簿記とは、企業における営業取引や経営活動に関する内容を帳簿へ記入する作業やそのスキルを指します。企業では、帳簿に記帳された内容をもとに決算書を作成するために必要となるスキルです。
本記事では、簿記の概要や学ぶことによるメリット、簿記の種類や仕組み・流れについて解説します。
目次
簿記とは
簿記とは、企業の営業取引や経営活動に関する内容を、帳簿へ記入することです。事業単位ごとの取引を記帳し、最終的な決算書を作成するまでの一連の作業を行います。
企業の多くは、簿記の知識がある人材を経理や会計の担当者に任命します。経理や会計の業務には専門的なスキルや知識が必要になるため、求人で簿記の資格を求められる場合があります。
会計や簿記との違いなどについて詳しく知りたい方は、別記事「会計とは?経理・財務・簿記との違いから業務効率化のポイントまで解説」をあわせてご確認ください。
簿記を学ぶメリット
簿記を学ぶことで、ビジネスコストが把握できるなどビジネスにおける会計的な視点を持てるようになります。
ほかにも、簿記を学ぶことで以下のようなメリットが期待できます。
簿記を学ぶメリット
- 企業の運営・財務状態の分析スキルが向上する
- 事業活動における現金の動きや流れを予見できるようになる
- ビジネスパートナー・クライアントの財務状況・リスクを早期に把握できる
- 投資対象となる企業の潜在力・将来価値を理解できる
上記のように簿記を学ぶことは、ビジネスに欠かせないお金の動きや状況の理解に役立ちます。経理や会計の担当者でなくても、企業に勤めるうえで覚えておいて損のない知識だといえます。
簿記の種類
簿記には、単式簿記と複式簿記の2種類があります。ここでは、それぞれの特徴を解説します。
単式簿記
単式簿記とは、取引の内容をひとつの項目で記録するシンプルな記帳方法です。
【例:4月1日に交通費3,000円をタクシー会社Aに支払った】
日付 | 項目 | 詳細 | 入金額 | 支出額 |
4月1日 | 交通費 | タクシー会社A | 3,000 |
交通費など、単発的に発生する取引であれば、ある程度金銭の動きを把握することが可能です。しかし、年間を通して見た場合に、現金が増減する理由を帳簿から読み取れないといったデメリットがあります。
単式簿記について詳しく知りたい方は、別記事「単式簿記とは」をあわせてご確認ください。
複式簿記
複式簿記とは、取引の「結果」だけでなく「原因」もあわせて記録する形式のことです。取引を借方・貸方に分けて仕訳し、両者には同じ金額を記載します。
取引を原因と結果の2面からとらえることで、「自社もしくは取引先がどのように動いた」から「このような金額が動いた」と取引内容をより詳細に把握できます。借方・貸方にはそれぞれ以下の内容が振り分けられます。
借方と貸方の振り分け方
- 借方(左側):資産の増加、費用の発生
- 貸方(右側):負債・純資産の増加、収益の発生
上記の単式簿記で使用した例を複式簿記の形式に置き換えると、以下のようになります。
【例:4月1日に交通費3,000円をタクシー会社Aに支払った】
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 | ||
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 | ||
4月1日 | 交通費 | 3,000 | 現金 | 3,000 | タクシー会社A |
金銭の出入りだけを記録する単式簿記に対し、複式簿記は財産状況を把握できる点が強みです。また、単式簿記よりも多くの情報を読み取れることから、法人会計においては一般的に複式簿記が採用されます。
複式簿記について詳しく知りたい方は、別記事「複式簿記とは?複式簿記の記帳方法や単式簿記との違いをわかりやすく解説」をあわせてご確認ください。
簿記一巡の手続きの流れ
会社における取引をルールに基づき仕訳し、決算書を作成するまでの一連の流れを「簿記一巡の手続き」といいます。
簿記一巡の手続きの具体的な流れは、以下のとおりです。
簿記一巡の手続き
- 仕訳を行う
- 総勘定元帳への記入を行う
