契約書を読んでいると「甲」「乙」などの表記が多く登場しますが、詳しく意味を知らない方も多いでしょう。「甲」「乙」などの表記は「甲乙丙丁」と呼ばれ、契約当事者の名前の代わりに使用されます。契約書が読みやすくなるなどのメリットがあり、ビジネスシーンで良く用いられている表記です。
今回は、甲乙丙丁について意味・読み方・契約書で使用する際の注意点を中心に紹介します。
目次
甲乙丙丁とは
甲乙丙丁は中国の古典で用いられた順序を表す言葉で、日本語にも取り入れられました。「こうおつへいてい」と読み、主に以下の用途があります。
甲乙丙丁の主な用途 | 概要 |
---|---|
順番や順位を示す | テストの成績や競技の順位などを表すのに使用する。 |
分類や区分けに利用 | 複数の選択肢やグループを区別する際に用いる。 |
名前の代用 | 契約書などで実名の代わりに使用する。 |
現代ではビジネスや学術の場面でも頻繁に使われ、項目を整理したり、選択肢を提示したりする際に重宝されています。「甲乙丙丁」の後には「戊己庚辛壬癸」と続き、より多くの項目を扱う際に使用されます。特に、契約書で使用されるケースが多く、現代のビジネスでは頻繁に用いられる表現です。
契約書において甲乙丙丁を使う2つの理由
契約書の作成や管理において、甲乙丙丁の使用は非常に効果的です。主に以下の2つの理由から、多くの法務担当者や契約書作成者に重宝されています。
契約書作成作業が効率化できる
契約書で甲乙丙丁を使用すれば、契約書の作成作業を大幅に効率化できます。同じ契約書を他社との契約で使い回せるためです。
具体的には、契約当事者の名称を「甲」「乙」に置き換えれば、契約書のテンプレート化が容易になります。例えば、ある取引先との契約書をベースに新しい契約書を作成する際、当事者名を変更するだけで繰り返し使うことができます。
契約書の改訂や更新の際も当事者名以外の部分に集中して作業を行えるため、記載ミスを減らせる点もメリットです。甲乙丙丁を使用すれば、契約書作成の効率化と品質向上に大きく貢献します。
契約書が読みやすくなる
契約書に甲乙丙丁を使用すれば固有名詞を排除できるため、契約書全体が読みやすくなります。特に長い社名や複雑な組織名を多用すると文章が冗長になり、重要な契約条項の内容が理解しづらくなる恐れがあります。「甲乙丙丁」を使用すれば、契約当事者を簡潔に表現でき、契約の本質的な内容に焦点を当てやすいです。
また、文章の流れがスムーズになり、理解しやすくなります。特に、複数の当事者が関与する複雑な契約では、有効でしょう。
甲乙丙丁は契約書の読みやすさを向上させ、契約内容の正確な理解を促し、誤解やトラブルを防止できます。
契約書における甲乙丙丁の使い方
契約書で甲乙丙丁を使用する際は、一般的に以下のルールに従います。
一般的なルール
- 「甲」:契約の主体や発注者を指す
- 「乙」:契約の相手方や受注者を表す
- 3者以上の契約では「丙」「丁」と続く
契約書の冒頭で以下のように各当事者を定義し、以降は甲・乙などの略称を使用します。
株式会社〇〇(以下「甲」という。)と株式会社△△(以下「乙」という。)は、以下の秘密保持契約を締結する。
契約の性質によっては「売主」「買主」など、役割を示す言葉を併用するケースもあります。契約書の読みやすさが向上し、当事者の権利義務関係が明確になります。
契約書において「甲乙丙丁」を使わないとどうなる?
