監修 松浦 絢子(弁護士)
準委任契約とは、業務委託契約の一種で法律行為以外の業務の遂行を目的とした契約です。
本記事では、業務を発注する企業の担当者(委任者)向けに、準委任契約の定義や種類について解説します。
混同しやすい請負契約や委任契約、労働者派遣契約との違いや、メリットデメリットについても紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
目次
準委任契約とは
準委任契約とは、法律行為以外の業務の遂行を目的とした契約です。
企業や組織が行う業務の全部または一部を外部に委託する際に結ぶ契約で、業務委託契約の一種です。業務を発注する側を「委任者」、業務を受ける側を「受任者」と呼びます。
準委任契約の定義
準委任契約は特定の業務の遂行を目的とした契約で、受任者は依頼された業務に対し、成果の達成は保証されません。
専門的な知識や技術を要する特定の業務を、ほかの企業や個人に委託する際に用いられる契約であり、以下の職業に多く用いられています。
- コンサルタント
- 公認会計士
- ITエンジニア など
必ず決まった成果が出るとは限らなかったり、具体的な成果物を制作することが想定されなかったりする業務の依頼に用いられるのが、準委任契約です。
また準委任契約は、受任者と委任者の間に雇用関係がない業務委託契約の一種であるため、受任者に対して稼働時間や場所、その他業務遂行方法に関する個別具体的な指揮命令は認められていません。
ただし、委任者から依頼された業務を受任者が雇用関係にある労働者に対して指揮命令を行うことは問題ありません。これを再委任といいます。
原則として準委任契約は、契約で許容されている場合を除いて再委任は認められていないため注意しましょう。ただし、委任者が承諾した場合には、再委任が可能です。
準委任契約の種類
準委任契約には、成果完成型と履行割合型の2種類が存在します。これらの大きな違いは、報酬発生のタイミングです。
成果完成型
成果完成型は業務の結果に対して報酬が発生する準委任契約です。
準委任契約では通常「受任者が依頼された業務を遂行する」ことによって報酬が支払われます。
ただし成果完成型の場合は「業務の遂行が報酬の対象ではなく業務の履行によって得られる成果物」を報酬の対象としています。
成果物の納品を求めるのであれば請負契約に似た契約になります。ただし、仕様変更の可能性がある場合、業務の履行に対して報酬を支払う履行割合型の方が、より柔軟な対応が可能です。
なお、成果完成型の準委任契約を結ぶ場合は、委任者と受任者との間で成果物の定義を明確に定めておくことが必要です。
出典:e-GOV法令検索「民法第648条」
履行割合型
履行割合型は、依頼された業務の遂行状況に応じて報酬が発生する準委任契約です。
業務の進行度合いに応じて報酬が決まるため、支払いのタイミングで業務進捗が50%であれば、50%に相当する報酬が支払われます。
履行割合型の特徴は、業務を遂行していればその進捗割合に応じて受任者が委任者に報酬を請求できる点です。そのため、受任者は進捗を明確に把握し、委任者へ定期的に状況を報告する必要があります。
たとえば履行割合型の準委任契約を結び、ITエンジニアにシステム開発業務を依頼した際、開発が途中で頓挫した場合でも、受任者であるITエンジニアは契約した業務の進捗状況に応じて委任者へ報酬を請求できます。
ただし、これは準委任契約における報酬の定め方にもよります。
準委任契約と他の契約形態との違い
準委任契約と混同しやすい契約形態として、以下があります。
- 請負契約
- 委任契約
- 労働者派遣契約
契約によって報酬の発生要件や責任の所在や範囲が異なります。
契約形態を理解していないと、法律違反によるペナルティを受けたり、契約に関するトラブルに発展したりするおそれもあるため、契約形態の違いをきちんと把握しておきましょう。
準委任契約と請負契約との違い
準委任契約と請負契約は報酬の発生要件が異なります。準委任契約は業務を遂行したこと自体が報酬の対象となるのに対し、請負契約は成果物の完成が必要です。
たとえばデザイナーにデザイン作成を委任した場合、請負契約であれば成果物であるデザインが完成・納品された段階でデザイナーは報酬を請求することができます。
準委任契約はその契約の類型によって異なりますが、業務の遂行そのものが目的であるため、デザインが完成しなかったり、仕様書と異なるデザインが納品されたりした場合でも、報酬が発生することがあります。
なお、請負人に対する指揮命令権については、準委任契約と同様に注文者側にはありません。
