監修 好川寛 プロゴ税理士事務所
中小企業の経理は、大手企業の経理と異なり業務量や従業員1人あたりの業務の範囲が異なる傾向があります。
特に、従業員数が10名にも満たない企業である小規模の会社の場合は、経理担当者が1人の場合も多く、経理業務を行う上で気をつけるべきポイントが変わってきます。
本記事では、小規模の会社における経理業務のポイントについて解説します。
目次
中小企業の経理の特徴
「経理」は、「お金に関わる業務」が主な業務です。
このお金を管理する「経理」という業務で一番求められることは「正確さ」です。
大まかな金額や間違った計算をしてしまうと、ちりも積もれば山となり、最後には大きな誤差が生まれてしまいます。
大企業であれば、複数の経理担当がおり、経理・会計・財務などの役割を分担して業務にあたることができます。複数人いることで、業務の分担や細分化・一人当たりの負担軽減・ダブルチェックが可能なため業務ごとの精度を高く保ちやすくなります。
一方、中小企業でも特に小規模の企業では1人が経理をすべて担う「1人経理」といわれるような状態が少なくありません。
経理は直接売り上げに貢献する部署ではないため、人手を少なくしてより利益を生む部署へ人員を配置する傾向があります。そうすることで、必然的に「1人経理」の状態になってしまいます。1人でなくとも、業務を分担するにあたってその人数では賄えない少人数で編成されている中小企業もあることでしょう。
昨今の経理業務は会計ソフトの普及によって紙の経費精算書や領収書などの情報を、手入力でデジタル化する作業が不要となったため業務量は大幅に削減されました。そのため、小規模の企業では業務負担という意味では、経理担当が1人になっても支障がでることは少なくなりました。
ただし、経理担当が少ない、もしくは1人だった場合に万が一欠員が出た際や経理担当が不在時に必要な情報が得られないなど、業務が回らなくなる危険性を含んでいます。
これらの不安を解消するには、複数の経理担当者の設置や、業務のマニュアル化などの対応が求められます。
経理担当者が持っておきたいスキル
小規模の会社の経理については、担当者が少ない分、個人に求められるスキルも高くなります。
取得しておくとよいスキルは以下のとおりです。
経理担当者が持っておきたいスキル
- 簿記:
経理担当者には必須のスキル - 会計ソフト:
小規模な会社ほど、会計ソフト導入による業務効率化が求められる
会計ソフトの基本的な操作スキル - 資料作成:
経理の情報をもとに事業計画書や中長期計画書を作成するスキル
PowerPointなどを使用した資料作成スキル
経理担当の業務内容
ここでは、経理が行う主な業務内容の例を紹介します。
- 現金出納管理
現金で行った取引を管理し、入出金を出納帳に記録して残高をチェック - 伝票管理
取引内容を伝票に記録・整理し管理 - 会計帳簿の記帳
日々の取引内容を帳簿(仕訳帳・総勘定元帳など)に記録 - 仕入・売上の管理
商品の仕入や売上を記録し、買掛と売掛を管理
買掛金は買掛金管理簿に記帳し、支払う
売掛金は売掛金管理簿に記帳し、回収後、消込 - 請求書の発行
販売先に請求書を発行 - 入金確認
請求先からの入金を確認(期限や金額など) - 預金管理
銀行口座の残高、小切手、手形などの管理 - 経費精算
従業員が立て替えた経費を精算 - 月次決算
月末にその月の損益計算書を作成し、月次決算資料を作成 - 給与計算
従業員の勤怠データをもとに給与計算を行う
経理担当ではなく人事・労務担当が行う場合も有 - 税金や保険料の計算・納付
給与計算時に所得税や住民税および社会保険料を計算し源泉徴収
源泉徴収した税金や保険料と会社負担分をあわせて税務署や日本年金機構に納付 - 年次決算
月次決算と同様、会社法・税法にもとづいた年間の決算 - 年末調整
従業員の源泉徴収額の調整を12月に行う - 税金計算と納付
法人税や消費税など税金の計算を行い、納付 - 償却資産の申告
不動産以外の会社が保有している資産を市町村に申告 - 棚卸
決算期に実際の在庫数と帳簿の数字が合っているか確認
