1949年、新潟県柏崎市にて創業した「とらや菓子店」。2020年、主業としてきた和菓子の製造販売に加えて和カフェ【ToRaYa】をオープンし、地元・新潟を中心に大きな人気を博しています。
とらやの三代目として、事業承継を予定している上野 宏太郎さんにお話を伺いました。
コロナ禍で家業が傾 きかけているのを見過ごせず手伝うことに。その後、カフェ開業などを経て4年で売上は2倍に!
――とらや菓子店の事業内容と、現在の状況を教えてください。
もともとは和菓子屋で、2020年9月からカフェ事業もスタートしました。カフェスタッフと製造を兼務でやってくれている従業員が8名おります。
今はまだ父が二代目の社長をしていて、ここ1〜2年で僕が三代目になる予定で事業承継中です。
――家業に入ったきっかけは何だったんですか?
コロナ禍ですね。コロナ禍で経営状況がだいぶ悪くなってしまって、自分に手伝えることはないかなというのが一番大きかったです。実際、会社に借金があるので潰れたら自分も困るというのが現実問題としてありました。
カフェ事業を準備し始めた2020年の3月頃から経営に関わり始めて、9月頃にカフェをオープンしました。
――家業を継ぐことは昔から考えていたんですか?
全然考えていなかったですし継ぐ予定もなかったです。父も会社の大変さを知っているので、もともとは継がなくていいというスタンスでした。
家業に入る前は法人向けの生命保険の営業をしていて、経営の知識はそこで学びました。今も製造はスタッフがやってくれていていて、僕は人が足りない時など必要な時だけお手伝いしています。
――経営メインで携わられているんですね。今の経営状況はいかがですか?
売上は毎年上がって来ていて、今年は自分が入った2020年の2倍の売上になりそうです。ただ、コロナ融資の返済が今年から始まりましたし、借りているお金に対して事業規模が小さいので、もっとがんばって売上を上げなきゃいけない状況です。人も設備も簡単には増やせない中で4年間なんとかやってきた感じです(笑)
――そうなんですね。でも、売上2倍はすごいですね!実際どういうことをやられたんですか?
商品開発と今ある商品のブラッシュアップをしました。あとは、イベント出店して販路開拓したり、卸先も増やしたり。商品の質を上げて販路を増やしていったという形ですね。
――イベントの出店先は自分から営業して取りに行ったんですか?
そこはありがたいことに、「あそこのお店、人気っぽいな」という感じで呼んでいただいたのが始まりです。新潟県上越市に無印良品の大規模店があるんですが、そこのイベントに呼んでいただいたときは開店前から20人ぐらいの行列ができていて。
そういったインパクトが大きかったのと、SNSのフォロワーも増えて、だいぶ認知度が高い状態になってきたので呼んでいただくことが増えていますね。
――すごいですね!SNSを始めたのは上野さまなんですか?
そうですね。ずっと自分一人でやり続けてます。自 分でやるのが一番人件費がかからないので(笑)
ただの「喜ばれるお菓子」から、もう一歩深掘りして本当にうちのお菓子を必要としている人たちにちゃんと届けたい。
――今後、取り組んで行きたいことなどはありますか?
今一番大事なのは商品開発かなと思っていていて、いい商品を作るために身につけられるスキルを、情報収集しながら磨いているという感じです。
――いい商品を作るための情報収集って、具体的にどういったやり方なんですか?
商品開発系の本も読んでいますし、商品開発のお仕事をされている方とお話させていただいたりしています。
あとうちはペルソナをママさんたちに設定しているんですが、実際にインタビューさせてもらって、日々感じる問題や不満を食でどうやって解決できるかというところにもこれからアプローチしていこうとしています。そういうことも踏まえて、いろいろな商品開発の勉強をしていますね。
――ペルソナまで設定しているというのは先進的ですね。
どうしたらいいかわからなくていろんな勉強をした結果、大切にしたいお客様をちゃんと決めないと、何のためにお菓子を売っているのかわからないよねってなって。
「お菓子を作って喜んでもらえればいいや」から、もう一歩深掘りしないと本当にうちのお菓子を必要としている人に届けられないなと。
結局、うちがなくなってもそんなに困る人はいない状況だと思ったので、人に必要とされるものをちゃんと作っていかないとだめだなっていうようにはなりましたね。
どんぶり勘定のアナログ経理をやめて、freee会計を導入。受発注業務にかかる時間は約1/5に!
