監修 安田 亮
企業経営をしていくうえで、商品やサービスの売上金額や販売数量の目標である売上予算の決定は、企業の動向に影響を与える重要な役割を担っています。
しかし、初めて売上予算を考える際には、予算の立て方や注意点などがわからずに悩んでいる担当者もいるかもしれません。
本記事では、売上予算の概要や決定までの手順を解説し、売上予算を立てる際のポイントも紹介します。
目次
売上予算とは
「売上予算」は、当期中に達成できるだろうと予想した売上高を指し、これまでの商品・製品の売上成績や変動を考慮しながら算出します。
販売目標を売上予算とする場合は、算出された数字よりも高く設定されることもあります。
作成は、月次または四半期ごとが一般的です。
予算の種類と意味の違い
予算を立てるうえで参考となる指標には、売上予算以外にも以下の種類があります。
予算の種類
- 利益予算:売上から原価と経費を差し引いた利益目標
- 原価予算:販売業では商品仕入、製造業では原材料費の見積もり
- 経費予算:売上予算や原価予算などと違い、企業が継続して活動していくために必要な費用の見積もり
予算に関して詳しく知りたい方は、「予算管理とは? 基本と手順を細かく解説」の記事もご覧ください。
売上予算を立てる目的
「売上予算」は経営のかじ取り・見直しを目的として決めます。企業は「利益が出るといいな」のように甘い考えで経営していくものではなく、しっかりとした経営指針や目標が必要です。
売上予算は、「このくらい利益を出す」とあらかじめ決めておくことによって、どう進んでいけばいいかの道筋を示す役割を果たします。
また、経営の見直しをする役割も担っています。実際に出てきた数字と作成した予算を比較すると、取り組むべきことや向き合わなければいけない課題が浮き彫りになり、今後の予算達成に向けた方針の決定が可能です。
さらに、売上予算を決めておけば、仮に目標を達成できなくても改善すべき点を検討しやすくなります。短期のスパンで課題を見つけられると修正にもそれほど時間は要しません。
売上予算の立て方
売上予算の立て方には、以下の2通りの方式があります。
売上予算の立て方
- トップダウン方式
- ボトムアップ方式
各方式を解説していくので参考にしてください。
トップダウン方式
トップダウン方式は、トップである経営陣が売上予算を立て、各事業部などで分配していく方式です。
経営陣で売上予算を立てるので、意思決定から実行までのプロセスが迅速になる点がメリットです。一方、現場の意見が反映されにくいため、経営陣と現場のずれが起きやすい側面があります。
ボトムアップ方式
ボトムアップ方式は、主に大企業で活用される方式です。
各部門が立てた予算や目標など集約させた数値をベースに、経営陣が売上予算を最終的に決定します。
現場の意見や提案が反映されやすく、従業員の自主性やモチベーション向上などが期待できます。一方、意見や提案をまとめるのに時間がかかりやすくなるほか、より現実的な予算を立てることになるため、成長の鈍化につながらないように注意しなくてはなりません。
売上予算を立てる流れ
売上予算を立てる手順は以下の通りです。
売上予算を立てる手順
- 必要な利益や目標利益を算出する
- 人件費や経費などのコストを算出する
- 本社負担の費用や変動費を用いて算出する
各段階を詳しく解説していくので参考にしてください。
➀必要な利益や目標利益を算出する
まずは、企業を経営していくうえで必要となる「利益」を算出します。
企業にとって利益は必ず獲得しなければならないものです。経営を左右する重要な役割を担っているため、売上予算を決めるときには、最初に利益を明確にさせておかなければいけません。
利益を考えず、単に売上予算だけを決めてしまうと、販売やサービス提供によって売上を上げたとしても、膨大なコストがかかっていた場合は、それほど利益が出ない事態に陥ってしまいます。
コストの部分を考慮するためにも、まずは利益に焦点を当てて、経営をしていくうえで必要になる利益に加え、「このくらい利益を出したい」という目標利益を考えておきましょう。
➁人件費や経費などのコストを算出する
経営上必要な利益や、目標の利益を出したうえで、コストの算出ステップへと進みます。コストの算出では、利益を出すために必要な人件費や経費などの費用を明確にし、削減可能な部分の費用を算出します。
たとえば、製造販売業の場合の経費の例としては、製造員・販売員にかかる人件費・製造のための電気代・商品宣伝のための広告費などです。
必要コストを明確にできれば、ほかの無駄なコストの洗い出しが可能です。無駄なコストを省ければ、より大きな利益が見込めるようになるでしょう。
大きく各経費と削減できる費用に関して検討した後は、各部門に分けて同じようにコストを集計します。売上予算は、この段階でおおよその予想数値が把握できます。
➂本社負担の費用や変動費を用いて算出する
最後に本社で負担する分の費用を計算(配賦基準:直接人員比・粗利益比・売上比など)し、付加価値や過去の実績から導いた変動率を用いて計算した結果が、最終的な売上高です。
売上予算を立てる際のポイント
売上予算を立てる際のポイントを紹介します。
売上予算を立てるポイント
- 根拠をもとに明確な数値を設定する
- 営業活動の進捗具合を可視化・共有する
- 月単位で売上予算と実績を比較して分析する
各内容を解説していくので、しっかり把握してください。
根拠をもとに明確な数値を設定する
売上予算はあいまいな数値ではなく、根拠がある明確な数値を設定しましょう。
設定した売上予算の根拠や数値が明確であれば、目標に向かってアクションを起こしやすくなります。
また、経営方針の分析や修正もやりやすくなるでしょう。
営業活動の進捗具合を可視化・共有する
売上予算に対して、現状の進捗具合を可視化・共有しておけば従業員も理解できるため、予算達成の意識をもちやすくモチベーションの維持・向上につながります。
また、万が一進捗が悪い場合でも、改善策を練りやすくなるなど、より迅速な軌道修正を図りやすいでしょう。
ただし、進捗具合の可視化は、アナログ作業で行うと労力や時間などのコスト増につながりかねません。
そこでおすすめなのが、会計ソフトを活用することです。
会計ソフトなら、リアルタイムの売上データを可視化・比較が可能なほか、紙やエクセルでの集計業務も削減できます。業務効率化の一環として会計ソフトの活用を検討してみましょう。
月単位で売上予算と実績を比較して分析する
月単位で売上予算と実績を比較して状況を分析すると、より経営のズレを確認しやすくなります。
また、期間ごとのデータを蓄積しておけば、繁忙期や閑散期など、時期ごとの特徴に合わせた売上予算も立てやすく、わかりやすくなるでしょう。
売上予算のまとめ
売上予算の決定は、経営の安定や課題・問題の早期発見につながるため、企業が成長するための大きな役割を担っています。
ただし、単に売上予算を決めればいいという訳ではなく、目標利益やコストの算出をしっかり行ったうえで、具体的な数値を設定しなくてはなりません。
また、売上予算の決定後も進捗具合を定期的に確認し、必要であれば計画の修正を実施することも大切です。
売上予算を決定する流れや注意点を理解して、自社の発展に役立てていきましょう。
監修
安田 亮(やすだ りょう)
公認会計士・税理士・1級FP技能士
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。