近年、AI(人工知能)の進歩は著しく、AIで代用できる仕事はどんどん増えています。その中でも税理士の仕事は、「AIに取って代わられるのではないか」という話をよく耳にします。今後、本当に税理士の仕事はなくなってしまうのでしょうか。
これからの税理士の役割や、10年後も税理士として活躍するためにすべきことをまとめました。
目次
将来、税理士の仕事はなくなってしまうのか?
近い将来、税理士の仕事がなくなるという話を聞いたことがありませんか?
オックスフォード大学でAIを研究するマイケル・A・オズボーン氏は、同大学の研究員との共著で、2014年に「THE FUTURE OF EMPLOYMENT(雇用の未来)」という論文を発表し、世界中で話題になりました。同氏は論文の中で、ITの発達による自動化(AIロボット化)により、「10年後には今ある職業の半分がなくなる」と唱えています。この「なくなる職業」には、「税務申告書代行者」が高位にランクインしていて、そこから将来的に税理士の仕事はなくなるといわれるようになったようです。
実際にITやAIは日進月歩で発展を遂げる中、税理士の仕事は今後どうなっていくのでしょうか。
税理士と会計士がいなくなったエストニア
エストニアは、人口が約130万人と、日本のおよそ100分の1の規模の小さな国です。しかし、ITの進化は世界でもトップクラスで、医療や教育、選挙など、生活に関する手続きの多くがインターネット上で完結するそうです。さらに、税制度が簡素化されたことで、多くの人が簡単に手続きできるようになりました。そのためエストニアでは、個人向けの税理士は「絶滅した」ともいわれています。
日本でもこのままITが発展を続けていけば、エストニアのように税理士の仕事がなくなってしまうと考えるのも無理はないでしょう。しかし、現在の日本における税制度はまだまだ複雑で、専門的な知識が必要とされることが多々あります。さらに、単純な事務作業はAIで代用できるかもしれませんが、本来の税理士の価値は事務作業の代行ではありません。すべての税理士が仕事を奪われることはないでしょう。
AIには苦手な仕事がある
進化を続けるAIですが、決して万能ではありません。ここ数年、AIがブームになり、さまざまなところで利用されるようになりましたが、AIには得意・不得意があります。
税理士の仕事がAIに奪われないと予測できる理由として、AIの苦手な仕事を紹介します。
思考力や創造性が必要な仕事
AIは、過去のデータから物事を判断するため、まったくの新しいことや、パターン化しにくい複雑な判断が求められる仕事は苦手です。また、共感やコミュニケーションなども、AIには難しいとされています。言葉の意味はわかっても、発した人の意図や感情をくみ取って対応することはまだできません。
そのため、クリエイティブな仕事やアーティスティックな仕事、接客業などは難しいでしょう。
AIの開発・操作を行う仕事
AIそのものの開発・操作を行う仕事は、AIには担えません。AIは定められたルールから、経験則にもとづいて結果や傾向を導くため、何もない状態から作り出すことが苦手です。
AIの開発や操作については、まず人間が判断基準やパターンを設定する必要があります。
複雑に体を動かす仕事
生身の体が必要な仕事は、AIには難しいと言われています。伝統工芸など、いわゆる「長年の勘」に頼るような職人技は、まだAIに任せるのは難しいとされています。相手や環境、状態に合わせて、その都度適切に対応する敏感さは、まだまだAIに欠けています。
有資格者のみができる責任を伴う仕事
法人格が必要な仕事は、AIに取って代わられるのは先でしょう。盛んに議論はされていますが、今のところ世界的にもAIに法人格を付与した例はなく、AIは権利義務の主体とはなれません。つまり、AIは責任を負えない存在であり、また責任を負う必要がない存在だと認識されています。
税務書類の作成はAIが得意な単純作業ですが、税理士法で税理士の独占業務と定められており、責任を伴う仕事であることから、税理士以外は行うことができません。
税理士の価値とは?
