予算原価とは、予算から算出する原価です。本記事では予算原価とは何か、標準原価や目標原価との違い、予算原価を決める目的・メリットを解説します。
予算原価は「予算」と「原価」の2つに分けて定義できます。「予算」はあらかじめ設定された目標金額、「原価」は製造から販売までにかかった材料費や労務費などの金額です。
記事後半では予算原価の決め方もわかりやすく解説しているので、企業の経営方針や事業計画の策定に役立ててください。
目次
1.予算原価とは
予算原価とは、各計画・各部門で予測した原価にもとづく予算から算出する原価です。
企業の会計は、財務会計と管理会計に分けて行われます。
財務会計は社外の利害関係者に向けた情報提供であり、決算書をもとに過去の結果や実績にもとづく計算が重要です。
管理会計は企業活動を進めるうえで社内にて使用し、過去のみならず今後の方針を踏まえた未来も考えなければなりません。
企業活動の今後を考える際は、予算をもとに算出した原価も必要であるため、予算原価は欠かせない指標です。
予算原価と標準原価の違い
予算原価は未来の原価を予測して算出する原価ですが、標準原価は統計的に計算した製品の標準的な原価です。
予算原価と標準原価がほとんど変わらないケースもあり、予算原価を標準原価に設定する例も数多く存在します。
ただし、市場変化が激しい状況では予算原価が重要です。期中に予算原価のみを見直すケースも珍しくありません。
予算原価と目標原価の違い
目標原価は市場ニーズなどを考慮のうえ設定した販売価格から、自社が得たい利益を差し引いた数値です。原価の低減や費用効率を高めるために役立ちます。
利益を得るために重要な要素ですが、総合的に判断した適正な目標原価を定めなければ意味がありません。目標原価の設定が実情とかけ離れていると正しく活用できないため、注意しましょう。
そもそも「予算」「原価」とは?
「予算」は目標を落とし込んだ数字であり、会社経営にあたってあらかじめ設定します。「原価」は製造から販売までにかかった費用です。
以下で「予算」と「原価」に分けて詳しく解説します。
予算とは?
予算とは、会社の経営方針に基づいてあらかじめ設定した目標を、具体的に数字に落とし込んだ数字です。
会社に必要な予算設定の方法は、大きく分けると次の2つです。
予算設定の方法
- 各部門や個人の目標を予算に設定する
- 経営側が各部門の予算を設定する
各部門や個人の目標から予算を決める場合、会社が目標とする利益からかけ離れた数字で目標設定される恐れもあります。
一方、経営側が各部門の予算を設定する場合、現場の意見を無視した重いノルマとなる可能性もあるでしょう。
設定方法の違いや特徴を考え、問題点を補う予算作りが必要です。予算の策定は1年の活動が始まる前に行います。
原価とは?
原価とは、製品の製造から販売までにかかった費用を指します。原価を構成する要素は「材料費」「労務費」「経費」の3つです。
また、原価は製造原価と売上原価の大きく2つに分けられます。
原価の種類
- 製造原価:製品を製造するために使用した原価
- 売上原価:売れた製品のために使用した原価
売上原価は売れた製品の原価であるため、在庫として残っている製品にかかった原価を含みません。
原価管理の方法については、「原価管理とは?目的やメリット、原価管理の流れについて解説」をご覧ください。
2.予算原価を決める目的・メリットとは?
