企業間で契約を取り交わす際には、契約当事者同士の意思が合致していることを証明する書類である契約書のほかに、「覚書」や「念書」といった文書が作成されることがあります。
本記事では、覚書の持つ役割や具体的な書き方のほか、混同されやすい契約書や念書との違いについて解説していきます。
目次
- 覚書とは
- 覚書が必要になるケース
- 契約前に当事者の合意事項を書面として残すとき
- 契約締結後に契約条件を決めるとき
- 契約締結後に契約書の内容を変更するとき
- 個人情報の取扱いに関する情報管理を取り決めるとき
- 覚書と契約書の法的効力の違い
- 覚書と混同しやすい文書との違い
- 契約書との違い
- 念書との違い
- 差入書との違い
- 覚書を作成するメリット
- 元の契約は維持しつつ、変更事項をひと目で把握できる
- 契約書が堅苦しい場において、抵抗感をやわらげる効果もある
- 覚書の作り方
- 覚書の書き方
- 経済産業省のひな形
- 覚書を作成する際の注意点
- 当事者の甲乙を間違えないよう注意
- 法的効力が必要な覚書の場合は当事者双方の署名・捺印が必須
- 覚書の変更内容や影響する書面の整合性を確認する
- 両当事者が合意していることを明記する
- 覚書の修正方法
- 印紙税の課税対象文書の場合は印紙が必要
- 収入印紙が必要かどうかの判断基準
- 収入印紙の金額
- 覚書や念書に収入印紙を貼付する際の注意点
- 覚書を電子契約にした場合のメリットとは?
- 印刷や郵送などの手間やコストの削減
- ペーパーレス化で管理の手間や収納スペースも不要
- セキュリティの強化
- 契約にまつわる業務を簡単にする方法
- よくある質問
- まとめ
覚書とは
覚書とは、当事者間の合意内容を書面化したものであり、契約書の一種になるため法的効力を持つ書類です。
一般的なビジネスシーンにおいては、契約書の内容を変更・補足するときに用いられることが多く、同一内容の書面に当事者それぞれが署名・押印し、一通ずつ各自で保管します。
ここでは、覚書が必要になるケースや役割、覚書の書き方、ほかの文書との違いについて確認しましょう。
覚書が必要になるケース
一般的に覚書が必要になるのは、下記4つのケースが考えられます。
契約前に当事者の合意事項を書面として残すとき
契約締結前、当事者双方の合意事項を覚書として作成することがあります。本契約を行う前に、基本合意の内容に相違ないか確認するのが目的です。
契約締結後に契約条件を決めるとき
契約締結時には確定できない条件がある場合、契約書には「◯◯については別途協議のうえで定める」と記載しておくことで、後で定めた内容を覚書にまとめて取り交わすことが可能となります。
契約締結後に契約書の内容を変更するとき
既に締結した契約書の内容変更や項目追加が発生した際、その変更内容に当事者双方が合意した証明として覚書を作成します。
一例としては、取引内容や取引条件の変更、報酬額の増減などが該当します。
個人情報の取扱いに関する情報管理を取り決めるとき
実際のビジネスにおいて、個人情報の取扱いを第三者へ委託するシーンも頻繁に発生するでしょう。その際、個人情報の管理方法の取り決めを覚書として作成することがあります。
個人情報の取扱いに関する覚書は「秘密保持(NDA)に関する覚書」とも呼ばれ、個人情報の定義、利用目的、委託先の情報、禁止事項、双方が負う義務などを明記するのが一般的です。
覚書と契約書の法的効力の違い
覚書と契約書は、それぞれが持つ法的効力に違いはありません。
覚書は「契約書ほど正式な文書ではない」と認識されがちですが、当事者間の合意内容を書面化した正式な契約書の一種であるため、契約書と同等の法的効力を持ちます。
覚書と混同しやすい文書との違い
覚書とよく混同しやすい文書として、契約書・念書・差入書が挙げられます。それぞれの文書の役割と違いについても知っておきましょう。
契約書との違い
先述の通り、覚書と契約書は同等の法的効力を持ちますが、利用されるシーンが異なります。契約書は、契約内容を明確にし、双方が合意したことを証明する文書です。
その一方で覚書は、一般的に契約書よりも簡潔な合意内容を記し、契約書を保管する役割を持つことが多い文書といえます。
念書との違い
念書は、約束した内容を書面にし、当事者が相手へ提出する書類で、覚書は、当事者間で合意した内容を簡潔にまとめた文書です。
「念書」に近い意味合いの書面として「誓約書」がありますが、念書が個人間でのプライベートなやり取りで使われるものに対し、誓約書は企業間でのやり取りに使われるのが一般的です。