AIができないことはたくさんありますが、AIの得意とする単純作業が存在する以上、代替される可能性は0ではありません。では、これからの税理士に求められる価値はどこにあるのでしょうか。
今後の事業展開への支援
クライアントは、税理士に税務申告や会計処理だけを期待しているわけではありません。作業については、正確に処理できればプロセスは気にしていないことがほとんどだと思われ、それこそAIに取って代わられる部分です。
税理士に依頼するクライアントは、貸借対照表や損益計算表の作成といった事務作業を代行してほしいわけではなく、そこから見える今後の事業の展開をサポートしてほしいと考えています。
感情や事情をくんだ柔軟な対応
税務でわからないことについて、法に照らし合わせて判断することはAIでも可能です。しかし、イレギュラーなことをどう処理するかは人間の柔軟な判断力が求められます。
例えば、税理士が関わる業務に事業承継の手続きやM&Aの仲介があります。そういったときに起こる問題は、単純に法に照らして解決できることだけではないでしょうし、人間関係や感情が絡む場合もあるでしょう。クライアントの事情に寄り添い、最適な方法を示すことこそ、税理士の価値といえます。
他業界とのコラボレーション
AIに難しいこととして、コミュニケーションが挙げられます。他業界の専門家とコミュニケーションを積極的にとり、正確な答えを出せるのは、生身の税理士だからこそできることでしょう。
例えば、相続税についての相談の場合、弁護士や司法書士と連携すると、クライアントをサポートできる幅が広がります。
10年後も活躍するため、税理士に必要なこと
AIと税理士の提供できる価値は異なるため、AIが進化しても税理士の仕事が完全になくなることはないと考えられます。しかし、単純作業をAIが代行するようになれば、今までとは違った価値を提供することが求められるでしょう。10年後も活躍できる税理士になるために、必要なことをご紹介します。
競合の少ない専門分野を作る
税理士であれば、多くの人が専門分野を持っていることでしょう。税理士として活躍し続けるためには、競合の少ない専門分野を作ることが大切です。
国際税務や組織再編税制、相続税、連結納税、ITツールの導入支援などは、需要が伸びているにもかかわらず経験者が少なく、狙い目の分野です。
税務に関連した経営のアドバイスを行う
税理士の立場から、経営のアドバイスやコンサルティングができると経営者に重宝されるでしょう。税や会計に関することだけでなく、経営全般の知識や経験を持っておくことが重要です。
AIやRPAを駆使できるスキルを持つ
今後、税務に関する事務作業は、AIやRPA(Robotic Process Automation)で代行することが増えていくでしょう。これらを税理士自身が利用して業務の効率化を図るとともに、企業が税務に関してAIやRPAを導入するときにアドバイスができれば、需要が高まるはずです。
コミュニケーションスキルを高める
AIの進化で対面のコミュニケーションが少なくなっていくからこそ、税理士にはコミュニケーションスキルが求められます。
お金に関する悩みや相談は、誰にでもできるものではありません。税理士の立場から、厳しいことを伝えなければならないこともあります。だからこそ、税理士はクライアントとの信頼関係を築くことが重要であり、そのためにコミュニケーションスキルは必要不可欠となるでしょう。
ITやマーケティングに強みを持つ
ITやマーケティングに強みを持っていると、コンサルティング力が発揮しやすいでしょう。
集客やブランディングのために、今やITとマーケティングの知識は必須です。また、税務だけでなくITやマーケティングの分野までアドバイスができれば、クライアントから頼られる範囲がぐっと広がります。
活躍し続ける税理士になるためにAIと協働しよう
税理士の仕事は将来なくなってしまうといわれることがありますが、今後、AIに税理士の仕事が完全に奪われるかといえば、答えは「NO」でしょう。
単純な事務作業はAIの得意とするところですが、そういった部分をAIに任せることで、税理士は本来の価値を高められるはずです。AIを敵と見なすのではなく、協働して自分の価値を高めていきましょう。