監修 税理士・CFP® 宮川真一 税理士法人みらいサクセスパートナーズ
決算書を有意義に活用するためには、決算書を構成する書類それぞれを分析し、さまざまな視点から自社の状況を考察することが必要です。
本記事では、決算書から読み取れる項目や分析に必要な視点、具体的な分析手法について解説します。
そもそも決算書とは何かについて知りたい方は、以下の記事で詳しくまとめておりますのでご参照ください。
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決算書とは?財務諸表や収支決算書との違い、分析方法などを解説
目次
決算書の分析とは
決算書は、貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書などといった複数の書類から構成されています。取引先や株主といった社外の人たちは、これらの書類を読み解いて社内の状況を分析します。
各書類にはさまざまな数字が記載されているため、決算書を読み解くためには数字が示す内容の分析が必要です。
決算書を分析すれば、自社が順調に経営できているのか、それとも改善するべきポイントがあるのかを知ることができます。
決算書を分析するとわかること
決算書を分析することによって、企業の経営状況をさまざまな視点で読み解くことが可能です。たとえば、決算書を構成する書類のうち、財務三表と呼ばれる貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書からは、以下のことがわかります。
決算書類名 | わかること |
---|---|
貸借対照表 | 企業のある時点(決算日現在)の資産、負債、純資産などの財産状況 |
損益計算書 | 一会計期間でいくら収入があり、どれだけ利益を出せたかといった企業の経営成績 |
キャッシュ・フロー計算書 | 企業の活動を営業活動・財務活動・投資活動に分けたときの、それぞれの活動における1年間の現預金の流れ |
決算書は、単体でも企業経営に関する情報の把握が可能です。さらに各書類に記載されている項目を掛け合わせることで、企業の収益性や安全性などをより深く分析できるようになります。
財務三表については、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
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貸借対照表とは? 財務状況を分析するための見方やポイントを解説
損益計算書とは? 項目別の見方やチェックポイント、活用法を解説
キャッシュ・フロー計算書とは?計算方法や見方、作り方のポイントを解説
決算書の分析に必要な視点
決算書は、主に「収益性」「安全性」「生産性」「成長性」の4つの視点で分析します。分析のための詳しい計算方法などは追って説明します。
収益性
収益性は、会社の稼ぐ力を見る視点です。具体的には、「投下した資本に対してどれだけの収益を得られたか」「提供した商品やサービスにどれだけの付加価値を付けられたか」といった視点で会社を分析します。
収益性を知るには、まずは売上総利益・営業利益・経常利益・税引前当期純利益・当期純利益の5つの額を売上高で割り、売上高利益率を求めることが必要です。
売上高利益率とは、事業のために使用した資金に対するリターン(利益)の割合を意味します。この値が前年度より多くなっていれば、当期は収益性が向上したと言えます。
また、売上総利益を売上高で割ると求められる売上総利益率(粗利率)は、「ビジネスとしての利幅の良否(提供する商品・サービスの付加価値の割合)」です。提供した商品やサービスに、どれくらい付加価値をつけて販売できたかを示す指標となります。
業界内での自社の位置を知るためには、同業他社の数値と比較することも効果的です。業種によって売上総利益率(粗利率)の平均は大幅に異なりますが、いずれにせよ、平均値よりも大幅に低い場合は改善が必要と判断できます。
さらに、本業および副業において、どれほど効率のよい経営を行っているかを示す売上高経常利益率も大切です。この数値は、企業活動全般の収益性や実力を示す指標となります。
売上総利益率(粗利率)とは異なり、売上高経常利益率は業種を問わずに比較できますが、平均値の高い業種と低い業種があります。たとえば、不動産業や製造業、情報通信業などは平均値が高く、卸売業や建設業は低い傾向です。ちなみに、すべての業種を平均した場合、標準圏内の売上高経常利益率は1〜3%前後で、5%を超えると優良とみなされます。
安全性
安全性は、会社の経営の安定度を図るために必要な視点です。「有事の際や収益の変動があったときでも経営を継続できる企業体力がどの程度あるのか」という企業の財務面での余力を、短期的・長期的それぞれの観点から分析します。
