監修 森川 弘太郎 弁護士(第二東京弁護士会)
マンションや戸建て住宅、土地などの不動産を貸し出す際は、借り手と賃貸借契約を結びます。その際には、賃貸借契約書を作成するのが一般的です。
本記事では、賃貸借契約書の役割や作成時のポイント、賃貸借契約締結までの流れを紹介します。また、2022年5月から可能となった不動産取引の電子契約についてもまとめました。
目次
賃貸借契約とは
賃貸借契約とは、目的物を有償で使用・収益させることを約束するものです。賃貸借契約を結ぶと貸主・借主双方に義務が課せられます。
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貸主:
- ・借主に目的物を使用・収益させること
- ・目的物が壊れた際には修繕することなど
-
借主:
- ・貸主に賃料を支払うこと
- ・目的物を返還する際は最初の状態に戻すことなど
賃貸借契約書の作成は必須?
本来契約は、口約束でも「申し込み」と「承諾」の意思表示があれば成立します。そのため、賃貸借契約書の作成は義務ではありません。
しかし、口約束だけでは、後から「言った」「言わない」で揉める可能性や、貸主と借主の認識にずれがありトラブルになってしまうおそれがあります。
これらのトラブルを未然に防ぐためにも契約内容を書面化した賃貸借契約書を作成するのが一般的です。
不動産を目的物とする賃貸借契約には土地賃貸借契約と建物賃貸借契約がある
また、不動産を目的物とする賃貸借契約は、大きく分けると「土地賃貸借契約」と「建物賃貸借契約」の2つがあります。
土地賃貸借契約
土地賃貸借契約とは、土地を使用・収益させることを目的とした賃貸借契約です。マンション用の土地を貸し出す場合や、資材置き場を貸し出す場合などが該当します。
土地賃貸契約書には印紙の貼付が必要
土地賃貸借契約書は印紙税の課税対象になり、契約金額に応じた印紙を貼付することになります。
なお、契約金額とは、「契約に際して支払う、返還が予定されていない金額」のことであり、賃料や敷金は含まれません。0円であることがほとんどですが、わざわざ契約書に「0円」と記載することも少ないため、ほとんどは「契約金額の記載なし」となります。その場合に貼付すべき印紙は200円です。
建物賃貸借契約
建物賃貸借契約とは、建物を使用・収益させることを目的とした賃貸借契約です。マンションやアパートの部屋・戸建住宅・店舗・オフィスビルなどを貸し出す場合はこちらに該当します。
建物賃貸借契約には、貸出期間を限定しない「普通建物賃貸借契約」と、貸出期間を限定する「定期建物賃貸借契約」の2つがあります。
普通建物賃貸借契約
普通建物賃貸借契約とは、1年以上の賃貸借期間を設定する賃貸借契約です。期間は定められていますが、原則更新される契約であり、借主が引き続き使用することを希望している場合、貸主は正当な事由がない限り更新を拒絶できません。
たとえば、転勤期間だけ自宅であるマンションの一室を、賃貸借契約を結んで貸し出したとします。貸主が「転勤期間が終わるから自宅に戻るため、更新できない」と伝えても、正当な事由が認められない可能性が高く、その場合には借主が継続を希望した場合は契約更新せざるをえない場面が多く見受けられます。一方、借主からの中途解約については、特約で定めることが多いです。
また、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合を除いて、状況の変化により賃料が不相当となったときは、借主と貸主のどちらも相手方に対し賃料の増減を請求できます。
定期建物賃貸借契約
定期建物賃貸借契約は、契約の更新がなく、契約で定めた期間が満了することで確実に契約終了となる賃貸借契約です。
今までこの契約を結ぶには、借地借家法によって書面契約が必要でしたが、2022年5月の法改正で電子化が認められました。なお、契約期間に制限はなく、自由に設定可能です。
借主からの中途解約は、床面積が200平方メートル以下の住宅の居住者で、やむをえない事情で住み続けられなくなった場合のみ認められます(中途解約に関する特約がある場合は除きます)。また、状況の変化により賃料が不相当となったときは、貸主と借主、双方が賃料の増減請求を行えますが、特約で「増減請求はできない」との定めがあるときはできません。
「海外出張で家を空ける3年間だけ自宅を貸したい」など、貸し出したい期間が決まっている場合に選ばれる契約方法です。
建物賃貸借契約書の項目別のポイント
上述したように、賃貸借契約にはいくつか種類があります。ここからは「建物賃貸借契約書」を例に、具体的な契約書の内容や注意すべき点について紹介します。
建物賃貸借契約書の作成にあたり、記載すべき事項は多岐にわたりますが、特にポイントとなるのは以下の項目です。
<建物賃貸借契約書のポイントとなる項目>
