「持続的成長と企業価値向上を追い続ける世界トップ水準の保険・金融グループの創造」を経営ビジョンとして掲げているMS&ADインシュアランスグループ。三井住友海上エイジェンシー・サービス株式会社(以下、エイジェンシー・サービス)はグループ傘下、三井住友海上火災保険株式会社の子会社で、三井住友海上の関連会社の損保代理店(以下、三井住友 海上直資代理店)に対して、親会社の立場から経営指導・支援を行うとともに給与計算、経理・決算業務などのシェアード型バックオフィス業務を受託することを主要な業務としています。
「三井住友海上直資代理店」は全国に40社、社員1,200名がMS&ADインシュアランスグループの一員として「お客さまの安心と満足」を活動の原点におき、プロフェッショナルの誇りと責任をもって地域に貢献することを経営理念において活動しています。社員が営業活動に専念できる体制づくりに欠かせなかったのが、給与計算、経理・決算業務などのアドミ業務を直資代理店各社から受託するシェアード型バックオフィスであり、その環境を整えるためにはfreeeが必要不可欠だったと担当者は明かします。
freeeが三井住友海上直資代理店をどのように支援しているのか。そして、どのようにシェアード型バックオフィスを実現したのか。取締役 直資経営管理部長・弘田拓己氏と、人事総務部長・宮嶋茂氏に業務標準化を推し進める理由について伺いました。
会社の役割を教えてください
「社員が営業に専念できる」シェアード型バックオフィスの構築を目指した
弘田 エイジェンシー・サービスの役割は、三井住友海上直資代理店の社長をはじめとする社員の皆さんが営業活動に専念できる体制を作ることと、そのための支援です。
これまで各社が各々行ってきたアドミ業務を標準化し、可能な限り東京で一元的に担う体制に変えるべきと考えました。
給与計算や経理・決算業務は、法人であれば必ずあります。直資代理店の社長をはじめ各社の担当者は、こうした業務については全くの未経験です。各社の担当者についても同様で、それぞれが苦労しながら業務を遂行しています。現地の社労士や会計事務所にほぼすべてを委託しているケースもありました。その業務を一元管理することで、マンパワーを営業に専念できるだけでなく、業務の標準化と合わせれば経営に必要な情報がタイムリーに、かつ正しく把握することができ、経営方針に反映できるようになります。
特に直資代理店の社長は、三井住友海上からの出向者です。着任直後は、お客さま対応をはじめ社員との信頼構築や営業方針の立案など、様々な業務を集中して行う必要があります。経営管理も同様ですが、初めての業務であることから戸惑いもあります。私自身も同様の経験をしましたが、何から手を付ければよいか分からず、とても 苦労したのを覚えています。
宮嶋 三井住友海上直資代理店には、お客さま対応などの営業活動に時間を費やしてもらいたいので、そのためにも現場の出向者が困った時に頼りになる体制や組織を作ることを心がけています。シェアード型バックオフィスとして現場に寄り添う支援体制づくりを行っています。
freee導入のきっかけとご利用状況を教えてください
代理店数の倍増を見据えfreeeを導入。業務が標準化されたシェアード型バックオフィスを確立
宮嶋 freeeを知ったのは、2017年秋、中小企業診断士の集まり。freeeの説明会に出席した知り合いの中小企業診断士からの紹介がきっかけです。当初は直資代理店の規模もそれほど大きくなくマンパワーの増加だけで吸収でき、ニーズをあまり感じていませんでし た。
というのもfreee導入以前からシェアード型バックオフィス化は進めていたのです。社労士法人のコンサルのもと導入したのは他社クラウド会計システム。小規模であれば業務は回っているかのように思えましたが、実際はExcel業務を減らせませんでしたし、大きな業務工数削減にはつながりませんでした。
そんな中、直資代理店数が20社から40社へ倍増することになり、業務の抜本的な見直しの必要性が出てきました。「人を倍雇う」解決策もありましたが、シェアード型バックオフィスが重視していた考え方は「業務標準化と効率化」。バックオフィス業務に携わる人員を倍雇ったとしても人員は入れ替わりがあります。しかし一度構築した仕組みは残ります。人員を増やすよりもシステムを変更し業務を標準化するほうが投資効果として見合うと判断したのです。
弘田 新システム導入にあたってはさまざまな検討を行いました。システムの特長を比較検討したうえで、フィジビリティスタディ(実際の業務にテスト導入して行う検証実験)も行い、最終的にfreeeを導入することにしました。圧倒的にUIが見やすく、使いやすかったのが決め手の一つでした。freeeはまだバックオフィス業務に習熟していない直資代理店社員にも導入しやすいシステムになっていると感じます。
現在はfreee会計とfreee人事労務の両方を導入しています。特にfreee人事労務の給与計算画面やダッシュボード上で、当月中に「何をしなければならないのか」一望できる点が優れています。次に行わなければならない作業工程が大変明確で、担当者 からも好評を得ています。
業務の標準化はこれからも必要だと考えています。システムを新たに導入する際はとても労力がかかりますが、システム化することは属人化しない仕組みを作ることです。習熟した社員がいなければ成り立たない業務は業務とはいえません。freeeを使った業務フローはほぼ標準化されているため、この仕組みの導入により業務品質が安定すると考えています。