請負契約とは?委託契約や準委任契約との違いや印紙・郵送不要で契約書の作成方法も解説
準委任契約と委任契約との違い
準委任契約と委任契約との違いは、委任する業務が法律行為であるかどうかです。法律行為とは、当事者の意思表示に基づいて、契約・単独行為・合同行為などの法律効果を発生させる行為を指します。
具体的には、弁護士に訴訟代理人を依頼したり、司法書士に会社設立の手続き代行を依頼したりしたケースは委任契約となります。
準委任契約と労働者派遣契約との違い
準委任契約と労働者派遣契約との違いは、仕事を依頼する側(派遣先や委任者)が、受任者(労働者)に対して指揮命令ができるかどうかです。
上述したように準委任契約を結んだ場合、委任者は受任者への指揮命令権はありません。
一方、労働者派遣契約は労働者派遣法により、派遣先(委任者)は指揮命令者を設置し、労働者(派遣社員)に対して指示をする権利があります。
労働者派遣契約では、派遣元と派遣先が労働者派遣契約を結び、派遣元と雇用契約を結んでいる労働者を派遣先に提供します。労働者は派遣先より指揮命令を受けるため、派遣先の就業規則や業務上の指示に従わなければいけません。
また準委任契約と労働者派遣契約では責任の所在も異なります。
準委任契約の場合、業務の遂行結果に責任を負うのは実際に業務を遂行する受任者です。派遣契約は業務に関して派遣先に対する責任を負うのは、業務を遂行する労働者ではなく、派遣会社となります。
準委任契約のメリット
準委任契約は業務の遂行そのものを目的とした契約であるため、請負契約や派遣契約と比較して、柔軟性が高い契約形態です。
準委任契約で人材を確保した場合、具体的に以下のようなメリットがあります。
- 契約期間の制限がない
- 専門業務をプロに委託できる
契約期間の制限がない
準委任契約は成果物の納品ではなく、業務の遂行が目的です。そのため、委任者と受任者の双方の合意があれば、契約期間中の業務内容の変更や契約期間の延長や短縮ができます。
労働派遣契約の場合は雇用安定の観点から、契約期間は最短でも31日以上必要です。また同じ組織で働く期間は3年までと定められています。
業務の状況に応じて、期間の制限なく継続的に依頼できる点は、準委任契約の大きなメリットといえるでしょう。
専門業務をプロに委託できる
専門業務をプロに委託できるのも、準委任契約の大きなメリットです。たとえばIT業界では、特定の知識・技術を活かして業務を遂行することが多くあります。
予算的に正社員としての採用コストをかけることが難しい場合でも、準委任契約であれば、専門知識に長けている人をスポットでアサインできます。
専門知識が必要な業務をカバーしてもらえれば、採用コストや社員教育のコストを削減しつつ、業務を効率的に進めることが可能です。
準委任契約のデメリット
準委任契約で人材を確保する場合、デメリットも理解しておきましょう。準委任契約のデメリットとして以下2点を解説します。
- 仕事についての指揮命令権がない
- 求める成果が得られない可能性がある
仕事についての指揮命令権がない
準委任契約は業務委託契約の一種で、双方の関係性は対等です。
委任者の指揮命令権がなく、業務の遂行方法については受任者に任せることとなるため、時間拘束や稼働場所の指定は基本的にはできません。
もし、稼働時間や稼働場所などを委任者が受任者に指揮命令してしまうと偽装請負となり、損害賠償等を請求されることや行政処分などを受けるおそれもあります。
委任者が受任者に対して具体的に指揮命令をしなければいけない業務の場合は、準委任契約ではなく別の契約方法を検討しましょう。
求める成果が得られない可能性がある
準委任契約は業務の遂行が目的の契約であるため、委任者が思っていたものと異なる成果になる可能性もあります。そのようなケースであっても報酬は支払わなければなりません。
修正依頼はできますが、その分契約期間が延び、業務のスケジュールが遅延したり、追加コストがかかったりすることも考えられます。
想定していた契約期間内で求める成果に近づけるには、受任者と進捗の確認や業務に対する認識のズレがないかなど、定期的なコミュニケーションを図ることが重要です。
準委託契約の注意点
実際に準委任契約を結ぶ際、委任者(企業)側は以下の3つに注意しましょう。
- 偽装請負になっていないか
- 内容を明確にした準委任契約書を作成する
- 印紙が必要になるケースがある
偽装請負になっていないか
偽装請負とは、形式上は業務委託契約であるにも関わらず、実態は労働者派遣契約と同様の状態であることを指します。
