるようにしましょう。

買いたたきに当てはまるケース


  • 親事業者が下請事業者に対して商品を1個・5個・10個製造する場合の見積もりを依頼し、10個製造する場合の単価で1個のみを発注した
  • 下請事業者に製造を発注している部品の量産が終了し、補給品のみの少量発注にとどまっているにもかかわらず、一方的に量産時の製造単価のままで発注を続けている

2.代金の減額

代金の減額とは、下請事業者に責任がないにもかかわらず発注時に提示した金額から減額する行為です。

協賛金の徴収、原材料価格の下落、名目、方法、金額、下請事業者の同意の有無といった状況に関係なく禁止されています。

代金の減額に該当するのは、消費税・地方消費税相当分の不払、発注時の金額からの著しい減額、下請金額を変更せずに納品量のみ増加などです。

2004年度以降に勧告・公表された事件は、ほとんどが代金の減額に該当するものであり、禁止行為の大多数を占めています。

代金の減額に当てはまるケース


  • 「製品を安値で受注した」との理由で、あらかじめ定められた下請代金から一定額を減額した
  • 1ヶ月分の下請代金を納品締切日(月末)から90日後に現金で支払っていたが、下請法違反であるとの指摘を受け、 60日間早めて翌月末に支払うこととした。しかし同社はその後、支払期日を早めたことを理由として下請代金を減額した

3.代金の支払遅延

代金の支払遅延とは、親事業者が物品を受領後60日以内に代金を支払わない行為です。下請法においては社内検査などの理由があっても、受領日から60日を超えて下請代金を遅延してはなりません。「60日ルール」とも呼ばれています。

たとえば金融機関の休業日が支払日だった際に、下請事業者の同意を得ずに翌営業日に支払いを延期する行為も違反となります。厳密にチェックされるため、必ず支払いが遅れないようにしましょう。原則としてはできる限り短い期間内において、下請代金の支払日を定めます。

もし60日ルールが守れなかったときは、受領日の60日経過後から実際に支払った日までに経過した日数に、年率14.6%を乗じた遅延利息の支払いが必要です。

2023年2月には60日を超える手形等により下請代金を支払っているとした親事業者約6,000名に対して、可能な限り速やかに手形等のサイトを60日以内に短縮を求める要請を行ったと公正取引委員会より公表されました。下請法等の運用強化に向け、更なる見直しが進められています。

代金の支払遅延に当てはまるケース


  • 自動車部品の製造を下請事業者に委託しているところ、毎月25日納品締切、翌々月5日支払の支払制度を採っているため、下請事業者の給付を受領してから60日を超えて下請代金を支払っていた
  • 下請事業者にプログラムの作成を委託し、検収後に支払いを行うルールを採用しているところ、納入されたプログラムの検査に3ヶ月を要したため、納入後60日を超えて下請代金を支払っていた

4.受領拒否

受領拒否とは下請事業者に落ち度がないにもかかわらず、親事業者が納品物を受け取らず代金も支払わない行為です。

また、親事業者が納期を延期したり発注を取り消したりなどを行い、発注時に定められた納期に下請事業者の納品物を受け取らない場合も受領拒否に該当します。

受領拒否とならないのは、「3条書面(下請法3条に定められた項目を記載した書面)の条件を満たした発注書に明記された委託内容と異なる場合」、「納品物に瑕疵等がある場合」、「3条書面に明記した納期に納品が行われない場合」などが該当します。

受領拒否に当てはまるケース


  • 下請事業者に部品の製造を委託し、これを受けて下請事業者がすでに受注部品を完成させているにもかかわらず、自社の生産計画を変更したという理由で、下請事業者に納期の延期を通知し、当初の納期に受領しなかった
  • 下請事業者にシステムプログラムの開発等を委託していたが、仕様を変更したことを理由として、あらかじめ定めた納期に下請事業者が当初の仕様にしたがって開発したプログラムを受領しなかった

