監修 税理士・CFP® 宮川真一 税理士法人みらいサクセスパートナーズ
企業が、事業活動を通じて得た所得に対して課される税金を「法人税」といいます。法人税は税務署へ確定申告することが義務付けられており、その確定申告の際に必要となる書類が「法人税申告書」です。
法人税申告書は複数の書類で構成された「別表」に該当し、その内容・種類は多岐にわたります。法人税を正確に計算するためには、当該別表の作成過程やその方法を正しく理解しておくことが欠かせません。
本記事では、法人税申告書の種類や作成・提出方法について解説します。
目次
- 法人税申告書とは
- 法人税申告書(別表)の種類
- 法人税申告書の作成手順と書き方
- 1. 申告書の作成に必要な書類を用意する
- 2. 「別表二」に株主構成を記載する
- 3. 「別表六」以降を完成させ、内容を「別表四」にまとめる
- 4. 「別表七」への記載を行う
- 5.「 別表五(一)」を作成する
- 6. 「別表一」で法人税を確定させる
- 7. 「別表五(一)」と「別表五(二)」に税額を記載する
- 法人税申告書を作成する際のポイント
- 決算書を正確に作成する
- 必要な申告書類を選別する
- 決算書の情報を正しく転記する
- 添付書類も同時に準備する
- 紙で提出する場合は部数に注意する
- 法人税申告書の提出方法
- e-Taxを使用して電子データで提出
- 郵送または信書便による提出
- 税務署に直接持参して提出
- 法人税申告書の提出期限
- 期限後に自ら申告した場合
- 税務署に指摘されるまで対応しなかった場合
- 申告期限を延長したい場合
- 法人税申告書をスムーズに作成するには
- まとめ
- 大変な法人決算と税務申告を効率的に行う方法
- よくある質問
法人税申告書とは
法人税申告書(別表)とは、株式会社や合同会社などの法人が事業で得た各年度の所得に対して課せられる「法人税」を申告するための書類です。
法人税申告書は「一」から「二十」までの別表で構成されている書類で、「別表一」は「確定申告書」と呼ばれています。青色申告と白色申告で記載する内容に違いはありません。
「別表二」以降は、納税額を計算するための明細書で、「別表一」(確定申告書)に記載された法人税額が適正であることを補足するための資料で、細かい明細書や届出書などの付表を合わせるとその種類は100を超えます。
法人税申告書(別表)の種類
法人税申告書(別表)の各フォーマットは、国税庁が公開している「令和5年4月から令和6年3月の間に提供した法人税等各種別表関係(令和5年4月1日以後終了事業年度等分)」のページからダウンロード可能です。
各法人の決算内容によって、法人税申告の際に提出する別表の種類が異なります。特に以下7つの別表は重要性が高く、「別表一」から「別表五(二)」はどの法人でも必ず提出が求められます(「別表六(一)」と「別表七(一)」は該当する法人のみ)。
別表番号 | 別表名 | 内容 |
別表一 | 各事業年度の所得に係る申告書 | 法人の基本情報の記載や、納税額の計算に使用 |
別表二 | 同族会社等の判定に関する明細書 | 同族会社や特定同族会社に該当するかどうかの判定に使用 |
別表四 | 所得の金額の計算に関する明細書 | 該当年度の課税所得金額の計算に用いる |
別表五 (一) | 利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書 | 法人の税務上の純資産を記載 |
別表五 (二) | 租税公課の納付状況等に関する明細書 | 該当年度に発生した租税公課の納付状況を記載 |
法人税申告書の作成手順と書き方
法人税申告書の作成は、以下の手順で行われます。
法人税申告書の作成手順
- 申告書の作成に必要な書類を用意する
- 「別表二」に株主構成を記載する
- 「別表六」以降を完成させ、内容を「別表四」にまとめる
- 「別表七」への記載を行う(該当する法人のみ)
- 「別表五(一)」を作成する
- 「別表一」で法人税を確定させる
- 「別表五(一)」と「別表五(二)」に税額を記載する
それぞれの手順について見ていきましょう。
1. 申告書の作成に必要な書類を用意する
まずは法人税申告書の作成にあたって、以下の書類の用意が必要です。
- 決算報告書(決算書)
- 勘定科目内訳書
- 法人事業概況説明書
抜け漏れがないよう準備を行いましょう。
【関連記事】
決算書の作り方を解説!作成手順や必要書類とは?
