日本企業の会計において、必ず用いるべきとされているのが「複式簿記」です。 人類最高の発明の一つとまで言われている複式簿記ですが、会計についての知識がない方にとってはあまり馴染みのないものでしょう。
本記事では、複式簿記とは何か?どのようにして生まれ普及したのか?についてご紹介します。
目次
複式簿記とは
簿記には「複式簿記」と「単式簿記」の2種類があります。
単式簿記とは、現金の出入りの結果(残高)という単体面のみを記録するものです。お小遣い帳や家計簿などが当てはまります。
対して複式簿記とは、取引の原因と結果という2つの面を同時に会計帳簿に記録する簿記方法です。
具体的には「借方」と「貸方」という2つの面からそれぞれ勘定科目を用いて記録します。借方は複式簿記の左側に記入し、貸方は右側に記入します。左右の合計は必ず同じ額になるのが原則です。
現金が増えた時は借方に現金の勘定科目と金額を、減った時は貸方に現金の勘定科目と金額を記入します。
複式簿記は、財政状態の把握・経営管理・外部報告という3つの目的のために用いられますが、これらを統合すると、「決算時に財務諸表を作成して公表する」ということが複式簿記の総合的な目的であると言えます。
複式簿記の誕生
複式簿記がいつ・どこで誕生したかについての意見は諸説あります。 最も広く受け入れられているのは、14世紀頃のベニスの商人が採用し始めたのが最初である、という説です。
中世の貿易船は、一航海が終わると収支を調べて財貨を分配する習慣がありました。これは「ベニス式簿記法」と呼ばれており、その基本原理は現在の複式簿記にもほとんど形を変えずに残っているとされています。
ベニス以外の商人や一般の人々にも複式簿記が広まるきっかけとなったのが、イタリアの数学者ルカ・パチョーリの著書「ズンマ」です。「ズンマ」は当時の算術・代数・三角法などの知識を集大成した数学書で、その中の一部に「計算および記録要論」として複式簿記が記述されています。
パチョーリはさらに数学者としての自身の哲学に基づき、商売を継続するための条件として、「現金」「帳簿」「複式簿記」の3つが必要不可欠と説いています。
こうして年月の経過とともに、複式簿記の優位性は広まっていきます。
「ズンマ」出版からしばらく経ったイタリアでは「証拠の二重性」という概念から複式簿記の客観性や信頼度が非常に高くなり、複式簿記による帳簿記録がそのまま法廷での審理の際に証拠として採用されるほどでした。
さらに時が経過すると、複式簿記はヨーロッパの他の国にも定着し始めます。
1660年頃大恐慌に見舞われたフランスでは、倒産する会社が続出しただけでなく、資産を隠すために偽造倒産する会社も多く現れました。このためルイ14世は「倒産時に会計帳簿を裁判所に提示できなかった者は死刑に処する」という法律を制定しました。
これにより、倒産する会社が減少しフランス経済も復興し始めることとなりました。
そしてこれをきっかけに複式簿記はヨーロッパ全体に広まることとなり、18世紀から19世紀のイギリスの産業革命においても合理的で健全な会社経営を助ける存在として活躍しました。
複式簿記が普及した理由
会計記録における一つの技術に過ぎない複式簿記が世界中でこれほど普及し認められてきたのは、次のような利点を持つ非常に優れた会計手法であるからです。
1.借方・貸方の一致する性質により、間違いをチェックできる
複式簿記の最大の利点は試算表にあるとされています。借方と貸方は必ず一致する性質を持つことから、双方の合算結果を比較することで、自分の帳簿に間違いがあればすぐに把握することができます。
とてもシンプルなことではありますが、単式簿記や他の方法では不可能なことです。
2.理路整然とした仕組みにより、取引を漏れなく記録できる
普及した理由の2つ目は、複式簿記の理路整然とした仕組みによって取引を漏れなく記録できたことです。
商人にとって、記録の間違いや失念による記録の欠如は信用に大きく影響しました。 複式簿記によって適切かつ理路整然と記帳していくことで間違いや漏れのない記録を作成でき、商売に対する誠実さを表すこともできたのです。
このようにして、数ある記帳方法の中でも複式簿記が「正確で誠実な、良い簿記」として認知されるようになり、「複式簿記を使っている=道徳的に誠実な仕事をしている」と認識され、広く普及する理由になったとされています。
3.商品ごと、事業ごとの利益が算出できる
商品ごと、事業ごとの利益を算出できることは複式簿記の特に大きな利点です。 ウォードハフ・トンプソンの著書「会計士の託宣」(1777年)では、次のように述べています。
「複式簿記によれば、商品ごとの損益がわかるだけでなく、商売の中で注力すべきところとそうでないところを判断できる。これは商人に不可欠なことで、これがないと商売は勘と経験のみに頼らざるを得なくなる」
冒頭で述べたように、複式簿記は人類最高の発明の一つと言われています。 そのように称賛したのは、18世紀の文豪・ゲーテでした。正確にはゲーテ自身が自分の考えとして表明したのではなく、著書「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」という教養小説の中で登場人物に次のように語らせた言葉です。
「商売をやってゆくのに広い視野をあたえてくれるのは、複式簿記による整理だ。整理されていればいつでも全体が見渡される。細かしいことでまごまごする必要がなくなる。複式簿記が商人にあたえてくれる利益は計り知れないほどだ。人間の精神が産んだ最高の発明の一つだね。立派な経営者は誰でも、経営に複式簿記を取り入れるべきなんだ」
あくまで小説の一編ではありますが、これは複式簿記がいかに素晴らしい会計技術かをシンプルに表現している言葉と言えるでしょう。 そしてゲーテ自身も、文豪であると同時に実務家であり教養人でもありました。簿記の重要性を高く認識しており、ワイマール公国の大臣であった時に学校教育に簿記の授業を義務付けたとされています。
日本で複式簿記が広まるまで
複式簿記が日本で本格的に採用されたのは、明治時代に入ってからでした。
日本では、大蔵省の招きにより銀行簿記の講義をしたイギリスの紙幣頭書記官アレキサンダー・アラン・シャンドが明治6年12月に刊行した「銀行簿記精法」が、日本に初めて紹介された複式簿記とされています。
そして翌年、福沢諭吉がアメリカから持ち帰った専門学校のテキスト「Bryant and Stratton's Common School Book-keeping」を翻訳して「帳合之法(ちょうあいのほう)」を出版します。この2つが、日本への複式簿記伝播の経緯とされています。
その後明治政府は明治9年に大蔵省へ「簿記法取調掛」を設置し、明治11年には「太政官第42号通達」にて複式簿記を採用しました。
明治政府は、地方の予算執行の全面にわたり一貫して複式記帳を行っていましたが、明治14年に日本銀行が創立され中央銀行による国庫金の集中管理が可能となってからは、複式簿記から現行の官庁会計に改めています。
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まとめ
複式簿記は、取引の原因と結果を同時に記録する会計技術です。
その歴史は非常に古く、中世イタリアの商人が用いた会計方法がルーツとされており、複式簿記の卓越性は現代でも不変のもので、世界的にも基本的な会計基準と見なされています。