- 決算整理仕訳を行う
- 決算書を作成する
ここでは上記1〜4の各手順を具体的に解説します。
1.仕訳を行う
仕訳とは、すべての取引を「借方(かりかた)」と「貸方(かしかた)」に分類し、それぞれの金額や該当する勘定科目を記帳することです。
借方・貸方に分類した簿記上の取引を、勘定科目・金額に分けて記録します。勘定科目とは、取引で発生する金銭の流れなどをよりわかりやすく分類するために使われる、見出しのような項目のことです。
勘定科目について詳しく知りたい方は、別記事「勘定科目とは?仕訳方法や設定のポイントについてわかりやすく解説」をご覧ください。
2.総勘定元帳への記入を行う
仕訳を行ったあとは、仕訳した取引に関する内容を総勘定元帳に転記します。
総勘定元帳とは、会社が行ったすべての取引を勘定科目ごとに管理するための帳簿を指します。仕訳帳の内容をもとに、勘定科目ごとに発生原因や取引日、残高などをまとめます。
総勘定元帳の詳細について詳しく知りたい方は、別記事「総勘定元帳とは?書き方や保存期間、基礎知識を解説」をあわせてご覧ください。
3.決算整理仕訳を行う
総勘定元帳への記入を終えたら、決算整理仕訳を行います。
決算整理仕訳とは、期中に作成した帳簿の内容を、決算時点の状況に合うよう修正する作業のことです。決算整理仕訳を行うことで、決算日時点での資産や負債を評価しなおします。
4.決算書を作成する
決算整理を終えたら、最後に決算書を作成することで簿記一巡の手続きが完結します。決算月は企業によって異なります。たとえば、3月決算の場合の作成手順は以下のとおりです。
【例:3月決算の企業の決算書作成の流れ】
4月 | 記帳 |
5月上旬 | 総勘定元帳の作成、決算整理仕訳の実施 |
5月中旬 | 決算書の作成 |
5月下旬〜5月末 | 法人税・地方税等申告書の作成、税金の納付 |
5月末〜 | 書類の保存 |
決算書の作成について詳しく知りたい方は、別記事「決算書の作り方を解説!作成手順や必要書類とは?」をあわせてご覧ください。
仕訳の方法
前述のとおり、簿記では、「借方」と「貸方」に取引を分ける複式簿記で仕訳を行います。仕訳を行ううえで必要な手順は以下のとおりです。
複式簿記による仕訳の手順
- 取引内容を「原因と結果」に分ける
- お金の動きや取引を勘定科目に当てはめる
- 借方と貸方に分けて記入
ここでは、「税込1,000円の商品を売った」ことを例として、仕訳の流れを解説します。
1.取引内容を「原因と結果」に分ける
簿記における仕訳を行う際は、まず実際に発生した取引の内容を原因・結果のそれぞれに分ける必要があります。
原因 | 結果 |
商品を売った | 商品の代金1,000円を現金で受け取った |
この取引では、「商品を売った」ことが原因で、結果として「代金を1,000円で受け取った」と考えられます。
2.お金の動きや取引を勘定科目に当てはめる
続いて、原因と結果に分けた取引内容を、適切な勘定科目に当てはめます。原因にあたる商品を売ったという原因は「売上」を、1,000円の現金を受け取ったという結果は「現金」という勘定科目を選択します。
勘定科目について詳しく知りたい方は別記事「勘定科目とは?必要性や主な勘定科目一覧、設定する際のポイントについて解説」をあわせてご覧ください。
3.借方と貸方に分けて記入
勘定科目を選択した後は、以下のように借方と貸方それぞれに分けて記帳します。
「現金」は借方に、「売上」は貸方に該当します。記入方法は以下のとおりです。
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 | ||
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 | ||
○月○日 | 現金 | 1,000 | 売上 | 1,000 |
このように、借方と貸方は同じ金額を記入します。取引の原因と結果の両面から把握することで売上がどれくらいあったか、お金を何にどれだけ使ったのかが理解しやすくなります。
借方と貸方の振り分け方や仕訳の記載例などを詳しく知りたい方は別記事「仕訳帳とは?書き方や仕訳例、基礎知識を解説」をあわせてご覧ください。