契約書で「甲乙丙丁」を使用することは法的な義務ではありません。実際、多くの契約書では当事者の実名や会社名をそのまま使用しています。「甲乙丙丁」の使用は慣習的なもので、法的効力に直接影響を与えるわけではありません。
ただし、「甲乙丙丁」を使用しない場合、以下のような悪影響が考えられます。
- 契約書が長くなる可能性がある
- 当事者名の記載ミスのリスクが高まる
- 読みづらさが増す可能性がある
上記のデメリットを考慮し、多くの法務担当者は甲乙丙丁を使用して契約書を作成するのが一般的です。しかし、最終的には契約の性質や当事者の意向に応じて判断されます。
契約業務において甲乙丙丁を使う際の注意点
契約書で「甲乙丙丁」を使用する際には、いくつかの重要な注意点があります。下記に紹介する注意点を意識すれば、より明確で誤解のない契約書を作成できます。
契約書作成時に主語が変わってしまわないようにする
契約書で甲乙丙丁を使用する際、主語が意図せず変わらないよう注意しましょう。
「甲」「乙」「丙」「丁」という漢字は、いずれも画数が少なく形状が似ています。また、フォントによっても似た文字に見えるケースがあります。
契約書を作成する際や読む際に誤って異なる当事者を指してしまう危険性があり、契約内容の誤解を生むため注意が必要です。
上記の問題を避けるためには、以下のような対策が効果的です。
- 漢字の違いを明確に区別できるフォントを使用する
- 重要な箇所では「甲(発注者)」「乙(受注者)」のように、カッコ書きで役割を併記する
- 校正の際に甲乙丙丁の使用箇所に注意を払い、複数人でチェックする。
主述関係を明確にする
また、主述関係を明確にすることにも注意を払いましょう。。主述関係を明確にしないと、「誰の」「何の」話をしているかわかりにくくなります。
例えば、「甲は乙に対して製品を納入し、検収後に代金を支払うものとする。」という文章がある時、上記の文章だと代金を支払うのが甲なのか乙なのかが不明確です。
契約内容が不明瞭だと、後々のトラブルの原因となる可能性があります。主述関係を明確にして契約書を作成するためには、以下のような対策が有効です。
- 文章を短く区切り、1つの文で1つの内容のみを表現する
- 主語を明確に記載し、省略しない
- 長文の場合は、箇条書きやナンバリングを使用して構造を明確にする
先程の文章で以下のように2文に分けて記述すれば、主述関係が明確になります。
”甲は乙に対して製品を納入するものとする。乙は、製品の検収後に甲に対して代金を支払うものとする。”
さらに、複雑な権利義務関係を記述する際には、表や図を使用して視覚的に表現するのも効果的です。誰が何をするのかが一目で理解できるようになります。
主述関係を明確にすれば契約書の解釈に関する誤解を防ぎ、当事者間の円滑なコミュニケーションが可能です。また、万が一紛争が生じた場合でも契約内容を解釈しやすいため、迅速な解決に寄与できます。
契約書で甲乙丙丁を使う具体的な事例
甲乙丙丁は、さまざまな取引の契約書で使用されます。以下に、不動産取引と業務委託契約の具体的な事例を紹介します。
不動産取引
不動産取引における契約書では、甲乙丙丁を使用した形式が一般的です。例えば、不動産売買契約書では以下のような形で使用されます。
不動産取引における甲乙の定義
- 甲(売主):不動産所有者
- 乙(買主):不動産購入者
契約書の冒頭部分では次のように記載されるケースが多いです。
”売主〇〇(以下「甲」という)と買主△△(以下「乙」という)とは、下記物件の売買について、以下のとおり契約を締結する。”
後の条項では、例えば以下のような形で「甲」「乙」が使用されます。
”第1条(売買契約)
甲は、下記の不動産(以下「本物件」という)を乙に売り渡し、乙はこれを買い受けるものとする。
第2条(売買代金の支払い方法)
本物件の売買代金は金〇〇円とし、乙は甲に対し、以下の方法により支払うものとする。”
上記のように「甲」「乙」を使用すれば、契約書全体を通して当事者を明確に区別し、各々の権利義務を明確に記述できます。
業務委託契約
業務委託契約でも「甲乙丙丁」の使用は一般的で、以下のように用いられます。
業務委託契約における甲乙の定義
- 甲(委託者):業務を委託する側
- 乙(受託者):業務を受託する側
契約書の冒頭部分は以下のように記載されるケースが多いです。
”委託者〇〇(以下「甲」という)と受託者△△(以下「乙」という)とは、以下のとおり業務委託契約(以下「本契約」という)を締結する。”
後の条項では、例えば以下のような形で「甲」「乙」が使用されます。
”第1条(委託業務)
甲は、以下の業務(以下「本業務」という)を乙に委託し、乙はこれを受託する。
第2条(委託料)
甲は、本業務の対価として、乙に対し、以下の委託料を支払うものとする。
第3条(機密保持)
乙は、本業務の遂行にあたり知り得た甲の機密情報を、甲の事前の書面による承諾なくして第三者に開示してはならない。”
「甲」「乙」を使用すれば、委託者と受託者の役割や責任を明確に区別し、契約内容を簡潔かつ明確に表現できます。
契約にまつわる業務を簡単にする方法
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よくある質問
契約書における甲と乙は?
