KDDI株式会社は「Tomorrow, Together」をブランドメッセージに掲げ、通信とライフデザインの融合を実現すべく、多彩な事業を展開しています。「au」ブランドを中心としたモバイル通信や固定通信、スマホ決済などの金融、英会話のイーオンやキッザニアといった教育・エンターテインメント事業など、提供するサービスは多種多様。
また 、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進し、さまざまなパートナーと連携することで、新たなビジネス価値を創出しています。
スピードを重視して新事業を立ち上げるべく、主にM&Aやジョイントベンチャーという形態を取って柔軟な事業運営を推進していますが、そこで課題となったのは、グループ会社の急激な増加に伴い経理を中心とするバックオフィス業務が煩雑になってきたこと。それを解消するために用いられたのが、freeeです。
バックオフィス業務における課題解決の取り組みやfreee導入の効果、それにより見えてきた今後の展望について、DX推進部部長・和久貴志氏、DX推進部経理シェアードサービスセンター長・小栗康平氏、DX推進部経理シェアードサービスセンター・尾之内美波氏に伺いました。
M&Aやジョイントベンチャーの恒常化で、バックオフィス業務が煩雑に
――あらためて貴社の事業内容について教えてください。
DX推進部部長・和久 貴志 氏(以下、和久):当社の通信事業は、毎月ご利用料金をいただくビジネスモデルで、堅調に推移してきました。直近では、UQモバイルを傘下に入れて安価な料金でご提供するとともに、auブランドでも新料金プラン「povo」で自由度が高く、お客さまの多様なニーズや生活スタイルに寄り添い、さまざまなトッピングをご提供できるようにいたしました。
この通信を基盤として、新たなイノベーションを求めて新規事業にも積極的に投資しています。「VUCA(※)」と言われるように不確実な時代が到来し、直近では、新型コロナウイルス感染症が拡大し、首都圏を中心に緊急事態宣言が発令されています。このような状況下でも、コマース、金融、エネルギー、教育、エンターテインメントなど、お客さまのライフデザインをサポートしながら新たな体験価値の提供を目指しています。
1 VUCA(ブカ、ブーカ)…「Volatility:変動性」「Uncertainty:不確実性」「Complexity:複雑性」「Ambiguity:曖昧性」の頭文字から成り、ビジネスや組織、個人のキャリアなどあらゆるものを取り巻く環境が変化し、将来の予測が困難になっている状況を指す
――積極的に新事業へ進出していくにあたり、課題が噴出したともお聞きしました。
和久:将来の予測が困難な今の時代に対応していくためには、特にスピードを重視してKDDI本体と切り離して新会社を設立する、時にはM&A(※2)やジョイントベンチャー(※3)という形式を取って新事業を展開しています。スマートドローンをはじめ、徐々に芽が出てきていますね。
2 M&A…「merger and acquisition」の略で、「企業の合併と買収」を意味する
3 ジョイントベンチャー…各々の弱点を補いながら事業 に取り組むために、複数の企業を合併して設立する企業
M&Aやジョイントベンチャーの情報は、社内でも秘匿性が高く、経営会議で決まるまで開示がないため、我々に話が降りてくるのは急なんですね。そこから経理を中心としたバックオフィス業務の設計をはじめるため、事業開始まであまり猶予がなく、常にスピード感を求められています。
こうした取り組みの恒常化に伴い、子会社バックオフィスのシステムと業務の統一化が課題となってきました。KDDIグループとしてのガバナンスも効きづらくなってしまったんです。
DX推進部 経理シェアードサービスセンター長・小栗 康平 氏(以下、小栗):他社がM&Aをする場合、まず買収先の企業に「業務システムを変えてください」「運用はこうしてください」と指示すると思います。しかし、当社は良くも悪くも、あまり強く押しつけていなかったので、各社の経理システムがバラバラのままでした。
そのため、子会社ごとの独自ルールがたくさんある、業務が属人化している、ノウハウが共有できない、といった課題がありまして。出向などグループ内で異動があると、ゼロから新しいシステムを覚えなければなりませんでした。それでは効率が悪いので、グループ内で共通のシステムを使えば課題が解消できるのではないかと考えました。
