受発注の基礎知識

値下げ要求は下請法や独占禁止法に違反する?インボイス制度開始後の注意点を解説

公開日:2023/08/29

監修 松浦 絢子 弁護士

値下げ要求は下請法や独占禁止法に違反する?インボイス制度開始後の注意点も解説

下請事業者に不当な値下げ要求をすると、下請法や独占禁止法違反になる場合があります。本記事では、下請法と独占禁止法の概要などを解説します。

しかし価格交渉そのものは大切なビジネス戦略のひとつであり、避けて通れない場合が多いでしょう。また2023年10月から開始が予定されているインボイス制度をきっかけに、取引価格の見直しを考える企業も多いはずです。

インボイス制度の導入に伴って注意が必要な事例に関しても解説するので、参考にしてください。

目次

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値下げ要求は下請法や独占禁止法に違反する?

取引先への値下げ要求そのものが、下請法や独占禁止法などの法律に違反するわけではありません。法律に触れる恐れがあるのは「不当な」値下げ要求です。

法律で不当な値下げ要求とみなされる行為は、主に2つあります。

法律条項内容
下請法買いたたきの禁止
(第4条第1項第5号)
事業者が市場価値に比べて著しく低い下請け代金を不当に定める
独占禁止法不公正な取引方法に関する規制
「優越的地位の濫用」
(第19条)
公正な競争を阻害するおそれがある場合に禁止される


「下請代金」や「優越的地位」との言葉からもわかる通り、法律違反となる不当な値下げ要求には事業者間の力関係が影響します。パワーバランスに頼った価格交渉がされないよう、立場の弱い事業者を法律が保護しています。

以下は、法律違反となる値下げ要求取引の事例です。

法律違反となる値下げ要求の事例

● 為替変動の影響に対する協力依頼として、下請事業者に大幅な値下げを要求する
● 品質の低い安価な海外製品を引き合いに出して、商品単価の値下げを要求する
● 発注者の協力なく、受注者の努力に頼ったコスト削減を取引価格に勝手に反映させる
値下げ交渉を行う際は、不当な値下げ要求に該当しないよう注意が必要です。

下請法とは?

下請法(下請代金支払遅延等防止法)とは、発注する親事業者が自社の優位性を利用して、下請事業者に対する不当な値引きなどの行為を規制する法律です。

下請法は公正取引委員会が管轄しており、その目的は下請取引の公正化や下請事業者の利益保護です。

親事業者と下請事業者の定義は、業種や資本金の違いによって決まります。また、下請事業者には個人も含まれます。

業種親事業者下請事業者
製造業や一部のサービス業資本金3億円超3億円以下
1,000万円超3億円以下1,000万円以下
サービス業など5,000万円超5,000万円以下
1,000万円超5,000万円以下1,000万円以下


下請法は、独占禁止法を補完する位置づけの法律です。企業規模がそこまで大きくなく独禁法違反の適用がむずかしいケースでも、下請法であれば迅速に改善を求められる可能性があります。

※関連記事
下請法とは?インボイス制度導入で下請法・独占禁止法に違反しないためのポイントについて解説

下請法の対象となる取引

下請法の対象となる取引は、誰もが自由に買える製品やすでに生産された商品に関する取引ではありません。

対象となるのは、親事業者が下請事業者に新たに発注、または親事業者が受注した業務を外部委託した取引で、取引内容に応じて4つに分かれます。

①製造委託事業者が事業として物品を販売している場合、物品もしくは部品などの製造をほかの事業者に委託する取引
②修理委託事業者が事業として行う修理業務(全部または一部)をほかの事業者に委託する取引
③情報成果物作成委託事業者が事業として情報成果物(※)の提供している場合、情報成果物の作成行為(全部または一部)をほかの事業者に委託する取引
④役務提供委託事業者が事業として提供する顧客へのサービス(全部または一部)をほかの事業者に委託する取引
(※)ソフトウェア開発、デザインや文章作成など

なお建設業者が親事業者から請け負う工事も製造委託に入りますが、建設業は建設業法の類似した規制が適用されるため、下請法の適用対象とはなりません。

親事業者の義務

下請法では、下請取引の公正化と下請事業者の利益保護のために、親事業者に対して4つの義務が課されます。

①書面の交付義務親事業者は下請事業者への発注に際して、具体的記載事項12項目をすべて記載した書類(3条書面)を下請事業者に交付しなければならない。
②支払期日を定める義務親事業者は、下請事業者との合意のもと、下請代金の支払期日を明確に決めておかなければならない。
このとき支払期日は、発注した物品の受領日から最長60日(2ヶ月)以内で、できるだけ短い期間で定めるものとする。
③書類の作成・保存義務親事業者は下請事業者への委託内容に関わる書類(5条書類)を作成し、保存しなければならない(保管期間は2年)。
④遅延利息の支払義務親事業者は支払期限までに下請事業者に代金を支払わなかった場合、遅延利息を支払わなければならない。
物品を受領日より60日目以降、実際の支払日までの日数に年利14.6%を乗じた金額の利息を支払う。


