受発注の基礎知識

フリーランスガイドラインとは?フリーランスと取引する事業者が知っておきたいポイントをわかりやすく解説

監修 寺林 智栄 NTS総合弁護士法人札幌事務所

フリーランスガイドラインとは?フリーランスと取引する事業者が知っておきたいポイントをわかりやすく解説

フリーランスガイドライン(フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン)とは、フリーランスが安心して働ける環境を整備する目的で2021年に策定されたガイドラインです。

近年、フリーランスとして働く人は本業・副業・兼業含めて増加傾向にあり、フリーランスの支援・保護の動きが強まっています。

本記事では、フリーランスガイドラインの概要やフリーランスと取引する際に企業が注意したいポイント、法的に問題とみなされる発注者の行為について解説します。

目次

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フリーランスガイドラインの概要

フリーランスガイドライン(フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン)とは、フリーランスが安心して働ける環境を整備する目的で2021年3月26日に策定されたガイドラインのことです。

出典:内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」

このガイドラインでは、発注事業者とフリーランスとの取引について私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)や下請代金支払遅延等防止法(下請法)の適用関係を明らかにし、各法令に基づく問題行為を明確化しています。策定は公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省の連名で行われました。

フリーランスガイドラインの構成

  • フリーランスが重要視される背景
  • フリーランスの定義
  • 事業者がフリーランスと取引をする際に遵守すべき事項(独占禁止法・下請法)
  • 事業者とフリーランスを仲介する事業者が遵守すべき事項
  • フリーランスが「労働者」に該当する場合の判断基準

この中で、フリーランスと取引する企業がとくに知っておきたいポイントを解説します。

フリーランスガイドラインが策定された背景

フリーランスガイドラインが策定された背景には、次の理由があります。

策定された背景

  • フリーランス人口の増加
  • 「一億総活躍社会」などのスローガンからみられる政府の動向
  • 「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の設置と整備
  • 新型コロナウイルス感染症の流行の影響

これらの背景から、企業や組織よりも立場が弱くなりやすいフリーランスを守るための環境整備として、フリーランスガイドラインが策定されました。

ほかにも近年、経済産業省や中小企業庁、厚生労働省、公正取引委員会などを中心にフリーランス支援や保護が積極的に進められています。

なお、フリーランスの立場が弱いという問題は今に始まった話ではありません。

手厚く守られる雇用契約とは違い、業務委託契約には残業や最低賃金などの概念はありません。労働人口のおよそ10%にもなるであろうフリーランスを取り巻く環境がこのままでよいはずがなく、政府もこの事実を重くとらえています。

そのため、フリーランスを保護するためにフリーランス保護法が2024年11月1日に施行されました。フリーランス保護法については、以下の記事で詳しく解説しています。

【関連記事】
【2024年11月1日施行】フリーランス新法とは?制定される背景や企業に求められる対応を解説!

フリーランス人口の増加

総務省統計局によると、2022年10月1日を調査期日として実施した調査において、日本国内で本業をフリーランスとする人は209万人です。

出典:総務省統計局「令和4年就業構造基本調査」

2018年以降、企業の副業解禁が進み、クラウドソーシングに登録して業務を行う人が増加傾向にあることから、本業以外にも副業としてフリーランスとして働く人も増えていることがわかります。

「一億総活躍社会」などのスローガンからみられる政府の動向

近年、日本では少子高齢化や人口減少に伴う労働力の不足が深刻な問題となっています。

そこで2015年に政府は老若男女、失敗を経験した方や障害・難病のある方も問わず誰もが、家庭や職場、地域などあらゆる場所で活躍できる全員参加型の社会を目指すとして、「一億総活躍社会」の実現を目標に掲げました。

また、2017年には「人生100年時代構想会議」が設置されました。これは高齢化社会による超⻑寿社会において、⼈々がどのように活⼒をもって時代を⽣き抜いていくか、そのための経済・社会システムはどうあるべきか捉えるための取り組みが活発になっていることから掲げられたものです。

「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の設置と整備

副業や兼業については2018年1月に、企業や個人が留意すべき点をまとめた「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が作成されました。

