青色申告特別控除とは白色申告にはない青色申告のメリットのひとつです。65万円・55万円・10万円の3種類があり、所得税の計算で控除額を差し引けます。
65万円や55万円の控除の適用を受けるためには一定の要件を満たさなければいけません。要件を満たさないと、控除額が10万円になって節税効果が減ってしまいます。青色申告で確定申告をするのであれば、青色申告特別控除の要件を理解しておくことが大切です。
本記事では、青色申告特別控除の要件や3種類ある控除額の違いについて解説します。
目次
- 青色申告特別控除とは?
- 青色申告特別控除で55万円の控除を受けるための要件は?
- 1. 不動産所得または事業所得があること
- 2. 不動産所得の場合は事業的規模であること
- 3. 単式簿記ではなく複式簿記で記帳していること
- 4. 現金主義ではなく発生主義で記帳していること
- 5. 申告時に貸借対照表と損益計算書を添付すること
- 6. 確定申告の法定期限を守ること
- 55万円控除の要件に加えて一定の要件を満たすと65万円控除になる
- 55万円控除の要件を満たしていない場合は10万円控除になる
- 令和2年分の確定申告から青色申告特別控除の要件が改正された
- 青色申告ができる個人事業主とは
- 青色申告特別控除を適用したときの節税効果と計算例
- まとめ
- 確定申告を簡単に終わらせる方法
- よくある質問
▶︎ 青色申告について、まずはこちらの記事!
青色申告特別控除とは?
青色申告特別控除とは、青色申告で所得税の確定申告をする際、所得金額から一定額を差し引ける制度です。確定申告のやり方には白色申告と青色申告の2種類あり、青色申告ではさまざまな特典が用意されています。青色申告特別控除も特典のひとつです。
青色申告特別控除には65万円・55万円・10万円の3種類があります。所得税の計算で青色申告特別控除額を控除できれば、税負担を軽減できる点がメリットです。
3種類の控除額のうちいずれの金額を適用できるかは、後述する要件を満たすかどうかによって決まります。
青色申告特別控除で55万円の控除を受けるための要件は?
青色申告者のうち、一定の要件を満たす人は65万円・55万円の控除を適用でき、65万円・55万円の控除の要件を満たさない人は10万円の控除を適用できます。
55万円の控除を受けるための要件は以下の通りです。
青色申告特別控除 55万円控除の要件
- 不動産所得または事業所得があること
- 不動産所得の場合は事業的規模であること
- 単式簿記ではなく複式簿記で記帳していること
- 現金主義ではなく発生主義で記帳していること
- 申告時に貸借対照表と損益計算書を添付すること
- 確定申告の法定期限を守ること
以下では、それぞれの要件について詳しく解説します。
1. 不動産所得または事業所得があること
青色申告で確定申告をできるのは、事業所得・不動産所得・山林所得のいずれかの所得がある人です。このうち55万円の控除の適用を受けられるのは、事業所得か不動産所得がある人です。
青色申告者であっても、山林所得のみならば55万円の控除は受けられません。事業所得や不動産所得がなく、山林所得のみであれば青色申告特別控除額は10万円です。
2. 不動産所得の場合は事業的規模であること
青色申告者のうち不動産所得がある人については、その不動産所得が事業的規模でないと55万円の控除は認められません。事業的規模かどうかは、社会通念上の事業といえる程度か否かによって判断されます。
建物の貸付けを行っているケースでは、判断基準は以下の通りです。
不動産所得が事業的規模として認められる基準
- 貸間、アパート等については、貸与することのできる独立した室数がおおむね10室以上であること
- 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること
出典:国税庁「No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分」
青色申告特別控除以外にも、不動産所得が事業的規模に該当するかどうかによって税制上の取り扱いが変わる点があるので注意が必要です。詳しくは別記事「不動産所得の事業的規模を活用して節税する方法を解説!」をご確認ください。
3. 単式簿記ではなく複式簿記で記帳していること