なお「書面の交付義務」において、下請事業者に電子メールで発注書を送信しただけでは、書面の交付とは認められません。あらかじめ親事業者が下請事業者の合意を得たうえで電子メールを利用し、下請事業者が受信内容をパソコン上に保存する必要があります。

親事業者の禁止事項

親事業者には、禁止事項も定められています。もし親事業者に違反の認識がなくても、禁止事項に該当する行為があれば下請法違反となります。

①受領拒否下請事業者に責任がないのに、親事業者が物品の受領を拒む行為
②下請代金の支払遅延物品の受領日から60日以内に定めた支払期限までに下請代金を支払わない行為
※銀行が休業日の場合、翌営業日まで最長2日は支払いを順延できる
③下請代金の減額下請事業者に責任がないのに、親事業者が下請代金を減額する行為
④返品下請事業者に明らかな責任がある場合を除く、親事業者から受領物を返品する行為
⑤買いたたき親事業者が一般的な支払額よりも著しく低い下請代金を定める行為
⑥購入・利用強制下請事業者に対して、正当な理由なく、親事業者の指定する製品購入やサービス加入を強制する行為
⑦報復措置親事業者の下請法違反行為を公正取引委員会または中小企業庁に知らせた事実を理由とした、下請事業者への取引を減らすなどの不利益な扱い
⑧有償支給原材料等の対価の早期決済親事業者が下請事業者に必要な材料などを有償提供している場合、下請業務の支払期限よりも早く、下請事業者に材料費などを支払わせる行為
⑨割引困難な手形の交付下請代金を手形で支払う場合、支払期限までに一般の金融機関で割引が不可能な手形の交付
※繊維製品は90日、その他の物品は120日を超える手形が対象
⑩不当な経済上の利益の提供要請親事業者の利益のために金銭や役務などを提供させて、下請事業者の利益を不当に害する行為
⑪不当な給付内容の変更及び不当なやり直し下請事業者に責任がないのに、注文内容を変更したり、または受領後にやり直しをさせたりするもので、下請事業者の利益を不当に害する行為

独占禁止法とは?

独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)は、特定事業者による不正な競争を排除して、公平な条件下での価格競争を促す法律です。下請法と同じく、公正取引委員会が取り締まっています。

独占禁止法の6つの規制

独占禁止法では、公平かつ自由な競争を維持するために、以下のような規制が設けられています。

①私的独占の禁止事業者がほかの事業者の経済活動を排除、支配するもので、競争を実質的に制限する行為
②不当な取引制限(カルテル)の禁止複数の事業者が共同してカルテルや入札談合などで競争を回避し、競争を実質的に制限する行為
③事業者団体の規制共通の利益達成を目的とした事業者団体による不当な取引制限や私的独占などの行為
④企業結合の規制企業結合により一定の取引分野での競争を実質的に制限する行為
⑤独占的状態の規制ある市場に50%超のシェアをもつ独占あるいは寡占事業者がいることで、価格の自由競争に弊害が出ている状態
⑥不公正な取引方法の禁止市場での公正な競争を妨げられる恐れのある取引方法を実質的に制限する行為


事業者の値下げ要求に関わる規定は、「不公正な取引方法の禁止」に含まれる「優越的地位の濫用」です。

自社が取引先の事業者との立場の強さを利用し、不当な要求などをする行為です。

優越的地位の濫用が親事業者と下請事業者のあいだで起こると、まず下請法での適用が検討されます。その結果、下請法の定める事業者の定義を満たさなかった場合、独占禁止法が適用されます。

インボイス制度導入に伴って注意が必要な事例

2023年10月からインボイス制度が始まります。インボイス制度の導入後は、適格請求書発行事業者が発行するインボイス(適格請求書)以外の請求書だと、仕入税額控除を受けられません。

インボイスを発行できない免税事業者から仕入れを行うと、発注側の事業者は消費税相当額の負担が増します。そのため取引先が免税事業者だった場合、取引条件を見直し、値下げ要求を検討する親事業者が増えると予測されます。

適正な価格交渉ではないと判断される次のようなケースは、下請法や独占禁止法に違反する恐れがあるので注意しましょう。

下請法や独占禁止法に違反する恐れがあるケース

● 免税事業者を理由に発注者側が消費税相当額を支払わない
● 課税事業者になった後も発注者側が価格交渉に応じない
● 免税事業者を理由に発注者側から一方的に取引を停止する
それぞれのケースを、以下で詳しく解説します。