前述のとおり、準委任契約では委任者と受任者は対等な立場であり、指揮命令関係は発生しません。しかし、業務や勤務時間・場所などに対して委任者が受任者に指示を出してしまうと、偽装請負にあたる可能性があります。
偽装請負とならないためには、委任者と受任者の双方が契約形態を明確に理解し、依頼する業務内容や条件に合った契約形態を選択することが大切です。
内容を明確にした準委任契約書を作成する
準委任契約の契約書に以下の項目を盛り込むことで、契約の適正な運用ができ、予期せぬトラブルを防げます。
準委任契約書に記載するべき項目
- 委任する業務内容と業務範囲
- 報告義務の内容
- 報酬発生の条件
- 報酬の支払期日、支払い方法
- 費用負担
- 知的財産権の所在
- 損害賠償の有無や範囲
- 契約解除の方法
前述した成果完成型、履行割合型のどちらにあたるかを明確にし、報酬の支払い時期がいつになるのかを明確に記しておきましょう。
また準委任契約では、業務遂行のために多額の費用がかかることがあり、だれが費用を負担するかをめぐってトラブルになる可能性もあります。
トラブルを避けるため、準委任契約の締結段階で委任者と受任者のどちらが業務の遂行のための費用を負担するのか、委任者が費用を負担する場合はどういったものが費用とみなされるか定義しておくことも重要です。
印紙が必要になるケースがある
印紙とは、税金や手数料の支払い証明となる印刷物を指し、金銭のやりとりが発生する契約や文書では印紙税納付のために文書に印紙を貼付し、消印をすることが必要です。
準委任契約は原則として印紙税が課税されないため、印紙は不要です。しかし金銭の支払いが発生する場合や、物件の譲渡がある場合など、例外的に課税対象となるケースもあるため注意しましょう。
課税文書と、非課税文書の違いは以下のとおりです。
課税文書と非課税文書の違い
- 課税文書:印紙税の課税対象となる文書
- 非課税文書:印紙税の課税対象にならない書類のうち、課税文書に指定されている1〜20号文書に該当しないもの
準委任契約は内容により印紙が必要ですが、課税対象となりうる文書は準委任契約と請負契約の性質を併せもつ契約であり、主に以下の3つです。
準委任契約は内容により印紙が必要ですが、課税対象となりうる文書は準委任契約と請負契約が混ざった混合契約で、主に以下の3つです。
種類 | 概要 |
---|---|
1号文書 | 無形財産権 (不動産・権利・消費賃借・運送)に関わる契約書 |
2号文書 | 請負に関する契約 |
7号文書 | 継続取引の基本となる契約書 |
印紙税法の定めに応じて課税額は変わります。締結する契約書が課税文書であるかどうかを確認して、必要であれば印紙の貼付および消印を忘れないようにしましょう。
印紙の代金を委任者、受任者のどちらが負担するのかもあわせて契約書に記しておくとスムーズです。
まとめ
準委任契約とは、業務委託契約の一種で法律行為以外の業務の遂行を目的とした契約です。
準委任契約には成果完成型と履行割合型の2つの種類があり、契約期間の制限がない点や、専門業務をプロに依頼できる点がメリットです。一方、デメリットとして委任者に受任者への指揮命令権がない点や、求める成果を得られない可能性がある点が挙げられます。
指揮命令権がないにも関わらず、受任者に対して、委任者の就業規則に定めるような内容について指示を出してしまうと偽装請負になってしまう可能性があります。
準委任契約とほかの契約との違いをきちんと把握して、適切な契約形態で業務を依頼するようにしましょう。
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よくある質問
準委任契約と委任契約の違いは?
準委任契約と委任契約の違いは、依頼する業務が法律行為であるかどうかです。詳しくは記事内「準委任契約と委任契約との違い」をご覧ください。
準委任契約のデメリット
準委任契約のデメリットには、業務について委任者に指揮命令権がないことと、求める成果を得られない可能性があることが挙げられます。
詳しくは記事内「準委任契約のデメリット」をご覧ください。
請負契約と準委任契約の違いは?
請負契約と準委任契約の違いは、目的が異なる点にあります。準委任契約では業務の遂行が目的であるのに対し、請負契約では結果を出すことが目的です。
詳しくは記事内「準委任契約と請負契約との違い」をご覧ください。
監修 松浦 絢子弁護士
松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、金融取引など幅広い相談に対応している。さまざまなメディアにおいて多数の執筆実績がある。