監修 安田亮 安田亮公認会計士・税理士事務所
法人決算は複雑なため、税理士または税理士法人に対面で作業を依頼するケースが多いですが、オンライン上で税理士等にまるごと法人決算の作業を依頼できるサービスも存在します。費用は、対面よりもオンラインサービスのほうが割安です。費用の低減につながるため、オンラインサービスの利用も選択肢として検討する必要があります。
本記事では、オンラインの法人決算サービスを利用する手順やメリット、注意点を解説します。
目次
法人決算とは
法人決算とは、企業の事業年度ごとに年間の損益や資産・負債・純資産を計算して貸借対照表・損益計算書などの決算書を作成する作業です。
法人決算の目的には、以下の3つが挙げられます。
法人決算を実施する目的
- 税務申告および納税
- 株主への報告
- 経営陣と従業員に法人の成果を共有し、経営状態を分析・改善する
決算書の作成は、すべての法人の義務であり、法人税法では以下のように定められています。
内国法人は、各事業年度終了の日の翌日から二月以内に、税務署長に対し、確定した決算に基づき次に掲げる事項を記載した申告書を提出しなければならない。
つまり、法人は事業年度終了後に期日内に決算書を添付した法人税の確定申告書を税務署に提出しなければならず、そのために決算をしなければなりません。このように、法人決算は企業の規模にかかわらずすべての法人に義務とされていますが、「法的な義務」というだけではなく、経営状態の分析・改善にも役立つ重要な作業です。
【関連記事】
法人決算は自分でできる?税理士なしでの流れや必要書類について解説
法人決算と確定申告の違い
法人決算とは、年間の損益や資産、負債、純資産を計算して決算書(貸借対照表、損益計算書など)を作成する作業です。
一方の確定申告とは、企業が事業活動から得た所得や納めるべき税金を計算し、税務署に申告する(所得金額や納税額などを記載した確定申告書を提出する)行為です。確定申告は、法人決算後に実施します。
確定申告では確定申告書のほか、法人決算で作成した貸借対照表・損益計算書などの決算書も提出します。法人決算を完了していない状態では、確定申告を実施できません。
オンラインで法人決算する流れ・手順
法人決算は、社内で作成した帳簿などを会計事務所に持参し税理士に依頼するケースや、自社内で会計ソフトやエクセルなどを用いて実施するケースがあります。それぞれ、以下のようなメリット・デメリットがあります。
方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
紙の帳簿等を税理士に渡して決算書の作成を直接依頼 | ・プロによる法人決算でミスを防げる ・会社の経理・会計担当の決算書作成負担が少ない | ・15万〜25万の費用が発生する ・データで決算書を作成するよりも作業の手間や時間がかかる ・依頼する税理士を自社で探さなければならない |
自社内で会計ソフト等を用いて対応 | ・外部への費用を抑えられる | ・会社の経理・会計担当の決算書作成負担が大きい ・人的ミスが発生する可能性が高い |
しかし、昨今はクラウド会計ソフトなどで記帳し、そのデータを税理士などの会計事務所に送信・共有することで決算書から確定申告書の作成までまるごとおまかせできるサービスが登場しています。サービス提供をする事業者が母体となり、サービス提供事業者が抱える税理士や税理士法人に法人決算(決算書や確定申告書の作成)を代理で依頼できるものです。
オンラインの法人決算サービスの利用ステップは、以下のとおりです。
オンライン法人決算の流れ
- 経営者・経理担当者が領収書・請求書などの帳票を整理
- クラウド会計ソフトなどを用いて日々の取引内容(売上・経費など)を入力
- オンラインで経理データを税理士に送信・共有
- 作成された決算書(貸借対照表・損益計算書)や、確定申告書データを受領
確定申告書の代理作成は税理士や税理士法人にしか依頼できません。そのため、確定申告書の作成まで依頼したい場合は、税理士や税理士法人に依頼ができるオンライン法人決算サービスを選びましょう。
確定申告終了後は、紛失・汚損しないように帳簿や書類を保存しておきましょう。保存が義務とされる期間は、原則として、確定申告書の提出期限の翌日から7年間です。
出典:国税庁「No.5930 帳簿書類等の保存期間」
オンライン法人決算サービスの特徴
企業によっては、会計・税務に関する専門知識を有するスタッフが在籍していないケースや、法人決算を直接依頼する会計事務所が探せていないというケースがあります。このようなケースでは、法人決算の作業をオンライン経由で税理士にすべて依頼できるサービスを利用することも選択肢のひとつです。