帳簿の付け方には、単式簿記と複式簿記の2種類の方法があります。55万円の控除が認められるのは複式簿記による記帳のみです。単式簿記で記帳していると55万円の控除は適用できません。
単式簿記とは、取引の内容をひとつの科目のみで記録する方法で、記帳の仕方がシンプルで簡単である点が特徴です。「業務で交通費1,500円がかかったケース」では、以下のように記帳します。
日付 | 勘定科目 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|
2024年〇月〇日 | 旅費交通費 | 1,500円 | 電車賃 |
複式簿記とは、取引の流れをより詳細に仕訳したもので、1回の仕訳に複数の科目を用いる方法です。単式簿記に比べるとより多くの情報を読み取ることができます。上述のケースを複式簿記で記帳すると以下の通りです。
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
2024年〇月〇日 | 旅費交通費1,500円 | 現金1,500円 | 電車賃 |
55万円の控除の適用を受けるためには複式簿記による記帳が必要なので、単式簿記よりも記帳に手間がかかります。ただし、複式簿記で記帳してもそこまで複雑なものではなく、会計ソフトを利用すれば比較的容易に作成できます。
単式簿記と複式簿記の違いについて、詳しくは別記事「複式簿記とは?複式簿記の記帳方法や単式簿記との違いをわかりやすく解説」をご確認ください。
4. 現金主義ではなく発生主義で記帳していること
会計処理の方法には「発生主義」と「現金主義」の2種類あり、このうち55万円の青色申告特別控除を受けられるのは発生主義で記帳している場合です。現金主義で記帳していると55万円の控除は適用できません。
発生主義とは「取引が発生した時点で記帳を行う方法」、現金主義とは「現金の動きがあった時点で記帳を行う方法」です。
会計処理は原則として発生主義にて行う必要があります。しかし、青色申告者のうち「現金主義による所得計算の特例」の適用を受けている人は、発生主義ではなく現金主義による会計処理が可能です。
現金主義による所得計算の特例とは、「不動産所得・事業所得の金額を、収入や必要経費の計上時期を経済的事実が発生した基準ではなく、現金の出し入れを基準として計算して青色申告をする特例」です。
この特例の対象となるのは、その年の前々年分の事業所得および不動産所得の金額の合計額が300万円以下である人です。特例を適用するためには事前に届出を行う必要があります。
特例の適用を受けると現金主義による記帳が可能になる一方で、55万円の青色申告特別控除の適用を受けられなくなります。
5. 申告時に貸借対照表と損益計算書を添付すること
55万円の控除を受けるためには、貸借対照表と損益計算書を確定申告書に添付し、適用を受ける青色申告特別控除額を記載して提出する必要があります。
損益計算書には売上や売上原価、経費などの内容を記入し、貸借対照表には現金や売掛金、買掛金など項目ごとに資産や負債、資本の状況を記入します。
10万円の控除では損益計算書を作成すればよく、貸借対照表の作成や提出は必要ありません。55万円の控除の適用を受けるためには貸借対照表の作成が必要であり、手間がかかります。ただし、会計ソフトを利用すれば比較的容易に作成できるため、上手く活用するのがおすすめです。
6. 確定申告の法定期限を守ること
55万円の控除を受けるためには、申告期限である3月15日までに確定申告をする必要があります。期限後に確定申告をすると、55万円の控除の適用は受けられません。
確定申告の期間は、原則として2月16日から3月15日までの1ヶ月間です。ただし、この期間の初日や最終日が土日にあたる年は、その翌営業日が確定申告期間の初日や最終日になります。
2024年の所得に係る所得税の確定申告期間は2025年2月17日(月)から2025年3月17日(月)ですので、期限である3月17日までに申告を終える必要があります。
55万円控除の要件に加えて一定の要件を満たすと65万円控除になる
3種類ある青色申告特別控除の金額のうち、最も大きな65万円の控除の適用を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。
青色申告特別控除 65万円控除の要件
