借り上げ社宅とは、従業員の住居を法人が契約する制度です。近年では、ランニングコストの観点から、所有社宅ではなく借り上げ社宅を採用する法人が増えています。
借り上げ住宅を採用する際に悩むのが、従業員から家賃を徴収すべきか、また徴収するのであればいくらに設定すべきかという問題です。
本記事では、借り上げ社宅での家賃徴収と家賃設定の方法について解説します。
目次
借り上げ社宅で従業員から家賃を徴収するメリット
借り上げ社宅で従業員から賃料相当額の50%以上を徴収することで、法人負担分を経費として計上でき、節税につながります。
家賃全額を従業員が負担すると、従業員の手取り額が減るだけでなく、法人側としても福利厚生費に計上できなくなるため、税金の負担が増えることになります。
そのため借り上げ社宅では、従業員から家賃の一部を徴収することをおすすめします。また、家賃の一部を給与から差し引くことで、従業員側にも所得税や住民税・社会保険料を抑えられるメリットがあります。
所得税や住民税・社会保険料は、給与を元に算出され、給与が多いほど負担額が高くなるシステムです。給与から家賃の一部を差し引くことで、税金や社会保険料の負担額を少なくできます。
なお、借り上げ社宅の管理費や共益費は、家賃の一部として法人が負担できます。ただし、駐車場代は法的に「社宅」に該当せず、同様に扱えません。また、水道光熱費は生活費のため、原則として従業員が負担します。
借り上げ社宅の家賃設定
借り上げ社宅に家賃を設定する場合には、賃貸料相当額の50%以上が適しています。ただし、従業員と役員のどちらに貸し出すかによって扱いが変わるため、注意しましょう。
従業員に貸し出す場合は賃貸料相当額の50%以上が最適
先述したように、賃貸料相当額の50%以上を家賃として従業員から徴収していれば、賃貸料相当額と徴収額の差額は課税対象となりません。
そのため、従業員に貸し出す場合は、賃貸料相当額の50%以上がよいとされています。
たとえば、賃貸料相当額が2万円の借り上げ社宅があったとします。これを無料で貸し出した場合、従業員が30%を負担して貸し出した場合(法人70%負担)、従業員が50%を負担した場合を比較すると、以下の表のようになります。
無料で貸し出した場合、課税対象額は2万円となりますが、従業員が50%異常を負担すると課税対象額は0円となります。
従業員負担割合 | 法人負担割合 | 徴収額 | 課税対象額 | 非課税額 |
0% | 100% | 0円 | 20,000円 | 0円 |
30% | 70% | 6,000円 | 14,000円 | 0円 |
50% | 50% | 10,000円 | 0円 | 10,000円 |
従業員が50%以上を負担していればよいので、70%や80%負担してもらっても差額は非課税になります。ただし家賃が高ければ、その分従業員の手取りは減り、経費に計上できる金額も少なくなります。法人にとって最適な負担割合を探しましょう。
家賃設定で重要なのは「実際の家賃」の50%以上ではなく、「賃貸料相当額」の50%以上ということです。そのため、家賃設定の際にはまず賃貸料相当額を算出する必要があります。
賃貸料相当額は、以下3つの計算式で算出した合計額です。
賃貸料相当額算出方法
賃貸料相当額 = 以下3つの合計額
- (その年度の建物の固定資産税課税標準額)× 0.2%
- 12円 ×(その建物の総床面積(平方メートル)/ 3.3(平方メートル))
- (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)× 0.22%
上記3つを合計し、50%をかけたものを家賃とすれば、法人負担分は非課税になります
ただ実際は、家主に支払う家賃の30~50%と設定する法人もあります。なぜなら、賃貸料相当額を算出するために必要な固定資産税課税標準額は毎年変更され、市税事務所から「固定資産評価証明書」を入手しないと分からない上、入手に手間がかかるためです。
賃貸料相当額は、実際の家賃より低くなるケースが多く、場合によっては1割程度になることもあります。実際の家賃の30%を従業員が負担すれば、賃貸料相当額の50%を下回ることはないと考えている法人が多いようです。
ただし、必ずしも家賃が賃貸料相当額を下回っているとは限りません。可能であれば賃貸料相当額は正確に計算した方がよいでしょう。
なお、固定資産税課税標準額は、市区町村の担当部署で入手できる「固定資産評価証明書」で確認できます。ただし、固定資産評価証明書は、不動産の所有者本人かその関係者しか入手できないため、不動産法人や大家さんに取得を依頼する必要があります。
役員に貸し出す場合は住宅規模によって変わる
借り上げ社宅を法人役員に貸し出す場合は、賃貸料相当額(100%)以上を徴収することで、非課税となります。
ただし、役員社宅の場合は、小規模な住宅かそうでないかで、賃貸料相当額の計算方法が異なります。
小規模な住宅の場合
小規模な住宅の賃貸料相当額の計算方法は、先述した従業員用の社宅と同じです。なお、小規模な住宅とは、以下いずれかの条件を満たしている住宅をいいます。
小規模住宅の条件
- 法定耐用年数が30年以下の建物 = 床面積が132㎡以下
- 法定耐用年数が30年を超える建物 = 床面積が99㎡以下
小規模な住宅ではない場合
上記の条件にあてはまらない場合は、基本的に小規模ではない住宅とみなされます。その場合は、下記いずれか多い方が賃貸料相当額となります。
小規模住宅ではない場合の賃貸料相当額
小規模住宅ではない場合の賃貸料相当額:上記のいずれか多いほう
-
((その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×12%(*)+(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×6%)÷12
(*)法定耐用年数が30年を超える建物の場合には、12%ではなく10% - 家主に払う家賃の50%
賃貸料相当額は、家主に支払う実際の賃貸家賃の10~20%程度になる傾向があります。そのため、役員が賃料相当額を負担しても実際の賃貸家賃より安く住めます。
なお「豪華住宅」には、上記の計算式は適用されません。豪華住宅とは、床面積が240㎡を超える物件です。具体的には、取得価額・支払賃貸料の額・内外装によって総合的に判定されます。また床面積が240㎡以下であっても、プールなどの一般的な住宅にない設備がある場合も豪華住宅とみなされます。
属性によって家賃を変更する方法もある
借り上げ社宅は、従業員の属性によって家賃負担額を変動させる方法もあります。
たとえば、若い従業員を増やしたい法人であれば、若年層のみが安く入居できる借り上げ社宅を用意したり、転勤する従業員には家賃を安く設定したりするなど、法人が活躍してほしい人材を活かすための家賃設定もできます。
ほかにも入居年数や役職、家族構成によって家賃負担額を変える方法も可能です。ただし、利用できる従業員を限定し過ぎてしまうと、不公平感が出てしまいます。従業員が納得できる方法で家賃を設置することが大切です。
また、借り上げ社宅を貸し出す場合には、社宅規程を作っておく必要があります。場合によっては労働組合と労使協定を結ぶ、労働基準監督署への届け出をするなどの手続きも必要です。
規定で明確にしておきたいのは、下記の5つです。
- 入居について(資格や制限、同居人など)
- 費用について(家賃、支払い方法、負担区分など)
- 禁止事項
- 賠償責任
- 退去について(時期、原状回復など)
社内規程を設けることは、トラブル予防のために重要です。従業員と法人、双方で合意しておきましょう。
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まとめ
借り上げ社宅では、従業員から適切な家賃を徴収することで、従業員側にも法人側にもメリットがあります。
賃貸料相当額の計算などは煩雑になりがちなので、はじめて制度の導入を検討している方は、専門家に相談してみるのもよいでしょう。