セグメント情報とは、企業の会計状況を事業や地域などに分類して、それぞれの収益状況を把握するために作成された情報のことです。
たとえば、ひとつの企業が複数事業を行っている場合、各事業の財務状況を把握しづらい状況が考えられます。そのような場合にセグメント情報を使って企業分析を行うことで、企業の詳細な経営実態を把握でき、将来の戦略立案に役立てられるのです。
本記事では、セグメント情報の基礎知識や作成例、作成の際のポイントについて詳しく解説するため、最後までお読みください。
目次
セグメント情報とは
セグメントは、区分や階層を意味する用語です。企業の会計において、ひとつの会計主体をいくつかの部門に分類し、それぞれの部門ごとにまとめた会計情報を「セグメント情報」と呼んでいます。
ひとつの会社で複数の事業を展開していたり、製造と販売などそれぞれ異なる事業構造を持った会社に分かれていたりするケースは少なくありません。そのため、全体の財務諸表だけでは各事業の収益性や成長性を判断しづらい場面があります。
このような場合に、事業や地域ごとの単位に収益情報を整理したセグメント情報を活用すれば、各部門がどの程度利益を生み出しているかが明確になり、企業の経営実態を詳細に把握できます。
その結果、経営陣の将来的な戦略立案において各事業の強みや課題が把握できるほか、投資家への情報不足による誤解を防ぐことにもつながります。
セグメント情報の作成方式
セグメント情報の作成方式は、2010年4月に「セグメント情報の開示に関する会計基準」が適用されたことにより「マネジメントアプローチ」に変更されました。これは、経営者が企業を意思決定の観点から部門ごとに分け、それぞれの業績や収益性を把握、評価するための方法です。
マネジメントアプローチへの変更により、経営陣が実際に活用している事業区分に基づいたセグメント情報が開示され、分析の精度が高まっています。
また、会計システムにセグメント情報を設定することで事業別・地域別に収益や支出などを管理しやすくなります。会計システムによっては、分析レポートに設定したセグメント情報を反映し可視化できるものもあり、効率的に経営実態を把握できるのが特徴です。
日本では1990年にセグメント情報が導入されましたが、当時の方式は「インダストリーアプローチ」と呼ばれており、公的な統計情報に基づいた産業区分によるセグメント分けでした。
しかしこの方法では企業内の経営実態が把握しづらく、投資家などへの経営判断に直結する情報提供が難しかったため、経営者の視点に立つマネジメントアプローチへ移行した経緯があります。
マネジメントアプローチによって各事業ごとの収益性がより明確に開示されるため、経営者はセグメントごとに分析しやすくなります。その結果、より実情に即した将来的な経営戦略を立案できるようになりました。
セグメント情報を作成するメリット
セグメント情報は企業の事業ごとの収益性を明確にできるため、将来的な経営戦略を立てる際に役立つだけでなく、投資家などの利害関係者へ透明性のある情報提供ができます。
セグメント情報の主なメリットを詳しく解説します。
将来のキャッシュフローを評価できる
セグメント情報により、財務諸表の利用者は経営者視点で企業の事業別収益性を把握でき、将来のキャッシュフローを評価できます。具体的には、経営者が各事業の成長見通しや収益性を重視してどのような戦略を取っているかを読み取ることで、投資家などの利害関係者が企業の将来の資金流入を予測しやすくなります。
セグメント情報を確認すれば、企業の成長性やリスクを判断し、より的確な投資判断が可能です。
作成負担が少ない
マネジメントアプローチに基づくセグメント情報は、企業の内部管理資料をもとに作成されます。そのため、新しくデータを作成する負担が少ないのがメリットです。
従来の方法では、外部開示用の資料作成が手間となっていましたが、内部管理資料を活用することで、企業は少ない労力で信頼性の高いセグメント情報を開示できます。とくに複数の事業を展開する企業にとって、効率的で迅速な情報提供が実現します。
恣意性が入りにくい
マネジメントアプローチを用いたセグメント情報は、実際の企業構造に基づいて区分を行うため、恣意性が入りにくいのも特長です。従来の産業区分に基づく方式では、統計上の分類をもとにしていたため、実際の事業状況が正確に反映されないこともありました。しかし、マネジメントアプローチでは、経営者が実際に活用する区分に沿って情報が整理されます。
これによって関係者は実情に即した情報をもとに判断が可能になり、企業の信頼性が高まります。
セグメント情報のデメリット
セグメント情報は企業の組織構造や内部情報に基づくため、企業間での比較が難しかったり、場合によっては企業活動の支障となったりする可能性もあります。デメリットの詳細を解説します。
企業間の比較が難しい
セグメント情報は企業の組織構造に基づいて作成されるため、企業間の比較が難しくなることがデメリットのひとつです。
マネジメントアプローチでは経営者の意思決定や評価に基づき、企業独自の区分でセグメント情報を作成します。そのため同業他社と比較しづらく、投資家などの外部の利害関係者が業績を判断する際の障壁となる場合があります。
たとえば、同じ業界の企業であってもセグメントの区切り方が異なると、各事業ごとの収益性や成長性の評価が企業ごとに異なり業績の比較が容易ではありません。企業間で比較する場合は、企業ごとに異なる基準で情報を読み取る必要があり、時間や労力がかかる場合があります。