2. 「別表二」に株主構成を記載する
同族会社や特定同族会社に該当するかどうかを判定するために、「別表二」の「同族会社等の判定に関する明細書」を作成します。同族会社や特定同族会社に該当する場合は、使用人兼務役員の制限などの対象となります。この判定をしないと、法人税の計算をスタートすることができません。
項目 | 内容 |
---|---|
同族会社 | 経営者一族が会社の出資持分の全部またはほとんどを所有している会社 |
特定同族会社 | 法人税法で規定されている同族会社の形態のひとつで、1人の株主が過半数の株式を保有し、かつ一定の条件を満たす会社 |
出典:e-Gov 法令検索「法人税法 第六十七条」
なお、特定同族会社は、以下の要件を満たしているか否かで判断します。
- 3つ以下の株主グループが株式の50%超を保有している(同族会社)
- 1つの株主グループが株式の50%超を保有している(被支配会社)
- 株式の50%超を保有するグループに、「被支配会社ではない法人株主」が含まれる場合、この法人株主を除外しても被支配会社となる(特定同族会社)
3. 「別表六」以降を完成させ、内容を「別表四」にまとめる
まずは減価償却費や交際費、繰延資産などの個別の事項に関する計算書である「別表六」以降の表を作成します。各事項に関する会計上の損益と、税務上の所得金額との差に関する情報などを整理することが目的です。
作成が完了した「別表六」以降の表をもとに、「別表四」にある各項目を記入します。「別表四」は「所得の金額の計算に関する明細書」であり、会計上の利益から所得金額を計算するために使用します。
「別表四」に記載した所得金額が正しくないと法人税額を正しく計算できないため、正確に記入しなければなりません。
出典:国税庁「所得の金額の計算に関する明細書」
4. 「別表七」への記載を行う
「別表四」への記入後、該当する法人は「欠損金又は損害損失金の損金算入等に関する明細書」である「別表七」を作成します。「別表七」を作成する目的は、過去と現在における欠損金の処理です。過去の欠損金を当期の所得と相殺したい場合などに作成します。
また当期以前に欠損金が発生しており、青色申告の適用を受けている場合や災害損失であった場合にも、翌期に繰り越して将来の所得と相殺するという旨を記載するために「別表七」を作成します。
ただし、「別表七」で過去の欠損金と当期の所得を相殺した場合、手順3で記載した「別表四」で調整しなければならない点には注意が必要です。
出典:国税庁「欠損金又は災害損失金の損金算入等に関する明細書」
5.「 別表五(一)」を作成する
「別表四」を作成したら、次は「別表五(一)」の作成に移ります。
「別表五(一)」は「利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書」で、「別表四」に記入した会計と税務の内容の違いとして調整された項目のうち、将来的に解消されるものがある場合に作成します。
出典:国税庁「利益積立金額及び資本金等の額の計算に 関する明細書」
6. 「別表一」で法人税を確定させる
「別表五(一)」の作成後、手順5までに作成した別表の内容を集約して「別表一」を作成します。「別表一」の作成をもって、法人税の金額計算および確定がなされます。 手順1から5で算出した税額を、「別表五(一)」「別表五(二)」にある「未納法人税及び未納地方法人税」などの各欄に記入します。
7. 「別表五(一)」と「別表五(二)」に税額を記載する
手順6までで算出した税額を、「別表五(一)」「別表五(二)」にある「未納法人税及び未納地方法人税」などの各欄に記入します。
出典:国税庁「利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書」
出典:国税庁「連結利益積立金額の計算に関する明細書」
法人税申告書を作成する際のポイント
法人税申告書を適切に作成するためのポイントは主に次の5つです。
法人税申告書の作成時のポイント
- 決算書を正確に作成する
- 必要な申告書類を選別する
- 決算書の情報を正しく転記する
- 添付書類も同時に準備する
- 紙で提出する場合は部数に注意する
それぞれについて詳しく解説します。
決算書を正確に作成する
法人税申告書は「決算書」に基づき作成するため、まずは正確な決算書を作成することが税金計算を行ううえでの大前提となります。
上場企業は監査法人による会計監査を受けることが義務付けられているため、その決算書の正確性は担保されていると考えられます。一方で非上場会社の場合、通常会計監査を受けることは任意とされているため、決算書が必ずしも正しく作成されているとは限りません。