中小企業ならではの注意点
中小企業の経理担当者が業務を進めるにあたって注意しておきたいこととして、中小企業ならではの優遇制度や特例があります。
中小企業が使える税制優遇は複数あり、その中のひとつが中小企業投資促進税制です。中小企業投資促進税制とは、中小企業における生産性向上などを図るため、一定の設備投資を行った場合に 控除の適用を認める措置です。
中小企業だと負担が大きいため設備投資に踏み出せなかった企業も、中小企業投資促進税制の優遇措置を適用することで、設備投資を実施しやすくなる点がメリットです。
中小企業の優遇制度について詳しく知りたい方は、別記事「中小企業投資促進税制とは?対象設備や申請に必要な書類について解説」をご覧ください。
出典:中小企業庁「中小企業投資促進税制」
税制優遇は、申請や必要手続きをしなければ優遇を受けられないだけですが、他に気を付けなければならないのが、法改正への対応です。大企業であれば法務部や顧問弁護士など、対応するための部署や担当者がいますが、中小企業の場合、担当者が内容把握していなければならない場合も多くあります。
そのひとつとして、2024年10月からの社会保険の加入条件の拡大が挙げられます。
これは、社会保険の加入条件のひとつである「事業所あたりの従業員数が101人以上の事業所」から「51人以上の事業所」に変更されるものです。従業員数が51人以上の事業所は、条件を満たす短時間労働者を社会保険に加入させなければならず、手続きを怠ると罰則が科せられる場合もあるため、この法改正の要件に該当するかは早めに確認しましょう。
該当する場合は、加入対象者の人数を確認し、法改正のタイミングの働き方についてを対象者と話し合いましょう。
このように中小企業ならではの制度が存在するため、大企業と中小企業では、会計処理の方法が異なる部分も多くあります。ひとくちに「経理」といっても大企業と中小企業では業務内容に異なる点が多いということを覚えておきましょう。
社会保険の加入条件について詳しく知りたい方は、「社会保険の加入条件を解説!手続き方法や提出書類をわかりやすく」をご確認ください。
中小企業の経理業務を効率的に進めるポイント
前述したように、大企業では複数人であたっている業務も、中小企業では限られたごく僅かな人数で賄わなければなりません。そのためひとりあたりの対応範囲は広く、1人かつ手入力で対応できる業務量には限りがあります。
中小企業会計要領の導入
中小企業の経理業務は、「中小企業の会計に関する基本要領」に従って運用すると業務がより円滑に進みます。この基本要領は、中小企業の実態に合わせてつくられたもので、中小企業庁のホームページから閲覧することが可能です。
この基本要領の導入は義務ではありませんが、基本要領に従って経理業務を運用することで、金融機関や取引先などからの評価が良くなると言われています。
将来的に、融資を受けたりする可能性がある場合は、今のうちから基本要領に沿った運用を導入することが望ましいでしょう。
会計事務所へのアウトソーシング
社内での人員不足をすぐさま解消することは難しいですが、会計業務のプロである会計事務所へ業務を委託することで、スピード感があり目に見えた結果にもつながりやすくなるでしょう。
プロが行うことで迅速さ・正確さが保証され、社外の人間が関わることで1人経理で発生しやすい、不正が起きやすい閉ざされた空間の改善になります。
委託費用はかかりますが、新たに雇用するよりもコストは安く済み、状況によって柔軟に委託範囲を決定することで最も良い選択が出来るということも良いところです。
クラウド会計の導入
クラウド会計とは、クラウド上で利用できる会計ソフトのことで、インターネット環境さえあれば端末や場所を選ばずに使えます。
- 自動アップデートのため法改正があっても再インストールする必要がない
- インターネット環境さえあれば、場所や人数の制限なしにソフトを利用できる
- 利用者が複数いる場合やアカウントを共有して使用したい環境にも対応できる
- ランニングコストはかかるがアウトソーシングするよりも低コスト