短期的な安全性は、流動比率や当座比率を調べることで分析できます。
流動比率とは、1年以内に返済するべき流動負債に対し、1年以内に現金化できる流動資産で補てんできる割合を指す指標です。
この数値が100%以上あり、流動資産が流動負債を上回る状態であるなら、短期的な財務安全性があるといえます。もちろん数値は高ければ高いほど安全で、理想的なのは200%以上、平均値は120〜150%です。
当座比率とは、流動負債と当座資産の比率です。当座資産には、不良在庫となる可能性のある棚卸資産は含まれていません。そのため、流動比率での分析よりさらに厳密な算出方法となります。理想的な数値は150%ほどですが、100%を超えていれば特に問題のない状態とみなされます。
長期的な財務安全性を分析するうえでは、外部の要素に頼らない企業本体の力を知ることも重要です。そのためには、自己資本比率や固定比率の分析を行う必要があります。
自己資本比率は、総資本(総資産)に占める自己資本の割合を把握するための指標であり、毎期の最終利益の蓄積具合を示すものです。自己資本とは返済の義務のない資本のことで、自己資本比率が高ければ高いほど、その企業の経営は安定していると判断できます。
固定比率は、自己資本でどのくらい固定資産に投資した資金をカバーできるかを示す指標です。この数値は低ければ低いほどよいとされていて、全業種の平均値は200%前後ですが、理想的なのは100%未満とされています。
生産性
生産性とは、企業が製品を生産するために必要とする人や機械の量を示す「投入量」と、製品が産出される量を示す「産出量」の関係性を見る視点です。投入した従業員一人ひとり、あるいは機械一つひとつがどれだけ利益を出したか、従業員や設備などの資源をどれだけ有効に活用できているかという観点から分析していきます。
具体的には、付加価値を算出して企業の生産性を数値化することで、それを純利益としていかに活用・分配できているのかを確認します。
ちなみに、生産性を具体的な数値で示すことは、企業や従業員がその数値を必達目標として掲げてモチベーションアップにつなげられるという点でもメリットがある行為です。
成長性
成長性は、売上高や総資産の規模などを前期や市場平均値と比較することにより、企業の成長の可能性を判断するための指標です。売上高成長率(増収率)や、経常利益成長率(増益率)を分析することができます。
成長性の分析は、同業他社との比較および物価の上昇度などの要素を含めた分析が必要です。売上高成長率が向上しても、市場の成長率や物価上昇率を下回っているのであれば、実質売上の減少と解釈できます。
また成長性は、高ければ高いほどよいものではありません。あまりに急激な売上成長は、人材確保・育成面での行き詰まりや、特定の業務や管理に手が回らなくなるなどのトラブルを招く可能性があります。売上高成長率の伸びが急だと感じたなら、社内全体がバランスよく機能しながら成長できているかを確認する必要があるかもしれません。
売上高成長率とともに、経常利益成長率も伸びているなら「増収増益」であり、理想的な状態です。 経常利益成長率は、前期の決算書および業界での平均値や同業他社との比較によって分析するもので、この数値が継続的に伸びているなら、安定していて成長性の高い企業といえます。
決算書の分析手法
収益性・安全性・生産性・成長性を算出する計算方法は以下のようになります。
収益性分析
先述のとおり、収益性は企業の稼ぐ力を分析するもので、総資本経常利益率・株主資本(自己資本)経常利益率・経営資本営業利益率が主な指標です。収益性分析に必要な各指標の内容および計算式は以下のとおりです。
概要 | 計算式 | |
---|---|---|
総資本経常利益率 | 株主や銀行などで集めたすべての資本を用いて、いくらの利益を稼いだかを表す指標。 | 経常利益÷総資本×100% ※経常利益には、支払利息や受取利息など、営業活動以外の収益や費用も加味する |
株主資本(自己資本) 経常利益率 | 主に株主から集めた資金(自己資本)を用いて、いくらの利益を稼いだかを表す指標。 | 経常利益÷自己資本×100% |
経営資本営業利益率 | 本業で使っている資本から、本業の利益をどれだけ稼いだかを表す指標。 | 営業利益÷経営資本×100% |
基本的には、どの指標も利益率が高いほど効率的な経営といえます。
なお、計算で使う「利益」には本業の利益を示す「営業利益」を用いること、「資本」では建設仮勘定や遊休資産、投資その他の資産、繰延資産などを除くことに注意が必要です。
安全性分析
企業の支払能力を示す指標である「安全性」を短期的・長期的の両面から分析することで、企業の倒産リスクを評価できます。