そのため、特に非上場会社において法人税申告書を作成する場合は、申告書の作成過程において決算書上とくに確認すべきポイントを顧問税理士に確認し、誤りが見つかった場合は経理部へ修正依頼をかけるなどの慎重な対応が求められます。
必要な申告書類を選別する
法人税申告書には多くの別表があり、その中から「自社にとって必要な書類」を選別しなければなりません。
自社において必要な申告書類を過不足なく選別するには、税務に関する専門知識が必要です。顧問税理士がいれば、税理士に申告書の作成を任せることができます。顧問税理士がいない場合は、税務署に相談するか、法人税申告書の作成に対応した税務ソフト・会計ソフトの活用を検討してみましょう。
決算書の情報を正しく転記する
法人税申告書には、決算書上の情報を正しく転記する必要があるため、転記ミスなどのヒューマンエラーを未然に防ぐことが大切です。
担当者が申告書への転記を行ったら、別の担当者がダブルチェックを行うなど転記の正確性を確保する取り組みが欠かせません。
添付書類も同時に準備する
確定した決算内容に基づいて正しく税額を計算できているか確認するため、法人税申告書には以下の資料を添付して提出する必要があります。
- 決算報告書
- 勘定科目内訳明細書
- 法人税事業概況説明書
- 適用額明細書(租税特別措置を適用する場合)
これらの書類を作成するタイミングで、決算書や法人税申告書のミスに気づく場合もあります。あらためて書類を準備するとなると時間がかかることも多いため、十分な時間を確保して進めましょう。
紙で提出する場合は部数に注意する
紙で法人税申告書を提出する場合、資本金が1億円以下の企業は2部必要です。なお、資本金1億円超の法人は電子申告が義務付けられているため部数を気にする必要がありません。
税務署から送られてくる申告書には、前期の中間申告の内容を踏まえて提出部数に関する注意点が書かれています。当期の資本金の金額によっては提出部数が変わる可能性もあるため、注意して提出部数を準備してください。
法人税申告書の提出方法
法人税申告書の提出方法は、以下の3つの手段があります。
法人税申告書の提出方法
- e-Taxを使用して電子データで提出
- 郵送または信書便による提出
- 税務署に直接持参して提出
e-Taxを使用して電子データで提出
e-Taxの正式名称は「国税電子申告・納税システム」といい、自宅やオフィスのパソコンから法人税申告書を提出できます。税務署の開庁時間にかかわらず、24時間いつでも法人税申告書の提出が可能です。
ただし、e-Taxを利用するには、事前に市区町村等での電子証明書の発行や代表者のマイナンバーカードの事前登録などが必要となります。
出典:e-tax「国税電子申告・納税システム」
なお、e-Taxを使って電子申告する場合、受付日は以下のようになります。
通常期 | 確定申告時期 | |
---|---|---|
受付日 |
・月曜~金曜日(祝日や12月29日~1月3日を除く) ・5月、8月、11月の最後の土曜および日曜(月末が土曜日の場合は翌月の最初の日曜日) | ・全日(土・日・祝日を含む) |
受付時間 | 8時30分~24時 | 24時間(メンテナンス時間を除く) |
郵送または信書便による提出
郵送または信書便で法人税申告書を郵送する場合は、消印日付が申告書の提出日となります。
郵送や信書便で提出期限の最終日にポストへ投函したとしても、投函した時間によっては消印日が翌日になってしまう場合があります。消印日がズレてしまうと、期限後申告の対象となるため、最終日に提出する場合は税務署の窓口で直接提出したほうが安全です。
税務署に直接持参して提出
税務署に書類を持参する場合、法人の本社・本店所在地を管轄している税務署に向かいます。仮に提出書類に不備があったとしても税務署は受付をするだけで指摘などはしてもらえないので注意が必要です。
法人税申告書の提出期限
法人税申告書の提出期限は、各法人が定めている決算日から原則として2カ月以内です。
たとえばA社の決算日が4月30日だとすると、原則として2カ月後の6月30日までに申告しなければなりません。2カ月後の決算日が土・日・祝日で税務署が閉庁している場合は、次の開庁日が申告期限日です。
法人申告書の提出期限を過ぎても申告しなかったり、申告期限を過ぎてから申告すると「期限後申告」とみなされ、無申告加算税や重加算税、延滞税が科せられる場合があります。
出典:国税庁「確定申告書の提出期限」
期限後に自ら申告した場合
法定申告期限を過ぎてから1カ月以内に自ら確定申告と納税を行えば、ペナルティは延滞税の支払いのみで済みます。税務署に指摘されるまで無申告のまま放置した場合に比べるとペナルティは軽いため、確定申告の期限を忘れていた場合は気づいたタイミングで速やかに申告を行いましょう。このように申告期限を過ぎてから申告することを、「期限後申告」といいます。
