監修 前田 昂平(まえだ こうへい) 公認会計士・税理士

バーチャル口座(仮想口座)とは、文字通り実態のない「バーチャル」(仮想)な振込専用口座のことです。新規で口座を開設せずに口座番号を注文や取引先ごとに割り当てられるため、不特定多数の顧客からの入金確認や消込作業が大きな負担になっている場合は導入メリットがあるといえます。
本記事では、バーチャル口座の基本知識やメリット・デメリット、法人として利用するためのステップなどを解説します。バーチャル口座の活用に向いているビジネスモデルもまとめているので、ぜひ参考にしてください。
目次
バーチャル口座とは?
バーチャル口座とは、入金管理を容易にするために仮想的(=バーチャル)に割り当てられた振込専用口座のことです。不特定多数の顧客からの振り込みが多い事業者向けに、金融機関がサービス提供しています。実態のある口座を使った振込との比較で、「仮想口座方式」と呼ばれることもあります。
バーチャル口座は、顧客や取引ごとに個別の口座番号を付与できる点が特徴です。どの注文分に対する入金なのかを判別しやすく、入金消込作業の自動化や業務効率化に寄与することから利用する事業者が増えています。
なお、それぞれの口座番号(仮想口座)に振り込まれたお金は、紐づけられている法人口座へと送金されます。
Web口座との違い
Web口座とは、通帳を発行しない普通預金口座(および総合口座)のことです。バーチャル口座とWeb口座はどちらもインターネット上で取引できる口座を指しますが、それぞれの特徴や用途は異なります。
バーチャル口座 | Web口座 | |
---|---|---|
特徴 | ・口座を新規開設せずに複数の口座番号を発行できる | ・ひとつの口座番号を発行できる |
メリット | ・ひとつの金融機関で入金用の口座を複数持てる ・入金情報を自動的に把握できる | ・通帳の発行や記帳の手間がかからない ・通帳を紛失するリスクがない |
用途 | ・個人別(取引)の振込受付 | ・インターネットバンキング ・オンライン決済 |
Web口座は、通帳を発行しないことから「無通帳口座」と呼ばれることもあります。ネットバンキングやオンライン決済といった手続きをWeb上で行える点が特徴ですが、預金、振込、残高照会といった利用目的は一般的な銀行口座と変わりません。
一方、バーチャル口座は個人や取引ごとに個別の口座番号を発行できます。そのため企業側にとっては「誰が、いつ、どの取引に対して入金したのか」を自動で把握できる点がメリットです。
バーチャル口座の種類
バーチャル口座には次の2種類があります。
特徴 | メリット | 活用例 | |
---|---|---|---|
注文ごとの 口座番号 | ・注文発生のたびに口座番号を発行 | ・各注文の入金を正確に把握できる | ・ECサイトでの商品購入など |
取引先ごとの 口座番号 | ・取引先に固定の口座番号を発行 | ・取引先別の入金管理が容易になる | ・BtoB取引、サブスクなど |
それぞれ特徴や向いている事業形態が異なるため、活用する際はどちらの種類が適しているのかしっかり検討しましょう。
注文ごとに口座番号を割り当てる方法
注文ごとに口座番号を割り当てる方法は、ECサイトや通信販売など不特定多数の顧客から入金を受けるケースに適しています。
同一の顧客であっても注文ごとに口座番号が変わるため、「いつのどの注文に対しての入金か」を判別しやすく、経理担当者にとっては消込作業の負担やミスを減らせるメリットがあります。ただし、注文ごとに口座番号が変わることから、顧客側の混乱を招く可能性があることもデメリットとして認識しておきましょう。
<注文ごとに口座番号を割り当てるケース>
Aさんが2月3日にECサイトで洋服を購入。この注文についてAさんに通知された入金先の口座番号は「0010001」でした。
その後、Aさんは同店舗で3月20日に別の商品を購入。この注文でAさんに通知された口座番号は「0010002」となり、前回の注文分とは別の口座番号に入金されます。
このように注文ごとに口座番号を割り当てることで、「0010001」の口座番号に振込があれば「2月3日の注文分」と紐付けられます。また、3月20日購入分に対する振込をAさんの家族名義の口座から行ったとしても、口座番号「0010002」に入金されていればAさんからの振込であると特定できます。
取引先ごとに口座番号を割り当てる方法
取引先ごとに口座番号を割り当てる方法は、継続的に取引を行う相手がいるBtoBのケースで有効です。ひとつの取引先に対してひとつの専用口座を割り当てることで、入金管理をスムーズにします。
事業や取引内容によっては、短期間のうちにひとつの取引先から複数回の入金を受けることがあるでしょう。このような場合も、取引先と口座番号を紐づけておけばどの取引先から入金されたのかを把握しやすくなります。
<取引先ごとに口座番号を割り当てるケース>
B社には「0010003」という口座番号が発行されます。B社が2月10日に100,000円の注文、3月15日に250,000円の注文を行った場合、案内される振込先の口座番号はいずれも「0010003」です。
また、C社には「0010004」という口座番号が発行されました。C社が2月15日に100,000円、3月30日に200,000円の注文を行った場合、振込先の口座番号はどちらも「0010004」になります。
