公開日:2023/09/13
監修 松浦 絢子 弁護士
保証契約は主債務者に代わり、債権者に債務を支払う約束をする契約です。保証契約には種類があり、各保証契約で内容も異なります。2020年には民法改正により、保証契約に関するルールも変わっています。
法務担当者や個人事業主など保証人を立てる契約に関わる可能性がある方は、保証契約に関する知識を身につけておきましょう。
本記事では、保証契約の概念・仕組み・種類・リスクなどを解説し、民法改正での変更点も紹介します。
目次
保証契約とは
保証契約は、主債務者が債務の支払いを履行しない場合に、主債務者に代わって債権者に支払いの義務を負う約束をする契約です。借金の返済や代金の支払いなどの義務を負う場合に適用されます。また、保証契約を結んだ人を保証人と呼びます。
保証人は、賃貸借契約や借金など、さまざまな場面で必要です。しかし保証人になると、重大な責任が課されることを理解しておきましょう。
また、一般の保証人は無条件で主債務者の負債を肩代わりするわけではなく、以下の権利が認められています。
保証人に認められる権利
● 分別の利益● 催告の抗弁
● 検索の抗弁
以下では各権利について、それぞれ解説します。
分別の利益
民法では、以下のように示されています。
数人の債権者または債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者または各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、または義務を負う(民法第427条)つまり、保証契約を結んだ保証人が複数人いる場合、ひとりあたりの返済額は、保証人の人数で割った金額です。
出典:e-Gov法令検索「第四百二十七条(分割債権及び分割債務)」
たとえば、主債務者の債務が600万円あり、保証人が3人いるとします。その場合、主債務者の返済不履行時に各保証人が債権者に支払う金額は200万円です。
催告の抗弁
民法では、以下のように示されています。
債権者が保証人債務の履行を請求したとき、まず主たる債務者に催告をすべき旨を請求することができる(民法第452条)保証人に債権者から請求があった場合、保証人はまず主債務者に請求するように、債権者に主張できるといった内容です。
出典:e-Gov法令検索「第四百五十二条(催告の抗弁)」
ただし、主債務者が破産手続きをしたり、行方不明になったりした際は、権利を主張できない可能性もあるので注意してください。
検索の抗弁
民法では、以下のように示されています。
保証人が主たる債務者に弁済をする資力があり、かつ、執行が容易であることを証明したときは、債権者は、まず主たる債務者の財産について執行をしなければならない(民法第453条)保証人は債権者から請求があった場合、主債務者に財産があるとわかっていれば、その債務に対して支払いの拒否が可能です。
出典:e-Gov法令検索「第四百五十三条(検索の抗弁)」
ただし、検索の抗弁権を主張するには、「主債権者に弁済の能力がある」「取り立てが容易である」ことを証明する必要があります。
連帯保証契約とは
連帯保証契約は、保証契約の一種です。連帯保証契約では、主債務者と保証人が同列に扱われ、連帯保証契約の保証人は連帯保証人と呼ばれます。
連帯保証契約の特徴は、一般の保証契約で主張できる「催告の抗弁権」「検索の抗弁権」の主張ができない点です。
また、連帯保証契約では「分別の利益」も適用されません。そのため、保証人の人数に関係なく、債権者に債務の請求を求められた保証人は、債務額全額の支払いに応じなくてはいけません。
たとえば、連帯保証人にAとBがいるとします。債権者が主債務者の債務不履行を理由に、債務額のすべてをAに請求した場合は、Aはその請求に応じる責任があります。
なお、連帯保証契約時に保証人同士で、負担分の取り決めがある場合には、負担部分を超えた分をほかの保証人に求償することが可能です。
連帯保証人については、「連帯保証人制度は民法改正で何が変わった?変更点と取るべき対応を解説」でより詳しく解説しています。
根保証契約とは
保証契約には根保証契約があります。通常の保証契約は、「特定の債務」のみを対象に保証しますが、根保証契約は「将来も発生する不特定の債務」も保証の対象です。
たとえば、借主(主債務者)が事業資金として銀行(債権者)から継続的に借り入れているとします。根保証契約で保証人になると、保証人は将来の借り入れ分も保証しなくてはなりません。
根保証契約では、主債務者は債権者から借り入れのたびに保証人を探す手間がなくなり、債権者も将来の借り入れ分を保証してもらえる安心感があります。
一方、根保証契約の保証人は、契約の時点では債務の総額が把握できません。事業の失敗で主債務者が債務不履行となる場合、保証人は想定外の債務を負うリスクを考慮する必要があります。
根保証契約で定められている条項
根保証契約では、保証人が想定していない債務を負う危険性があるため、ルールが定められています。
個人が根保証契約で保証人になった場合に、定められている内容は以下です。
債務の範囲 | 貸金など債務あり | 貸金など債務なし |
極度額(限度額) | 必要 | 必要 |
保証期間 | 原則3年(最長5年) | 制限なし |
特別事情による保証の終了 | 破産・死亡などの事情があれば保証は終了 | 破産・死亡などの事情(主債務者の破産などを除く)があれば保証は終了 |
極度額は、貸金に限らず賃貸物件を借りる場合など、すべての根保証契約で必要です。
また、保証の終了に関しても、すべての根保証契約に適用されます。しかし、賃貸借などは主債務者の破産で当然には終了にならない点に注意してください。
保証契約のリスクとは
保証契約は、主債務者に代わって債権者から債務の請求をされるため、保証人が想定していない負担を強いられる可能性があります。