申告前に税務調査が入り、所得金額や税額を確定させる通知が税務署から届いた場合は、期限後申告を行うことができません。
税務署に指摘されるまで対応しなかった場合
税務署に指摘されるまで「期限後申告」を行わなかった場合には、税務調査の対象となる可能性があります。税務調査とは、税務署が所得金額や納めるべき税額を判断して納税額の通知を行うことです。このように期限までに申告をしなかった場合に科せられるペナルティを「無申告加算税」といいます。
無申告加算税に関して詳しく知りたい方は、別記事「無申告課税とは?確定申告の期日が遅れたらペナルティも発生?」をご覧ください。
通知を受け取った納税対象者は、税務調査の決定に基づき法人税ならびに無申告加算税を納付しなければなりません。指示に従わない場合は督促があり、それでも納付しないと「重加算税」が科せられたり、財産差し押さえなどの処分が下されたりする場合があります。
申告期限を延長したい場合
3月決算の場合、決算に基づいた株主総会を6月頃に実施する企業が多く見受けられますが、株主総会の内容を受けて法人税申告書を提出すると、「決算日から原則として2カ月以内」の提出期限に間に合いません。そのため、あらかじめ特例申請をしておく必要があります。
法人税申告書の申告期限延長の特例申請手続きをしておけば、申告期限を1カ月延長することが可能です。期限後申告の延滞税や、税務署の指摘後の無申告加算税などを避けるためにも、できる限り早めに税務署へ申請をしましょう。
法人税申告書をスムーズに作成するには
法人税申告書を作成するにあたって、別表の作成や添付書類の準備など多くの労力と時間が必要です。また、紙で書類を作成していると、計算ミスなどが発生する可能性も高まります。このような人的ミスをなくすためにも、クラウド会計ソフトや法人税申告ソフトの利用をおすすめします。
仮に税金の計算をエクセルのワークシートを用いて手作業で行う場合、編集してはいけない行や列、シートなどを誤って編集してしまう恐れがあります。また、申告書作成のために税率や計算式の設定などを行う必要がありますが、それらに精通している担当者がいない場合、申告書を作成する前段階でかなりの手間がかかるでしょう。
一方、会計ソフトや法人税申告ソフトを利用すれば通常発生する作業は基礎データの入力のみとなるため、その後の税金計算過程は自動で処理されます。書類作成者が編集できる箇所もソフト上で決められており、余計なミスが発生しません。また、毎年の税制改正に対応しているのも大きなメリットです。
このように専用ソフトを使うことで、エクセルに比べて人的ミスの防止や手作業の負担軽減といったメリットが期待できます。
まとめ
確定申告においては、税金の額を正確に計算し、期日内に遅滞なく申告することが非常に重要です。仮に修正申告により追徴課税が発生したり、延滞税や重加算税が科されたりした場合は会社にとっては想定外の支出となるため、資金繰りに悪影響を及ぼす恐れもあるでしょう。
法人税の申告は馴染みのない書類が多数必要なことから、申告書作成担当者の負担は計り知れません。正確な申告書作成を行いつつ担当者の負担を軽減するために、専用の会計ソフトや法人税申告ソフトの導入がおすすめです。
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よくある質問
法人税申告書の提出は必須?
法人税法の第74条に基づき、「法人は、各事業年度終了日の翌日から2カ月以内に申告書を提出しなければならない」と定められているため、法人税申告書の提出は必須です。
また、法人申告書の提出期限を過ぎても申告しなかったり、申告期限を過ぎてから申告したりすると「期限後申告」と見なされ、無申告加算税や重加算税、延滞税などのペナルティが発生するリスクもあります。
詳しくは記事内の「法人税申告書の提出期限」をご覧ください。
法人税申告書の提出書類は?
法人税の申告においては、「別表」という書類の提出が必要となります。
詳しくは記事内の「法人税申告書(別表)の種類」をご覧ください。
法人税申告書の作成手順は?
法人税申告書を作成する際は、まず作成に必要な決算報告書(決算書)、勘定科目内訳書、法人事業概況説明書を用意します。次に、用意した書類に基づいて、別表を作成していきます。別表は各法人の決算内容によって提出する項目が異なるため、注意しましょう。
詳しくは記事内の「法人税申告書の作成手順と書き方」をご覧ください。
監修 宮川 真一
岐阜県大垣市出身。1996年一橋大学商学部卒業、1997年から税理士業務に従事し、税理士としてのキャリアは25年以上に及ぶ。現在は、税理士法人みらいサクセスパートナーズの代表としてコンサルティング、税務対応を担当。また、事業会社の財務経理を担当し、複数企業の取締役・監査役にも従事。