この方法であれば、例えば2月16日に100,000円の振り込みがあり、B社とC社どちらからの振込かわからないとなっても、どちらの取引先からの入金かは口座番号によって容易に判別できます。
バーチャル口座を法人が活用するメリット
バーチャル口座には、経理業務の負担を軽減するというメリットがあります。また、経理に限らず社内外へのメリットもあります。
- 消込作業の負担軽減
- 専用口座の開設不要
- 対応のスピードアップ
以下、詳しく解説します。
消込作業の負担軽減
従来の銀行振込では入金確認時に記録をひとつずつ確認し、請求書などと照合する必要がありました。しかしこの作業には時間と手間がかかるほか、ヒューマンエラーが発生するリスクもあります。
注文や取引先ごとに異なる口座番号を発行できるバーチャル口座なら、入金があった時点でどこからの入金なのかを自動で特定できます。そのため手作業での照合が不要となり、消込作業にかかる時間と労力の軽減につながります。注文ごとの口座番号を活用すれば、同姓同名の顧客がいる場合や家族名義での振込に対しても正確な対応が可能です。
専用口座の開設不要
従来の銀行振込では、例えば顧客ごとに請求を行う際、顧客数分の銀行口座を用意する必要がありました。
しかしバーチャル口座なら、ひとつの口座でありながら入金用の口座番号を複数持てます。法人名義の口座開設には複数の書類を準備する必要があるものの、バーチャル口座ならそれも不要です。入金管理作業の負担削減だけでなく、口座開設時の手間やコストも削減できます。
対応のスピードアップ
振り込みにおいては、振込先や振込金額のミスによる「誤送金」のリスクが少なからずあります。しかし、バーチャル口座なら入金があった口座で自動的に顧客や取引内容を特定でき、入金確認や消込作業だけでなく、商品の発送といったその後の業務もスムーズに遂行することが可能です。
入金確認から商品発送までのリードタイムを短縮できれば、顧客満足度を高めることにもつながるでしょう。リアルタイムな確認によって入金遅れや金額ミスといったイレギュラーもすぐに発見できるため、指摘や督促などにも迅速に対応できます。
法人のバーチャル口座利用に伴うデメリット
経理業務の効率アップが期待できるバーチャル口座ですが、利用にはデメリットも存在します。
- 導入・運用コストがかかる
- 取引あたりの振込手数料と決済手数料がかかる
こちらのデメリットもふまえて導入を検討しましょう。
導入・運用コストがかかる
バーチャル口座を活用する場合、初期費用と月額料金の2種類のコストが発生します。初期費用については無料のサービスが増えているものの、月額費用は数千円から数万円程度かかるケースが一般的です。
そのため、月間の取引件数や取引金額が少ない場合、運用コストが売上に対して負担となる恐れもあります。特に創業間もない企業や小規模事業者は、費用対効果について慎重な検討が必要です。
取引あたりの決済手数料がかかる
バーチャル口座への振込は一般的な銀行振込と同様の扱いとなるため、顧客側(振込する側)には振込手数料が発生します。一方、事業者側(入金を受け取る側)にもバーチャル口座サービスの利用料として決済手数料が発生します。通常の口座振込では受け取り側に手数料は発生しないため、この点はバーチャル口座ならではの費用といえます。
取引金額が少額の場合、取引金額に対して決済手数料の割合が高くなる恐れがある点には注意が必要です。特に単価が低い商品やサービスを扱う事業者は、コスト面に負担を感じることがあるかもしれません。
バーチャル口座利用の流れ
バーチャル口座を利用するためのおおまかな流れは下記のとおりです。各段階で金融機関や事業者、取引先の連携が必要となります。
バーチャル口座の利用手順
- 口座番号の提供:金融機関から事業者へ複数のバーチャル口座番号が提供される
- 口座番号の割り当て:事業者は注文や取引先ごとに口座番号を割り当て、請求書を発行する
- 入金処理:取引先が指定のバーチャル口座に入金を行い、事業者の実口座へ送金される
- データ処理・消込:入金データから取引先・取引を即座に特定し、自動で消込処理を完了させる
このように、バーチャル口座の活用によって入金管理から消込作業までの一連の流れを自動化できます。取引先も通常の銀行振込と同様の手順で決済するため、新たな対応は必要ありません。
バーチャル口座の活用を検討したいビジネスモデル
バーチャル口座の活用には、業務効率の向上や経理担当の負担軽減といったメリットがあります。以下では、こうしたメリットを活かしやすいビジネスモデルを3つ紹介します。
インターネットショップ
不特定多数の顧客から注文を受けるインターネットショップのビジネスでは、バーチャル口座の導入が有効です。支払い方法に「口座振込」を増やすことでターゲット層を拡大でき、機会損失の防止にもつながります。
バーチャル口座の導入が有効なインターネットショップの特徴
- クレジットカードを持たない高齢者や若年層が多い
- 同一金額の商品が複数ある
- 不特定多数からの注文が多い
インターネットショップでの決済方法は、クレジットカードやオンライン決済が主流です。クレジットカードを持たない顧客に対しては、口座振込の選択肢があることで購買意欲を損なうリスクが減ります。