急激なビジネス環境の変化に対応するために経理システムを刷新
――システム刷新のため、まず何から着手したのでしょうか。
和久:もともとKDDI本体の経理システムは、2000年の設立当初からオンプレミスでした。しかし、先の見えない競争環境のもと、加速度的な事業環境の変化に経営判断が追いつかず、グローバルのM&Aで現行のシステムはそのまま採用できず、IFRS(国際財務報告基準)で新たな会計基準や基準改定への対応ができない、というさまざまな課題が発生しました。このまま業務に機能を合わせるコンセプトのシステムでは、この先10年後に戦っていくことができない、という危機感を感じたのです。
そこで、2015年に社内で業務システムの標準化・効率化を目指して「プロジェクト:To-Be」を発足させました。To-Be=あるべき姿を模索しようと、「時代の変化に柔軟に対応できる経営基盤の構築」を目標に定めました。実現したいことに挙げたのが「経営サポート」、「業務品質向上・効率化」、「システム運用効率向上・保守費削減」の3点です。
実は、私は変更前のシステムの構築にも携わっていたので、自分が作ったものを自分で否定しなければならないこのミッションは非常に大変でした(笑)。
まず、KDDI本体のシステム刷新から手がけましたが、2018年からはグループガバナンスを強化すべく、子会社の会計システム統一化に着手しはじめまして、業務は子会 社を集約したシェアード化を目指すことになったのです。
――「プロジェクトTo-Be」ではどのように課題を整理し、解決していったのでしょうか?
小栗:2018年10月に、KDDIの子会社が行っているシェアードサービス(※4)を調査しました。これは子会社が5年かけて進めていた事業で、グループ内10社ほどの経理業務を担ってきました。しかし、話を聞くとシステム連携がうまくいっていないことがわかりました。
例えば、承認を進めるワークフローシステムと、決算書を作る経理処理システムが別々で、承認が終わっても決裁のシステムにリアルタイムでデータが共有されず、決算を締められないといった問題です。
4 シェアードサービス…経理・総務・人事・情報システムといった間接部門を統合して業務の効率化を図る手法
和久:一方で、KDDI本体では若手社員のモチベーションが上がりづらい、といった課題がありました。主に、縦割り業務が増えてしまっていたことが要因で、企業規模が大きい分、個々の業務で「費用」や「売上」の担当などに細分化され、歯車の一部となって全体が見えにくく、やりがいを持ちづらかったのです。
それらを解消させる一つの手段として、KDDI本体にシェアードサービスを配置しました。子会社の経理業務をすべて担当することにより業務の全容が見え、モチベーションも向上します。さらに、UI(ユーザーインターフェース)が良く、若手社員がすぐに業務に精通できる経理システムの導入を検討し、freeeを採用しました。2019年4月から運用を開始しています。
小栗:それに合わせて、KDDIの子会社で運用していたシェアードサービスをKDDI本体で巻き取りました。子会社では、方針が不明瞭だったことに加え、他の子会社の支援業務に留まってしまい、本質的な業務に手が回らなかったためです。
和久:現在は、小栗がセンター長を務めている経理シェアードサービスセンターをDX推進部に配置し、グループ内のシェアードサービスを一括管理しています。シェアードサービスというと、作業だけ請け負うイメージもありますが、私たちはCoE(Center of Excellence)と位置付けました。常に最新のシステム機能を具備しつつ、KDDIグループの健全な成長を支える専門家集団となり、人材輩出・還流のハブとしています。
当センターを、ルール形成とガバナンス機能の統括拠点とすることで、子会社への助言やツール導入などを進め、グループ全体の戦略的な会計処理の実現を果たしていきます。
――freee導入にあたり、課題はありましたか?
小栗:導入のハードルとなったのは、社内のセキュリティルールです。当社の内部統制は非常に厳しく、クラウド型システムを入れるために独自の審査基準を設けています。チェックリストには、200以上の項目がありました。freeeの技術部門の方々の対応もあり、一つひとつクリアしていただいて、導入を実現させることができました。
システムのスムーズな導入と共通化、経理人材がより付加価値の高い業務に集中できるようになりました。
――実際にfreeeを導入した効果はいかがでしょうか。どのような点が変わりましたか?
