青色申告の基礎知識

不動産所得を青色申告で手続きする条件とは?メリットや対象となる経費も紹介

監修 大柴良史 社会保険労務士・CFP

不動産所得を青色申告で手続きする条件とは?メリットや対象となる経費も紹介

青色申告は、白色申告に比べて詳細な帳簿付けが必要なので大変な部分もあります。

しかしその分、最大65万円の青色申告特別控除を受けられるなど、白色申告以上に節税メリットが大きいです。本記事では、不動産所得を青色申告で行うメリットや、必要経費にできる項目などをご紹介します。

目次

青色申告とは?

青色申告とは、確定申告の方法のひとつです。

確定申告には白色申告と青色申告の2種類があり、青色申告で手続きできるのは以下の所得がある人です。

青色申告できる人

  • 不動産所得
  • 山林所得
  • 事業所得

簡易簿記での記帳が認められている白色申告に対して、青色申告は複式簿記での記帳が義務付けられています。白色申告と比べると、青色申告の手続きの条件は厳しいですが、「税制上の優遇措置を受けられる」などのメリットがあります。

青色申告者となるために必要な事前手続き

不動産所得・山林所得・事業所得があれば、誰でも青色申告ができるわけではありません。青色申告をするには、事前に「所得税の青色申告承認申請書」を提出する必要があります。

「所得税の青色申告承認申請書」の提出期限は、青色申告する年の3月15日までです。申請書を書面で作成して、税務署へ持参または郵送で提出する方法もありますが、e-Taxソフトで手続きすることもできます。

また、相続により青色申告の承認を受けていた事業を承継した場合は、相続開始を知った日に応じて、期間内に提出しましょう。

【関連記事】
青色申告承認申請書と開業届は提出期限あり!書き方と提出方法を解説

55万円(65万円)の青色申告特別控除を受けるための条件

青色申告特別控除は、確定申告を青色申告で行った場合にのみ受けられる控除です。控除額は条件によって異なりますが、最大65万円もしくは10万円の控除が受けられます。

節税効果の高い65万円の青色申告特別控除を受けるには、以下の条件を満たさなければなりません。

青色申告特別控除を受ける条件

  • 複式簿記で記帳を行う
  • 貸借対照表・損益計算書を期限内に提出する
  • 「e-Taxで申告する」または「電子帳簿保存を行う」
  • 不動産貸付が事業的規模である

4つの条件を、詳しく見てみましょう。

1.複式簿記で記帳を行う

青色申告する場合、所得に関する取引を「正規の簿記の原則」によって記帳しなければなりません。「正規の簿記の原則」とは、一般的に複式簿記をいいます。

お金の動きを記録する帳簿をつける方法には、「単式簿記」と「複式簿記」があります。

単式簿記は、「売上の1,000円を受け取った」など、お金の入出金を単一の勘定科目でシンプルに記録する方法です。

一方、複式簿記では「1,000円の商品を売った」ため「売上として1,000円を受け取った」など、お金の入出金を原因と結果に分け複数の勘定科目で記帳します。単式簿記と比べると、ひとつの取引をより詳細に記録するため、財務状況を正確に把握できます。

複式簿記には会計に関する知識が必要ですが、市販の会計ソフトを利用すれば、簡単かつ負担なく記帳可能です。

2.貸借対照表・損益計算書を期限内に提出する

複式簿記で記帳することで、貸借対照表と損益計算書の作成が可能になります。

貸借対照表や損益計算書は、決算書のひとつです。貸借対照表は決算時の財政状態を表し、損益計算書は会計期間の経営成績を表します。

青色申告をするためには、確定申告書に損益計算書と貸借対照表を添付し、期限内に提出することが条件です。提出期限は翌年の2月16日から3月15日なので、忘れずに期限内に確定申告を行いましょう。

3.「e-Taxで申告する」または「電子帳簿保存を行う」

下表の通り、青色申告は55万円の控除に加えて、e-Taxによる電子申告または電子帳簿保存を行っていれば、最高65万円の控除を受けられます。


複式簿記貸借対照表
損益計算書
期限内に申告e-Taxで申告
or
電子帳簿保存
65万円
55万円
10万円簡易な記帳
出典:国税庁「e-Taxによる申告又は優良な電子帳簿の保存により65万円の青色申告特別控除を適用しましょう!」

e-Taxを利用する場合は、国税庁ウェブサイトの確定申告書等作成コーナーから確定申告書・青色申告決算書のデータを作成します。

また、電子帳簿保存法に対応している会計ソフトで記帳した、優良な電子帳簿を保存している場合も控除の対象です。優良な電子帳簿で必要なことは以下です。

  • 訂正等の履歴が残る
  • 帳簿間で相互関連性がある
  • 検索機能がある
  • モニター・説明書等を備え付ける

なお、あらかじめ電子帳簿保存法の承認申請書を税務署に提出する必要があります。

4.不動産貸付けが事業的規模である

不動産所得で65万円の青色申告特別控除を受けられるのは、不動産の貸付け規模が事業的規模にあたる場合に限られます。

事業的規模として認められるには、以下のいずれかに該当する必要があります。

  • 独立家屋の場合、概ね5棟以上の貸付けであること
  • 貸間やアパートの場合、賃貸が可能な独立した部屋が概ね10室以上であること

事業的規模と認められる場合、65万円の青色申告特別控除に加え、専従者給与控除が認められます。事業的規模でない場合、専従者給与控除は使えず、青色申告特別控除の額は10万円です。

