監修 安田亮 安田亮公認会計士・税理士事務所
青色申告には複式簿記と簡易簿記の2種類の記帳方法があり、納税者はいずれかを選択可能です。各記帳方法では青色申告特別控除額や具体的な記帳方法が異なります。
複式簿記は、1つの取引について2つの要素に分解して記録するもので、記帳の手間が多いですが、最大65万円の青色申告特別控除の適用が可能です。一方、簡易簿記は青色申告特別控除額が10万円に留まりますが、お小遣い帳のようなイメージの簡易な形式で、日々の取引を記帳できます。
本記事では、青色申告における簡易簿記の概要や書き方、複式簿記との違いなどを紹介します。
2025年提出(令和6年分)の確定申告アップデート情報
所得税の確定申告期間:2025年2月17日(月)〜2025年3月17日(月)
消費税の確定申告期間:2025年1月1日(水)〜2025年3月31日(月)
※ 贈与税の申告・納税期間:2025年2月3日(月)〜2025年3月17日(月)
<2025年(令和6年分)の確定申告のポイント>
- マイナンバーカードをスマホで読み取らなくても、スマホ用電子証明書の利用で申告書の作成・e-Tax送信が可能になります。
- マイナポータルと連携すると、所得税確定申告の手続において、マイナポータル経由で控除証明書等のデータを一括で取得し、確定申告書の該当項目へ自動入力できます。
詳しくは国税庁ホームページ「令和6年分 確定申告特集」をご参照ください。
【2024年度の確定申告は2025年2月17日(月)〜3月17日(月)まで!】
目次
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複式簿記と簡易簿記の違い
簡易簿記とはいわゆるお小遣い帳のようなイメージのものです。現金出納帳であれば、現金の増加・減少したつど、その増加した要因・減少した要因を記録していきます。これに対して複式簿記とは、1つの取引について2つの要素に分解して、取引の記録を行う方法です。
たとえば、複式簿記では、現金で通信費を支払ったという取引であれば、通信費が発生した(費用の計上)という要素と現金が減少した(資産の減少)という要素に分解して、それぞれの総勘定元帳に記録していきます。
なお、青色申告での控除額と記帳方法の対応は次の通りです。各控除額での申告の際の必要書類もあわせて記載します。
青色申告 (65万円控除、55万円控除) | 青色申告 (10万円控除) | |
---|---|---|
記帳方法 | 複式簿記 | 簡易簿記 |
提出書類 |
・確定申告書B ・青色申告決算書 ・貸借対照表 ・損益計算書 ・第三表 (分離課税用、事業所得に加え譲渡所得がある場合) ・第四表 (損失申告用、赤字で青色申告する場合) |
・確定申告書B ・青色申告決算書 (損益計算書) ・第三表 (分離課税用、事業所得に加え譲渡所得がある場合) ・第四表 (損失申告用、赤字で青色申告する場合) |
簡易簿記の場合、青色申告特別控除額は10万円となります。複式簿記が必要なのは、65万円控除や55万円控除を受ける場合です。
特に65万円控除を受けるためには、上記の表の記帳方法、提出書類での青色申告に加えて、e-Tax による申告(電子申告)または電子帳簿保存が必要です。e-Tax による申告も電子帳簿保存も行わない場合は、55万円控除となります。
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青色申告と白色申告の違いは?7項目で比較するメリット・デメリットを徹底解説
簡易簿記の書き方
どのような事業を行うかにより異なってきますが、簡易帳簿の標準的な種類は次の通りです。
種類 | 内容 |
---|---|
現金出納帳 | 事業用の現金の出し入れ状況を取引順に記載する帳簿。現金売上や現金仕入れがあったときの売上帳・仕入帳も兼ねる |
売掛帳 | 得意先ごとに口座を設け、商品などの掛け売りや売掛金の回収の状況を記載する帳簿 |
買掛帳 | 仕入先ごとに口座を設け、商品などの掛買いや買掛金の支払い状況を記載する帳簿 |
経費帳 | 仕入以外の事業上の費用を租税公課、水道光熱費、旅費交通費、給料賃金などの科目ごとに口座を設けて記載する帳簿 |
固定資産台帳 | 事業用の減価償却資産や繰延資産について、原則個々の減価償却資産ごとに口座を設け、資産の取得や異動に関する事項などを記載する帳簿 |
たとえば、現金出納帳の場合は以下のように、現金による売上を原則として一取引ごとに記載することが必要です。「摘要」欄に相手方の名称・品名・数量・単価を、「現金売上」欄に金額をそれぞれ記載します。
なお、簡易帳簿では最高10万円の青色申告特別控除の適用は受けることができますが、最高65万円の青色申告特別控除の適用は受けられません。
これらの簡易帳簿に加えて「債権債務等記入帳」を備え付け、すべての取引を整然と記録する場合には、正規の簿記の原則にしたがった記帳として、最高65万円の青色申告特別控除の適用を受けることができます。
債権債務等記入帳には、たとえば、預金出納帳、受取手形記入帳、支払手形記入帳、特定取引仕訳帳、特定勘定元帳などが挙げられます。
取引が発生したら、標準的な簡易帳簿及び債権債務等記入帳に取引を記録します。その際には「摘要」欄に相手方の勘定科目を記載することによって、仕訳帳や元帳としての機能をもたせます。
最終的に、現金、売掛金、買掛金、預金、受取手形及び支払手形の期末残高については、それぞれの簡易帳簿から試算表へ直接転記します。また、そのほかの科目について摘要欄を集計して試算表へ転記します。