たとえば、「freee会計」を含む一部の会計ソフトユーザーであれば、「法人決算オンライン」という法人決算業務のオンライン委託サービスが利用できます。
法人決算業務のオンライン委託サービスの特徴は以下のとおりです。
記帳データを送信すれば決算書・確定申告書を作成してもらえる
領収書のチェックや金額の入力などの日々の記帳に関しては、クラウド会計ソフトなどを用いて自社で遂行しなければいけません。しかし、記帳データに基づいた決算書・確定申告書の作成に関しては、データを送信・共有すれば、サービス提供事業者に任せることが可能です。
なお、紙の書類をやり取りしないため、用紙代やインク代のコストを削減でき、紛失リスクも低減されます。
顧問契約が不要
決算書の作成や日々の記帳に関して対面で税理士に依頼するのであれば、顧問契約が必要です。顧問契約した税理士には、毎月、顧問料を支払わなければいけません。
しかし、法人決算のオンラインサービスでは、日々の記帳作業は自社で遂行するため、顧問契約は不要です。毎月の顧問料を負担せずに法人決算のみの代理作業依頼で済むため、予算に余裕がない企業でも利用しやすいでしょう。
オンライン法人決算サービスを利用するメリット
会計・税務に関する専門知識を有するスタッフがいれば、日々の記帳に加えて法人決算に関しても社内で実施できますが、人材を採用・育成する必要があります。また、税理士に対面で依頼する場合は、一定のコストがかかるため、予算を十分に確保しなければいけません。
オンラインで完結する法人決算サービスを利用するメリットは、以下のようなものが挙げられます。
オンライン法人決算サービスを利用するメリット
- プロによる法人決算でミスを防げる
- 会計・税務の知識を有する人材の確保が不要
- 税理士・会計事務所に直接依頼するよりも金銭的・時間的コストが低い
プロによる法人決算でミスを防げる
経営者や経理担当者が日々の取引を会計ソフトに入力していく過程で、ミスが発生する場合もあります。オンライン法人決算サービスでは、税務署への提出時に問題が生じないように銀行口座の残高や通帳の残高が一致しているかどうかなど、入力内容をチェックしてくれます。
さらに、オンライン法人決算サービスであれば、サービス提供事業者のクオリティ管理体制によって、社内で決算書作成時に起こりやすい転記ミスなども防ぐことができます。
会計・税務の知識を有するスタッフの確保が不要
決算書の作成には、会計・税務(法人税など)に関する専門知識が不可欠です。しかし、法人決算に関するオンラインサービスを活用すれば、専門知識を有するスタッフを確保する必要がありません。
また、毎年の税制改正に迅速に対応し、最新の様式や計算方法に基づいて申告書を作成してくれる点も魅力です。ただし、領収書の全件確認までは実施してくれないため、社内で適切に対応する必要があります。
税理士・会計事務所に直接依頼するよりも金銭的・時間的コストが低い
税理士や会計事務所によって差がありますが、法人決算の作業を税理士に直接依頼すると、通常、15万~25万円程度の費用がかかります。
オンライン法人決算サービスもサービス提供事業者やプランごとに費用は異なりますが、税理士に直接依頼する場合よりは費用を抑えることが可能です。また、オンラインによってスムーズにデータをやり取りできるため、時間的コストも低減されるでしょう。
開業したばかりで資金・時間に余裕がない企業やスモールビジネスを営んでいる場合は、オンラインサービスの活用も検討する必要があります。
【関連記事】
法人におすすめの会計ソフトは?機能や導入するメリット・デメリットを解説
法人決算に関するオンラインサービスの注意点
法人決算に関するオンラインサービスを利用すれば、専門知識を有するスタッフを確保せずに済み、コスト低減につながるといったメリットがあります。ただし、確定申告書の代理作成は、税理士や税理士法人にしか依頼できません。
そのほか、法人決算に関するオンラインサービスを利用する際には、下記の点に留意が必要です。
法人決算に関するオンラインサービスの注意点
- サービスによっては一部の会計ソフトユーザーのみが対象
- オンラインコミュニケーションへの柔軟な対応を
それぞれに関して詳しく説明します。
サービスによっては一部の会計ソフトユーザーのみが対象
法人決算に関するオンラインサービスを利用する場合、記帳データを共有する必要があります。サービスによっては、指定されたクラウド会計ソフトユーザーのみしかデータを共有できない場合があるため注意してください。