- 55万円の青色申告特別控除の要件に該当していること
- 次のいずれかに該当していること
- その年分の事業に係る仕訳帳および総勘定元帳について、電子帳簿保存を行っていること
- その年分の所得税の確定申告書、貸借対照表および損益計算書等の提出を、確定申告書の提出期限までにe-Taxを使用して行うこと
出典:国税庁「No.2072 青色申告特別控除」
電子帳簿保存を行っていないなら、65万円の控除の適用を受けるには確定申告書をe-Tax(電子申告)で提出する必要があります。確定申告書を税務署の窓口に持参して提出したり郵送で提出したりする人は65万円の控除は受けられません。
e-Taxを初めて利用する人は、利用するための手続きが必要になりますが、e-Taxで確定申告をすれば申告書の作成から提出までパソコン画面上で終えられるので便利です。
【関連記事】
e-Tax(電子申告)で確定申告をするには?利用方法やメリット・デメリットについて解説
55万円控除の要件を満たしていない場合は10万円控除になる
青色申告者のうち、55万円控除の要件を満たさない人には10万円控除が適用されます。発生主義や複式簿記による記帳、期限内の確定申告など、前述の55万円控除の要件を満たさなければ控除額は10万円です。
なお、前述の55万円控除や65万円控除の要件を満たしているケースのうち、不動産所得の金額または事業所得の金額の合計が55万円や65万円より少ないなら、その所得金額を限度として控除します。
たとえば、事業所得が40万円で55万円控除の要件を満たしている事業者であれば、控除額は55万円ではなく40万円です。
所得額が55万円や65万円を超えているかどうかは、55万円控除や65万円控除の適用要件ではないので、仮に所得額が55万円未満・65万円未満でも、適用対象外になって控除額が10万円になるわけではありません。その所得金額を上限として控除が可能です。
令和2年分の確定申告から青色申告特別控除の要件が改正された
平成30年度の税制改革で、令和2年分の確定申告から青色申告特別控除や基礎控除の要件や金額が変更されました。この法改正で要件が変更・追加されたもののひとつが、青色申告特別控除の65万円控除です。
令和2年分の確定申告からは、従来の要件に加えて、e-Taxで電子申告をするか、電子帳簿保存を行わないと、65万円の青色申告特別控除の適用を受けられなくなりました。追加された要件を満たさず、法改正前までの要件のみ満たす場合は、控除額は65万円ではなく55万円です。
所得税に関する税制の内容は法改正によって変わることがあるので、確定申告をする際は国税庁サイトなどで最新の情報を確認するようにしてください。
出典:国税庁「65万円の青色申告特別控除の適用要件の改正」
青色申告ができる個人事業主とは
青色申告で確定申告ができる個人事業主は、事業所得・不動産所得・山林所得のいずれかの所得がある人です。青色申告をするためには、青色申告をする年の前年の3月15日までに所轄税務署に「青色申告承認申請書」を提出しなければいけません。開業届の提出も必要です。
たとえば、2025年2月17日(月)~2025年3月17日(月)の確定申告期間中に青色申告で確定申告をするには、2024年3月15日(金)までに青色申告承認申請書を提出している必要があります。
ただし、その年の1月16日以後に事業を開始した場合は、事業開始日から2ヶ月以内に提出すれば問題ありません。
青色申告承認申請書の書き方や提出方法は別記事「青色申告承認申請書と開業届は提出期限あり!書き方と提出方法を解説」で詳しく解説しているのでご確認ください。
青色申告を希望する方におすすめしたい無料のサービスがfreee開業です。ステップに沿って必要事項を記入するだけで、青色申告承認申請書を簡単に作成できます。
その際、税額シミュレーションも可能なので、ご自身の収入を入力し青色申告・白色申告それぞれの税額をシミュレーションしてみましょう。
作成した書類と一緒にプリントアウトできる宛先を封筒に貼り、投函すれば申請手続きは完了です。もちろん、直接書類を税務署に提出しに行っても問題ありません。
青色申告特別控除を適用したときの節税効果と計算例
青色申告特別控除には、どれほどの節税効果があるのでしょうか。所得税額は、基本的に「所得金額 - 所得控除額(医療費控除額や基礎控除額など)」で算出された金額に、下表の税率を掛けて求めます。所得金額が小さいほど所得税率は低くなります。