企業の事業活動の妨げになる恐れがある
セグメント情報は企業が内部で利用している財務情報に基づいて開示されるため、場合によっては事業活動に支障が出る可能性があります。
たとえば、経営戦略や事業ごとの詳細な情報が外部に公開されることで、同業他社などの競合に自社の戦略や強みが伝わりやすくなるリスクが考えられます。
分析に役立てるためのセグメント情報の設定例
セグメント情報は企業の事業や地域ごとの財務状況を具体的に示すため、経営判断や投資分析に役立ちます。
事業別、地域別のセグメント情報の例は以下のとおりです。
事業別のセグメント情報
事業別にセグメント情報をまとめる場合は、以下のようになります。
金融サービス事業 | 製造事業 | 小売事業 | 不動産事業 | |
---|---|---|---|---|
売上収益 | 5,000万円 | 3,500万円 | 6,000万円 | 2,000万円 |
営業利益 (△損失) | 800万円 | 400万円 | 1,200万円 | −100万円 |
資産 | 4,000万円 | 2,500万円 | 5,000万円 | 1,500万円 |
減価償却費 および 償却費 | 150万円 | 120万円 | 200万円 | 80万円 |
資本的支出 | 200万円 | 150万円 | 300万円 | 100万円 |
このセグメント情報から利益率を算出する場合は、次の計算式で求められます。
- 利益率 = 営業利益 ÷ 資産
それぞれの利益率は、以下のとおりです。
金融サービス事業 | 製造事業 | 小売事業 | 不動産事業 | |
---|---|---|---|---|
利益率 | 20% | 16% | 24% | −6.7% |
地域別のセグメント情報
地域別にセグメント情報をまとめる場合は、以下のようになります。
日本 | アジア | 北米 | 欧州 | |
---|---|---|---|---|
売上収益 | 8,000万円 | 3,500万円 | 4,500万円 | 2,000万円 |
営業利益 (△損失) | 1,500万円 | 500万円 | 600万円 | 200万円 |
資産 | 7,000万円 | 3,000万円 | 4,000万円 | 1,800万円 |
減価償却費 および 償却費 | 250万円 | 100万円 | 200万円 | 80万円 |
資本的支出 | 400万円 | 150万円 | 250万円 | 100万円 |
利益率は、事業別と同様の計算式で求められます。それぞれの利益率は、以下のとおりです。
日本 | アジア | 北米 | 欧州 | |
---|---|---|---|---|
利益率 | 21.4% | 16.7% | 15% | 11.1% |
セグメント情報作成で意識したいポイント
セグメント情報を作成する際には、経営者が求める情報に合わせて企業の目的に応じた具体的で有益なデータを提供することが大切です。
セグメント情報作成で意識したいポイントについて解説します。
経営者が求める情報をもとにセグメントを分類する
セグメントを設定する際は、経営者が実際に求めている情報や、企業内部でどのように経営管理が行われているかをもとに分類することが大切です。たとえば、経営者が特定の事業や地域ごとの収益性を重視している場合、その事業や地域をセグメントとして分けることで、経営者が必要とする情報が正確に把握できます。
また、セグメントの分類方法は、経営者が自社の財務状況をどの視点で評価しているかなどの姿勢に合致することも重要です。
経営者が重視する指標に基づいてセグメントを分類することで、経営戦略に活かしやすい情報を提供でき、意思決定の質が向上します。
有益性を高める情報を追加する
セグメント情報の粒度は自社の経営目的に応じて柔軟に設定し、可能であれば売上や利益だけでなく、貸借対照表の項目も区分することで情報の有益性が増します。
たとえば減価償却費や減損損失、有形固定資産や無形固定資産の増加額なども含めることで、セグメントごとの資産の利用状況や投資効率も把握しやすくなります。
これにより単なる収益性の分析だけでなく、資産運用の効率性や将来の投資リスク評価といった多角的な視点から経営判断に役立てることが可能です。
まとめ
セグメント情報は、企業の経営状況を事業や地域ごとに把握し、戦略的な意思決定を支えるための重要な情報です。マネジメントアプローチを用いることで、経営者の視点に合致したデータを提供し、各事業の収益性やリスクをより正確に評価できます。
その一方で企業間比較が難しく、情報の開示が事業活動に影響を与える可能性もあります。セグメント情報を作成する際には経営者が必要とする情報に合わせた分類や、減価償却費などのデータも活用して情報の有益性を高めるのがポイントです。
よくある質問
セグメント情報とは?
セグメント情報は、企業の会計を事業や地域ごとに分け、それぞれの収益性や資産状況などを把握するための情報です。
詳しくは記事内「セグメント情報とは」で解説しています。
セグメント情報のメリットは?
セグメント情報は、企業の将来のキャッシュフロー評価や、資料作成負担の軽減、恣意性の排除に役立ちます。
詳しくは記事内「セグメント情報を作成するメリット」をご覧ください。