事前に、どのクラウド会計ソフトのデータに対応しているのかを確認しておきましょう。
オンラインコミュニケーションへの柔軟な対応を
法人決算に関するオンラインサービスでは、対面での書類のやり取りやコミュニケーションが実施されません。
対面でやり取りする場合は、帳簿の実物を見せながら疑問点に関して質問することも可能ですが、オンラインで相談する場合は「スクリーンショットを撮影する」などの工夫が必要です。
決算報告書は電子データ(PDFファイル)で納品されます。ただし、サービスによっては、紙による納品が可能なものもあるため、事前に確認しておきましょう。
まとめ
法人決算を正しく実施するためには、経理・会計・税務に関する専門知識が必要です。社内に専門知識を有する人材がいない場合は、税理士に直接依頼するか、法人決算に関するオンラインサービスを利用して税理士に依頼する方法があります。
起業直後やスモールビジネスで資金に余裕がない場合は、オンライン法人決算サービスがおすすめです。税理士に直接依頼するよりも費用が抑えられるほか、直接対面でやり取りをしないため、時間的コストも削減できます。ただし、疑問点がある場合は該当箇所をスクリーンショットで撮影し確認依頼をするなど、オンラインコミュニケーションへの柔軟な対応が必要です。
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※1リードプラス「キーワードからひも解く業界分析シリーズ:クラウド会計ソフト編」(2022年8月)
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- 一度の入力で複数の業務が完了。重複作業や転記作業はほぼ発生なし!
- 決算業務は正しく、確実に対応できる!
- 国内で唯一、法人税申告書の作成まで一気通貫で行える!
それぞれの特徴についてご紹介していきます。
一度の入力で複数の業務が完了。重複作業や転記作業はほぼ発生なし!
見積書・請求書をfreee会計で発行すると、書類へ入力した金額をもとに、自動で入金管理・売上仕訳まで完了。銀行口座やクレジットカード、POSレジなどと同期すれば、自動で利用明細を取り込み、勘定科目の登録はもちろん、売掛金や買掛金の消し込み、入金仕訳などの記帳も簡単に行えます。
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決算業務は正しく、確実に対応できる!
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<作成可能な書類例>
- 貸借対照表・損益計算書
- 仕訳帳・総勘定元帳
- 固定資産台帳
- 試算表
- 現金出納帳 など
PDFやCSVファイルへの出力も可能なため、士業の方への共有や、社内での資料作成にも活用できます。また、領収書1枚・仕訳1件単位でコメント機能を使ってやりとりできるため、士業の方ともスムーズにコミュニケーションがとれます。
国内で唯一、法人税申告書の作成まで一気通貫で行える!
freee申告を併用すれば、freee会計のデータと自動連携して、法人税の申告書の書類選択や税額計算、入力作業のほとんどを自動化。申告書類作成の時間削減や転記ミスを防ぐことができます。さらに、e-Taxなどで事前準備を済ませておけば、freee申告上から電子申告まで一気に完結させることが可能です。
よくある質問
法人決算と確定申告の違いは?
法人決算とは、企業の事業年度ごとに年間の損益や資産・負債・純資産を計算して必要書類を作成する作業です。
それに対し、確定申告とは、企業が事業活動から得た所得や納めるべき税金を計算して税務署に申告する手続きです。なお、法人決算で貸借対照表・損益計算書などの決算書を作成したうえで、決算書の内容に基づいて確定申告を実施します。
詳しくは記事内「法人決算と確定申告の違い」をご覧ください。
法人決算を税理士に直接依頼する場合の費用は?
法人決算の作業を税理士に対面で直接依頼する場合、通常、15万~25万円程度の費用がかかります。オンラインサービスのほうが、費用が少ない傾向が見受けられます。具体的な金額は、各会計事務所やサービスの公式サイトで確認しましょう。
法人決算を税理士に直接依頼する場合の費用に関して詳しく知りたい場合は、記事内「税理士・会計事務所に直接依頼するよりも低コスト」をご覧ください。
監修 安田 亮(やすだ りょう)
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。