所得税率の速算表
課税対象の所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円〜1,949,000円 | 5% | 0円 |
1,950,000円〜3,299,000円 | 10% | 97,500円 |
3,300,000円〜6,949,000円 | 20% | 427,500円 |
6,950,000円〜8,999,000円 | 23% | 636,000円 |
9,000,000円〜17,999,000円 | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円〜39,999,000円 | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
所得金額は通常、「総収入 - 経費」の金額ですが、青色申告特別控除を受けていると「総収入- 経費 - 青色申告特別控除」で計算されます。控除額の分だけ所得金額が小さくなるので、その分節税できる仕組みです。
仮に、事業の利益(総収入)が500万円で、経費が150万円、医療費などの所得控除の合計額が80万円の場合、所得税額は以下のように計算できます。
■ 白色申告の場合
課税される所得金額:5,000,000円 - 1500,000円 - 800,000円 = 2,700,000円
所得税額:2,700,000円 × 10% - 97,500円 = 172,500円
■ 65万円の青色申告特別控除を受けている場合
課税される所得金額:5,000,000円 - 1,500,000円 - 800,000円 - 650,000円 = 2,050,000円
所得税額:2,050,000円 × 10% - 97,500円 = 107,500円
納める税額の差額は65,000円です。さらに、地方自治体に納める住民税や国民健康保険の保険料も課税所得に基づいて算出されるため、これらの金額も合わせて抑えることができます。
まとめ
青色申告特別控除には65万円・55万円・10万円の3種類あり、それぞれ適用要件が異なります。
55万円控除の適用を受けるには、複式簿記や発生主義による記帳、期限内申告など、一定の要件を満たすことが必要です。加えて、電子帳簿保存またはe-Taxによる確定申告をする場合は65万円控除を受けられます。
確定申告の期限を過ぎると、65万円や55万円の青色申告特別控除の適用を受けられません。青色申告のメリットや節税効果を十分に活かすためにも、確定申告の準備は早めに始めて期限までに確実に手続きを終えるようにしてください。
確定申告(電子申告)を簡単に終わらせる方法
確定申告には青色申告と白色申告の2種類があり、期限までに書類を作成し納税をすることが重要です。
書類の作成には、手書きのほか、国税庁の「確定申告等作成コーナー」や会計ソフトで作成する方法がありますが、「確定申告書の作成は難しいのでは?」と苦手意識をお持ちの方も少なくありません。
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4.あとは確定申告書を税務署に提出するだけ
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【2022年版】e-Taxでネットで確定申告:PC・スマホでのやり方とメリットまとめ
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よくある質問
3種類ある青色申告特別控除額の違いは?
青色申告特別控除には65万円・55万円・10万円の3種類あり、それぞれ要件が異なります。青色申告特別控除について詳しくは「青色申告特別控除とは?」をご覧ください。
65万円・55万円の青色申告特別控除の要件は?
55万円控除の適用を受けるためには、複式簿記や発生主義による記帳や期限内の確定申告などの要件を満たす必要があります。
65万円控除なら、さらに電子帳簿保存またはe-Taxによる確定申告が必要です。要件について詳しくは「青色申告特別控除で55万円の控除を受けるための要件は?」「55万円控除の要件に加えて一定の要件を満たすと65万円控除になる」をご覧ください。