このガイドラインは2020年9月に改定され、副業・兼業のさらなる促進が図られています。

これにより、企業側による副業解禁が進んでいます。

新型コロナウイルス感染症の流行の影響

2020年からの新型コロナウイルス感染症の流行により、リモートワーク・テレワーク環境の整備やリモートワークの推進により、副業・兼業を始める人が急増しました。

手厚く守られる雇用契約とは違い、業務委託契約には残業や最低賃金といった概念はありません。

労働人口のおよそ10%にもなるフリーランスの環境がこのままでよいはずがなく、政府もこの事実を重くとらえています。

フリーランスガイドラインの基本的な考え方

フリーランスの定義と各法令との関係などから、フリーランスガイドラインの基本的な考え方を説明します。

フリーランスの定義

フリーランスは法令上の用語ではなく、定義はさまざまです。

フリーランスガイドラインにおけるフリーランスは、「実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者」とされています。

フリーランスと各法令の関係

フリーランスが事業者と取引する際には、その取引全般に独占禁止法が適用されます。取引相手の事業者の資本金が1,000万円を超えている場合は、下請法も同時に適用されます。

また、取引の受注者が特定受託事業者であることを条件とする「フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス新法)」も、一定のフリーランスとの取引には適用されるのが原則です。

複数の法令においてフリーランスとの取引について定めがあるため、違反内容が法令で重複するケースもあります。

その場合、次のように取り扱います。

法令の優先度

  • フリーランス新法と独占禁止法のいずれにも違反する行為:原則フリーランス新法を優先して適用
  • フリーランス新法と下請法のいずれにも違反する行為:原則フリーランス新法を優先して適用する(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律と独占禁止法及び下請法との適用関係等の考え方」(別添8-1頁参照))

加えて注意すべきは、すべての取引において業務実態から判断して「労働関係法」が適用される可能性がある点です。

原則としてフリーランスとの取引は雇用にはあたらず、労働関係法の対象となりません。

しかし、形式的に業務委託関係にあってもフリーランスに「労働者性」が認められる場合には労働関係法令が適用され、当該行為については、独占禁止法、下請法またはフリーランス新法上問題としないケースがあります。

なお、労働者性の判断基準は以下のとおりです。

労働制の判断基準

  • 諾否の自由がない
  • 業務遂行上の指揮監督がある
  • 拘束性がある

フリーランスと取引する事業者が押さえたいポイント

各法令の説明でも触れましたが、フリーランスと取引する事業者には注意すべき事項がさまざまあります。

避けるべきこと、トラブルを防ぐためにできることなど、フリーランスと取引する事業者が押さえたいポイントを紹介します。

優越的地位を濫用しない

フリーランスとの取引だけに限りませんが、事業者は優越的地位を濫用してはいけません。

とくに発注事業者が企業であり受注者がフリーランスである場合、強者対弱者の関係性になってしまうことがあります。

優越的地位にある事業者が、その立場を利用してフリーランスに不利益を与えることは法令違反です。

正常な商慣習に照らして考えたときに、不当に不利益を与えているととれる不正な行為・取引を行っているとみなされた場合、独占禁止法や下請法に違反したことになります。

これらには、単に取引するフリーランスに不利益を与えるだけでなく、フリーランスの公正な競争を阻害する恐れもあります。

取引条件を明確にした書面を交付する

事業者とフリーランスが取引する際は、事前に取引条件を明確にした書面を交付しておくとトラブルを防げます。

あらかじめ条件などをすり合わせず、書面も交付しない状態で進めてしまうと、あとから条件を一方的に変えられてしまうといったトラブルが起こりがちです。

また、取引条件が不明瞭だと、優越的地位の濫用とみなされる事態を引き起こしやすくなります。書面交付をしないことは、独占禁止法上でも不適切とされています。

なお、発注事業者の資本金が1,000万円を超える場合は下請法の対象となり、取引条件の書面交付が義務付けられます。

書面は必ずしも紙である必要はありません。フリーランス側に承諾してもらえれば、電子メールやクラウドストレージなどの記録に残る方式で取引条件を記載しても問題ありません。ただし、ダウンロード・保存できる配慮が必要です。

下請法に沿った発注書の書き方については、以下の記事で詳しく解説しています。

【関連記事】
下請法に沿った発注書の書き方解説!

