「証憑(しょうひょう)」とは、企業が行った取引の真実性・正当性を証明する書類です。証憑があることで、企業や事業者が行った取引の内容や、取引自体の証明ができます。証憑にはいくつかの種類があり、経理担当者はそれぞれの用途などを理解しておく必要があります。
本記事では、証憑の概要や種類、保存期間や保存方法について解説します。
目次
証憑とは
証憑とは、取引における真実性や正当性を証明する書類のことで、読み方は「しょうひょう」です。
契約締結や金銭の支払いの際に発行される契約書や請求書、取引した際に発行される納品書などの書類が証慿に該当します。また、労働契約や労働対価に対する賃金の支払いの際に発行される給与明細なども証憑の一種です。
取引全般に関わる証憑は、取引の内容や正当性を証明し、かつ履行するうえでのトラブル抑止や税務処理時の証拠となります。
それぞれの証憑の種類の詳細は後述の「証憑の種類と用途」で解説します。
証憑と証票の違い
証憑と同じ読みを持つ「証票(しょうひょう)」は、看板や身分証など、場所や人を証明する「紙」や「札」に該当するものを指します。対して証憑は、領収書や納品書、銀行取引約定書など、取引内容そのものを証明する書類を指します。
どちらも「証明」する目的で利用されるものですが、証明する「対象」によって名称が異なります。
証憑を紛失した場合はペナルティがある
証憑は、所得税法・会社法における「帳簿書類」に該当し、保存期間が定められています。保存期間中の証憑を紛失もしくは処分してしまうと、会社法976条に則り100万円の罰金が科せられる場合があります。
さらに、悪質だと判断された場合は青色申告の承認取り消しなどの罰則対象になることもあるため、証憑はしっかり整理し、保存しておかなければなりません。
証憑の保存期間に関しては後述の「証憑の保存期間」をご覧ください。
出典:国税庁「法人の青色申告の承認の取消しについて(事務運営指針)」
出典:e-Gov法令検索「会社法|第九百七十六条」
証憑の種類と用途
証憑には以下の4種類があり、それぞれ用途が異なります。
証憑の種類
- 売上に関する証憑
- 仕入に関する証憑
- 雇用・人事に関する証憑
- その他の証憑
以下では、それぞれ具体的な書類や概要について解説します。
売上に関する証憑
売上に関する証憑は、注文から商品・サービスの提供、請求までの一連のプロセスに関わる書類を指します。具体的には、以下が該当します。
売上に関する証憑
- 契約書
- 出荷指示書
- 請求書
- 領収書
- 返品に関する書類 など
これらは売り上げに直結する書類であるため、厳重に保管し、かつすぐに閲覧できる環境を整えておく必要があります。
仕入に関する証憑
顧客へ商品やサービスを提供するにあたって発生する仕入の際に発行される以下の書類は、仕入に関する証憑として認められます。
仕入に関する証憑
- 見積書
- 発注書
- 納品書
- 検収書
- 受領書 など
発注書や納品書をもとに在庫管理している企業では、仕入に関係する証憑は取引におけるトラブルや、在庫管理におけるトラブルの防止につながるため注意して管理しましょう。
雇用・人事に関する証憑
従業員の雇用や給与支払いにあたって発生する以下の書類は、雇用・人事に関する証憑に該当します。
雇用・人事に関する証憑
- 履歴書
- 雇用契約書
- 業務委託契約書
- タイムカード
- 作業時間表
- 賃金台帳
- 給与支払明細書 など
給与が時間単位で支払われる場合は、労働の証拠を示せるタイムカードや作業時間表などが証憑に該当します。雇用・人事に関する証憑は、従業員との雇用契約や給与の支払いを証明するものであり、厳重な管理が必要です。
出典:e-Gov法令検索「民法|第六百二十三条」
その他の証憑
各種送り状や賃貸借契約に伴う契約書など、上記3つの証憑の種類に該当しない書類であっても、取引における真実性や正当性を証明する書類であれば証憑とみなされる場合があります。
その他の証憑
- クレジットカードの明細書
- 口座通帳
- 引当金の計上を証明する見積書類
- 勘定に関する修正内容を記載したメモ など
証憑の保存期間
事業者には、発行した証憑を一定期間保存する義務が税法・会社法により定められています。ここでは、証憑の保存期間について解説します。
法人の場合