また、取り扱う商品数が多ければ、同一金額の商品が増えたり、同姓同名の顧客からの注文が重なったりする可能性もあります。そういった場合でも、注文ごとに口座番号を分けていればトラブル防止につながるほか、業務効率の向上が図れます。
インターネットショップでの決済方法は、クレジットカードやオンライン決済が主流です。クレジットカードを持たない顧客に対しては、口座振込の選択肢があることで購買意欲を損なうリスクが減ります。
また、取り扱う商品数が多ければ、同一金額の商品が増えたり、同姓同名の顧客からの注文が重なったりする可能性もあります。そういった場合でも、注文ごとに口座番号を分けていればトラブル防止につながるほか、業務効率の向上が図れます。
通販会社
テレビショッピングや広告など電話注文が主流の通販会社も、バーチャル口座の活用効果は高いといえます。電話注文ではカード情報のやり取りを避けることが多く、口座振込か代金引換が主な決済手段になるでしょう。また、従来型の口座振込では入金確認や消込作業に時間がかかり、商品発送までのリードタイムが長くなりがちでした。
こういったビジネスでバーチャル口座を導入すれば、電話注文で懸念されがちな聞き間違いや記入ミスによるトラブルを避けつつ、顧客にとって利便性の高い支払い方法を提示できます。入金関係の作業を自動化できれば、発送までの時間も大幅に短縮できます。
入金管理の煩雑さに困っている事業者
BtoB取引では売上計上から入金までにタイムラグがあり、購入や発注から入金されるまでは売掛金を適切に管理していく必要があります。売掛金は、代金を後払いで回収する権利(債権)です。そのままでは収益にならないため、入金があったタイミングで請求金額と実際の入金額を照合し、誤りがなければ帳簿から残高を消していくという「消込作業」をしなければなりません。
この消込作業はミスが起こりやすく、何度も確認をする必要があるため経理担当者の負担は大きいといえます。請求漏れや二重請求などが発生すると対応すべき作業がさらに増えるのはもちろん、取引先に迷惑をかけることにもなるでしょう。
多数の賃貸物件を管理する不動産会社をはじめ、消込作業など日々の入金管理業務に負担を感じている事業者は、バーチャル口座の導入が有効です。特に、毎月の家賃の入金確認や消込作業に多くの時間を費やし、本来注力すべき物件管理や入居者対応に支障をきたしている場合は効果を実感しやすいでしょう。
バーチャル口座なら入金確認から消込までを自動化でき、経理業務の効率化が図れます。既存の事業用口座にバーチャル口座を紐付けるだけで容易に導入できるため、システムや手続き面の負担も最小限です。
まとめ
バーチャル口座は、ひとつの銀行口座に紐づけられる仮想の振込専用口座です。不特定多数の顧客からの入金確認や消込の作業に負担を感じていたり、取引先ごとの入金管理の自動化を考えていたりする場合は、導入によって業務効率の向上が期待できます。
ただし、バーチャル口座の導入にはコストが発生します。導入を検討する際は費用対効果を算出し、かえって負担が大きくなってしまうことのないように注意してください。効果的にバーチャル口座を導入し、経理業務の負担軽減を目指しましょう。
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よくある質問
バーチャル口座って何?
バーチャル口座(仮想口座)とは、入金管理を容易にするために仮想的に割り当てられた振込専用口座です。顧客や取引ごとに個別の口座番号を割り当てられる点が特徴で、入金消込作業の自動化に寄与します。
詳しくはこの記事内の「バーチャル口座とは?」をご覧ください。
バーチャル口座のメリットは?
バーチャル口座のメリットには、経理業務の負担軽減や取引先へのサービス向上などが挙げられます。入金情報をリアルタイムで把握できたり振込時の入金ミスを防いだりと、業務を円滑に遂行できるサポートをしてくれるサービスといえるでしょう。
詳しくはこの記事内の「バーチャル口座を法人が活用するメリット」をご覧ください。
バーチャル口座のデメリットは?
バーチャル口座のデメリットは、導入や運用のコストがかかることです。また取引時には、入金手数料や決済手数料が発生するため、一般的な口座よりもかかるコストが高くなる可能性があります。
詳しくは記事内の「法人のバーチャル口座利用に伴うデメリット」をご覧ください。
バーチャル口座の振込方法は?
バーチャル口座への振込は、一般的な口座への振込方法と同じです。なお、バーチャル口座への入金後は、紐づけられている実口座へと送金されるため、特別な処理を行う必要もありません。
詳しくは記事内の「バーチャル口座利用の流れ」をご覧ください。
監修 前田 昂平(まえだ こうへい)
2013年公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人に入所し、法定監査やIPO支援業務に従事。2018年より会計事務所で法人・個人への税務顧問業務に従事。2020年9月より非営利法人専門の監査法人で公益法人・一般法人の会計監査、コンサルティング業務に従事。2022年9月に独立開業し現在に至る。
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