不動産所得の確定申告を青色申告で行うメリット

不動産所得の確定申告を青色申告で行うメリットは以下の通りです。

不動産所得の確定申告を青色申告で行うメリット

  • 青色申告特別控除の適用を受けられる
  • 専従者給与額を必要経費に計上できる
  • 3年間にわたって損失(赤字)の繰越控除ができる
  • 貸倒損失を必要経費に計上できる
  • 少額減価償却資産の特例を受けられる

それぞれのメリットを、詳しく解説します。

青色申告特別控除の適用を受けられる

「青色申告特別控除」は、所得金額から一定の控除額を差し引くことで、税金の負担を軽くする制度です。

控除を受けるためには、複数の要件を満たさなければなりません。なお、満たした条件によって、受けられる控除額が65万円・55万円・10万円のいずれかに決まります。

青色申告特別控除を詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

【関連記事】
青色申告特別控除とは?控除を受ける条件と節税効果について解説

専従者給与額を必要経費に計上できる

青色申告では家族を従業員として給与を支払った場合、その額を必要経費に計上することができます。

専従者給与の対象者は、同居あるいは生計を一にしている配偶者や親、15歳以上の子ども、祖父母などです。

なお、不動産所得に関しては、不動産の貸付けが事業規模であると認められる場合に限り、必要計上に適用されます。

3年間にわたって損失(赤字)の繰越控除ができる

個人が青色申告をする際、不動産所得が他の所得と損益通算しても赤字になるときは、翌年以降3年間赤字を繰り越すことができます。繰り越した赤字は、黒字になった年度に課税所得から繰越控除として差し引けます。

たとえば、賃貸用の不動産を取り壊すのは資産の損失です。しかし、その費用は必要経費として計上できるため、不動産所得が赤字の場合は3年間繰り越し他の所得との損益通算できます。

貸倒損失を必要経費に計上できる

回収できない賃貸料が発生した場合、回収できなかった年分の必要経費として計上できます。

ただし、貸倒損失を必要経費に算入できるのは、不動産貸付けが事業規模で行われている場合に限ります。

少額減価償却資産の特例を受けられる

30万円未満の資産であれば、毎年減価償却せずに取得した年に全額経費にできる「少額減価償却資産の特例」を受けられます。

少額減価償却資産の特例は、資本金または出資金の額が1億円以下の法人や、常時使用する従業員の数が1,000人以下の個人が対象です。

【関連記事】
少額減価償却資産で一括償却して節税!【令和5年度改正】

不動産所得の経費にできるものは?

青色申告をすることで不動産所得の経費にできる科目も増えます。とくに、修繕費や減価償却費、人件費などの点でメリットが大きくなります。

修繕費

維持管理や原状回復のための費用が修繕費です。3年以内の周期で行う修繕や、20万円未満の修繕費を経費として計上できます。

建物などの価値を高めたり耐久性を増したりするための修繕費は、経費に入れることはできません。その場合は、「基本的支出」として計上します。

修繕費に該当するか判断が難しい場合は、以下の基準をもとに区分します。

  • 60万円未満である
  • 修繕した資産が前年末での取得価額の概ね10%相当額以下である

上記のいずれかであれば、修繕費として計上しましょう。

減価償却費

建物は耐用年数に応じて、毎年減価償却費として経費に入れることができます。30万円未満の少額資産の場合は年間300万円まで一括計上が可能です。

【関連記事】
減価償却とは?償却できる資産や計算方法、耐用年数をわかりやすく解説

損害保険料

火災保険料や地震保険料を経費にすることができます。前払いした保険料は、その年分のみ経費として計上できます。

租税公課

土地や建物の固定資産税・事業税・不動産取得税・自動車税・印紙税などの、租税公課を経費として計上できます。

借入金利息

建物や土地の取得のために金融機関から借り入れた費用の利息は、必要経費に算入できます。しかし、元本は経費にはならないため注意してください。

管理費

仲介業者や物件管理会社などに支払う管理費は、経費として計上できます。

人件費

従業員に支払う給与も経費計上が可能です。家族が従業員になっている場合は、青色専従者給与控除が適用されます。

まとめ

不動産所得の確定申告を青色申告で行うと、最大65万円の控除が適用されます。また、赤字を繰越控除できたり、貸倒損失を必要経費として計上できたりするのもメリットです。

とくに、事業的規模で不動産貸付けを行っている場合、さまざまな優遇措置を受けられます。白色申告に比べると、青色申告は満たさなければならない要件が多いです。

しかし、より高い節税効果を期待できるため、青色申告で青色申告特別控除を受けることを検討しましょう。

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よくある質問

青色申告者になるための条件とは?

青色申告をする年の3月15日までに「所得税の青色申告承認申請書」を提出する必要があります。

詳しく知りたい方は「青色申告とは?」をご覧ください。

不動産所得を青色申告で手続きするメリットは?

不動産所得を青色申告すると、青色申告特別控除の適用を受けられます。また、専従者給与額や貸倒損失を必要経費に計上できたり、多数のメリットがあります。

詳しく知りたい方は、「不動産所得の確定申告を青色申告で行うメリット」をご覧ください。

監修 大柴 良史(おおしば よしふみ) 社会保険労務士・CFP

1980年生まれ、東京都出身。IT大手・ベンチャー人事部での経験を活かし、2021年独立。年間1000件余りの労務コンサルティングを中心に、給与計算、就業規則作成、助成金申請等の通常業務からセミナー、記事監修まで幅広く対応。ITを活用した無駄がない先回りのコミュニケーションと、人事目線でのコーチングが得意。趣味はドライブと温泉。

監修者 大柴良史

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