予算原価を決めれば今後の見通しを立てる際に役立ちます。また、今後を予測した計算が可能となる点は、予算原価を決めるメリットです。
以下で予算原価を決める目的とメリットを詳しく解説します。
予算原価を決める目的
予算原価を決めると、今後の大まかな見通しを立てるために役立ちます。
事業計画や経営方針を決定するうえで、未来の原価がわからない状況では、リスクや業界動向の把握は困難です。
また過去のデータから原価を計算する「実際原価計算」だけでは、今後の見通しを立て、有効な指標を求めることは難しいでしょう。
実際原価計算は過去の実績を把握できますが、未来を予測して予算を立て、来期の需要を検討するには原価予算が必要です。
実際原価計算で現状を把握し、会社の立ち位置を知るだけでなく、未来の予定を立てるために予算原価を活用しましょう。
予算原価を決めるメリット
長期に渡る生産計画を予測し、計算できる点が、予算原価のメリットです。
たとえば、年度予算を立てる際、先々の生産計画を立てれば実現に向けて取り組みやすくなります。
予算原価を盛り込めば、費用の使いすぎがないかも意識し、将来発生するリスクを考えて回避しながら目標達成が可能です。
予算原価は、安定的な利益を生み出すために役立ちます。
3.予算原価の決め方
予算原価は次の手順で決定しましょう。
予算原価を決める手順
- 実際原価計算
- 売上原価計算
- 標準原価計算・差異分析計算
- 予算原価計算
各計算を以下で詳しく解説します。
1.実際原価計算
実際原価計算は、製品の生産・販売・管理など各工程でかかった実際の原価をすべて合計します。
以下の集計実績値を合算し、月末や月初などに計算するケースが一般的です。
各工程にかかる原価を合算する
- 製造実績
- 出庫実績
- 購入実績
- 材料費
- 労務費
- 営業費
- 金利
- 経費
たとえばお弁当屋さんがお弁当を作る場合で考えましょう。
野菜や肉などにかかった実際の材料費が500円、加工・調理の工程費が500円ならば実際原価は1,000円です。
さらに、お弁当の傷みを防ぐため保冷剤を使ったり、販売のためにチラシを撒いたりした場合は、その費用も実際原価に加えます。
2.売上原価計算
売上原価計算は、販売実績・販売金額・実際原価計算の結果から求め、計算式は以下の通りです。
売上原価 = 期首商品棚卸高(前期の在庫商品の仕入れ金額)+ 当期商品仕入高 - 期末商品棚卸高 (当期の売れ残った商品の仕入金額)
売上原価とは、販売した商品の仕入金額や製造にかかった金額を指します。製品を製造している場合は製品の販売代金が売上であり、製造にかかった費用が売上原価です。
たとえば100万円あったうちの60万円分が売れた場合、40万円分の在庫が残ります。売れた60万円分の仕入代金が売上原価、残りの40万円分は在庫・棚卸資産です。
3.標準原価計算・差異分析計算
標準原価計算は、実際原価計算の対となる原価計算方法であり、求める際は標準の作業時間や単価などが必要です。
また、標準原価計算は実際の価格ではなく、生産活動を始める前の目標として設定します。標準原価を使うと計算速度が速まり、実際に発生した原価との比較・分析が可能です。
差異分析計算は、標準原価と実際原価の差異から状況を分析し、報告時や改善策の検討に役立ちます。
実際原価計算では、お弁当屋さんを例に挙げました。必要な原価を事前に算定した数値が標準原価です。たとえば、お弁当を作る前に材料費は450円、工程費が450円と設定した場合、標準原価は900円です。
しかし、実際原価計算では材料費が500円、工程費が500円だったため、標準原価と実際原価が一致しません。
標準原価と実際原価から差異分析計算を行うと、原価に100円のズレが生じているとわかります。原価との差異が発生する要因は何かを検証し、差異をなくせば改善につながるでしょう。実際原価が標準原価より高い場合は、改善策の検討が必要です。
4.予算原価計算
未来の予測を立て予算原価を決める予算原価計算では、標準原価と予定生産計画をもとに計算します。半期など長期にわたる生産計画や経費の予算額、予算用の標準原価設定などの情報が必要です。
過去の実績データから算出する実際原価計算とは異なり、予測による数値を用いて求めます。
なお、予算原価計算は予測で決定するため、経験や勘などに基づいて算出するケースが多いです。たとえば、事業に携わる経験者の勘や、設定者の経験で設定されます。
勘や経験に基づく予算原価計算で求めた予算原価は、計画通りに進めて利益を出すために役立つ情報です。
まとめ
予算原価とは未来を予測した原価を指し、予算原価計算では予測による数値から予算原価を求めます。
会社経営では経営計画や事業計画の策定が重要であり、過去の実績値だけでは今後の見通しを立てられません。
今後発生しうるさまざまな変化やリスクに対応するためのシミュレーションには、予算原価計算も必要です。
市場動向が常に変化する昨今、予算原価の設定は企業経営に欠かせません。予算原価を取り入れて、経営計画や事業計画の策定に役立てましょう。