- 1. 賃貸借の目的物
- 2. 使用目的
- 3. 契約期間と更新
- 4. 賃料や管理費などの額、支払期限、支払方法など
- 5. 貸主および管理会社の連絡先
- 6. 反社会的勢力の排除
- 7. 禁止事項
- 8. 修繕について
- 9. 契約の解除
- 10. 原状回復の範囲
- 11. 特約事項
なお、建物賃貸借契約書については、国土交通省からテンプレートとして「賃貸住宅標準契約書」が公表されています。賃貸借契約に関するトラブルを防止し、借主の居住の安定と貸主の経営の合理化の両方を図ることを目的として作成されたものであり、法改正に合わせて改訂もなされています。
このテンプレートをベースに、建物の特性や貸主・借主の事情に合わせて作成するのがおすすめです。
1. 賃貸借の目的物
建物の名称や所在地、構造、面積、マンションであれば何号室なのか、どんな施設が附属しているのかなど、賃貸借の目的となるものを明記します。
2. 使用目的
建物なら住居用、店舗用など、土地なら資材置き場用、駐車場用などと、使用目的を定めるのが一般的です。これにより、住居として貸したつもりが、店舗として使用されるといった事例を防げます。
禁止事項として「目的外使用」を設定することで、目的外の使われ方をした場合の契約解除も可能になります。
3. 契約期間と更新
普通建物賃貸借契約の場合、契約期間は1年以上で設定する必要があります。1年未満の期間を定めた場合は、借地借家法により「期間の定めのないもの」として扱われるので注意が必要です。
普通建物賃貸借契約は自動的に更新されるのが原則であり、貸主は正当な事由がない限り更新を拒絶できませんが、更新料を設定することはできます。更新料を設定する場合は、「更新する場合、乙は甲に対し、賃料◯ヶ月分の更新料を支払わなければならない」などと規定します。
更新料の相場は地域によっても違いますが、賃料の1ヶ月分となっているケースが大半です(国土交通省「令和3年度 住宅市場動向調査」より)。
4. 賃料や管理費などの額、支払期限、支払方法など
毎月の賃料や管理費の額、支払期限、支払方法は、明確に示しておく必要があります。普通建物賃貸借契約では、貸主と借主の双方に賃料の増減請求権が認められていますが、貸借人とのトラブルを避けるために、賃料増減の可能性があることも、契約書に記載しておくのがおすすめです。
5. 貸主および管理会社の連絡先
賃貸期間中に物件に修繕の必要が生じるなど、何かあった場合の連絡先を記載します。
6. 反社会的勢力の排除
双方が相手方に対し、反社会勢力ではないことを確約する条項を入れておきます。
7. 禁止事項
借主に禁止または制限したい事項がある場合に、禁止事項を記載します。
目的外使用の禁止、物件を第三者に譲渡・転貸することの禁止、他住人への迷惑行為の禁止などがよく設定される禁止事項です。物件によっては、ペット飼育の禁止などを記載する場合もあります。
8. 修繕について
物件や設備に修繕が必要になった場合、貸主・借主のどちらが負担するのかを記載します。原則として、物件を使用・収益させるのに必要な修繕を行うのは貸主の義務です。
たとえば、台風で屋根が壊れて雨漏りするようになった場合、貸主は自身の費用で修繕しなくてはいけません。一方、切れた電球の交換などは、借主の費用負担で行うとするのが一般的です。
9. 契約の解除
賃料や管理費の支払いがなかったときや、禁止事項への違反があった場合などに、契約の解除ができる旨を記載しておくのが一般的です。
10. 原状回復の範囲
賃料や管理費の支払いがなかったときや、禁止事項への違反があった場合などに、契約の解除ができる旨を記載しておくのが一般的です。
ただし、経年劣化によって生じる損耗や、借主の責めに帰すことができない事由によってできた損耗については、借主に原状回復を求めることはできません。退去時にキズや汚れがあった場合、貸主・借主のどちらが原状回復費用を負担するのかは揉めやすいところなので、しっかり契約書に記載しておきましょう。
なお、契約終了時に物件を「現状のまま引き渡す」と記載した場合は、借主の原状回復義務を免除することになります。
11. 特約事項
特約を設けたい場合は、特約事項として記載します。ただし、賃借人保護のために設けられた借地借家法の規定に反する特約は、たとえ記載しても無効となります。
たとえば、「賃貸人の要求があれば、いつでも契約を解除できる」「(普通建物賃貸借契約において)契約を更新しない」などの特約は、いずれも借地借家法に反するため無効です。
建物賃貸借契約締結から物件を貸し出すまでの流れ
入居者の募集、賃貸借契約書の作成、契約の締結といった一連の手続きは、貸主が自分で行うことも可能ですが、仲介会社に依頼するのが一般的です。契約を締結する際に、貸主が同席することはあまりありませんが、手続きの流れや必要なものについては把握しておきましょう。