保証人が請求に応じなければ、不動産の差し押さえ・競売による立ち退き・給与や預貯金の差し押さえを受ける可能性もあります。最悪の場合、保証人の生活が破綻して自己破産を視野にいれる必要が生じるかもしれません。
したがって、仮に主債務者との信頼関係があっても、安易に保証に応じないように注意しましょう。
2020年4月の保証契約に関する改正ポイント
2020年4月より民法が改正されました。民法改正に伴う、保証契約に関する改正ポイントは、大きく分けて以下の3つです。
保証契約改正のポイント
● 個人根保証契約の成立要件として極度額の定めが必要● 公証人による保証意思確認手続きの新設
● 保証人への情報提供義務が新設
各内容は保証契約を締結させるうえでも大切になるので、きちんと把握しておきましょう。
個人根保証契約の成立要件として極度額の定めが必要
根保証契約で個人が保証人になる場合、主債務の総額が把握できません。これにより、保証人が想定外の債務を負うケースが散見されたため、保証人を守るルールが設けられています。
そのひとつが、「極度額の定め」です。極度額の定めは改正前にもありましたが、貸金契約に基づく債務にのみ必要でした。
今回の改正で、賃貸物件の借り入れや介護、医療施設への入居などにも、極度額の定めが必要になっています。
個人を保証人とするすべての根保証契約で、上限額の定めがない契約に関しては、根保証契約が不成立になると覚えておきましょう。
改正前 | 改正後 | |
個人根保証契約における極度額の定め | 主債務が金銭の貸渡しなどに基づく債務である場合(貸金等根保証契約)に限り必要 | すべての個人根保証契約に必要(賃貸物件の借り入れ・介護・医療施設への入居など) |
なお、極度額は書面などによって当事者間の合意で定める必要があり、「○○円」のように明確にしなくてはなりません。
また、保証人の破産または保証人・主債務者の死亡などの場合は、保証人が負担する責任の範囲はその時点の残債額に確定します。それ以降に発生する主債務者の債務は、保証対象外となる点も改正ポイントです。
ただし今回の改正は、個人の根保証契約の場合のみ適用されるため、会社または法人は該当しない点は注意してください。
公証人による保証意思確認手続きの新設
事業融資などでは、多額の債務が発生する場合が一般的です。しかし事業に関与していない第三者(友人や親戚など)がリスクを理解せずに保証人になり、多額の債務を負う事態が生じています。
上記のような事案を減少させるために、改正では、個人が事業融資の保証人になる場合、公証人による意思確認が必要となりました。公証人による意思確認を経ない場合は、保証契約を締結しても契約が無効になります。
公証人による保証意思確認手続きの手順は以下の通りです。
保証意思確認手続きの流れ
1. 公証役場に行く2. 保証意思の確認を行う
なお、保証意思確認後の保証意思宣明公正証書は、保証契約締結日前1ヶ月以内に作成されている必要があります。
また、以下の方が保証人となる場合は意思確認の手続きが必要ありません。
意思確認の手続きが必要がない場合
● 主債務者である法人の理事や取締役、執行役、議決権の過半数を有する株主など● 主債務者である個人の共同事業者または事業に現に従事している配偶者
保証人への情報提供義務が新設
改正では、保証人に対して主債務者または債権者は、以下のような情報提供が義務づけられています。
保証人への情報提供義務
● 保証人になることを主債務者が依頼する際の情報提供義務● 主債務の履行状況に関する情報提供義務
● 主債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務
出典:法務省「2020年4月1日から保証に関する民法のルールが大きく変わります」
保証人は多額の債務を負う場合があるので、保証人になるかの判断材料として、主債務者の現状を把握する必要があります。主債務者は現在の財産状況・収支・主債務以外の債務額・履行状況などを、保証人を依頼する相手に提供しなくてはいけません。
また保証人は債権者に対して、契約締結後の主債務の支払い状況に関する情報を求めることが可能です。
なお、主債務者が支払い遅延で一括払いの義務を負った場合、遅延損害金によって保証人が多額の支払いを求められる場合があります。
そのため債権者は、主債務者が一括払いの義務を負った事実を知ったときから、2ヶ月以内にその旨を保証人へ通知しなくてはなりません。
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まとめ
保証契約とは、主債務者に代わり、保証人が債務を支払う責任を負う契約です。
連帯保証契約では、一般の保証人がもつ「催告の抗弁権」「検索の抗弁権」「分別の利益」がない点に注意が必要です。
また、保証契約には、特定の債務のみ保証する通常の保証契約と、継続的な融資など将来の不特定の債務も保証する根保証契約があります。
将来の不確定な債務まで保証する根保証契約は、保証人が多額の債務を負うリスクを避けられません。そのため、2020年4月の民法改正では、極度額の定めをすべての根保証契約に必要とするなどの要件が盛り込まれました。
しかし、保証人になることリスクが大きいため、知識をしっかり持ち、安易に保証人にならないように心がけてください。
よくある質問
保証契約とは?
保証契約とは主債務者が、債務の支払いを履行しない場合に、代わりに支払いの義務を負う約束をする契約です。
保証契約を詳しく知りたい方は「保証契約とは」をご覧ください。
保証契約のリスクとは?
保証契約は主債務者に代わり、債務を支払うため、多額の債務を負う可能性があります。
保証契約のリスクを詳しく知りたい方は、「保証契約のリスクとは」をご覧ください。
監修 松浦絢子(まつうら あやこ) 弁護士
松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、金融取引など幅広い相談に対応している。さまざまなメディアにおいて多数の執筆実績がある。