この試算表を基にして、最終的に損益計算書などの決算書を作成することとなります。
白色申告と青色申告の簡易簿記の違い
青色申告の場合の簡易簿記とは作成する帳簿が複式簿記によらず、先に挙げたような簡易的なものでよいということであり、実際に記帳する取引の内容はひとつひとつ記録していく必要があります。
これに対して白色申告でも簡易な方法による帳簿への記載が認められています。
記帳方法としては、白色申告の簡易簿記と青色申告の簡易簿記で基本的に違いはありません。節税にこだわるなら、10万円の青色申告特別控除が受けられる分、青色申告の簡易簿記のほうがメリットが大きいと言えます。
簡易簿記で青色申告するメリット
簡易簿記で青色申告するメリットは、あらためて以下のような点が挙げられます。
簡易簿記で青色申告するメリット
- 複式簿記に比べると手間が少ない
- 青色申告の特典が受けられる(白色申告と比較したときのメリット)
複式簿記で青色申告するのと比べると手間が少なく、また控除額こそ10万円に留まりますが白色申告にはない特典が受けられます。
簡易簿記で受けられる青色申告の特典は、主に以下が挙げられます。
簡易簿記で受けられる青色申告の特典
- 10万円控除
- 家族の給与を必要経費として計上できる
- 赤字を3年間繰り越し・繰り戻しができる
- 少額減価償却資産の特例が利用できる
青色申告では、配偶者や親族への給与(青色事業専従者給与)を必要経費として計上でき、所得税の節税が可能です。
また、青色申告をした年の赤字は、翌年以降3年間にわたって繰り越しや、前年へ繰り戻しが可能です。翌年以降や前年の黒字と相殺して支払う税額が抑えられます。
そのほか青色申告では、10万円以上30万円未満の減価償却資産の購入は特例により一括で経費計上が可能です。白色申告では10万円以上の備品・機器の購入は減価償却が必要となります。
出典:国税庁「青色申告制度」 出典:国税庁「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」 出典:中小企業庁「少額減価償却資産の特例」
簡易簿記から複式簿記に変更する場合
最大65万円の特別控除を受けようとする場合には、確定申告書と損益計算書に加えて貸借対照表を添付することが必要です。そのための記帳等は各年の1月から始めることになります。
したがって、これまでに「正規の簿記の原則」によって記帳等を行っている場合以外のケースでは、各年の1月から事業用の財産とそれ以外とに区分して記帳していなければなりません。また、資産や負債の金額についても整理するなど、貸借対照表の作成を前提とした記帳等を行うことが必要です。
今後「正規の簿記の原則」に切り替える場合には、具体的にどのような帳簿組織や記帳等が必要になるかを事前に検討して、ご自分の事業の実態にあった帳簿組織を選択するとともに、必要な勘定科目を決めておかなければなりません。
白色申告の簡易簿記控除額0円よりは青色申告における簡易簿記はメリットが大きいですが、青色申告の複式簿記による65万円控除よりはメリットが小さくなってしまうことを覚えておきましょう。
まとめ
青色申告には、「複式簿記」と「簡易簿記」の2種類の記帳方法があります。
複式簿記は取引を2つの要素に分けて記録するのに対し、簡易簿記はお小遣い帳のようにシンプルに記帳が可能です。なお、白色申告の簡易簿記と比較すると、青色申告の簡易簿記では取引ごとの記帳が必要となる点が異なっています。
簡易簿記による青色申告は手間の少ない方法でありながら、青色事業専従者給与や赤字の繰り越し・繰り戻しなど青色申告の各種の特典が利用可能です。
控除額こそ10万円に留まりますが、記帳の手間を少なく抑えて、青色申告の特典を利用したい方に簡易簿記の青色申告が適しています。ぜひ複式簿記と簡易簿記の違いを理解して、目的にあわせて記帳方法を選択していきましょう。
確定申告を簡単に終わらせる方法
確定申告には青色申告と白色申告の2種類があります。どちらを選択するにしても、期限までに正確な内容の書類を作成し申告しなければいけません。
確定申告書を作成する方法は手書きのほかにも、国税庁の「確定申告等作成コーナー」を利用するなどさまざまですが、会計知識がないと記入内容に悩む場面も出てくるでしょう。
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よくある質問
複式簿記と簡易簿記の違いは?
簡易簿記とはいわゆるお小遣い帳のようなイメージです。たとえば、現金出納帳の場合は現金の増加・減少したつど、その増加した要因・減少した要因を記録します。
これに対して複式簿記とは、1つの取引について2つの要素に分解して、取引の記録を行う方法です。
詳しくは「複式簿記と簡易簿記の違い」で解説しています。
簡易簿記で青色申告するメリットは?
簡易簿記で青色申告するメリットは、あらためて以下のような点が挙げられます。
- 複式簿記に比べると手間が少ない
- 青色申告の特典が受けられる(白色申告と比較したときのメリット)
複式簿記で青色申告するのと比べると手間が少なく、また控除額こそ10万円に留まりますが白色申告にはない特典が受けられます。
詳しくは「簡易簿記で青色申告するメリット」で解説しています。
監修 安田 亮(やすだ りょう)
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。