契約書で甲乙丙丁を使用する際は、一般的に以下のルールに従います。
- 「甲」:契約の主体や発注者を指す
- 「乙」:契約の相手方や受注者を表す
- 3者以上の契約では「丙」「丁」と続く
詳細は、記事内「契約書における甲乙丙丁の使い方」をご覧ください。
甲と乙はどっちが自分?
甲と乙に優劣はありません。
一般的には、甲乙の由来である十干「甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸」の順番のとおり、立場が上になるお客様や発注者を「甲」、受注者側を「乙」と記載します。
契約書で甲乙を使わない方がいい?
契約書の作成や管理において、必ずしも甲乙を使う必要はありませんが、使用は非常に効果的で多くの法務担当者や契約書作成者に重宝されています。
詳細は、記事内「契約書において甲乙丙丁を使う2つの理由」をご覧ください。
まとめ
甲乙丙丁は、契約書作成の効率化や読みやすさの向上に役立つ便利な表現です。主に契約当事者を示すのに使われ、同じ固有名詞の繰り返しを避けるために用いられます。
ただし、使用時は主語が混同したり、主述関係が不明確になったりしないよう注意が必要です。契約書以外でも、焼酎の等級分類・建設工事の規模区分・危険物取扱者の資格区分などさまざまな分野で活用されています。
甲乙丙丁を適切に使用できれば、情報の整理や伝達を円滑にして業務の効率化に大きく貢献します。甲乙丙丁を上手に活用し、日々の契約業務をスムーズに進めましょう。
契約書以外で甲乙丙丁を使う具体的な事例
甲乙丙丁の使用は契約書に限らず、さまざまな分野で見られます。以下に、焼酎・工事区分・危険物取扱者の分野における具体的な事例を紹介します。
焼酎
焼酎業界では、甲乙丙丁を製造方法や原料の違いを表す等級分類として使用しています。具体的には2種類の分類があり、定義は以下のとおりです。
焼酎の分類 | 概要 |
---|---|
甲類焼酎 | 連続式蒸留機で製造されたアルコール度数36度未満の焼酎。無色透明で原料の香りや味わいが少ないのが特徴。主にカクテルのベースやサワーの材料として使用される。 |
乙類焼酎 | 単式蒸留機で製造されたアルコール度数45度以下の焼酎。原料の香りや味わいが楽しめる点が特徴。いわゆる「本格焼酎」が該当し、芋焼酎や麦焼酎などが含まれる。 |
甲類と乙類の区別は、焼酎の味わいや用途を考える上で重要な指標となっています。
工事区分
建設業界では、甲乙丙丁を工事の種類や規模を表す区分として使用しています。具体的には、主に以下のように定義されています。
工事区分 | 概要 |
---|---|
甲工事 | A工事とも呼ばれる。ビルの本体・躯体(くたい)部分・共用部に関する工事を指す。建物部分の改修工事・共用部のリニューアル工事など、資産価値を保つための工事が該当する。 |
乙工事 | B工事とも呼ばれる。建物の構造に影響を与えない工事。配線・電気・空調工事などが該当する。 |
丙工事 | C工事とも呼ばれる。小規模の工事で、内装・塗装などの修繕やメンテナンス工事が該当する。 |
工事区分では順番を表すのではなく、工事の種類を区別するために甲乙丙丁が使用されています。
危険物取扱者
消防法に基づく危険物取扱者の資格区分にも、甲乙丙丁が使用されています。具体的には、取り扱う危険物によって以下のように区分されています。
危険物取扱者の種類 | 概要 |
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甲種危険物取扱者 | 全ての危険物を取り扱える最上位の資格。石油コンビナートや大規模な化学工場などで、広範囲の危険物を扱う管理者クラスの人材に求められる。試験の難易度も最も高く、化学や物理学の幅広い知識が要求される。 |
乙種危険物取扱者 | 特定の危険物を取り扱える資格。第1類から第6類まであり、分類に応じた危険物を扱える。 |
丙種危険物取扱者 | ガソリン・灯油・軽油・重油など指定の第4類危険物を取り扱える資格。 |
危険物取扱者の場合は扱える危険物に応じて資格を分けており、区分分けに甲乙丙丁を用いています。