受発注の基礎知識

下請いじめとは?具体的な事例や防止策、実際に起こった場合の相談先を紹介

監修 安田 亮 公認会計士・税理士・1級FP技能士

下請いじめとは?具体的な事例や防止策、実際に起こった場合の相談先を紹介

下請いじめとは、発注側が優越的な地位を利用し、受注側に不当な要求をする行為です。下請いじめは下請法に違反します。

違法性の意識がなくても、知らずに違反している場合もあるかもしれません。どのような行為が下請法違反に該当し、下請いじめを受けた場合にどう対処したら良いか知っておくと、外部の会社と取引する際に役立つでしょう。

本記事では、下請いじめの意味や下請法の内容、具体的な事例や下請いじめを防ぐためのポイントなどを解説します。

目次

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下請いじめとは?

下請いじめとは、一般的に業務を発注する側が優先的な地位を使って下請会社に不当な要求をする行為を指します。

たとえば、大手スーパーが納入業者に対して協賛金を求めたり、不当な返品をしたりするケースなどはその一例です。

また、近年では働き方改革の推進で「時間外労働の上限規制」や「年5日の年次有給休暇の確実な取得」が制定され、企業では長時間労働の削減が求められています。

業務をこなす時間が確保できず、発注先に短納期発注など無理な要求をする「しわ寄せ」が生じているケースもあります。

下請いじめは、下請法(下請代金支払遅延等防止法)や独占禁止法に抵触する違法行為です。下請法に違反した場合には、公正取引委員会から勧告を受け、勧告された企業名や下請いじめの内容が公表されます。

下請法が適用される条件

下請法では、下請取引を「取引の内容」と「発注する側と受注する側の資本金」の2つの側面から定めています。

下請法の対象となる取引内容は、物品の製造委託や修理委託、情報成果物作成委託や役務提供委託です。情報成果物作成委託はソフトウェアやコンテンツの作成など、役務提供委託はビルメンテナンスや配送などがあります。

取引内容の性質に応じて、親事業者(※)の資本金の規模と下請会社の資本金の規模が定められています。下請法の対象の詳しい内容は下記の記事でわかりやすくまとめているので、ぜひ参考にしてください。

(※)下請法では、一定規模以上の発注者を「親事業者」と呼びます。会計用語の「親会社」とは全く異なる概念です

【関連記事】下請法の対象取引は?親事業者・下請事業者の定義や禁止事項を解説

下請いじめの具体的な事例

下請いじめの具体的な例は、下請法で定められている禁止行為が参考となります。下請法では、下記の11項目を発注する親事業者の禁止行為と定めています。

禁止行為内容
受領拒否発注した商品を納品時に受取拒否する
下請代金の支払遅延下請法が定める支払期日(受領日から60日以内の定められた支払期日)に代金を支払わない
下請代金の減額発注時に取り決めた代金を一方的に減額する
返品納品した成果物が理由なく返品される
買いたたき下請代金が一般的な市場価格から不当に低い金額に設定される
購入・利用強制自社製品を含む商品やサービスを強制的に購入・利用させる
報復措置下請会社が公正取引委員会や中小企業庁に通報したことを理由に、取引の削減や中止を行う
有償支給原材料などの対価の早期決済親事業者から有償で支給された原材料について、下請代金と相殺したり、早期の決済を求めたりする
割引困難な手形の交付下請代金を金融機関での割引が難しい手形で支払う
不当な経済上の利益の提供要請取引継続などをちらつかせ、親事業者が下請会社に金銭や労務の提供を求める
不当な給付内容の変更および不当なやり直し下請会社に責任がないにもかかわらず、不当に発注内容の変更ややり直しを求める


出典:公正取引委員会「親事業者の禁止行為」

上記の禁止行為が行われた場合、下請会社が同意していても下請法違反となります。

以下では、実際に「下請代金の減額」や「返品」がなされた事例を紹介します。 なお、支払期日の遅延の禁止は下請法により定められた義務です。下請法の支払期日の詳細は下記で解説しています。

【関連記事】下請法の支払期日とは?問題となるのはどのような場合?具体例とともに解説

下請代金が減額された事例

ある洋服ブランドでは、服の製造業者に対して、配送が不要にも関わらず物流費や物流業務委託料を設定し、下請代金の額から減額していました。減額した物流費などの総額は約7,094万円にのぼります。

下請法では、発注時に定めた下請代金の減額を全面的に禁止しています。上記の洋服ブランドが行った下請代金の減額は下請法違反と認められ、洋服ブランドは公正取引委員会から「減額を今後行わない」とする取締役会決議の実施と、遵法体制の整備を勧告されました。

不当に商品が返品された事例

ある靴販売メーカーでは、業者が納品した製品や部材に対し検査を行っていないのに返品を行いました。返品された製品や部材の総額は約1,147万円にのぼります。下請会社にとっては不当な負担が課される状況となっていました。

先述したように、下請法では下請会社に責任のない商品の返品を禁止しています。上記の靴販売メーカーは、公正取引委員会から商品の引き取りと返品した商品相当額の支払いなどを勧告されています。

