創業100年以上の総合商社 山本商店がペーパーレス化で目指す新世代の経営

株式会社山本商店 経理主任 松尾綾子 氏/経理担当 久々宮嗣代 氏

課題
バックオフィスの体制構築・効率化

貿易の街として知られる神戸で1911年に創業し、100年以上の歴史を誇る株式会社山本商店。輸入食品の総合商社としてヨーロッパの菓子類や食材に強みを発揮し、世界中から選りすぐりの商品の輸入・販売をしています。


時代のアンテナを張り巡らせ、「ペーパーレス」「リモートワーク」の実現を目指す同社。スピード感を持った業務プロセス改革を推し進めるなかで、freeeの導入を決定しました。株式会社山本商店で経理・人事労務を統括する松尾綾子氏、現場の業務をリードする久々宮嗣代氏にペーパーレス化・業務効率化の効果を伺いました。

旧態依然ではなく、より先進的な仕組みづくりを

――創業から1世紀を経て今に至るまで多くの変化があったと思います。まずは御社の事業についてお聞かせください。


“株式会社山本商店

株式会社山本商店 経理主任 松尾綾子 氏
兵庫県出身。短大卒業後、営業、貿易、経理職を経験後家庭に入る。育児が一段落し、山本商店に経理スタッフとして入社。上司の退職に伴い現在は総務、人事、経理の統括を担当する。

松尾 弊社は1911年(明治44年)の創業以来、ヨーロッパを中心に世界各国からお菓子をはじめとした食品を輸入販売しています。本部と東京支社の2拠点で経営し、代表的な商材はイタリア・トリノ発の老舗チョコレート「Caffarel(カファレル)」です。


社員は現在約40名で、営業本部が商社機能を担い、管理本部が経理・人事労務を担当しています。管理本部ではロジスティクス部門というチームもあり、国内の資材・物流管理を担当をしています。営業本部の商品企画部では商品の企画・開発を担い、年に数回ほど海外に出張し、商材の買い付けなどをすることもあります。


私は前職で経理業務を経て2017年に入社し、直属の上長と共に経理・人事労務を担当していました。しかし入社8カ月で上長が退社。それ以来、短期派遣社員から直接雇用で登用した久々宮と2人でfreeeの導入につながるバックオフィス部門の改革プロジェクトを進めてきました。


久々宮 バックオフィスを担うチームは経理リーダーの松尾をはじめ計3名。仕訳伝票の処理、入出金の確認や売掛金・買掛金の処理など一般的な経理を担当しています。海外を相手にする商社ならではの経理業務として輸入取引の経理処理なども手がけています。



――一般的に歴史ある企業は古い体質の改善に悩まれている印象がありますが、御社はいかがでしょうか?

松尾 創業から1世紀経っていることもあり、レガシー企業のイメージを持たれることもあります。しかし、社長を筆頭に新しいものや先進的な取り組みにも積極的な会社です。「給与明細を今どき紙で渡すのはどうなの?」という疑問から全社を挙げてペーパーレスに取り組んでいます。今回のfreee導入は、その施策として行なわれたものです。また、リモートワークなど社員が気持ちよく働ける仕組みづくりを意欲的に進めています。


たとえば、当社独自の制度として2018年から始まった「準フレックスタイム」があります。当該月の残業時間を就業時間の一部に振り替えできて、育児をしながら働く社員を中心に活用されています。子どもの突発的な病気や季節行事などで少しだけ出勤時間をずらしたり、家族のために早く帰ったりとワークライフバランスも充実しました。私も高校生の子どもがいるのですが、この制度にとても助けられています。


このように働き方改革にも柔軟に取り組み、必要な理由と共に稟議を上げたら、スピーディーに導入が決まります。歴史と伝統に裏打ちされたおおらかさで、新しいサービスや仕組みを柔軟に取り入れています。オフィス改装のときにWi-Fiを新しく引いてクラウド化に備えるなど全社的にITへのアンテナは高く持っています。

