社宅使用契約書とは、社宅を提供する企業と従業員の間で取り交わす契約書類です。従業員が社宅を利用する際の契約内容を網羅的に明記しています。社宅制度は、企業と従業員の両者にとってメリットが大きく、重要な福利厚生のひとつです。
本記事では、借り上げ社宅のメリットをはじめ、社宅使用契約書のひな形や作成する際の注意点、社宅使用契約書に記載する主な項目について解説します。
目次
社宅使用契約書とは
社宅使用契約書とは、社宅を提供する企業と従業員の間で取り交わす契約書類です。従業員が社宅を利用する際の契約内容を、網羅的に書面で明記します。
なお、使用契約書とありますが、必ずしも企業と従業員が「使用貸借」の関係になるとは限りません。社宅の使用料が賃料の相場に近い場合は、実質的に賃料を払って借りる「賃貸借」にあたると判断されるケースも多くあります。
社宅は、一般的に従業員にとっては自身が契約した賃貸物件よりも安く住めるためメリットが大きいといえます。また企業側にとっても、採用活動における求職者へのアピールポイントになり、さらに離職の減少にもつながる重要な福利厚生のひとつとなります。
借り上げ社宅のメリット
借り上げ社宅とは、企業が賃貸物件契約を結んだ物件に、従業員を住まわせるタイプの社宅です。すでに企業で賃貸契約を結んでいる物件を従業員に提供する場合のほか、従業員が自分で希望する物件を探し、企業が賃貸契約を結ぶ場合もあります。
近年は、国内における生産年齢人口の減少で働き手が不足しており、企業では優秀な人材の確保が急務です。人気の福利厚生である社宅制度をアピールすることで、優秀な人材の獲得や従業員のモチベーションの増加につながります。
さらに、自社で物件を保有せずに借り上げ社宅にすることで費用面でもメリットがあります。
自社で社宅用の物件を保有する社有社宅の場合、保守管理や税金などさまざまな費用がかかります。これらの費用はたとえ従業員が社宅に住んでいなくても、保有している限り発生します。
また、一般的な住宅は10年を超えると修繕が必要とされており、箇所によっては100万円以上の費用がかかります。加えて固定資産税や都市計画税などの納税も必要です。
借り上げ社宅であれば、保守管理や税金の支払いを不動産会社や大家が行うため、これらの費用は必要ありません。さらに、従業員から一定以上の家賃を徴収することによって、会社は福利厚生費として家賃分を非課税にすることも可能です。
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社宅使用契約書に記載する主な項目
社宅使用契約書に記載する主な項目は、次の7つです。
社宅使用契約書に記載する主な項目
- 使用料
- 期間
- 入居資格
- 禁止事項
- 退去
- 損害賠償
- 原状回復
使用料
賃料や共益費などの金額と支払い方法を明記します。支払い方法は、使用料を給与から控除するのが一般的です。使用料は従業員との認識に齟齬が生じないよう、契約書に定めておく必要があります。
なお、月の途中で退去する場合の支払いについて、1ヶ月分を支払うのか、日割りなのかを明らかにしておくとトラブル防止になります。
期間
期間には、入居までの期間・居住可能な期間・立ち退きまでの期間を記載します。
入居までの期間を「許可を出してから〇週間」など具体的に決めている場合は、契約書において期日を指定しておきましょう。
居住可能な期間は、賃貸物件の更新時期に合わせて「〇年」としているケースが一般的です。ただし、その後も書面を取り交わしたり、個人契約にしたりすることで、引き続き住むことが可能な場合には、その旨も記載してください。
立ち退きまでの期間は、「立ち退き命令や自己都合による退職の場合には〇週間以内」「定年退職や病気等による退職の場合は〇ヶ月」など、状況によって定めておくとよいでしょう。入居者の病気や死亡といったケースにおいては、立ち退きまでの期間を長めに設定することをおすすめします。