紙とExcelから脱却。給与計算の入力ミスを根絶し、業務効率化を実現
宮嶋 freeeを導入したことで、特に給与業務の仕事量は実質半減したと言ってよいと思っています。以前は他社の給与計算システムで20社分の給与計算をやっていましたが、それだけで精一杯の状況でした。しかしfreee導入後は人員を大きく増やすことなく40社分の給与計算業務が対応できています。
弘田 シェアード型バックオフィスに移行する以前は人為的ミスも生じていました。関連法規の理解不足が由来している誤りもありました。たとえば給与計算を例に挙げると、freee導入以前はエイジェンシー・サービスと直資代理店間のデータのやりとりはExcelファイルとメールで行っていたのです。直資代理店担当者は、集計した勤怠データや手当などの必要な情報をExcelに入力しエイジェンシー・サービスへメールで送ります。エイジェンシー・サービスではExcelファイルを参照しながら他社給与システムに転記するわけです。当時は、出退勤管理が紙ベースのタイムカードでしたから、都合、2〜3回もの転記が発生していたことになります。
当然、転記回数が多いほどミスが発生する可能性が高まります。給与計算では所得税や社会保険料の計算をExcelで行っていたため、税率や料率変更の反映も課題でした。慎重に業務を行ってきましたが、確認作業や修正のやりとりは相当に時間もかかっていたのが実態です。
freeeはこの課題を解決してくれました。
三井住友海上直資代理店の本店と支店、およびエイジェンシー・サービスがクラウドを介してつながることでコミュニケーションコストも減らせました。業務の標準化により、業務効率の向上が実現したのです。
証憑がクラウドで閲覧可能になり出張が不要に
弘田 freee導入後、請求書や領収書などの証憑書類の管理が非常に簡単になりました。今までは証憑書類の原本を郵送したり、証憑チェックのために現地に出張を余儀なくされていましたが、freeeであればいつでもクラウドで証憑が閲覧可能になりました。ペーパーレス化されたことにより煩雑な管理も不要になりました。
宮嶋 今までは決算期の2ヶ月前に一度、顧問税理士の方にエイジェンシー・サービスに来社いただき、データを確認してもらった上で決算に臨んでいました。今後はfreee上で経理データと証憑書類の確認が可能になるので、毎月オンラインでチェックしてもらいはじめました。これで決算を焦らず迎えられるのもメリットです。
経験の浅い代理店社長でも、支店別の収支管理を行える体制に
弘田 シェアード型バックオフィスの構築にともない、分析業務にもよい影響が生まれました。私自身、かつて出向していた直資代理店において給与計算と経理・決算を行っていましたが、給与や経費を支払うことや決算を行うことで精一杯でした。本来であれば三井住友海上直資代理店の社長として経営分析を行い、自社の強みと課題を正しく認識することが必要です。しかし、あまりにも煩雑な事務作業に追われ、分析する余裕がほとんどありませんでした。もともとは営業社員でしたので経営分析の経験もスキルもありませんでした。
freeeでは保有データからリアルタイムに試算表などを自動生成し、直資代理店の支店単位での収支管理が可能になります。たとえ経験やスキルがなくても、支店ごとに前月比較や前年比較データをタイムリーに確認できるようになりました。
エイジェンシー・サービスは親会社の立場としても、直資代理店ごとに、さらに支店単位に収支管理を行う必要があります。課題を客観的に抽出するためには、こうした会計データがなければ始まりません。freeeの導入により、他社会計システムでは難しかった分析体制が実現したことの意義は大きいです。
今後の展望について教えてください
さらに多くの業務を請け負えるようアップデートを続け、将来的には関連会社へのサービス展開も視野に。
弘田 収支分析は述べたとおりですが、月別のトレンドデータも必要だと考えています。今後、直資代理店が新たに支店を出店する際には、資金繰りシミュレーションを行ったり、将来に向けてのキャッシュフローのシミュレーションを提供していくことを検討しています。
引き続き、業務の標準化も推進し、誰もができる業務にしていかなければいけません。
給与計算や決算業務以外でも、さらに他の業務を引き取ることができるバックオフィスを目指します。システムとしてどう対応するかはこれから検討を重ねますが、できるだけ範囲を拡大していきたいですね。
宮嶋 管理会計や決算などに関してはfreeeで現在十分にまわせている一方、財務分析は、直資代理店各社が作成した決算書を元にExcelで計算をしています。今後は、freeeを活用して財務分析もよりスムーズに行っていきたいです。
弘田 システムを比較して感じるのは、エイジェンシー・サービスのように複数の関連会社を束ねて業務を行い、分析まで簡便に形で行いたいというニーズを持つシェアード型バックオフィスに向くシステムが少ない、ということでした。
一般的に、ホールディングス傘下の複数の子会社があると思いますが、それぞれにバックオフィスを構築しています。しかし、効率的に運用できている会社はさほど多くないと感じます。
宮嶋 freee導入を経てバックオフィスの業務標準化と効率化を徐々に実現できてきましたので、今後はそのノウハウを活かし、グループ内の他社にfreee活用の輪を広げていくことも十分にあると思っています。そんな機会が生まれる可能性も踏まえつつ、まずは引き続きバックオフィスのさらなる業務の高度化や品質の向上を進めていきたいです。