短期的な財政安全性分析では流動比率または当座比率、長期的な財政安全性分析では負債比率または固定比率を見ます。各数値を総合的に分析して、企業の安全性の高低を判断します。それぞれ以下の計算式で算出可能です。
比率 | 計算式 |
---|---|
流動比率 | 流動資産÷流動負債 × 100% |
当座比率 | 当座資産(※)÷ 流動負債 × 100% |
負債比率 | 他人資本(負債) ÷ 自己資本 × 100% |
固定比率 | 固定資産 ÷ 自己資本 × 100% |
※換金性の高い資産のことで、今すぐには負債の支払財源として使えないものを除いたもの。
生産性分析
企業が投入した経営資源に対して、どれくらい付加価値が得られたかを示す指標を求めることで、生産性分析を行います。
生産性分析に必要となる主な指標には、付加価値額・労働分配率・付加価値労働生産性があります。
なお、ここで挙げる指標は一部です。より詳しく生産性分析について知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
生産性分析を駆使して効率の良い経営を|生産性分析の手法について
付加価値額
付加価値額とは、企業が労働や設備などによって新たに付加した付加価値を数値化したものです。以下の計算式で算出できます。
付加価値額 = 経常利益 + 人件費 + 金融費用 + 賃借料 + 租税公課
労働分配率
労働分配率は、会社の付加価値に対する人件費の割合を表した指標のことです。この数値が高いほど、少ない人件費で付加価値を上げていると言えます。
ただし、あまりに高すぎる場合は、人件費を不当に低く設定している企業である可能性があります。以下の計算式によって算出可能です。
労働分配率 = 売上総利益 ÷ 人件費 × 100%
付加価値労働生産性
付加価値労働生産性とは、労働者一人あたりが生み出した付加価値を表した指標のことで、この数値が高いほど効率よく生産性を上げられているといえます。以下の計算式で算出できます。
付加価値労働生産性 = 付加価値額 ÷ 平均従業員数
成長性分析
成長性分析とは、企業における一定期間の成長度合いについて分析することで、多くの場合は一定期間を1年間に設定します。成長性分析に必要な指標はいくつかありますが、ここでは売上高・利益・総資本に注目して指標を紹介します。
成長性分析についてより詳しく知りたい方は、以下の記事もご参照ください。
【関連記事】
成長性分析とは? 目的や知っておくべき指標、分析方法などをわかりやすく解説
売上高成長率
1年間で増加した売上高を示す指標で、この数値がプラスなら1年間で売上高が増加したことを意味します。売上高成長率は以下の計算式で算出できます。
売上高成長率 = (当期売上高-前期売上高) ÷ 前期売上高 × 100
経常利益成長率
1年間で増加した経常利益を示す指標で、この数値がプラスなら1年間で経常利益が増加したことを意味します。経常利益成長率は以下の計算式で算出可能です。
経常利益成長率 = (当期経常利益-前期経常利益) ÷ 前期経常利益 × 100
なお、上記の計算式の経常利益を営業利益に置き換えれば、営業利益成長率を計算できます。
総資本成長率
前期と比べて1年間で増加した総資本を示す指標で、この数値がプラスなら1年間で総資本が増加したことを意味します。総資本成長率は以下の計算式で算出可能です。
総資本成長率 =
(当期の総資本の金額-前期の総資本の金額) ÷ 前期の総資本の金額 × 100
上記計算式において、総資本は資本と負債を合計したものになります。
なお、総資本はたとえ前期から負債だけが増加したとしても、それを資本が上回っていれば総資本および総資本成長率はプラスになります。そのため、総資本だけをみるのではなく、その内訳も注視することが重要です。
まとめ
決算書からは、企業の「収益性」「安全性」「生産性」「成長性」を読み解くことができます。それらを分析して内容をより深く理解することは、企業の今後の経営にも大いに役立つはずです。
この記事で紹介した分析手法を参考にして、企業の状況を客観的かつ正確に把握するよう努めましょう。
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詳しくは記事内「決算書の分析手法」をご覧ください。
監修 宮川 真一
岐阜県大垣市出身。1996年一橋大学商学部卒業、1997年から税理士業務に従事し、税理士としてのキャリアは25年以上に及ぶ。現在は、税理士法人みらいサクセスパートナーズの代表としてコンサルティング、税務対応を担当。また、事業会社の財務経理を担当し、複数企業の取締役・監査役にも従事。