独占禁止法および下請法上問題となる事例

独占禁止法および下請法上問題となる行為は、以下のとおりです。

上記のうち、以下の3つの事例について詳しく解説していきます。


  • 契約後に減額要求する
  • 一方的に発注を取り消す
  • 契約範囲外のサービス提供を求める

契約後に減額要求する

発注事業者とフリーランスにおける業務の契約後に、取引上地位に優越がある発注事業者が正当な理由なく契約で定めた報酬を減額する場合、独占禁止法で定められる優越的地位の濫用として問題となることがあります。

出典:e-Gov法令検索「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第二条第九項第五号ハ」

これは、フリーランスが今後の取引に与える影響などを懸念して、減額の要求を受け入れざるを得ない場合と説明されています。

たとえば、フリーランスが納品物を発注事業者に納品したあとで、契約時に定めた報酬額よりも低く支払うのが妥当と判断して報酬の減額をしようとした場合、以降の取引の継続を懸念してフリーランスが要求を飲まざるを得ない状況が考えられます。

また、契約で定めた報酬を変更することだけでなく、継続して依頼する業務の内容を変更することで報酬を実質的に減額する行為も、同様の判定を受ける可能性があるでしょう。たとえば、毎月10,000円でフリーランスに依頼している業務を、当月も同様の報酬でフリーランスに依頼し、実際の業務の作業量が増えているケースです。

下請法の対象になる場合は、発注事業者がフリーランスに対して、フリーランスに報酬を減額されるべき理由がないのに発注時に定めた下請代金の額を減ずる場合、下請法で禁止されている下請代金の減額として問題になります。

出典:e-Gov法令検索「下請代金支払遅延等防止法第四条第一項第三号」

一方的に発注を取り消す

報酬の減額と同様、発注の一方的な取り消しも独占禁止法・下請法で問題になることがあります。発注事業者が正当な理由がないのに、フリーランスに対して通常生ずべき報酬を支払うことなく一方的に発注を取り消すと、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることになります。

これにより、フリーランスが今後の取引に与える影響などを懸念してその条件を受け入れなければならないケースでは、優越的地位の濫用となることに注意が必要です。

出典:e-Gov法令検索「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第二条第九項第五号ハ」

下請法の規制の対象となる場合で、フリーランスの責めに帰すべき理由がないものの、役務などの提供の内容を変更させることによってフリーランスの利益を不当に害する場合には、下請法で禁止する不当な給付内容の変更として問題になります。

出典:e-Gov法令検索「下請代金支払遅延等防止法第四条第二項第四号」

一方的な発注の取り消しが問題になる例として、フリーランスのエンジニアにソフトウェアの開発を依頼し、納品がなされたあとで納品物が不要になったという理由で受け取りを拒否するケースがあげられます。

契約範囲外のサービス提供を求める

契約範囲外のサービス提供を求める行為も、独占禁止法や下請法上問題になります。

独占禁止法では、正当な理由なくフリーランスに対して協力金などの負担や役務の無償提供、そのほか経済上の利益の無償提供を要請する場合、フリーランスがそれを受け入れざるを得ない状況にあれば、フリーランスに不当に不利益を与えることとなります。

出典:e-Gov法令検索「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第二条第九項第五号ロ」

下請法の規制の対象となる場合で、発注事業者がフリーランスに対して、自己のために金銭、役務その他経済上の利益を提供させることでフリーランスの利益を不当に害する場合、不当な経済上の利益の提供要請となります。

出典:e-Gov法令検索「下請代金支払遅延等防止法第四条第二項第三号」

たとえば、以下のような例が挙げられます。

契約範囲外のサービス例

  • フリーランスのカメラマンにイベント会場の整備をさせる
  • 業務遂行にあたって必要であるとフリーランスに自社の商品を購入させようとする
  • 業務の遂行と関係がないにもかかわらずフリーランスが有している情報などの提供を依頼する

まとめ

フリーランスガイドラインの策定からもわかるとおり、フリーランス支援・保護の動きは強まっています。これは裏を返せば、フリーランスと取引する企業などの事業者の不正行為の取り締まりが厳しくなっているともいえます。

専門知識・スキルを有しているフリーランスと契約することで、質の高い業務が期待できる一方、発注者である企業は慎重に取引を行うよう注意しなくてはいけません。

フリーランス・業務委託先への発注を効率化する方法

フリーランスや業務委託先との取引が多い企業にとって、手間がかかるのが発注業務です。

一口に発注業務といっても、契約や発注、請求など対応すべき作業は多岐にわたり、管理が行き届かないケースがあります。たとえば、法令にもとづく適切な発注ができていなかったり、請求書の提出期日が守られなかったり、請求書の不備で差し戻しが発生したりなどの課題が挙げられるでしょう。