――経営者として家業に入ってから困ったことなどはありましたか?
山ほどありましたね。父は経営者というよりは職人だったので経営の知識があるわけではなく、わりとどんぶり勘定でやってきたというよくあるパターンで。アナログ経理だったのでデータは何も残っていなくて、数字を見られるものが決算書しかない状態でした。
うちはスーパーにも商品を卸しているんですが、去年の今の時期にどのぐらい卸したのかとか、そういったデータが残っていないので調べようがないんです。
基本全部その状態なので、どう改善したらいいかがわからなくて困りました。
――過去の数字が見られないのは困りますね。他にお金まわりの心配はありましたか?
心配しかしてないです(笑)カフェをオープンして1年後の決算でようやく数字や状況が見えてきて、現状の売り上げ規模だと借金が返しきれないことがわかり、税理士さんと相談しました。
――freee会計の導入は、そういった流れの中で決心されたんですか?
経理まわりに時間を割くのがもったいなかったのと、仕事の効率を上げる必要を感じたのがきっかけで2023年初頭くらいから使い始めました。
今は主に請求書まわりや受発注管理で使っていて、以前は母が請求書を手書きして15分かかっていたのが2〜3分ぐらいになったと思います。
労務管理は、freee人事労務に移行。数時間かかっていた給与計算が約15分で終わるように!
――事業承継にあたって、従業員さんの労務管理まわりの引継ぎも大変だと思うんですが、実際いかがですか?
労務管理はfreee人事労務をめちゃくちゃ使ってます。前は給料や社会保険の計算も全てアナログで、タイムカードを見ながら勤務時間を計算して電卓を打って給料の金額を出していました。
今はfreee人事労務で給与明細を出してお金を用意するだけになりました。すごいですよね本当に(笑)
――お役に立ててうれしいです。実際どれぐらい時短できていますか?
給与計算は数時間かかっていたのが15〜20分で終わるようになったので、だいぶ早くなりました。今も以前のやり方を続けていたら、潰れていたかもしれないです(笑)
事業承継で大切なのは、「決裁権を明確にしておくこと」「自分が誰よりもがんばること」「従業員さんを大事にすること」
――もし、もう一度事業承継をすることになったらこれをやっておくというようなことはありますか?
最初に決裁権を明確に整理しておく方がいいと思いました。
いろんな場面で、みんなの意見を聞きつつも、思いと知識と経験がある人が決裁した方がいいなと。そうじゃない人が決裁して、よくない方向に行ってしまったことがあったので、明確にしておくべきだなと思いました。
――なるほど。ちなみに、上野さまが突然経営者として入って来られて従業員さんの反応はいかがでしたか?
「何だこの若造は」みたいに思う人はいなかったと思うんですけど。自分としてはとにかく誰よりもがんばっている状況をどうにか作って、「こいつがんばってるから話聞いてみるか」という状態になっていったらいいなと思いながらずっとやってましたね。
――すごいですね。そこまでがんばれるのは、やはり「代々続いてきたものを守りたい」という気持ちが大きいんですか?
正直、ただ「続いてきたからつなげていく」というのだけでは、本当に価値があるのか判断が難しいと思うんです。
自分としてはそれよりも、「家族が働いている会社だから」というのが大きいです。そこでいい商品を作ってお客様が喜んでくれれば自分たちも幸せに豊かになっていける、ただそれだけです。
――確かにそうですよね。
とはいえ、今までつないできてくれた人たちがいてお客様にもちゃんと価値を提供してきたからこそ、お店が存続していることも忘れてはいけないとは思います。今も求めて来てくれるお客さんがいるので、今できる努力でよくなるのであればもっとがんばってみようと日々やっている感じです。
――すばらしいですね!今後、事業 承継される方になにかアドバイスをいただけますか?
自分も逆に教わりたいですけど(笑)会社としては顧客第一なんですが、いち経営者、代表として「従業員さんは絶対大切にしなきゃいけない」という思いはあります。返し切れないと思いますけど、感謝してなるべく恩返しをしていくという気持ちは超大事かと思います。
(インタビュー取材:塚崎恭佳 執筆:鈴木康代)
Company Profile
有限会社とらや菓子店
〒945-0047
新潟県柏崎市比角1-6-34
URL:https://www.toraya1949.com/
事業内容
菓子の製造販売・飲食店の運営