下請いじめを防ぐにはどうしたら良いのか

下請いじめを防ぐため、公正取引委員会や中小企業庁は共同で下請法を運用し、指導や勧告を行っています。ただし、国内では日々多数の取引が行われているため、下請いじめにあたる行為がすべてなくなっているわけではありません。

以下では、下請いじめを防ぐための方法を紹介します。

発注内容を書面で出してもらう

下請法では、発注する親事業者に対して発注書面の交付を義務づけています。あとでトラブルにならないよう、口頭での発注ではなく、必ず書面で発注してもらうようにしましょう。

なお、法令では下記の内容を発注時に決定し、書面に記載することとしています。

発注書面の記載内容

● 親事業者と下請会社の名称
● 製造委託や修理委託などを発注した日
● 発注の内容
● 発注した成果物を受領する期日と場所
● 発注した成果物を検査する場合は、期日と場所、検査完了日
● 下請代金の金額
● 手形を交付する際は手形の金額と満期
● 一括決済方式で支払う場合は金融機関名や支払可能額など
● 電子記録債権で支払う場合は債権の金額や満期日
● 原材料などを有償支給する場合は品名や数量など
上記のように、発注内容や下請代金の金額などを書面で出してもらっておくと、下請法違反が疑われる際に証拠として提出できます。

なお、書式は法律で定められていないので、上記の内容が盛り込まれていれば発注書面として問題ありません。

会社同士で交渉する

親事業者から下請いじめが疑われる行為を受けたときは、まずは会社同士の交渉が大切です。

業務の担当者レベル、または担当者の管理者にあたる上役レベルなど、ケースに応じたレベルで相談する場をもち、取引の状況や内容を話し合ってみましょう。

下請いじめと考えられるようなケースでも、必ずしも親事業者に悪意があってそのような行為が行われているとは限りません。取引の状況や内容などを双方で共有し、認識の違いや問題点を洗い出し、状況が改善される場合があります。

公的窓口に相談する

会社同士の交渉で問題が解消されないときは、下請法に関する公的窓口に相談する方法も選択肢のひとつです。

国は下請いじめを撲滅するために、「下請かけこみ寺」などの公的な相談窓口を設置しています。公的窓口を含めた下請いじめの相談先は次の章で紹介しているので、そちらも参考にしてください。

下請いじめの相談先

下請いじめを受けたときの相談先には下記があります。

各相談先の内容を以下で詳しく解説します。

下請かけこみ寺

下請かけこみ寺は、全国48ヶ所に設置された無料の公的相談窓口です。下請かけこみ寺には企業間の取引や下請法に詳しい相談員などが在籍していて、取引上の悩みなどを相談できます。

下請かけこみ寺に相談すると、まずは相談員が聞き取りを行い、弁護士への引き継ぎや調停による紛争解決(ADR)、中小企業庁への通報など、ケースに応じてトラブル解決のサポートを行ってくれます。フリーダイヤルのホットラインもあり、相談しやすい窓口です。

公正取引委員会の相談窓口

下請いじめに関する相談は、公正取引委員会の相談窓口でも実施しています。公正取引委員会の公式サイトでは管轄ごと、相談ごとの対応窓口を掲載しているので、お住いの地域の窓口に相談しましょう。

なお、現在は新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、相談は基本的に来庁以外の方法(電話など)で行われています。

独占禁止法相談ネットワーク

独占禁止法相談ネットワークは、公正取引委員会が商工会議所や商工会と連携して運用している相談窓口です。全国約2,300ヶ所の商工会議所や商工会で相談すると、公正取引委員会への取次や適切な相談先のサポートが受けられます。

弁護士

下請いじめは、法律の専門家である弁護士に相談する方法もあります。

親事業者との交渉や債権回収、調停による紛争解決(ADR)や裁判など、弁護士への依頼で下請いじめに関するさまざまなサポートを受けられます。ただし、公的窓口と異なり、弁護士への依頼は費用がかかる点に注意しましょう。

まとめ

下請いじめは、一般的に発注側が優先的な地位を利用して受注側に不当な要求をすることであり、企業間の取引では下請いじめと疑われるケースが生じる場合があります。

国は下請法により、発注する親事業者に禁止行為を定めています。親事業者から不当な要求をされた場合は、下請法の対象取引であるか、下請法の禁止行為に該当しないか確認してみましょう。

下請いじめを防ぐには、発注内容を書面で残す、双方で取引内容や状況を共有するなどの方法があります。下請かけこみ寺や独占禁止法相談ネットワークなどの公的窓口も設置されているので、会社同士で問題を解決できないときは相談してみてください。

よくある質問

下請いじめとは?

一般的に、業務を発注する側が優先的な地位を使い、下請会社に不当な要求をするような行為を指しています。

下請いじめを詳しく知りたい方は「下請法の対象となる取引は?」をご覧ください。

下請いじめの相談先

下請いじめを受けたときの相談先は下記の通りです。

● 下請かけこみ寺
● 公正取引委員会の相談窓口
● 独占禁止法相談ネットワーク
● 弁護士

下請いじめの相談先を詳しく知りたい方は「下請いじめの相談先」をご覧ください。

監修 安田亮(やすだ りょう) 公認会計士・税理士・1級FP技能士

1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。

監修者 安田亮

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