このような課題を抱えている発注担当者におすすめしたいのが、業務委託管理システム「freee業務委託管理」です。

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また、フリーランスや業務委託先との過去の取引履歴や現在の取引状況の管理も可能です。発注実績や評価を社内共有しやすく、業務委託の活用による従業員のパフォーマンス向上が期待できます。

freee業務委託管理の主な活用メリットは以下のとおりです。

発注に関わる手続きや取引情報を一元管理

クラウド上で契約完了

初めて取引を行うフリーランスや業務委託先と契約を締結する際、freee業務委託管理を使えば、クラウド上でのスムーズなやり取りが可能です。

契約書はそのままクラウド上に保管されるため、契約情報をもとに発注内容を確認したり、契約更新時のアラート通知を受け取ったりすることもできます。

発注対応や業務進捗を可視化

発注書の作成・送付は、フォーマットに業務内容や報酬、納期などを入力するだけで完了します。

また、発注業務をメールや口頭でのやり取りで行っていると、管理上の手間がかかるのはもちろん、発注内容や業務進捗などを把握しづらいこともあるでしょう。freee業務委託管理は発注内容が可視化され、プロジェクトの業務進捗や残予算をリアルタイムに把握するうえでも役立ちます。

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発注業務でもっとも忘れてはならないのが、請求管理です。報酬の支払い漏れや遅延は企業の信用に関わるため、情報の一元管理によって正しく効率的に行う必要があります。freee業務委託管理ならフリーランスや業務委託先が請求書を発行する際も、ワンクリックで発注書に連動した請求書を作成可能。請求書の回収状況が一覧で確認できるほか、請求処理に関する上長や経理担当者の承認作業もクラウド上で行えます。

支払明細書の発行も可能

確定申告の際に必要な支払明細書(支払調書)も、フリーランスや業務委託先ごとに発行できます。発行した支払明細書(支払調書)はPDFでダウンロードしたり、メールで送付したりすることも可能です。

法令への対策が万全

近年、発注側の企業がフリーランスや業務委託先に対して優越的地位を濫用するリスクを防ぐため、下請法やフリーランス保護新法(2024年11月1日施行予定)にもとづく適切な発注対応が求められています。また、インボイス制度や電子帳簿保存法の要件を満たす書類の発行・保存も不可欠です。

こうした法令に反する対応を意図せず行ってしまった場合も、発注側の企業に罰則が科される可能性があるため、取引の安全性を確保する必要があります。freee業務委託管理なら既存の法令はもちろん、法改正や新たな法令の施行にも自動で対応しているため、安心して取引を行うことができます。

カスタマイズ開発やツール連携で運用しやすく

業務委託管理システムを導入する際は、発注業務の担当者が使いやすい環境を整えることも欠かせません。freee業務委託管理は、ご希望に応じて、オンプレミスとの連携や新たな機能の開発などのカスタマイズも可能です。また、LINE・Slack・Chatwork・freee・CloudSign・Salesforceなど、各種ツールとの連携もできます。

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よくある質問

フリーランスガイドラインとは?

フリーランスガイドラインとは、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」の略称です。フリーランスが安心して働ける環境を整備する目的で策定されたガイドラインです。

詳しくは記事内「フリーランスガイドラインの概要」で解説しています。

フリーランスガイドラインが策定された背景は?

フリーランスガイドラインが策定された主な背景には、次のようなものがあります。


  • フリーランス人口が増加していること
  • 労働力不足の問題の解決策として多様な人材の活躍、多様な働き方が推進されていること

詳しくは記事内「フリーランスガイドラインが策定された理由」をご覧ください。

フリーランスと取引する企業が押さえたいポイントは?

企業が押さえるべきポイントはさまざまありますが、とくに「優越的地位を濫用しない」「取引条件を明確にした書面を交付する」といったポイントは重要です。

記事内の「フリーランスと取引する事業者が押さえたいポイント」で詳しく解説しています。

監修 寺林 智栄(てらばやし ともえ)

2007年弁護士登録。2013年頃より、数々のWebサイトで法律記事を作成。ヤフートピックス1位獲得複数回。離婚をはじめとする家族問題、労務問題が得意。

寺林 智栄

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