念書は、基本的には1部だけ作成し、当事者のみ署名・捺印を行ったら、提出先が念書を保管します。契約書などと違い当事者間の合意を証明できないため、念書だけでは法的効力がありません。
ただし、念書の内容に関して訴訟などへ発展した場合、証拠資料として裁判所へ念書を提出できるため、判決に影響を与える可能性がある書面だともいえます。
差入書との違い
差入書は、その名の通り「一方が書いて、相手に差し入れる」書面です。当事者が相手方に対して約束事を行ったり、何らかの事項を確約したりする意思表示を記載した書面となります。
基本的な契約書とは別に作成するのが一般的で、一方のみが負担する事項を確認するために作成します。「念書」や「誓約書」も差入書の一種です。
覚書を作成するメリット
覚書を取り交わすのは、合意した内容を証拠として残すのが目的です。それ以外に、覚書を作成するメリットとして何があるでしょうか。
元の契約は維持しつつ、変更事項をひと目で把握できる
契約内容に変更や追加があったとき、契約書を一から作り直すには多大な労力がかかります。また、変更・追加した項目は一部だとしても、当事者は長い契約書の内容をあらためて確認し直さなければなりません。変更後の契約書に署名・押印すれば、全体の内容に法的効力が発生するため、慎重になる必要があります。
しかし、覚書を作成すれば、変更・追加の該当事項のみを抜粋して詳細を記載するだけで完結します。元の契約を維持しつつ、どこをどのように変更したのかがひと目でわかるので、双方の負担が格段に軽減されるでしょう。
契約書が堅苦しい場において、抵抗感をやわらげる効果もある
一般的に「契約書」という言葉の響きは、やや堅苦しいイメージがあります。署名・押印を求められる側が身構えるのも懸念されるでしょう。
そこで文書の名称を「覚書」すれば、相手の抵抗感をやわらげる効果が期待できます。
双方の関係性や契約内容によって、あえて「契約書」ではなく「覚書」という形で文書を取り交わすケースもあります。
覚書の作り方
覚書には決まった様式(フォーマット)はありませんが、記載すべき事項が漏れていると本来の効力を発揮できません。
ここでは、基本的な覚書の作り方を押さえておきましょう。実際に使える雛形も紹介していますので、参考にしてください。
覚書の書き方
覚書の基本構成は、下記の通りです。
- 表題
- 前文
- 本文
- 後文
- 作成日
- 署名または押印
それぞれの項目ごとに詳しく解説します。
表題
表題は「覚書」だけでも構いませんが、「◯◯に関する覚書」など、内容がすぐにわかる表題をつけるのが一般的です。また、「変更契約書」「変更合意書」「変更確認書」といった名称を用いるケースもあります。
前文
既に締結している契約書や関連書類がある場合は、明確にしておかなければなりません。前文には「令和◯年◯月◯日締結『◯◯契約書』」などと、文書名を正確に記載しましょう。
契約書の一部条項だけを変更するのであれば、「第◯条」と具体的に記し、甲乙についても前文に記載します。
本文
本文には、当事者双方が合意した具体的な変更内容を記載します。
ある条項について内容をすべて変更するのか、一部分だけなのかなど、誰が読んでも間違いなく理解できるように明記しなければなりません。
また、必要があれば覚書の効力が発生する日付も記載します。日付の記載がない場合は、署名・押印をした時点から効力が発生するのが一般的です。
後文
後文には、作成した覚書の部数と保管者を記載します。
作成日
作成日は、覚書を作成した日付を記載します。
署名または押印
覚書が契約書と同等の法的効力を発揮するには、各当事者の署名・押印が必須です。
経済産業省のひな形
経済産業省が「工業製品の型の取扱いに関する覚書」のひな形を公開していますので、一例としてご紹介します。
表題・前文
〇〇用型の取り扱いに関する覚書
〇〇製造業者(以下「甲」という。)と発注者(以下「乙」という。)とは、乙が甲に発注する〇〇品(以下単に「製品」という。)の製作に必要な型の取り扱いに関し、次のとおり、覚書を締結する。
本文
第1条(型の貸与)
1.型の種別や数等(以下「型の種別等」という。)については、個別にこれを定めるものとし、この場合において、乙は、型の種別等を記載した書面を、甲に交付する。
後文・作成日
本覚書締結以前の型の取り扱いについては、本覚書を適用するものとする。