入居資格
「独身者」や「赴任地に居住場所がない者」といった入居者の条件は、明確に記載しておきましょう。入居者の条件を定める際には、配偶者や子供など「同居可能な人物」の記載も必要です。
入居条件を決める際に重要なのは、不公平感を招かないことです。「自宅からの通勤が困難なものを優先する」や「希望者が多い場合には入居者を抽選で決定する」などの条件をつけて、従業員が納得できるようにしましょう。
禁止事項
「勝手な増改築」「第三者への貸与」「ペットの飼育」など、社宅での禁止事項も規程に必須です。物件の所有者から禁じられていることはもちろん、近隣住民への迷惑となる行為や社宅に相応しくない使用方法なども禁止事項に加えましょう。
同時に禁止事項を破った際の罰則も記載します。基本的には、入居者に対して退去を命じるケースが多いでしょう。
退去
退去時に必要な手続きをはじめ、退去が決まった場合に「〇日までに出ていかなければならない」などのルールを具体的に記載します。
また、社宅の退去時に修復費用やクリーニング費用がかかる場合は、あらかじめ社宅使用契約書に明記しておきましょう。
損害賠償
従業員が故意に社宅を壊したり、傷つけたりした場合は、会社が損害賠償を請求できる旨を記載しておきます。 契約書に記載していないと、故意に破損したとしても契約解除できない可能性があります。
原状回復
退去時に、原状回復が必要かを記載します。一般的には入居者に原状回復をしてもらい、会社がその点検を行います。また、入居者もしくは同居人の過失によって借り上げ社宅を破損した場合には、それらを賠償することも明記しておくとよいでしょう。
社宅使用契約書のひな型
社宅使用契約書のひな形は、企業ごとに異なります。以下のひな型を参考に、自社で必要・不必要な内容を精査し、内容の追加や削除をしながら作成してください。
社宅の使用に関する契約書
株式会社○○○○(以下「甲」といいます。)は、借上住宅(甲が第三者から借り上げた住居、諸設備、駐車場等を含み、以下、「本件借上住宅」といいます。)の使用について、甲の社員である □□□□氏(以下「乙」といいます。)と、本日、次のとおり契約します。
第1条(目的)
この規程は、株式会社◯◯の従業員に向けて、借り上げ社宅の運用・管理について定めたものである。
第2条(入居資格)
借り上げ社宅を使用できる者は、独身者または配偶者等の同居する家族がいる当社従業員とする。
第3条(入居の申し込みと手続き)
借り上げ社宅への入居を希望する従業員は「借り上げ社宅入居申請書」に必要事項を記入の上、総務部に申請する。許可された場合には「借り上げ社宅入居誓約書」を速やかに提出すること。
第4条(入居期間)
入居期間は原則として◯年とする。期限が満了した場合は直ちに退去しなければならない。ただし、当社より書面による許可を得た場合はこの限りではない。
第5条(入居日)
借り上げ社宅への入居を許可された者は、当社の指定した期日までに入居しなければならない。入居しないときは、許可を取り消す場合がある。
第6条(同居人の条件)
借り上げ社宅に同居できる者は、原則として以下の者に限る。
ただし、当社が止むを得ないと認めた場合は、この限りではない。
(1)配偶者もしくはパートナー
(2)子
(3)本人もしくは配偶者(パートナー)の親
同居人に変更があった場合は、速やかに当社に届け出ること。
第7条(使用料)
使用料は月額賃借料+共益費の〇〇%とする。月の途中で入居または退去する場合は、日割計算による。なお、使用料は入居者の当月分給与から控除して徴収する。
第8条(費用負担)
入居者は、下記の費用を負担しなければならない。
(1)電気・ガス・水道等の光熱費
(2)町内会費
(3)駐車場代
(4)その他、当社が入居者負担と認めるもの
第9条(仲介料・敷金・礼金)
借り上げ社宅の不動産仲介業者に支払う仲介料、家主に支払う敷金・礼金、鍵交換費用等、契約締結時に必要な費用は当社が負担する。更新料については、入居者と当社で折半する。