免税事業者を理由に発注者側が消費税相当額を支払わない

課税事業者である親事業者が、下請事業者との取引後、免税事業者であることを理由に消費税相当額を支払わない行為は、下請法(第4条第1項第3号)で禁止される「下請代金の減額」にあたり違法です。

インボイス制度が開始されると、免税事業者からの仕入れは仕入控除が適用されません。しかし、インボイス制度開始後から一定期間は、免税事業者からの仕入れに対する経過措置が取られます。

期間控除できる割合
2023年10月1日から2026年9月30日まで仕入税額相当額の80%
2026年10月1日から2029年9月30日まで仕入税額相当額の50%


上記の経過措置を参考に、適正な価格交渉を意識しましょう。

課税事業者になった後も発注者側が価格交渉に応じない

下請事業者が免税事業者から課税事業者に変わっても、免税事業者を前提とした取引価格からの値上げ交渉に応じず、親事業者が一方的に価格を据え置く行為は、下請法(第4条第1項第5号)で禁止される「買いたたき」に該当する恐れがあります。

そのため親事業者は、下請け事業者の値上げ交渉に真摯に対応しなければなりません。

下請事業者も、課税事業者に転換しても免税事業者を前提とした価格に据え置かれていると感じた場合は、その旨を伝えた上で値上げ交渉を行いましょう。

免税事業者を理由に発注者側から一方的に取引を停止する

課税事業者にならなければ取引価格を引き下げる、値下げ要求に応じなければ取引を打ち切るなど、親事業者から下請事業者への一方的な通告は、独占禁止法に抵触する恐れがあります。

独占禁止法や下請法に関する問題は、公正取引委員会に相談できます。独占禁止法や下請法に抵触するような不当な扱いを受けた場合は、公正取引委員会の相談窓口を利用しましょう。

出典:公正取引委員会「相談・申告・情報提供・手続等窓口」

インボイス制度で下請法や独占禁止法に違反しないために

下請事業者が免税事業者である場合、インボイス制度をきっかけに親事業者に消費税相当額の負担がかかるのは事実です。

課税事業者である親事業者と下請事業者との間で取引条件を見直すことは、本来は当事者間の自主的な判断に委ねられるものです。

ただし仕入税額控除に対する経過措置等、双方の負担を実質的に考慮した値下げでなければ、下請法の「買いたたき」や独禁法の「優越的地位の濫用」に当たる恐れがあります。

たとえば、親事業者から下請事業者への文書による一方的な通知など交渉が不十分なまま取引価格を引き下げる行為は、法律違反とされる可能性が高く、注意が必要です。

まとめ

立場の弱い取引先や下請業者に対し、親事業者が不当な値下げ要求することは、下請法や独占禁止法に違反する恐れがあります。

価格交渉そのものに違法性はなく、ビジネスの発展に欠かせない要素でもあります。しかし優位な立場を利用した一方的な値下げ要求は、行わないように注意しましょう。

また2023年10月施行のインボイス制度では、取引先が免税事業者の場合、課税事業者は仕入税額の負担増へ対応しなければなりません。その結果、下請業者に値下げを交渉する課税事業者が増えるでしょう。

その際も親事業者から一方的な通知は行わず、取引業者との実質的な交渉を経たうえで価格について合意することが大切です。

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こうした法令に反する対応を意図せず行ってしまった場合も、発注側の企業に罰則が科される可能性があるため、取引の安全性を確保する必要があります。freee業務委託管理なら既存の法令はもちろん、法改正や新たな法令の施行にも自動で対応しているため、安心して取引を行うことができます。

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よくある質問

値下げ要求は下請法や独占禁止法に違反する?

親事業者から下請業者への値下げ交渉は、法律違反ではありません。ただし優位な立場にある親事業者からの不当な値下げ要求は、法律違反になる恐れがあります。

値下げ要求が下請法や独占機司法に違反するかどうか、詳しく知りたい方は「値下げ要求は下請法や独占禁止法に違反する?」をご覧ください。

インボイス制度で下請法や独占禁止法に違反しないためにはどうしたらいい?

下請事業者が免税事業者であることを理由に、一方的に契約解除を通知したり、十分な交渉をせず取引価格の引き下げを要求したりなどの、親事業者の下請事業者に対する行為は、下請法の「買いたたき」や独占禁止法の「優越的地位の濫用」に該当する可能性があります。

インボイス制度開始後に下請法や独占禁止法に違反しないための方法について、詳しく知りたい方は「インボイス制度で下請法や独占禁止法に違反しないために」をご覧ください。

監修 松浦絢子(まつうら あやこ) 弁護士

松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、金融取引など幅広い相談に対応している。さまざまなメディアにおいて多数の執筆実績がある。

監修者 松浦絢子

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