以上、本覚書締結の証として、本書2通を作成し、当事者記名捺印のうえ、各自その1通を保有する。
令和◯年◯月◯日
覚書を作成する際の注意点
覚書を作成する際は、いくつか注意すべきポイントがあります。ここでは、主な注意点や修正方法についてご紹介します。
当事者の甲乙を間違えないよう注意
当事者の名称が出てくるたびに正式名称を記載していては、覚書が冗長になってしまいます。そのため、書面上では当事者の名称を簡略化するために「甲・乙」を用いるのが一般的です。
一般的に「甲」は立場が上、「乙」は立場が下の当事者に対して用いられますが、この甲・乙が入れ替わっていると当事者双方の立場が逆転してしまうため、間違えないように注意が必要です。
法的効力が必要な覚書の場合は当事者双方の署名・捺印が必須
先述のとおり、「覚書」は契約書の内容を変更・補足する際に用いられることが多い書面です。この覚書を契約書と同等の法的効力を持たせるのであれば、当事者双方の署名・捺印が必須となります。
ただし、当事者が合意していない内容であったり、公序良俗に反する場合、記載内容が曖昧だったり抽象的である、実現不可能な内容であった場合は、法的効力を持たない可能性があるので注意が必要です。
覚書の変更内容や影響する書面の整合性を確認する
覚書を作るのは「契約内容の変更点がすぐに分かる」のが目的の一つでもあります。ただしそれは、覚書の内容が波及する契約書や他の書面との整合性が合っているのが条件です。
契約書はもちろん、覚書の合意内容に影響を受ける他の文書や、さらに別の覚書が無いかどうかも確認しなければなりません。
両当事者が合意していることを明記する
覚書の本文中、もしくは後文では「覚書の内容を双方の当事者が合意している」ことを明記しなくてはなりません。以下、例文をいくつかご紹介します。
- 覚書に記載する〇〇について、相違がないことを証明する。
- 本契約の成立を証するため、本書2通を作成し甲乙両者が記名押印の上、各1通ずつ保有するものとする。
上記例文のように、当事者双方が覚書を保有していると記載するのもいいでしょう。
覚書の修正方法
契約内容を変更して覚書を作成しても、その後さらに修正や変更が生じてしまうケースもあるでしょう。その場合は、締結した覚書をもとに「覚書を修正・変更する覚書」を作成します。
この覚書へ記載する項目は、はじめに作成した覚書と同様です。ただし、覚書の内容を詳細に記載する必要はなく、原則として修正・変更する内容の記載だけで構いません。
印紙税の課税対象文書の場合は印紙が必要
覚書を紙で作成して契約書の重要事項を変更する場合は、内容によって収入印紙が必要になる点に注意してください。
収入印紙とは、印紙税を納付するために課税文書へ貼付する証票です。納付者が納付金額分の収入印紙を購入して文書に貼付することで、印紙税などの税金や手数料などの納付が完了する仕組みになっています。
印紙税の対象となるのは紙で作成された文書だけなので、電子契約であれば基本的に収入印紙は不要です。ただし、電子文書をプリントアウトして印章を押す場合は、収入印紙が必要になる場合があるので注意してください。
収入印紙が必要かどうかの判断基準
覚書に収入印紙が必要かどうかの判断基準としては「覚書の実質的な内容が、印紙税法で定められた課税文書と判断されるかどうか」です。
課税文書には20種類の文書があり、それぞれの詳細は国税庁のホームページで確認できます。たとえば覚書の内容が不動産売買に関する契約なら「第1号文書」、請負契約であれば「第2号文書」にあたります。
出典:国税庁「No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」
出典:国税庁「No.7141 印紙税額の一覧表(その2)第5号文書から第20号文書まで」
収入印紙の金額
収入印紙の金額(税額)は、覚書の記載内容によって異なります。
覚書の内容が「課税文書」に該当しても、記載された契約金額が1万円未満の場合は非課税となるので、基本的に収入印紙は不要です。
ただし、当事者双方の署名がない「念書」などの文書であっても、その文書によって契約の成立が証明できる場合には印紙税法上の契約書に該当するため、収入印紙が必要になる場合もあるので注意しましょう。
覚書や念書に収入印紙を貼付する際の注意点
上述したように覚書や念書は内容によっては収入印紙が必要です。覚書や念書に収入印紙を貼付する際に、知っておきたいポイントについてもみていきましょう。
覚書に収入印紙が必要な場合、費用はどちらが負担する?