法人税法における証憑の保存期間は、7年間です。法人税法に則り、以下のとおり定められています。
普通法人等は、前条第一項に規定する帳簿及び前項各号に掲げる書類を整理し、第五十九条第二項(帳簿書類の整理保存)に規定する起算日から七年間、これを納税地(前項第一号に掲げる書類にあつては、当該納税地又は同号の取引に係る国内の事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地)に保存しなければならない。
出典:e-Gov法令検索「法人税法施行規則|第六十七条 第二項」
保存期間の起点は、証憑の発行日ではなく、事業年度の確定申告の提出期限の翌日です。たとえば3月決算の企業で2023年10月に発行された注文書を保存する場合は、翌年の決算を迎え、確定申告が完了した2024年5月末〜2031年5月末が保管期間になります。
ただし、以下の場合は、10年間の保存が義務付けられています。
10年間の保存義務が生じる場合
- 青色申告書を提出した事業年度で欠損金額(青色繰越欠損金)が生じた事業年度
- 青色申告書を提出しなかった事業年度で災害損失金額が生じた事業年度
出典:国税庁「No.5930 帳簿書類等の保存期間」
また、会社法においては、以下のとおり、会計帳簿及びその事業に関する重要な資料である証憑の保存期間を10年間と定められています。
株式会社は、会計帳簿の閉鎖の時から十年間、その会計帳簿及びその事業に関する重要な資料を保存しなければならない。
出典:e-Gov法令検索「会社法|第四百三十二条 第二項」
以上を踏まえ、法人の場合、証憑は10年間保存しておくと安心だといえるでしょう。
個人事業主の場合
個人事業主の場合は、青色申告・白色申告どちらを実施するかによって証憑の保存期間が異なります。
青色申告をする場合の保存期間
青色申告をする場合、証憑の保存期間は5年間または7年間とされています。
所得税法において、取引の際に作成または受領した書類は5年間の保存が義務付けられています。主に、以下の書類が該当します。
5年間の保存義務がある証憑例
- 請求書
- 見積書
- 契約書
- 納品書
- 送り状 など
一方で決算関係書類や現金預金取引等関係書類に関しては、所得税法において、7年間の保存期間が定められています。具体的には以下のとおりです。
7年間の保存義務がある証憑
- 決算関係書類(損益計算書、貸借対照表、棚卸表など)
- 現金預金取引等関係書類(領収証、小切手控、預金通帳、借用証など)※前々年分の事業所得及び不動産所得が300万円以下の場合は5年
出典:国税庁「記帳や帳簿等保存・青色申告」
なお、雑所得のうち、その業務にかかる前々年分の収入額が300万円を超える場合は、現金預金取引等関係書類の保存期間は5年間です。
出典:国税庁「記帳や帳簿等保存・青色申告」
白色申告をする場合の保存期間
白色申告をする場合の証憑の保存期間は、5年間です。
5年間の保存義務がある証憑例
- 業務に関して作成した現金出納帳や売掛帳などの任意帳簿
- 決算に向けて作成した棚卸表やその他の書類
- 業務に関して作成または受領した請求書や納品書、領収書などの書類
出典:国税庁「個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について」
なお、青色申告同様、雑所得であっても前々年分の業務にかかる年間収入が300万円を超える場合は、現金預金取引等関係書類の保存も必要です。保存期間は上記証憑と同様に5年間です。
出典:国税庁「個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について」
適格請求書の保存期間
2023年10月1日より施行されたインボイス制度により、適格請求書の適用要件を満たした証憑である場合、法人・個人事業主問わず7年間の保存義務が発生します。
適格請求書について詳しく知りたい方は、別記事「適格請求書とは?書き方や保存期間、簡単に作成する方法について解説」をあわせてご確認ください。
出典:国税庁「No.6625 適格請求書等の記載事項」
証憑の保存方法
前述のとおり、証憑は保存期間中に紛失・処分するとペナルティの対象になります。ここでは、証憑の保存方法を解説します。