5.不当返品

不当返品とは、下請事業者に責任がないにもかかわらず、納品された物品を返品する行為です。

親事業者が決められた受入検査を行わないのに、不良品が見つかったとして返品する行為や、すぐには見つからない欠陥があっても受領から6ヶ月が過ぎてからの返品は、不当返品となり得ます。

一方で、「3条書面に明記された委託内容と異なる場合」、「納品物に瑕疵があって速やかに引き取らせる場合」、「納品物の検査をロット単位の抜取りによって行っている継続的な下請取引で、下請代金の最初の支払時までに引き取らせる場合(特定の条件下のみ)」は、返品が認められます。 。

不当返品に当てはまるケース


  • 自己のブランドを付した衣料品を下請事業者に作らせ納入させているところ、シーズン終了時点で売れ残った分を下請事業者に引き取らせた
  • 受領した商品の検査を自社で行わず、かつ下請事業者に対して当該検査を文書で委任していない場合に、受領後に不良品であることを理由として、下請事業者に引き取らせた

6.物の購入強制・役務の利用強制

物の購入強制・役務の利用強制とは、正当な理由なく親事業者の指定する物品を強制的に購入させたり、利用させたりする行為です。

物品だけではなく、保険、リース、インターネットプロバイダーなどのサービスの利用強制も対象となります。一方で、発注する物品の品質を維持するためといった正当な理由がある場合は、下請事業者へ購入や役務の提供を促せます。

物の購入強制・役務の利用強制に当てはまるケース


  • 自社製品の販促キャンペーンを実施するにあたり、下請事業者も販売の対象とし、購買・外注担当者を通じて下請事業者に自社製品の購入を再三要請し、購入させた
  • 下請事業者に対して親事業者が指定するリース会社から工作機械のリース契約を締結するように要請。下請事業者はすでに同等の性能の工作機械を保有していることから、リース契約の要請を断ったにもかかわらず再三要請し、リース会社とのリース契約を締結させた

7.有償支給原材料等の対価の早期決済

有償支給原材料等の対価の早期決済とは、有償支給する原材料等で下請事業者が物品の製造等を行っている場合に、下請事業者が納品するまでの期間を考慮せずに有償支給した原材料の代金を、下請代金から控除したり支払わせたりする行為です。

支払日より早く支給した原材料等の対価を支払わせると下請事業者の利益を害してしまうため、行ってはいけません。

対価の早期決済に当てはまるケース


  • 有償で支給している原材料の対価について、加工期間を考慮せず、原材料を用いた給付にかかる下請代金の支払期日よりも早い時期に、支払うべき下請代金の額から控除した
  • 半年分の原材料をまとめて買い取らせ、原材料を用いた給付にかかる下請代金の支払期日よりも早い時期に原材料の代金を決済した

8.割引困難な手形の交付

割引困難な手形の交付とは、代金を手形で支払う際に、一般の金融機関で割引が困難な手形を交付する行為です。

具体的には、繊維業は90日、そのほかの業種は120日を超える長期の手形が、割引困難な手形と定義されています。

手形サイトについては、2024年を目途に見直しが検討されています。サイトが60日を超える手形等が下請法の割引困難な手形等に該当するおそれがあるものとされ、指導の対象となる見込みです。

割引困難な手形の交付に当てはまるケース


  • 製造業の下請事業者に対して、120日間を超える手形を交付した

9.不当な経済上の利益の提供要請

不当な経済上の利益の提供要請とは、親事業者が自己のために下請事業者に対して優先的に発注するなどと伝え、現金やサービスなどを親事業者へ提供させる行為です。

この行為には、協賛金や従業員の派遣などの要請も含まれます。また、下請事業者に発生した知的財産権を作成の目的の範囲を超えて無償で譲渡・許諾させることも、不当な経済上の利益の提供要請にあてはまります。

ただし、下請事業者が直接の利益を得られるものであり、下請事業者の自由意志で提供する場合は該当しません。

不当な経済上の利益の提供要請に当てはまるケース


  • 食料品の製造を委託している下請事業者に対し、年度末の決算対策として協賛金の提供を要請し、親事業者の指定した銀行口座に振込みを行わせた
  • 建設機械部品等の製造を委託している下請事業者に対し、委託内容にない金型設計図面等を無償で譲渡させた