DX推進部経理シェアー ドサービスセンター・尾之内 美波 氏(以下、尾之内):私は2020年10月に当センターに異動し、freeeを使い始めました。UI、操作面が良いと感じています。決算を締める業務では、現預金の残高が合っているか、B/S(貸借対照表)の誤りがないか、税区分が間違っていないかなどをfreeeで全て見られます。視覚的にすぐわかるのが良い点ですね。
小栗:以前は紙に出力してチェックすることが多かった部分ですね。freeeではクラウド上でレポートを簡単に作れるので、確認方法を事前にすり合わせて、活用しています。
それから、子会社側にもfreeeのIDを提供しています。かつては決算を締めた後に、わざわざExcelでレポートを作って各社に見せていたのですが、freeeでは、シェアード側から「締まりましたよ」と連絡さえすれば、各社で同じ画面が見られます。リアルタイムで見られるスピード感と、それぞれ気になったところを詳しく見られるのが便利です。
これまでグループ11社に導入しています。最近導入した会社に使用感を尋ねると、「社員から操作面の問い合わせがほとんどない」と。ボタンの位置などUIがよく考えられているのではないかと思うのですが、スムーズ に操作できるのは、現場にとってものすごく重要です。
尾之内:あまりマニュアルを見なくても、ひと通り操作すれば、もう大体理解できますね。
小栗:個人的には、経理のスタンダードをfreeeから学んでいるところがあります。私はKDDIの中でも異色のキャリアで、技術本部や営業本部の在籍が長く、経理の経験がありませんでした。
そんな経歴で大企業の経理を担うと、縦割りが多く、深さはあるものの狭い知識になりがちなんですよね。いざ子会社の経理状況を俯瞰して見るのは、意外に難しいんです。
尾之内からマニュアルの話がありましたが、freeeのウェブサイトのマニュアル類は、ひと通り目を通すと一般的な経理業務について学ぶことができます。私は業務にあたりながらマニュアルを読み、経理のスタンダードを勉強しました。
――業務の効率化により、人材面での変化はありましたか?
和久:M&Aやジョイントベンチャーにより、KDDI本体からCFO人材を派遣し、本体のリソース不足はキャリア採用組を積極採用することで対応しています。
今までは、ただでさえ新事業の展開が早いのに、子会社それぞれの経理システムが異なり、計上基準や各種コード類もバラバラなので、システムの基本操作や連結決算業務に多くの人員配置と時間を要していました。それらがfreeeの導入で解決された分、経理人材をより付加価値の高い業務に集中させていけると考えています。
小栗:システムをfreeeに統一してから、グループ内の人員配置などの効率化を図れるとともに、新会社へのシェアードサービス導入にかかる時間を大幅に削減できています。相談から運用開始まで2~3カ月かかっていたところ、今では1カ月ほどで完了します。各社の初期設定に関しても、システム部門を介さずに私が2日程度で設定して、勘定科目や承認ルートなどの整った箱をすぐに引き渡せるようになっています。
――今後の展望について教えてください。
和久:経理業務の標準化・自動化によって業務内容が変わるのは、経理社員にとって大変なことでもあると思うんです。しかし、この流れを前向きに捉え、我々としてはスムーズに自動化し、高付加価値業務にどんどん従事していくべきだと考えています。
これまでの経理は、集計し、決算書を作り、分析することが主な仕事でした。「正しく数字をまとめる」「不正を防ぐ」といった業務も非常に重要ですが、それらが自動化されるところまできていますので、今後は本来業務である、経営幹部や現場の課題解決に向けた支援にシフトしていきたいですね。
実はすでに、freeeを活用して導き出したデータを元に、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールを用いて、各社のCEOやCFOに改善提案をするところまできています。2022年度には、さらなる効率化を目的に、経理をはじめ総 務、人事、購買などコーポレートのオペレーション業務をシェアード化させて、新会社を立ち上げる計画もあります。DXとCoEを実現し、KDDIグループの健全な成長を支える専門家集団を作っていきたいです。
(取材・執筆:遠藤光太 編集:ノオト)