簿記の資格の概要
簿記の知識は企業にとってのニーズが高く、就職や転職活動に役立ちます。特に、簿記の中でも難易度の高い2級は、取得しておくと書類選考時などで有利に働きます。
また、就職や転職だけでなく、会計処理や経営状態の把握など会社経営に必要な知識を得られるため、ビジネスパーソンとしてのレベルアップにも役立つ資格です。
日商簿記・全経簿記・全商簿記の特徴と違い
簿記検定には、日商簿記・全経簿記・全商簿記の3種類があります。
日商簿記 | 全経簿記 | 全商簿記 | |
主催団体 | 日本商工会議所 各地の商工会議所 | 全国経理教育協会 | 全国商業高等学校協会 |
検定の種類 | ・1級 ・2級 ・3級 ・簿記初級 ・原価計算初級 | ・上級 ・1級 ・2級 ・3級 ・基礎簿記会計 | ・1級 ・2級 ・3級 |
特徴 | ・簿記検定の中ではもっとも知名度が高い ・就活に有利 | ・税理士試験の受験資格を得られる簿記 ・経理専門学校に在籍する学生などが受験する | ・商業高校の学生を対象としている ・商業高校で学習する内容が網羅されている |
日商簿記
日商簿記は、日本商工会議所と各地の商工会議所による簿記検定です。「簿記検定」というと、商業簿記を指すことが一般的です。1級・2級・3級・簿記初級・原価計算初級の5種類があります。就職活動でも有利とされているため、多くの就職活動を行う学生や社会人が受ける簿記検定といえます。
出典:商工会議所の検定試験「簿記」
全経簿記
全経簿記とは、全国経理教育協会を母体とする簿記検定です。上級・1~3級・基礎簿記会計の5種類に分かれており、上級は年に2回、上級以外は年に4回試験が開催されます。上級に合格することで税理士試験の受験資格が得られるため、経理専門学校に在籍する学生などが受験する傾向にあります。
出典:公益社団法人全国経理教育協会 ZENKEI「簿記能力検定」
全商簿記
全商簿記(簿記実務検定試験)とは、全国商業高等学校協会による簿記試験のことです。1級・2級・3級に分かれており、全商1級は日商2級と、全商2級は日商3級とそれぞれ同等レベルとされています。
全商簿記は商業高校の学生を対象とした試験で、学校で学習する内容を網羅していることから、基礎的な内容が中心となっています。
出典:全国商業高等学校協会「簿記実務検定試験」
簿記検定を受験するときのポイント
上述した3つの簿記検定には、それぞれ難易度が設定されています。簿記初心者は難易度の低い試験から受験し、段階を踏んで上級の試験合格を目指すといいでしょう。
日商簿記であれば、財務諸表の読み方がわかる簿記3級以上を取得していると就職や転職で有利とされています。就職や転職を希望する会社や、在籍する会社に求められるレベルの試験合格を目指し、資格取得に向けた学習を進めていきましょう。
まとめ
簿記について学ぶことで、会計的な視点の獲得やビジネスコストの把握、運営や財務における分析スキルの向上に役立ちます。ビジネススキルとして活用するためには、複式簿記による仕訳方法や、簿記一巡の流れを把握し、財務諸表を読める力を身につける必要があります。簿記検定を受ける場合は、資格取得の必要性や種類も理解し、自身のキャリア形成に必要な検定を受験することが大切です。
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よくある質問
簿記とはなんですか?
簿記とは、企業の営業取引や経営活動に関する内容を、帳簿へ記入することです。事業単位ごとの取引を記帳し、最終的な決算書を作成するまでの一連の作業を行います。
詳しくは記事内「簿記とは」をご覧ください。
簿記検定の種類は?
簿記検定には、日商簿記・全経簿記・全商簿記の3種類があり、それぞれに異なる難易度が設定されています。「簿記検定」というと、商業簿記を指すことが一般的であり、簿記3級以上の知識があれば、就職や転職で有利とされています。
詳しくは記事内「簿記の資格の概要」をご覧ください。
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