紙媒体でファイリングして保存する
証憑を紙媒体で保存する場合は、ファイリングをしたうえで、自社の書庫等に保存しましょう。ただし、紙媒体でのファイリングは証憑原本が経年劣化してしまうため、保存環境に注意しましょう。
紙媒体での証憑の経年劣化を最小限に抑えたい場合は、外部の保存業者に依頼するのもひとつの方法です。外部に保存を委託することで、保管に適した環境で証憑を保存してもらえる上に、自社スペースの節約もできます。ただし、保存した証憑の閲覧や取り出しには、自社保管よりも時間がかかる点を理解しておきましょう。
電子データとして保存する
証憑を電子データで保存する場合は、電子取引データを直接保存する方法と、紙媒体で取引した書類をスキャナで取り込んで保存する2つの方法があります。ここでは、それぞれの保存方法について解説します。
なお、2022年1月以降、電子帳簿保存法の改正により、電子データで受け取った証憑は電子保存が必須になりました。
電子データの保存について詳しく知りたい方は、別記事「電子帳簿保存法とは?対象書類や保存要件・改正内容についてわかりやすく解説」をあわせてご確認ください。
電子取引データ保存
証憑をメールの添付ファイルやインターネット上からダウンロードするなどして受領・送付し、そのまま電子データで保存する方法です。
電子データで保存する際には、改ざん防止措置や、日付・金額・取引先で検索可能にする、といった要件を満たす必要があります。
出典:国税庁「電子帳簿保存法 電子取引データの保存方法をご確認ください」
スキャナ保存
紙媒体で受領や送付した証憑をスマホやスキャナで読み取り電子データとして保存する方法です。スキャナで読み取るまでの期間に規定があるほか、一定水準以上の解像度で読み取る必要がある、といった細かい要件を満たさなければなりません。
発行・受領からスキャナで読み取るまでの入力期間については、「早期入力方式」と「業務処理サイクル方式」が定められており、いずれかを選択し対応する必要があります。
早期入力方式 | 業務処理サイクル方式※ |
---|---|
書類を作成または受領してから、速やか(おおむね7営業日以内)にスキャナ保存する | それぞれの企業において採用している業務処理サイクルの期間(最長2ヶ月以内)を経過した後、速やか(おおむね7営業日以内)にスキャナ保存する |
※企業で書類を作成または受領してからスキャナ保存するまでの各事務の処理規程を定めている場合のみ採用可能
出典:国税庁「電子帳簿保存法 はじめませんか、書類のスキャナ保存」
まとめ
証憑は取引内容の真実性を証明する、重要な書類です。保存期間中に紛失・処分をすると、取引においてトラブルが発生した際に正当性や真実性を証明できなかったり、税務調査の際に会計不備として指摘される原因となったりする場合があります。
日々の業務で発生する書類のうちどれが証憑に該当するのかを理解するとともに、保存方法や保存期間についても適切に把握し、取引におけるリスクやペナルティを回避できるように心がけましょう。
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よくある質問
証憑と証票の違いは?
証憑が取引内容を証明する書類であるのに対し、証票は、看板や身分証など、場所や人を証明する「紙」や「札」に該当するものを指します。
詳しくは記事内「証憑と証票との違い」をご覧ください。
証憑はどのくらい保存する必要がありますか?
証憑の保存期間は、事業形態ごとに異なります。法人の場合は法律別に7年間(法人税法)と10年間(会社法)と定められており、個人事業主の場合は7年間(青色申告)と5年間(白色申告)でそれぞれ異なります。法人の場合は10年間、個人事業主の場合は7年間保存しておくと安心でしょう。
詳しくは記事内「証憑の保存期間」をご覧ください。
証憑書類にはどのような種類がありますか?
証憑とは、取引における真実性や正当性を証明する書類のことで、「売上に関する証憑」「仕入に関する証憑」「雇用・人事に関する証憑」「その他の証憑」の大きく4つに分類されます。たとえば、契約締結や金銭の支払いの際に発行される契約書や請求書、取引した際に発行される納品書などの書類が該当します。
詳しくは記事内「証憑の種類と用途」をご覧ください。