忙殺された年末調整の改善に新サービスへのスイッチを模索

――freee導入のきっかけと、導入の前後で社内の改革はどのように進んだのか教えてください。

松尾 初めてfreeeを知ったのは取引先銀行から面白い会計ソフトがあると紹介を受けたときで、当時は私の入社以前から使われていた会計ソフトに大きな問題もなく、従来通り運用を続けていました。


しばらくしてfreeeのWeb広告を見て「オンライン年末調整」というキーワードが強く印象に残ったのです。上司の退職により独学で未経験の年末調整を行うことになり、半泣きで大量の紙書類の処理を進めていたためです。来年は年末調整にかかる負荷を減らしたい、と人事労務システムの導入を検討し始めました。


折しも、ビジネススケジュールには2019年10月の消費税増税が織り込まれていました。弊社のショップは軽減税率の対象になるのですが、軽減税率に対応するためには既存会計ソフトの有償バージョンアップが必要でした。コストがかかるのであれば、この機会に他の会計システムも検討することになったのです。


これらの経緯が重なり、税制改正対応と稟議・経費精算のペーパーレス化、年末調整の省力化を見込んで、freeeを含めて会計・人事労務をカバーするシステムの検討に入りました。



――なるほど。税制改正はたしかに大きなポイントですね。検討するにあたって魅力的だったポイントはどこでしたか?


“株式会社山本商店

株式会社山本商店 経理担当 久々宮嗣代 氏
兵庫県神戸市生まれ。大学卒業後飲食サービス、教育サービスを経て経理職に従事。IT、不動産、出版社の経理部にて経理実務のリーダーを務める。2018年に東京から神戸に転居後、縁あって山本商店に入社。

久々宮 いくつかの製品が候補に上がりましたが、非常に魅力的だったのは経費精算が簡単かつスムーズに行えることです。申請者は証憑をスマホで撮って申請でき、経理スタッフは画面で簡単にチェックできる。クラウドのシステムですから、場所の制約も受けずいつでも申請・承認が可能です。スマホに対応しており、直感的に入力できるインタフェースも含めて「他のサービスとは違う」という印象がありましたね。


松尾 スマホとの親和性を意識している点は、当時を振り返っても確かに興味深かったですね。若い世代を見ても、キーボードを叩くパソコンよりは手のひらで操作するスマホのほうが使いやすいようです。これから会社に入ってくる次の世代のことを考えれば、今までのキーボード対応よりも感覚で操作できるインタフェースのほうが望ましいのではないかと考えていました。


導入の決め手になったのは会計と人事労務を一元管理できる点です。会計で経費精算も稟議申請を行い、人事労務に飛べば打刻も給与明細の確認もワンクリックで行えます。社員のITスキルのばらつきを考えると、入り口は一つで、ワンストップで完結する明瞭さは助かりますね。


導入のしやすさではfreeeの料金体系も後押しになりました。オンプレミスのソフトだと、リース期間があり購入してから最低5年は使い続けなければなりません。しかしfreeeはサブスクリプション型なので、いざという時は1年経った際に再検討できます。そういった面での導入の心理的ハードルの低さはとてもありがたかったです。


“株式会社山本商店


「紙とExcel」から脱却し、経費精算をスピードアップ

――freeeの導入で大きく変わった点はどこでしょうか?

久々宮 freeeの導入で顕著な効果が感じられたのは「支払依頼」「経費精算」機能です。


支払管理では、従来の会計ソフトでは買掛金管理で会計記帳、振込で会計記帳と二度手間になっていました。freeeの「支払依頼」では、買掛金管理時点で入力した情報がそのまま振込や消込、仕訳に使用できるため入力が1度で済みとてもスムーズです。freeeの導入で煩わしい作業から開放され、業務時間を約60%にまで短縮、ミスの発生も抑えられました。


「経費精算」も同様です。これまでは社員が出張時などの経費をExcelで作成し、紙の書類として出力して経理に提出。経理スタッフはその紙の数字をExcelで再計算してチェックしていました。そのため、申請者・経理スタッフともに不必要な手間と時間がかかっていたんです。海外出張の経費精算の場合、ノート1冊分にびっちりと貼り付けられたレシートと帳票を最大で2時間以上かけて整理、チェックすることもありました。


freeeなら申請者・経理スタッフが証憑含むデータをオンライン上で同時に確認でき、遠隔の情報共有や差し戻しのコミュニケーションがスムーズです。経理側は基本入力せず確認だけで作業が完結するので、現在はいくら件数が多くても20分程度で処理、チェックを終わらせることができています。