第10条(禁止事項)
入居者は当社の許可なく以下の行為を行ってはならない。
(1)第三者への借り上げ社宅の貸与
(2)第6条に定める者以外を同居させること
(3)借り上げ社宅の建物ならびに宅地の改変
(4)周辺住民の迷惑となる行為
上記に違反した場合、借り上げ社宅からの退去を命じる。
第11条(損害賠償)
入居者が、故意または重大な過失によって建物の全部もしくは一部を破損させた場合、入居者の負担によって修繕、または賠償を行う。
第12条(退去事由)
入居者は下記のいずれかに該当する場合、借り上げ社宅から退去しなければならない。
(1)死亡や解雇・退職により、当社従業員としての資格を喪失した場合
(2)本規程に違反した場合
(3)その他、当社が貸与取消が妥当と認めた場合
第13条(退去届)
入居者が借り上げ社宅を立ち退く場合は、立ち退き予定日の◯日前までに「借り上げ社宅退去届」を総務部に届け出なければならない。
第14条(退去期限)
使用者が12条の事由に該当する場合、次に定める期間内に借り上げ社宅を退去しなければならない。
(1)本規程に違反したとき・・・〇週間以内
(2)入居期限が満了したとき・・・〇週間以内
(3)当社を解雇されたとき・・・〇週間以内
(4)当社を自己都合で退職したとき・・・〇週間以内
(5)定年退職したとき・・・〇ヶ月以内
(6)会社都合により退職したとき・・・〇ヶ月以内
(7)入居者が死亡したとき・・・〇ヶ月以内
ただし、当社が特に必要と認めた場合は、期間を延長することがある。
第15条(原状回復義務)
入居者は借り上げ社宅を退去するとき、使用者の責に帰すべき事由による破損、汚損等を自己の費用で原状に回復し、当社の確認を受けることとする。
上記契約の成立を証するため、本書2通を作成し、署名捺印のうえ各1通を互いに保持します。
令和4年●●月●●日
甲 : 東京都品川区〇〇〇
株式会社○○○○
代表取締役 ○○○○
乙 : 〇〇県〇〇〇市▽▽▽
□□□□
社宅使用契約書を作成する際の注意点
社宅使用契約書を作成する際の注意点として、以下の3つがあります。
社宅使用契約書を作成する際の注意点3つ
- 社宅規程を整備する
- 地域ごとの賃料相場を考慮する
- 契約書の変更時は速やかに通達する
社宅規程を整備する
社宅使用契約書で記載しきれない細かい規則やルールは、社宅規程にまとめて周知しましょう。たとえば、共用部に関する使用ルールや駐車場・駐輪場などの利用規程などが該当します。
社宅制度は企業の福利厚生としてすべての従業員に対して平等性が求められるため、その点を踏まえて整備してください。
地域ごとの賃料相場を考慮する
賃料や物価は地域間格差があるため、地域ごとの相場に見合った条件が望ましいといえます。
たとえば、東京に本社があり、全国に複数の拠点を持っている企業の場合は、東京とその他の地方都市では賃料の上限を変えるといった調整が必要です。
契約書の変更時は速やかに通達する
契約書の内容を変更する場合は、速やかに従業員に通達してください。特に賃料に関わる改定は、従業員の経済状況に支障が出る可能性があります。トラブルを防ぐためにも従業員にはできるだけ早めに伝えて、了承を得るようにしましょう。
まとめ
社宅使用契約書とは、従業員が社宅を利用する際の契約内容を明記したものをいいます。契約書には、使用料や期間、禁止事項、原状回復など、入居から退去までに関わる内容を網羅的に書く必要があります。
また社宅使用契約書を作成する際は、地域ごとの賃料相場を考慮したうえで、社宅規定をしっかりと整備しましょう。なお、契約書に変更があった場合は速やかに従業員に通達して、トラブルがないよう努めてください。
よくある質問
社宅使用契約書とは?
社宅使用契約書とは、従業員が社宅を利用する際の契約内容を網羅的に書面として明記した契約書類のことです。
詳しくは記事内「社宅使用契約書とは」をご覧ください。