10.不当な給付内容の変更・やり直し

不当な給付内容の変更・やり直しとは、下請事業者の責めに帰すべき理由がないにもかかわらず、親事業者が費用の負担をせずに発注内容を変更してやり直しをさせる行為です。

給付内容の変更や取消をした場合は、親事業者がその内容を記載した書面を下請事業者へ交付し、下請法5条に基づいて作成・保存する必要がある書類の一部として保存します。仕事内容を変更した場合は、それに伴う費用を支払いましょう。

一方で納品物が委託内容と異なっていたり、下請事業者の瑕疵があったりなどの状況が合理的に判断されたときは、給付内容の変更ややり直しが認められる場合があります。

不当な給付内容の変更・やり直しに当てはまるケース


  • 下請事業者に部品の製造を委託し、下請事業者がすでに原材料等を調達しているにもかかわらず、輸出向け製品の売行きが悪く製品在庫が急増したという理由で、下請事業者が要した費用を支払うことなく発注した部品の一部の発注を取り消した
  • すでに一定の仕様を示して下請事業者にソフトウェアの開発を委託していたが、最終ユーザーとの打ち合わせの結果、仕様が変更されたとして途中で仕様を変更。このため、下請事業者が当初の指示にもとづいて行っていた作業が無駄になったが、当初の仕様に基づいて行われた作業は納入されたソフトウェアとは関係がないとし、作業に要した費用を負担しなかった

11.報復措置

禁止行為に該当する行為を親事業者が行った場合に、下請事業者が公正取引委員会や中小企業庁に報告するケースがあります。

報復行為とは、下請法違反の報告を理由として、親事業者が今後の取引数量を削減したり、取引停止したりする行為です。

報復措置に当てはまるケース


  • 下請事業者に下請代金支払が60日を超えたことを報告されたため、親事業者側の信頼を損ねたとして契約途中で契約を破棄した
  • 下請法違反を報告されて勧告措置と公表が行われたことから、低下した企業の評判を数値で概算し、その分だけ次回以降の下請代金から控除した

下請法の違反事例集

下請法違反が認められた親事業者は、公正取引委員会から勧告・指導措置が行われます。勧告が行われると公正取引委員会の公式サイトにて、親事業者の名称や違反事実の概要、勧告の概要が公表されます。

ここでは、実際に公表されている下請法の違反事例を紹介します。

「買いたたき」の事例

親事業者である大手電動工具メーカーのH社は、子会社や卸売業者に販売する電動工具向けホースカバーセットの製造を下請事業者に委託していました。

下請事業者が単価の引き上げを求めたところ、親事業者は実際には存在しない単価引き上げ計画を説明し、製造原価未満の新単価を下請事業者に受け入れさせています。結果として同種・類似の取引内容と比較すると、著しく低い下請代金を不当に定めていました。

この買いたたきの事例では、下請事業者が掲示した見積単価を用いて計算した代金との差額が総額約300万円にものぼっています。


出典:公正取引委員会「下請法勧告一覧(令和4年度)」

「代金の減額」の事例

自動車メーカーから自動車部品の製造を請け負っていたM社は、自動車部品の製造を下請事業者に委託していました。しかし、M社は下請事業者が購入した原材料を加工する際に生じる鉄スクラップについて、下請事業者が鉄スクラップを売却すれば得られた対価の一部を、屑費と称して下請事業者への下請代金から差し引いています。

2022年5月~2023年6月の約1年間で行われた代金の減額によって減額された金額は、下請事業者5名に対して総額約6,200万円にものぼります。


出典:公正取引委員会「下請法勧告一覧(令和5年度)」

「不当な経済上の利益の提供要請」の事例

半導体製品の部品や付属品の製造を下請事業者に委託していたS社は、下請事業者に対して長期間発注をせず具体的な次回の発注時期も示していなかったにもかかわらず、下請事業者へ合計386型の金型を無償で保管させていました。