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松尾 業務時間が削減でき、生産性が向上しただけではありません。海外出張中に領収書をもらったらすぐに撮影するようアナウンスしておくことで、申請をその場で上げる人が増え、申請全体が早くなったのです。経理スタッフも社員も作業が省力化され、両者のストレスが大きく軽減されています。


freeeによって経費精算や稟議のペーパーレスを実現。さらに給与明細もWeb画面から見られるようになりました。過去の申請もオンラインですぐに確認できるため、紙資料を探して管理する手間がなくなったのもありがたいですね。これまで課題として取り組んできたペーパーレスにより業務が大幅に効率化され、リモートワークの利便性が大きく向上しています。社長や役員たちにも「何これ、便利やな!」と高評価でした。

年末調整の煩わしさからの解放

――先ほど年末調整で悩んでいたとお聞きしましたが、freeeの導入でどう変わりましたか?

松尾 感動するくらい楽になって本当にfreeeさんには感謝しています!前年は社員が記入した書類を複数枚用意して、保険や住宅ローンの控除証明書を突き合わせ、計算や記入を、目を皿のようにして半泣き状態で進めていました。


freeeの年末調整は社員に直接入力してもらっており、控除証明書なども添付を確認するだけ。証明書と金額のチェックで終わりますし、社員への差し戻しや社員の再入力もスムーズです。前の年にどれぐらい作業時間をかけていたかは必死すぎて覚えていませんが、freeeでは1人あたり5分程度で終えられた印象ですね。



――大きな短縮ですね!

松尾 私は社員がデータを直接入力することにも大きな意味があったなと感じています。今年の年末調整を振り返ってみると、リタイアされたご両親を扶養親族に入れて扶養控除を申請する社員も出てくるなど、年末調整作業の簡略化が社員のマネーリテラシー啓発にもつながりました。


また給与計算、給与明細もfreee人事労務でカバーし、人事労務まわりの一元化も可能になったのも大きいですね。勤怠管理の打刻はタイムレコーダーからスマホアプリに変わりましたが、物理的な作業からスマホに移行したからか、打刻漏れも少なからずありました。今後はICカードタッチによる打刻を導入するなど、freeeの新機能もフルに活用していければと考えています。


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バックオフィスと営業の相互連携や分析業務へのシフトで新たな価値を創出する

――freeeを活用して、会社として今後目指すものは何でしょうか?

久々宮 freeeがもたらしたペーパーレスによって各種帳票・書類のデジタル化が進み、社員自らが経理作業に触れることで、経理業務への理解が深まったのではないかと感じています。営業チームとバックオフィス部門のコミュニケーションが円滑になり、より一体感が深まりました。この連携を踏まえ、今後は経理スタッフが入力している「支払依頼」についても、各部署に入力してもらうことを検討しています。この一連のフローを可視化することで自部署でいくら経費を使ったか把握できるようになって個々の経費の管理意識が醸成され、より良い経営につながるはずです。


松尾 経営課題のひとつである「ペーパーレス」はfreeeの導入によって大きな成果を得られました。もうひとつの「リモートワーク」は経理部門から利用を進めています。営業チームが使う基幹システムはオンプレミスですが、クラウドシステムのfreeeはリモートワークと親和性があるためです。


経理チームも定型業務の負担から解放され、モチベーションの向上が体感できています。今後は経理や人事労務の実務を久々宮らに一任し、私は別の分野に注力していこうと考えています。


freeeに実装されているタグ機能では、取引情報として部門や品目、セグメントなどの分析に必要な情報を付与できます。経理データは情報の宝庫。経理で得た経営データの分析に本腰を据えて取り組みたいですね。freeeのおかげでワークライフバランスを実現しつつ、新しい価値を創出する――バックオフィス部門の新たなステージが見えてきました。


“株式会社山本商店”


(取材・執筆:佐々木 正孝 編集:神田 匠/ノオト)

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