そんな同企業では経理業務を長年、紙で行っていましたが、2018年7月の上場に向けてクラウドfreee会計に刷新することにしました。
株式会社GA technologiesの経理管理本部長 平 川 秀年様に、freee導入までの経緯や利便性をうかがいました。
――設立の経緯や御社サービスへの想いを教えてください
テクノロジーを使って人々に感動を与えたい
平川 弊社のはじまりは代表の樋口 龍が世界的なサッカー選手になる夢を24歳の時に諦めたことにあります。ビジネスマンへ転身した彼は不動産会社へ就職。その後、2013年に株式会社GA technologiesを設立。巨大なマーケットを形成しているにも関わらず、極めてアナログな慣習にとらわれた不動産業界に、テクノロジーで革命を起こすことを志しました。
2013年3月の会社設立以来、会社は徐々に成長を続け、2018年7月25日に会社は東証マザーズに上場しました。弊社の特異性はテクノロジーを重視しているところ。「テクノロジー×イノベーションで、人々に感動を。」という企業哲学の通り、自社内にシステム・ソフトウェア開発体制を構築。現在、社員 の38%がエンジニアです。ほかにもAI専門組織や海外開発拠点の開設、大学との共同研究の実施など、研究開発強化への先進的な取り組みを次々と実施しています。
流通・管理・リノベーション・クラウドファンディング・不動産投資・など、
幅広い中古不動産ポータルサービスを提供
中核事業は中古不動産の流通事業。さらにそのサポート事業を行なっています。
ポータルサービス「Renosy(リノシー)」や、アプリ「Renosy Insight(リノシー インサイト)」を展開。お家探しからリノベーション、不動産投資、購入後の管理までをトータルでサポートする中古不動産ポータルサービスへと成長しました。現在は、東京、千葉、神奈川、埼玉にてサービスを提供しています。
今、重点を置いているのはRenosy会員を増やすこと。
知名度向上に向けて、小規模の投資を可能にするクラウドファウンディングサービスをスタートしました。資産運用の一貫で一口1万円から、誰でも気軽に申し込むことができます。当社のクラウドファンディングは国土交通省の推進する小規模不動産特定共同事業の枠組みの中で運営しており、投資対象を明らかにするサービスですので、初めての方にも安心してご利用いただいております。
内部統制の構築をゼロからはじめられる環境に飛び込む
平川 私自身はもともと監査法人の出身です。メーカーの会計監査や金融コンサルタントに従事。会計士資格を取得したきっかけは「自分の実力を企業で試したい」という思いからです。監査法人の10年目、プロジェクトの区切りがついたタイミングで、現職へ転職しました。入社した2015年当時のGA technologiesはセールス30人ほどに対し、バックオフィスは1人。私がチャレンジしたかったバックオフィスの構築や、いままで外部からしか経験できなかった内部統制を、ゼロからはじめられる環境が待っていました。
――freee導入のきっかけとご利用状況を教えてください
移動中、スマホから交通費・経費申請できるようになり、月末の作業を削減できた
平川 弊社では、ユーザーに対してのサービスだけでなく、社内の日々の業務もテクノロジーによる改善を推し進めています。大きなイノベーションでなくても、こまやかな改革を常に意識。しかし私が入社した当初、バックオフィスのシステムには、テクノロジーが十分に行き届いているとは言いづらい状況でした。
もともとGA technologiesでは、会計システムにスタンドアローン型のソフト(stand alone;会計ソフトをPCにインストールして使うもの)を 長年使っていました。
上場を見据えた効率化を検討する中、既存のスタンドアローン型会計ソフトから別のオンプレミス型サービス(on-premise;自社のサーバー設備で会計システムを運用するサービスこと)へ切り替えようと800万円を投資した矢先、代表の一言でクラウド会計のfreeeに切り替えました。
「アプリで経費精算、かっこいいよね」
代表はこう言いました。聞けばfreeeが雑誌に出て「アプリで経費精算」という記事を読んで影響されたとか。
オンプレミス型の会計システムも悪くはなかったのですが、たしかに代表の言うように、新しいオンプレミス型サービスを使っても結局のところ紙文化を捨てられない懸念があったのです。
当時の若いメンバーは業務リテラシーが高くはなく、Excelファイルを配布しても、PCで入力はせず、なぜかそれを印刷して手書きする人がほとんど、という状態でした。社内のバックオフィス関係のワークフローは完全な紙文化が支配していたのです。月末にまとめて申請書を書いていたことも問題でした。
しかしfreeeに切り替えたところ、大きな変化が生まれました。セールス部門では主に交通費精算の申請で効果がありました。営業中、移動時間などの隙間時間にスマホで交通費・経費申請が入力できるようになり、申請を月末にまとめて行う社員の数も大きく減らすことができました。
800万円を投じオンプレミス型会計ソフトにしたものの、2ヶ月でクラウド会計ソフトのfreeeにリプレイス
平川 800万円を投資して会計システムを一新した2ヶ月後、それを捨ててでもクラウドのfreeeに再度リプレイスしたのは、「紙文化の払拭」という目標があったのです。