また、保管期間中には金型に対して年2回の棚卸し作業を、下請事業者に無償で行わせています。

保管期間は2021年7月~2023年10月と2年以上にわたっており、2022年4月~2023年5月までの間には、386型のうち167型が廃棄されています。下請事業者からは、事前に廃棄の要請等の希望が伝えられていました。

役務の無償提供等が不当な経済上の利益の提供要請に該当し、下請事業者16名に対して総額約1,137万円の費用相当額となっています。


出典:公正取引委員会「下請法勧告一覧(令和5年度)」

「不当返品」の事例

消費者に販売する日用雑貨品や家具の製造を下請事業者へ委託していたN社は、下請事業者から製品を受領した後、受入検査を行っていないにもかかわらず製品の瑕疵を理由に下請事業者へ引き取らせていました。

不当返品は2021年2月~2022年12月まで行われ、下請事業者181名に対して総額約4,042万円もの下請代金相当額と算出されています。


出典:公正取引委員会「下請法勧告一覧(令和4年度)」

下請法に違反した場合はどうなる?

親事業者が下請法に違反すると、勧告・指導だけでなく刑事罰に科される可能性があります。また、勧告にともなう社会的信用の低下のリスクも考えられます。

罰金を科される

親事業者が下請法に違反すると、下請法第10条に基づき、50万円以下の罰金刑が科される可能性があります。

罰金刑が科される可能性があるケース

  • 下請法3条に規定された下請事業者への書面交付義務を怠ったとき
  • 下請法5条に規定された作成・保存をしない、または虚偽の記録を作成したとき
  • 公正取引委員会や中小企業庁の検査の忌避、または虚偽の報告をしたとき

また下請法違反によって下請事業者へ損害が出た場合は、損害賠償請求といった民事上での争いが発生する可能性があります。

社会的信用を失う

下請法違反によって勧告を受けた場合、公正取引委員会によって違反内容や企業名などが公表されます。

勧告を受けて違反事実を公表された企業は、取引先や消費者から「下請事業者を不当に扱った事業者」と判断されてしまうため、これまで積み上げてきた社会的信用を失うかもしれません。違反内容が悪質な場合は業界内で風評が広まり、新規契約ができず業績が悪化して経営が難しくなる可能性があります。

親事業者は、下請法違反をしないような公正な取引を心がけましょう。

下請法に違反しないためのチェックポイント

下請法違反は、発注担当者の確認ミスや理解不足があると意図せずに発生する可能性があります。下請法に違反しないためには、発注時に注意したいチェックポイントの確認を推奨します。

下請法に違反しないためのチェックポイント

  • 発注書を交付しているか
  • 下請代金の支払いが遅延していないか
  • 下請代金が不当に低い金額になっていないか
  • 発注金額から減額して支払っていないか

発注書を交付しているか

親事業者が下請事業者へ発注するときは、発注時点で直ちに発注書の書面を交付しなければなりません。発注時は、下請事業者への発注書の交付を忘れていないかを確認しましょう。

また発注書には、下請法3条に規定された項目をすべて記載しなければなりません。発注書に下請代金の金額、支払期日、支払方法などが記載されているかも、事前に確認が必要です。

【3条書面に記載すべき具体的事項】

  1. 親事業者及び下請事業者の名称(番号,記号等による記載も可)
  2. 製造委託,修理委託,情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日
  3. 下請事業者の給付の内容(委託の内容が分かるよう,明確に記載する。)
  4. 下請事業者の給付を受領する期日(役務提供委託の場合は,役務が提供される期日又は期間)
  5. 下請事業者の給付を受領する場所
  6. 下請事業者の給付の内容について検査をする場合は,検査を完了する期日
  7. 下請代金の額(具体的な金額を記載する必要があるが,算定方法による記載も可)
  8. 下請代金の支払期日
  9. 手形を交付する場合は,手形の金額(支払比率でも可)及び手形の満期
  10. 一括決済方式で支払う場合は,金融機関名,貸付け又は支払可能額,親事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関へ支払う期日
  11. 電子記録債権で支払う場合は,電子記録債権の額及び電子記録債権の満期日
  12. 原材料等を有償支給する場合は,品名,数量,対価,引渡しの期日,決済期日,決済方法