クラウド会計について詳しく知りたい方は、別記事「クラウド会計とは?メリットや導入方法、従来の会計ソフトとの違いを解説」を合わせてご覧ください。
経理の自動化で、業務時間を1/2以下に!日々の業務をもっとラクにする方法
経理業務は日々の入出金管理のほか、請求書や領収書の作成・保存、仕訳作成まで多岐にわたります。
シェアNo.1のクラウド会計ソフト*1「freee会計」は、面倒な入力作業や仕訳を自動化し、見積書や請求書も簡単に作成できるため、経理業務にかかる時間を半分以下*2に削減できます。また、一度の入力で複数の業務が完了するため、重複作業や転記作業はほぼ発生しません。
※1リードプラス「キーワードからひも解く業界分析シリーズ:クラウド会計ソフト編」(2022年8月)
※2 自社調べ。回答数1097法人。業務時間が1/2以上削減された法人数
数ある会計ソフトの中でも、freee会計が選ばれる理由は大きく3つ。
- AI-OCR機能で自動入力・自動仕訳
- 全国ほぼすべての銀行・160以上の外部サービスと連携
- 決算業務は正しく、確実に対応できる
それぞれの特徴についてご紹介していきます。
AI-OCR機能で自動入力・自動仕訳
領収書・受取請求書などをスマホのカメラで撮影しfreee会計に取り込めば、読み取り機能(OCR機能)が取引先名や金額などをAI解析し、仕訳に必要な情報を自動で入力。そのまま支払管理・仕訳まで自動で作成できます。
全国ほぼすべての銀行・160以上の外部サービスと連携
freee会計は全国ほぼすべての銀行やクレジットカード、決済サービスなどと連携可能。同期していれば自動で利用明細を取り込むので、勘定科目の登録はもちろん、売掛金や買掛金の消し込み、入金仕訳などの記帳が、freee会計の画面だけで行えます。
さらに、地代家賃や役員報酬など定期的に入金・支払金が発生する取引は、登録さえしておけばfreee会計が自動で記帳まで完了します。
決算業務は正しく、確実に対応できる
freee会計には、正しい決算書を作るためのチェック機能も充実。預金残高との一致や会計ルールとの整合性をfreeeが自動判定し、修正が必要そうなリストを自動作成します。修正後は、ボタンクリックひとつで貸借対照表・損益計算書などの決算書が作成可能です。
<作成可能な書類例>
- 貸借対照表・損益計算書
- 仕訳帳・総勘定元帳
- 固定資産台帳
- 試算表
- 現金出納帳 など
PDFやCSVファイルへの出力も可能なため、士業の方への共有や、社内での資料作成にも活用できます。また、領収書1枚・仕訳1件単位でコメント機能を使ってやりとりできるため、士業の方ともスムーズにコミュニケーションがとれます。
まとめ
人員不足の企業にとって「経理」という業務は、1人もしくはごく僅かな人数で賄っているために、その業務範囲は広く、ひとりの負担が大きくなってしまいます。
健全な会社経営に欠かせない「経理」の負担を軽くするためには、会計事務所へのアウトソーシングやクラウド会計の導入という新しい手段が効果的です。
よくある質問
中小企業の経理担当者の業務範囲は?
経理が行う主な業務内容は、大きく日常業務、月次業務、年次業務と分けられますが、主な業務として以下のようなものが挙げられます。
- 出入金管理
- 給与計算および支払い
- 各種支払い
- 帳簿作成
- 資料作成
詳しくは記事内「経理担当の業務内容」をご覧ください。
中小企業と大企業の経理業務の違いは?
大企業と比べると、中小企業の経理担当者の人数は少ない傾向にあり、1人ですべての経理業務を担当することも珍しくありません。また、中小企業向けの税制優遇や社会保険などを含めた各種規定についても大企業と中小企業ではその内容や要件が異なる場合があります。
詳しくは記事内「中小企業の経理の特徴」をご覧ください。
監修 好川寛(よしかわひろし)
元国税調査官。国税局では税務相談室・不服審判所等で審理事務を中心に担当。その後、大手YouTuber事務所のトップクリエイターの税務支援、IT企業で税務ソフトウェアの開発に携わる異色の税理士です。