収入印紙の費用は、当事者双方で負担するケースが一般的です。印紙税法第3条第2項において、課税文書に対しては連帯して印紙税を納める義務があると定められています。
ただし、国や地方公共団体が作成した文書は非課税ですが、民間企業などが作成した文書は課税対象となり、その負担は民間企業側が負わなくてはなりません。
出典:e-Gov法令検索「印紙税法 - e-Gov 法令検索」
覚書や念書に印紙を貼り忘れた場合はどうなる?
覚書や念書の内容が課税文書に該当するにもかかわらず、収入印紙を貼付しなかった場合は、脱税とみなされてしまうので注意しましょう。
税務調査などでその事実が発覚した場合は、納付すべき印紙税の額の3倍に相当する過怠税が徴収される可能性があります。
ただし、納付漏れを予知していなかった場合や、税務調査を受ける前に自主的に不納付を申し出た場合は、1.1倍に軽減が認められる場合もあります。
また、収入印紙に消印を押さなかった場合も、消印のない印紙の額面に相当する金額の過怠税が徴収されますのでご注意ください。
収入印紙の金額を間違ってしまった場合の対処法は?
本来の課税金額よりも大きい金額の収入印紙を貼った場合は、税務署で「印紙税過誤納確認申請書」を作成し、収入印紙を貼った文書とともに提出しましょう。過誤納だった事実が確認されれば、後日申請書に記載した金融機関に還付金が振り込まれます。
貼付した収入印紙の金額が不足していたときは、過怠税が徴収される罰則を受ける対象となります。
覚書を電子契約にした場合のメリットとは?
電子契約とは、契約書を紙で作成する代わりに、契約内容を電子データによって保存・管理する仕組みです。電子契約サービスを導入して電子サインを利用すれば、覚書も電子契約が可能となります。
覚書を電子契約にすると、どんなメリットがあるでしょうか。
印刷や郵送などの手間やコストの削減
覚書を電子化すれば、従来の紙文書で発生していた手間がかかりません。
電子契約で取り交わした書面は印紙税における「課税文書の作成」に該当しないので、収入印紙も不要となりコスト削減につながります。
また、作成した覚書は相手先へメールで素早く送信できるので、即日締結が可能となり、システム上で先方の進捗状況の確認も可能です。
ペーパーレス化で管理の手間や収納スペースも不要
覚書は、関連する契約書とセットで保管する必要があるため、管理が煩雑になりがちです。書類が多くなればなるほど、紛失や破損のリスクも高まるでしょう。
電子契約サービスを活用すれば、過去の覚書もすべてデータで一括管理できるため、ファイリングの手間や収納スペースも必要ありません。
電子契約の基礎知識や導入方法について詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
セキュリティの強化
セキュリティを強化できるのも、電子契約を利用するメリットの一つです。
従来の紙文書であれば、書類の保管棚を開けられてしまうと、誰でも重要書類を閲覧・持出・廃棄ができてしまう懸念がありました。
電子契約サービスであれば、覚書ごとにアクセス権を設定できたり、サービスへのアクセス自体もパスワード入力を必須にできるため、従来の書面での締結と比べてもセキュリティを高められます。
契約にまつわる業務を簡単にする方法
契約書の作成や押印、管理など、契約にまつわる作業は多岐に渡ります。リモートワークが普及した近年、コミュニケーションを取りづらくなってしまい、契約締結までに時間がかかってしまう場合や、押印のためだけに出社しなければいけない...なんてケースも少なくありません。
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よくある質問
覚書とは?
覚書とは、当事者間の合意内容を書面化したものであり、契約書の一種になるため法的効力を持つ書類です。
詳細は、記事内「覚書とは」をご覧ください。
覚書と契約書の違いは?
覚書と契約書は同等の法的効力を持ちますが、利用されるシーンが異なります。
詳細は、記事内「契約書との違い」をご覧ください。
覚書の書き方のルールは?
まとめ
覚書とは、ビジネスシーンにおいては、契約書を補完する役割をもつで利用されることが多い重要な書類です。覚書には当事者双方の合意と署名・押印が必要であり、契約書と同等の法的効力があります。
覚書を使用すれば締結した契約に変更や追加が生じた場合も、契約書を一から作り直したり、内容を確認したりする手間を省くことができます。覚書の内容が課税文書の対象となる場合は収入印紙が必要になるので、忘れずに準備しましょう。
覚書は電子契約でも法的効力は変わりません。電子契約サービスを利用すれば覚書だけでなく、さまざまな契約書の作成や締結までにかかる手間を大幅に削減できるのでおすすめです。