建物の賃貸借契約を結び、マンションや戸建て住宅、オフィスビルなどを貸し出す流れは、下記のようになります。
<建物賃貸借契約締結から建物を貸し出すまでの流れ>
- 仲介を依頼する不動産会社を選ぶ
- 募集家賃・条件を決める
- 不動産会社と媒介契約・管理委託契約を結ぶ
- 不動産会社が入居者の募集を開始し、入居希望者の案内などを行う
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入居申込書を受領したら入居審査を行い、入居の可否、契約書に盛り込む特約事項の内容等を決定する
(特約事項等について、入居希望者から見直しを求められた場合は、交渉が行われることもある) -
不動産会社から入居者に重要事項説明が行われる
(入居者が契約書に署名・押印することで、建物賃貸借契約が締結される) - 不動産会社に仲介手数料を支払い、入居者から保証金や賃料を受け取る
仲介業者に依頼する場合、契約書は仲介業者が作成するので自分で作る必要はありません。ただし、仲介業者の用意したテンプレートでは物件の実情に合わない場合もありますので、内容は必ずチェックし、盛り込みたい特約などがあれば記載しておくことが大切です。
建物を貸し出す際に必要となるもの
不動産会社との媒介契約を結ぶ、家賃査定を受ける、建物賃貸借契約書を作成するなど、建物を貸し出すまでに必要な手続きを進めるためには下記の書類などが必要です。
<建物賃貸借契約手続きに必要なもの>
- 履歴事項全部証明書または登記簿謄本、権利証
- 建物の間取り図や設計図
- リフォーム履歴がわかる書類
- メンテナンスの連絡先
- (マンション等の場合)管理規約がわかる書類
不動産賃貸借契約は電子契約も可能に
社会全般でデジタル化が進む流れを受けて、不動産取引も電子化がすすんでいます。
2021年5月に、不動産の売買契約や賃貸借契約の電子化を可能にする宅地建物取引業法改正を含む、一連のデジタル改革関連法が国会で成立しました。これにより、書面が必須だった以下4つの文書を電子化できるようになりました(契約相手の承諾が必要条件)。
<電子化できるようになった文書>
- ・媒介、代理契約締結時の交付書面
- ・登録証明書
- ・重要事項説明書
- ・賃貸借契約書
改正宅地建物取引業法および借地借家法は2022年5月に施行され、以後は不動産契約の電子化が広まっていくと予想されています。ただし、事業用定期借地については公正証書が必要なため、電子契約の対象外となっている点には注意が必要です。
不動産賃貸借契約を電子化するメリット
不動産賃貸借契約を電子化するメリットは、大きく下記の3つがあります。
契約がスピーディーに進む
契約のために入居者に不動産会社まで来てもらう必要がないので、スピーディーに契約を締結できます。
契約書の保管場所に困らない
電子データなので保管場所を取らず、パソコンやサーバーに保管しておけば管理も簡単です。
印紙代がかからない
電子契約方式では収入印紙を貼付する必要がないため、土地賃貸借契約であっても印紙代がかかりません。
契約にまつわる業務を簡単にする方法
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電子契約で契約書作成にかかる手間・コストを削減
電子契約にすると押印や郵送、契約管理台帳へのデータ入力の必要がなく、契約に関わる手間が大幅に削減されます。さらに、オンライン上での契約締結は印紙税法基本通達第44条の「課税文書の作成」に該当しないため、収入印紙も不要です。
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まとめ
不動産の賃貸借契約書は、賃貸の条件を記載した重要な文書です。貸主が自分で作るケースは少ないですが、借主とのトラブルを避けるためにも、どのような内容になっているのかきちんと把握しておくことが重要です。
2022年5月以降、電子契約の方法による契約締結が可能になります。契約に時間がかからない、印紙代がかからないなど、数々のメリットがありますので、すべてがクラウド上で完結するfreeeサインもぜひ活用してみてください。
監修 森川 弘太郎 弁護士(第二東京弁護士会)
東京弁護士法人 代表弁護士。
IT法務、エンターテインメント法務、フランチャイズに特化した企業法務専門の法律事務所にて勤務した後、東京都内に3拠点の法律事務所(新宿東口法律事務所、立川法律事務所、八王子法律事務所)を構える東京弁護士法人を設立。東京弁護士法人は弱点のない総合型法律事務所を目指し、各弁護士が個人向け業務・法人向け業務、民事事件・刑事事件問わず横断的に案件を扱いながら総合力を高めつつ、弁護士によって異なる得意分野を持つことで専門性もあわせ持つ法律事務所となっている。