下請代金の支払いが遅延していないか

親事業者は、60日ルールなどに則った下請代金の支払期日の指定や、下請代金の支払いを行う必要があります。商品の受領日や役務の提供日から起算して60日以内に支払期日を定め、支払期日までに全額を支払いましょう。

もし下請事業者からの請求書提出が遅れても、下請代金の支払いを遅延させてはなりません。支払期日が金融機関の休業日で当日支払いが難しいとき、翌営業日に支払う場合はあらかじめ書面で合意しておく必要があります。ただし、順延日数が2日以内の場合に限ります。

また、60日ルールを遵守したうえで、締切日から30日以内(毎月25日納品締切・翌月25日支払など)には全額支払いを行います。

下請代金が不当に低い金額になっていないか

発注前には、発注者側が掲示している下請代金が、不当に低い金額になっていないか確認が必要です。「見積時よりも発注内容が増加しても下請代金は据え置き」「短納期発注時に下請事業者の費用増は考慮しない」「大量発注で割引してもらった金額のまま、少量のみ発注する」といった場合も、下請法違反となる可能性があります。

特に近年では、原材料や労務費などのコストが上昇傾向にあるため、下請事業者も上昇幅に応じた契約を求めています。コスト上昇分についての協議は、親事業者から積極的に場を設けるようにしましょう。

また、コスト上昇分を考慮した取引を下請事業者から求められたときに価格転嫁しないときは、うやむやにせずに、価格維持の理由を書面や電子メールで回答してください。

発注金額から減額して支払っていないか

下請事業者との書面上の合意がないうえに下請事業者に責任がないにもかかわらず、発注時に定めた下請代金から減額した金額を支払うのは禁止されています。

また、発注時に発生する振込手数料は、書面での合意がない限りは親事業者が負担しなければなりません。

まとめ

下請法は、立場的に優位な親事業者による下請事業者への買いたたき、代金の減額、不当返品などの不公平な取引を抑制するために制定されました。

下請法に違反すると、勧告後に違反事実が公表されたり、50万円以下の罰金刑が科されたりなどのペナルティがあります。また違反事実公表に伴い、社会的信用を失うリスクもあります。

親事業者として下請事業者へ業務を委託するときは、下請法における禁止行為や違反事例をチェックし、下請法に違反しないよう適切な取引を行いましょう。

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法令への対策が万全

近年、発注側の企業がフリーランスや業務委託先に対して優越的地位を濫用するリスクを防ぐため、下請法やフリーランス保護新法(2024年11月1日施行予定)にもとづく適切な発注対応が求められています。また、インボイス制度や電子帳簿保存法の要件を満たす書類の発行・保存も不可欠です。

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よくある質問

下請法で禁止されている違反の具体例は?

下請法の違反行為である「代金の減額」の例としては、たとえば親事業者が「顧客から製品を安値で受注した」という理由で、下請事業者の了承を得ることなく、あらかじめ定めた下請代金から減額するケースなどが挙げられます。

実際に公正取引委員会が公表している下請法の違反事例は、記事内の「下請法の違反事例集」で紹介しています。

下請法に違反した場合はどうなる?

下請法に違反すると、刑事罰に科される可能性があるとともに、勧告にともなう社会的信用低下のリスクもあります。

詳しくは記事内の「下請法に違反した場合はどうなる?」をご覧ください。

下請法に違反しないためには?

下請法に違反しないためには、特に以下の4点に注意する必要があります

  • 発注書を交付しているか
  • 下請代金の支払いが遅延していないか
  • 下請代金が不当に低い金額になっていないか
  • 発注金額から減額して支払っていないか

詳しくは記事内の「下請法に違反しないためのチェックポイント」をご覧ください。

監修 谷 直樹 弁護士

長崎県弁護士会所属弁護士。中小企業・個人事業主向けの経営相談窓口である「長崎県よろず支援拠点」に相談員として在籍し経営に関する法律問題について相談対応を行う。

監修者 谷 直樹

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