経費精算だけでなく、稟議の紙文化にもメスを入れる必要がありました。IPOを見越すと、会計数字がすぐに見えることはもちろん、社内稟議書をデジタル化することは業務効率化のために欠かせません。会計数字と稟議ワークフローを一元化できる会計システムがfreeeでした。
GA technologiesが独自に開発した社内システムにはfreeeが組み込まれている
freeeを検討した2017年春は会社規模が大きく拡大していた時期。これからさらに従業員が増えることを考えると、アプリもありUIも見やすく、初心者や業務リテラシーの高くないメンバーであっても使いこなせるfreeeが最適だと考えたのです。事実、2018年9月までの1年間で従業員は100名から200名強に倍増しています。実際に導入後、freeeはExcelと紙文化に支配されていた頃よりも、メンバーの業務の中に浸透している印象があります。社員にしっかりと使ってもらえ、バックオフィスメンバーの負担も減るため業務の効率化をはかれおり、効果を実感しています。
オンプレミス型サービスからfreeeへの切り替えは、CSVを一括でインポートするだけ。もしfreeeにしたことが失敗だったとしても、freeeからオンプレミス型サービスへ戻すのに大した労力がかからないはずだ、という算段がありました。こういった心理的抵抗の少なさも、freee会計導入に踏み切れた要因の一つです。
9人日かかっていた内部統制審査用の資料が一瞬で終了
スタッフ部門で特に効果を実感したのは2つ。
1つ目は月次決算、2つ目は上場準備の内部統制審査です。
月次決算では従来、紙の稟議書からExcelに転記し一覧表をまとめ上げるのに半月要していました。いまではfreeeからCSVを出力して加工するだけ。5日で月次決算を締められるようになりました。
上場の内部統制審査でもfreeeによる大きなメリットを実感しています。一般的に、上場の内部統制審査では2年分の資料提出が必要です。1年分は従前のオンプレ型サービスで紙文化だった期間、残りの1年分はfreeeを使いはじめた期間の出力が必要でした。
紙文化だった期間分は、スタッフが年末休み返上で3日間、3人がかり、つまり9人日かけてで夜通しで稟議書の一覧表を作成。しかし、freeeに切り替えてからの期間はCSVファイルで出力するだけ。一瞬で完了してしまったのです。こういったムダな作業がカットできただけでも、かなりのコストカットに繋がったと考えています。
――今後の展望について教えてください
業務の観察・定量化で定型業務はもっと圧縮できる
平川 弊社の経営理念「テクノロジー x イノベーション」の推進には、業 務の観察が欠かせません。作業の時間を全て計測し、テクノロジーを導入することでどのくらい定型業務を短縮できたか定量化すること。これが重要なのです。
たとえば、投資フェーズでは販管費がかかるものの、将来的に社員が増えてくると販管費の抑制につながる効果があることが説明できる場合、バックオフィスと言えどもテクノロジーを駆使したサービスの導入により、パフォーマンスの向上が見込めます。
システム投資に対する定量的な説明を上場用の成長可能性資料にも記載したことで、弊社は上場審査のときにも好評価も受けることができました。評価を受けられれば、その後もシステム投資しやすい良い循環が生み出せます。
経理出身者が経営企画も担当。本質的な業務に注力できるよう、さらなる効率化を進める
2018年9月現在、従業員数は220人。バックオフィスは15名在籍しそのうち4名が経理担当です。
freeeをはじめとするシステム投資を優先してきました。上場する前後、この1年間で従業員が100名増加してきましたが、スタッフ部門は人数を増やすことなく対応することができました。バックオフィスの人員の理想値は、全社人数に対して20%と言われます。この比率を減らせれば減らせるほど、より効率的に会社運営できているという投資家向けのアピールにも繋がります。弊社は2018年9月現在でバックオフィスの全社に対しての比率が約7%。標準的な会社よりはかなり少ないと思います。
その上、弊社の経理担当4人中2名は経営戦略部門業務も掛け持ちしています。具体的 には、各部署の事業部管理、新規事業を立ち上げた場合のKPIの試算、決算経理兼新規事業の収益予想、事業計画などを行なっています。
これは弊社のバックオフィスが業務の観察、業務の定量化に力を割いてきたからこそできることで、弊社の特徴だと考えています。
数字に強い経理出身者は、新規事業を考えるようアイディアマンにはなれなくても、その右腕となり、新規事業を経営企画の立ち場で手助けしていけると考えているからです。
実際に、現在経営戦略として活躍する社員の中には経理を卒業し経営戦略のみをメイン業務とする社員もおりますが、バックオフィス業務をテクノロジーにより効率化し、本質的に時間を割くべき経営戦略の業務に注力できること。これこそが弊社のバックオフィス部門の目指す姿と言えます。
バックオフィス部門には、今後もプロフェッショナルな働き方をしてもらいたいです。とはいえ、バックオフィスは定型的な事務作業も多く、手を動かす作業も多いもの。テクノロジーを使って業務をより効率化し、専門分野を勉強したり、より新規事業にコミットできる時間に充てられるようになると良いと考えています。